コロナ禍以降、働き方が急激に多様化しつつあります。識学講師として多くの会社に関わっていると、長く働くことが美徳だった時代とは勤務時間に対する経営者の考え方もずいぶん変化してきていると実感します。しかし、従業員の残業に大きく依存している会社もまだまだ少なくありません。今回は、残業の本質と減らし方を考えてみたいと思います。
目次
必要な残業と不必要な残業
残業について論じるときに、必要な残業と不必要な残業があると主張する人がいます。私は、これを聞くといつも違和感を覚えてしまいます。残業は残業でしょと。
不必要だと見なされる残業は、残業代を目当てに社員がだらだらと仕事をしているとか、上司の采配に問題があって部下がいたずらに社内に残されている状態でしょう。本来発揮できるはずのパフォーマンスを社員が発揮せず、会社に利益が発生しないのに残業代だけが支払われているので、まさに不必要ですね。
一方、必要な残業とは、繁忙期に皆で多くの仕事を片付けるために、あるいは責任感の強い担当者が顧客の突発的な要望に応えるためにオフィスに居残ることを指していると思われます。これは、金銭分は働いているので必要というわけです。
しかし、多くの会社で残業時間の削減を実施してきた私の経験から述べますと、残業時間が減れば業績が上向くことが多いです。そして、社員の残業時間を大幅に削減できた後、その会社の社長は大抵「今までの残業は一体何だったんだ」という反応をします。
残業を減らすメリット
残業を減らすことは従業員にとって収入減になりますし、会社にとっては最小限の人数で難局を乗り切るカードを失うことになるというのも事実です。
しかし、残業は減らす必要があります。そこには大きなメリットがあるからです。
まず、残業を減らしてもこれまで通りの業務を遂行できたとすれば、それははっきりとコストの削減を意味します。全ての人にとって時間は平等で有限ですから、同じ業務をこれまでと同じ質でより短い時間内に完了することは、非常に価値のあることです。
そして、残業が減ったのであれば、その分時間が空くことになります。社員は今まで残業に使っていた時間を家族や友人と過ごすことに当てられますし、自分の趣味に費やすこともできます。冒頭で述べたように働き方は多様化しているので、その時間を活用して副業を始めることも選択肢の一つでしょう。
無駄なだけの残業は言うまでもなく、必要と考えられている残業も、ないに越したことはありません。削減するための努力をせずに残業を受け入れてしまっている人も多いでしょうが、たとえ必要と考えられている残業であっても、工夫次第で減らすことができるはずです。
具体的な改善策
では、どうやって残業を減らせばよいでしょうか。具体的な方法をご紹介していきます。
仕事の早さを評価する
まず、同じ時間で多くの業務ができる従業員や、業務の時間を短縮するような仕組みをつくった管理者を高く評価し、逆に無駄な時間を発生させれば評価を下げるという環境設定が必要です。
そもそも、残業を減らすには急いで仕事に取り組めばよいですよね。当たり前の話です。ところが、急いでも急がなくても獲得できるものが同じか、残業した方が多くの収入を獲得できるのであれば、急ぐ方が損です。
つまり、急ぐ必要があると認識するには、「急いだから利益を獲得した」とか「急がなくて利益を失った」という経験が要ります。定量的に従業員の仕事の早さを評価しましょう。
ルールと役割を明確に設定する
さまざまな価値観を持った個人が集まって業務を行っているのが会社です。ルールや役割がはっきり決まっていないと、お互いの持つ価値観を確認し合うという無駄な時間が必要になります。相反する考え方で対立したり、個人的な好き嫌いが業務に影響を与えたりし、大きなロスタイムが発生してしまうわけです。各自の役割が曖昧な状態でも同じような弊害が起きます。
個人的な解釈が必要のない明確なルールを設定して社員に守らせること。そして各自の役割を明確にして、はっきりわかる基準で評価することが会社全体のロスタイムを減らし、残業の削減につながります。
仕組みを更新し続ける
同じことを何度も言っていたり、同じ失敗を繰り返していたり、手戻りが多い作業が存在するのは仕組みが不足しているからです。そこには、マニュアルやフォーマット、各種ツールなどの仕組みが必要です。
仕組みは、つくってから更新し続けることが重要です。変わり続ける仕組みに社員が対応していくことで、自然と変化に強い組織になっていくでしょう。
仕組みはあるけれども、それで満足してしまう会社があります。もともと「効率化」「必要な情報の獲得」「クレームの防止」などの目的で仕組みをつくったのに、その目的が達成されるまで変え続けることをしていないのです。なかには形骸化したり、かえって邪魔になっていたりするケースまであります。
残業を減らした先にあるもの
来る労働人口の減少に備え、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、ドローン、3Dプリンターなどのデジタル技術に対する人々の関心は高まっています。テクノロジーは人間の仕事をより正確かつ迅速に実行することを可能にするでしょう。
そうなった近い将来をイメージすると、残業自体がなくなる可能性が高いと私は考えています。だからといってデジタル技術などのテクノロジーに全面的に依存すればよいというわけではありません。テクノロジーが進化しても、そこには必ずヒトが存在しています。そして、テクノロジーを進化させていくのもヒトです。
常識や固定観念にとらわれることなく課題を正しく捉え、最適な状態を目指してルールや仕組みを明確化して変え続けるという姿勢こそ、テクノロジーの進化や真のDX(デジタルトランスフォーメーション)の実現に必要なのだと思います。