1982年刊行の『エクセレント・カンパニー』(原著『In Search of EXCELLENCE』)は、現代においても多くのビジネスパーソンに読まれている名著の一つです。
では、『エクセレント・カンパニー』は、「超優秀」とされる企業をどのような理論で分析したのでしょうか。
また、名著『エクセレント・カンパニー』、30年以上経った現代において、何を伝えるのでしょうか。
今回は『エクセレント・カンパニー』に記載された「超優良企業な企業の特徴」と、「本書が現代に伝えている考察」を紹介します。
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目次
『エクセレント・カンパニー』とはどのような本か
『エクセレント・カンパニー』は、世界的なコンサルティング会社であるマッキンゼーの元社員のトム・ピータースとロバート・ウォーターマンによって書かれた本です。1982年に『In Search of EXCELLENCE』として刊行され、以来、世界中で600万部以上を誇る大ベストセラーとなりました。日本では1983年に講談社より『エクセレント・カンパニー -超優良企業の条件』として刊行。一度は絶版となったものの、2003年に英治出版より『エクセレント・カンパニー』として復刊しました。
本書では、「超優良(エクセレント)」と呼ばれる60以上の企業を分析し、超優良企業が持つ特徴を8つにまとめています。
合理主義的分析アプローチの行き詰まりと、人間要素への着目
当初、二人は「当時それは戦略や機構面からのアプローチに集中していた」(P40)と述べているように、アメリカのビジネススクールで主流となっていた定量的な分析による“合理主義”的なアプローチを試みていました。しかし、彼らは調査を進めるにつれ、ある重大なことに気づいたのです。それは、“合理主義”によって計数管理の小道具に注目するあまり、問題の細部に考えが至っていない“巨大企業”の姿でした。
そして、過度に組織化され硬直化した大企業が、心を一つにして挑んでくる小さな集団に敗れる姿を目にした彼らは、「冷徹な合理主義をもって、超優良企業が“超”たるゆえんを説明することはできない」(P72)ということに気づいたのです。
そのきっかけとなったのは、本田技研やソニーなどの日本企業のアメリカ国内での成功でした。
「日本はコスト面ではたいへん有利と思われていた。・・・・・・が、大きな驚きはそれが自動化のためだけでないことを発見したときだった。・・・・・・自動車製造をきわめて『人間的に』やる方法を開発していたのである。・・・・・・日本には、自動車製造に胸をときめかせながら打ち込んでいる労働者がいる。・・・・・・アメリカでは、生産性のもとになる考え方が間違っているのだ。それは小さな過ちの積み重ねによるもので、投資の大方針を変えてみたところで是正される生やさしいものではない」(P86~P87)
本書の翻訳者である大前研一氏は日本企業の特徴について、以下のように述べています。
「普通『革新』と言われるものは、機能や組織の境界で起こるものだから、複数の分野にまたがる視野や共同作業が必要となる。というわけで、変転きわまりない今日にいたって、日本企業の組織の柔軟さはことに大きな財産となっていたのである」(P106)
そして、“動機づけ”といった人間要素にフォーカスを当て、「あまり固定化した組織ではいけない」(P106)という言葉に代表されるヒューレットパッカードなど、60以上の超優良企業の組織特徴の研究を進めたのです。
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『エクセレント・カンパニー』が説く“超優良企業の8つの特徴”
2人は、60以上の超優良企業を調査した結果、超優良企業を“エクセレント”にする、以下の8つ特徴をまとめました。
特徴1:行動の重視
超優良企業の行動は、「とにかくフットワークが軽い」という特徴があります。例えば、新製品の開発において、少人数のチームを作り、数週間で作り上げた試作品を消費者にぶつけてテストし、結果を確認します。そのフットワークの軽さで巨大企業に対抗したのです。
特徴2:顧客に密着する
超優良企業は「顧客から学ぶ」姿勢を重視します。顧客の声に熱心に耳を傾け、最良のアイデアを顧客から得て、製品化に結びつけるのです。
特徴3:自主性と企業家精神
超優良企業は、創意あふれるリーダーを抱え、「実践的なリスクを冒すことを奨励し、“惜しい”失敗を支援」(P51)します。これによって自主性と企業家精神を育て、社内を活性化させています。
特徴4:ひとを通じての生産性向上
超優良企業は、従業員を「品質および生産性向上の源泉」(P51)と見なして大切にしています。それは、従業員に目的意識を持たせ、「すすんで業務改善、業績向上につとめる」(P408)ことで、生産性向上に努めるのです。
特徴5:価値観に基づく実践
超優良企業は価値観を明確にし、価値観の形成に心を配ります。そして、価値観に基づき、行動します。例えば、マクドナルドは同社が掲げる「品質・サービス・清潔・価値」の4つで各店舗の評価を行っています。
特徴6:基軸から離れない
ジョンソン&ジョンソンの元会長であるロバート・W・ジョンソンの「自分でどうやったら良いか分からない業種を絶対に買収するな」(P52)という言葉に代表されるように、超優良企業は本業からかけ離れた企業を買収しません。それは、原則のない多角化は失敗に終わることが分かっているからです。
特徴7:単純な組織、小さな会社
超優良企業は大企業であるが、「100人に満たぬ数の管理部門で、何千億円もの企業を動かしている」(P53)ほど階層が薄く、本社の管理部門が小さいことが特徴です。単純な組織で組織としての流動性を保ち、行動しやすくするのです。
特徴8:厳しさと緩やかさの両面を同時に持つ
超優良企業は企業の中核をなす“価値観”については統制を管理するという側面を持つものの、現場では“自主性”を保っているという両面を持っています。例えば、スリーエムは製品開発においては自由な空気があるものの、会社の基本精神は「過激な宗派の洗脳されきった信者でさえ顔負けだ」(P53)と言われています。
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エクセレント・カンパニーの特徴を2つに集約
先に述べた超優良企業の“8つの特徴”をまとめると、以下の2点に集約できます。
- 大企業となっても俊敏さを失わない
- “動機づけ”を行い、仕事に熱中させる企業文化を持つ
これらは、「仕事にまい進する身動きが軽いベンチャー企業」と「官僚的な組織で身動きが取れない大企業」を想像すればイメージがしやすいでしょう。
そして、2人が解明したエクセレント・カンパニーの特徴は、「硬直化によって身動きが取れなくなる“組織の落とし穴”を避けるための知見」であるとも言えます。
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名著『エクセレント・カンパニー』は現代に何を伝えるか?
『エクセレント・カンパニー』が刊行されてから30年以上経った現在において、超優良企業として本書で紹介されたDECやアムダール、ワング・ラブズなどは既に消滅しています。また、IBMも1990年代には倒産の危機に直面しました。これはどのような事実を語っているのでしょうか?
超優良企業と呼ばれた企業も、従業員が増え、組織が大きくなるにつれ機敏性を失い、硬直化していきました。そして、働く人たちは官僚的となったのです。1970年代、GMなどのアメリカの巨大企業が「硬直化によって身動きが取れなくなる“組織の落とし穴”」に陥ってしまったのです。
例えば、『個人の尊重』を信念とし、社員の“動機づけ”に成功して世界のホストコンピューターを席巻したIBMは、組織の肥大化に伴い官僚的になり、硬直化が進みました。そして、1980年代後半のパーソナルコンピューターの台頭による流れに乗り遅れ、倒産の危機に直面したのです。
冒頭にも述べた通り、『エクセレント・カンパニー』は、1970年代当時のアメリカで超優良企業と呼ばれた60以上もの企業を分析し、その特徴を8つにまとめた内容の本です。当然のことながら、超優良企業となるためのノウハウを示したものではありません。
しかし、『エクセレント・カンパニー』は、「超優良企業と呼ばれた企業が、その輝きを失わずに“エクセレント”であり続けるために必要なこと」を考えるヒントが示されています。例えば、「俊敏さを失わず、社員を熱狂させる“動機づけ”を与える」といった点です。それは、現代においてはGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)をみればお分かりかと思います。
なお、本書の翻訳者である大前研一氏は、本書の最後で次のように述べています。
「最後に、本書の読み方についてひと言述べたい。私としては、これを“米国における”物語としてではなく、一般に企業経営の基本思想についてのきわめて実証的な、平易な読みものとして扱うことが正しい読み方だと思う。米国とか日本とか言って経営比較を行っているうちは、まだ本物ではないのである」(P553)
本書が“名著”と呼ばれる理由は、戦略論や企業分析といった“テクニカル面”に注目したのではなく、“組織を構成する人間部分”を中心に着目して企業経営の基本思想をまとめた点にあります。そしてそれは、現代の経営者にも多くの示唆を与えてくれるはずです。
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