昨今、新型コロナウイルスの感染拡大によってさまざまな業界がダメージを受け、業績も低迷しています。
しかし、パンデミックは多くの企業にダメージを与えるとともに、半導体など特定の分野や業界においては恩恵をもたらしました。
その業界のひとつが、ペットビジネスです。
なぜ、コロナ禍でペットブームが巻き起こっているのでしょうか?
本記事では、コロナ禍以降に盛り上がりを見せるペット市場の現在の動向をおさらいし、ペットビジネスのなかでも特に好調な市場や今後注目が集まる市場などについて解説します。
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目次
コロナ禍後のペット市場の動向
新型コロナウイルスの感染拡大によって増えた「おうち時間」に、癒やしを求めて子猫や子犬などのペットを飼い始める人が急増し、ペット市場は成長を遂げました。
コロナパンデミックが終息した現在でも、ペット市場の勢いは衰えず、市場規模は拡大しています。
株式会社矢野経済研究所が2024年に実施した国内のペットビジネス市場に関する調査によると、2023年度のペット関連総市場規模は前年度比4.5%増の1兆8,629億円でした。
2022年度から2023年度にかけては物価の高騰により値上げを余儀なくされており、ペットの飼育頭数は伸び悩んでいるものの、高付加価値商品や猫向けの商品によって売上は伸びています。
また、生体そのものの価格も上がっているため、犬や猫よりも手ごろな価格帯である、小動物や魚などのペット販売数が増えつつあります。
(参考:株式会社矢野経済研究所:ペットビジネスに関する調査)
ペット関連企業も好調
コロナ禍でペットに癒やしを求める人は日本人だけではありません。
アメリカでもペットを飼う人の割合が急増しており、ブリーダーの元で子犬を待つ人が増えていることがわかっています。
また、こうしたペットブームに合わせたスタートアップ企業も順調に業績を伸ばしています。
「ペットフードとペット用品のAmazon」と呼ばれるペットのEC「Chewy」がその例で、Chewyの2021年度第4四半期の報告書をみると、売上は前年比51%増でした。
アメリカのペット産業はおよそ11兆円ほどの市場規模であり、日本の1.5兆円を遥かに超える市場規模です。
Chewyはこのような巨大な市場において売上高が51%も成長していることから、業界全体が拡大していることが伺えます。
飼育頭数は減少傾向にあるものの、ペット市場の成長は続いています。市場を支えているのは、ペット関連企業の市場です。
例えば、ドッグフードは飼い主のペットに対する健康意識の高まりによって、国産のフードや無添加を訴求したフードなど高価格帯の商品の売上が好調です。
ペットフード市場は近年横ばいであったにもかかわらず、2023年度も増加傾向が見られました。
キャットフード市場でも同様に猫への健康意識が高まり、猫がかかりやすい病気予防を意識した機能性フードが増え、市場拡大の追い風になっています。
今後は、食材、生産品質、見た目にさらにこだわった高価格帯の「スーパープレミアムフード」の販売が拡大していくことが予想されます。
また、オーラルケアやデンタルケア分野において市場が伸長する見込みです。
昨今、飼育頭数を伸ばしている小動物や魚の飼育用品についても市場が拡大していくでしょう。
さまざまな企業が急成長を見せる
犬用のおやつやおもちゃを顧客のペットに最適化した詰め合わせを販売する「Bark」は、2025年度第1四半期決算説明会において、売上高1億1620万ドル、売上総利益率は過去最高の63%を記録したことを発表。
Amazonを含むマーケットプレイスでの売り上げが好調で、企業の成長を推進したとしています。
また、犬の飼い主とトリマーをマッチングさせるアプリ「Pawsh」のユーザーは2020年3月から6月にかけて125%も成長しており、新規ユーザーの3分の2はペットを飼うのが初めての人でした。
Pawshの共同創業者のカーシック・ナララセッティ氏は「犬を飼うことがコロナ禍の流行りとなったのです」と語っています。
また、犬の散歩や世話をしてくれる人を探せるアプリを開発・提供しているスタートアップ企業の「Rover」の2021年5月時点のサービス利用予約額は4,500万ドル(およそ49億円)を上回っており、過去最高となっているといいます。
その後、2023年11月、アメリカ大手の投資ファンドであるブラックストーン・グループが「Rover」を23億ドルで買収することを発表、2024年2月に完了しています。
これは、今後、この市場が拡大することを見越してのことでしょう。
ペットビジネスの中心的存在はペットフード
ペット関連の市場は大きく伸びていますが、業界の中心的な存在はペットフード分野です。
一般的なペットフードを中心に、近年ではペットの高齢化問題もあるため、栄養バランスや筋力維持に特化した高付加価値ペットフードが人気となっています。
また、ペット用のおやつ市場も成長をみせており、新型コロナウイルスが収束した後もペット業界の市場規模は拡大の余地があります。
ペットフード分野で圧倒的な強さを誇る2社
このペットフード分野で圧倒的な強さを誇っているのが、商品大手スイスの「ネスレ」とアメリカの「マース」です。
両社は2000年代以降同業の買収によって拡大しています。
例えば、ネスレは2001年にラルストン・ピュリナ社をおよそ100億ドル(およそ1兆1,500億円)で買収しています。
一方、2015年にはマースはアメリカの「P&G」から「ユーカヌバ」や「アイムス」といったペットフード部門のほとんどをおよそ29億ドル(およそ3,000億円)で買収。
さらに、2017年にはアメリカの動物病院大手「VCA」を91億ドル(およそ1兆円)で買収しています。
日本企業ではユニ・チャームがトップ
海外企業ではネスレやマースが存在感を放っていますが、日本企業をみるとユニ・チャームがペット用品・ペットフード分野において売上高トップを誇ります。
また、マルハニチロの子会社の「アイシア」や、いなば食品子会社の「いなばペットフード」、三菱商事系の日本脳参考魚の子会社「ペットライン」などの老舗もよく知られるところです。
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ペットビジネスが注目される理由
世界的にペット産業の市場規模は拡大していますが、日本も例外ではありません。
日本のペットフード・ペット用品を合わせた国内市場規模は、2019年度に4461億円(前年度比5.5%増)で、ペットショップや医療などを合わせた全体の市場規模はおよそ1.5兆円です。
さらに新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年度のペット関連総市場規模は、前年度比3.4%増で1兆6,242億円とされています。
これだけ市場が拡大している理由には、新型コロナウイルスの影響のほか、ペットを家族の一員とする意識が広まっていることも要因の一つといえるでしょう。
ペットを家族とすることで、ペット保険や高付加価値ペットフードなどの商品・サービスの拡充が進んでいるのです。
家族意識の高まりによる市場拡大
繰り返しになりますが、ペット産業の市場が成長し続ける背景には、ペットに対する飼い主の考え方の変化があります。
かつて、犬や猫は防犯目的やネズミの駆除といった目的で飼育され、人間の生活にとっては愛玩動物というよりも「働き手」として活躍していました。
飼い主はその労働の対価として餌や寝床を提供するという側面がありましたが、徐々にそうしたペットへの意識は薄れ、「愛玩動物」としての役割を果たすようになっていったのです。
とはいえ、それでもペットの主な役割は「モノ」としての役割でした。
また、当時は雑種をもらって飼育するのが一般的であり、餌も残飯などを与えることで飼育にまとまったお金はかかっていませんでした。
しかし、次第に経済的な豊かさが向上し、高齢化世帯や一人暮らしの増加、少子化の進行によって犬や猫などペットは飼い主にとっては家族同然となり、「コンパニオンアニマル(伴侶動物)」としての役割を担うようになりました。
つまり、近年になって「ペットは家族」という意識が広く一般的になったのです。
大都市への人口集中による「ペットの家族化」
また、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの北洋祐研究員によると、ペットが家族化した理由として、大都市への人口集中を挙げています。
都市圏は住居スペースが狭く、交通量が多いため、ペットの小型化と室内飼育が進んでいます。
この結果、飼い主がペットと過ごす時間が増えることで、ペットに対する愛情が増して家族のように感じるようになったのです。
実際、国土交通省によると、2000年以降にペット飼育可のマンションが大都市圏で急増しています。
さらに2010年以降の新築においては、90%以上が飼育可(条件付き)となっていることも影響しているようです。
参考記事:キーワードは「家族化」 ペット市場の新規参入チャンス
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ペットの家族化・高齢化によって伸びる周辺ビジネス
こうしたペットの家族化によって成長しているのが、周辺ビジネスです。
老舗が多く存在感が大きいペットフード分野に対して、新たにペットホテルやしつけ教室といった手厚いサービスが急成長しています。
代表的なビジネスが、高額な医療費をカバーするためのペット保険業界です。
シェアの半分以上を握っている「アニコムホールディングス」は上場しており、株価も業績も伸びています。
また、アニコムホールディングス以外にも、動物病院やトリマーなど多種多様な企業が台頭しています。
とはいえペット関連の専門企業で上場している会社は少なく、専門商社「エコートレーディング」や、高度医療が専門の「日本動物高度医療センター」など、現状では数えるほどしかありません。
延びるペットの寿命
今後のペットビジネスにおいてキーワードとなるのは「高齢化」です。
一般社団法人ペットフード協会が実施している「犬猫飼育実態調査」をみてみると、2020年の犬の平均寿命は14.48歳、猫の平均寿命は15.45歳でした。
10年前の平均寿命は犬が13.9歳、猫が14.4歳であったため、この10年間で犬は0.58歳、猫は1.05歳寿命が延びています。
「たったそれだけ?」と感じるかもしれませんが、成犬成猫は1年間で人間の4歳分の年齢を重ねるとされています。
したがって、犬や猫にとっては1歳寿命が延びるだけでも、大きく寿命が延びているということになるのです。
ペットの高齢化によって市場の成長が見込まれる
こうしたペットの高齢化によって、さらにペット産業の市場が拡大することが見込まれています。
例えば、ペットフードメーカー各社は高齢のペット用の製品を新たに開発・販売しています。
高齢のペットでも食べやすいようにゼリー状にしたり、不足しがちな栄養素を補うなど、ペットの健康を気遣う飼い主のニーズに応えようとしているのです。
また、高齢のペットを介護する施設やサービスも提供されています。
イオンのペット用品子会社は、イオンモールに犬専用の介護施設を開業。獣医師が24時間体制で待機しており、月額10万円からとなっています。
環境省によれば、動物を一時的に預かって面倒をみる保管業者は首都圏で大幅に増えていることがわかっています。
保険や動物病院、医療などの健康関連サービスも成長
また、ペット保険のほか、動物病院といった健康関連サービスも成長しています。
農林水産省の統計を見ると、動物病院の数は2019年で12,116施設となっており、この15年間でおよそ3,000弱も増えています。
さらに世界に目を向けてみましょう。
2021年10月21日にREPORTOCEANが発行したレポートによると、世界の動物病院サービス市場は2021年から2027年にかけて、5.7%以上の成長率が見込まれており、1,435億ドル(およそ16兆円)に達するとされているのです。
また、モルガン・スタンレーの報告書をみてみると、アメリカのペットケア産業の市場規模は、次の10年で3倍になる可能性もあるとされています。
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中国ではすでに5兆円を超えているペットビジネスの市場規模
日本やアメリカで急成長を見せるペットビジネスですが、中国のペット市場も過去20年で爆発的な成長を遂げており、未だにその勢いが衰える気配はありません。
最近ではアリババなどの巨大なEC企業がペットビジネスに注力しており、ペット業界もテック企業の新たな主戦場となり始めているようです。
中国のペット市場はすでに日本を超えている
先述したように中国のペット市場は過去20年間で大きな成長を遂げており、その規模は、調査会社iResearchの推計で2020年に5兆円前後です。
日本はおよそ1.6兆円であるため、日本のおよそ3倍となっています。
ただ、これでも世界最大のペット市場であるアメリカはおよそ11兆円であるため、中国はアメリカの半分です。
しかし、中国の総人口はアメリカの4倍以上なので、将来的に市場が拡大する余地は大きいといえるでしょう。
テック企業が参入するペットビジネス
中国では家電の美的集団やスマホのXiaomiといったメーカーがペットビジネスに参入しており、ペット市場は業種の壁を超えた大手企業の新たな主戦場となっています。
中国のテック企業が次々と参入している市場といえば、自動運転技術やEVといった分野ですが、ペットビジネスも同様に大きな盛り上がりを見せているのです。
また、既存企業の参入だけではなく、起業件数も増えています。
実際、中国のペット用品関連会社の数は2019年に15万社増えており、2020年にはさらに12万社増と、その規模はどんどん拡大中です。
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まとめ
ここまでペットビジネスに関する基本的な知識から、世界的に拡大する市場やその要因について見てきました。
いま、日本だけではなくアメリカや中国など、世界的にペット市場が拡大しており、ペットビジネスに大きな注目が集まっています。
ただ、ペットビジネスは生き物を扱う仕事でもあるため、さまざまな問題を孕んでいる点に注意することが必要かもしれません。