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「大企業病」という言葉をあなたは聞いたことがありますか?
大企業病は、組織が大きくなるに連れ、縦割り文化により意思決定のスピードが遅くなることを指します。
日本では、大企業病により「イノベーションのジレンマ」が発生しており、他国に商品開発で引けを取ることも増えました。
本記事では日本企業の深刻な問題のひとつ「大企業」の症状や改善方法について詳しく解説します。
- 自社の風通しが悪くなっている気がする
- 縦割り組織に限界を感じている
- よりスピーディーな意思決定を実現するにはどうすればいいか悩んでいる
上記のようにお考えの経営者、ビジネスパーソンはぜひご覧ください。
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大企業病とは社内の風通しが悪くなること
経営者
大企業病とは、会社内での風通しが悪く、意思決定を行うまでに多くの時間を必要としてしまう状態のことです。
したがって、心身の疾患などを表す「本物の病」を指す言葉ではありません。
大企業病が侵攻すると、社員のモチベーション低下などの弊害が生じるため、予防と改善が重要になります。
大企業病は中小企業でも起こる
「大企業病」という言葉を聞くと、大きい企業にだけ起こる問題だと考える人が多いでしょう。しかし、大企業病は中小企業でも起こり得ることです。
全体主義でルールが多すぎると、中小企業でも大企業病に陥る可能性があります。
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就職活動での大手病
大企業病と似た言葉として、就職活動での「大手病」を思い浮かべる人もいるでしょう。大手病は就職活動を行うときに、大企業ばかりを目標にする人のことを指します。
大手病を患ってしまう原因は「大企業なら理想の生活が送れる」「大企業に就職すれば自慢できる」といった思想が根本にあるからです。
大手病を抱えたまま就職活動してしまうと、自分がやりたいこととマッチせず、就職してから「こんなはずではなかった」と後悔することも多いです。
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大企業病の末期症状
専門家
大企業病の末期症状には以下のようなものが挙げられます。
- 内部志向が強い
- チャレンジができなくなる
- 顧客を優先しなくなる
- 形式主義におちいっている
- 成果をあげている人が評価されない
大企業の症状から、自分の会社が当てはまっていないか確認しましょう。
それぞれの症状について詳しく解説します。
内部志向が強い
大企業の主な症状として、内部志向が強くなることが挙げられます。内部志向とは、顧客よりも自社内部の業務効率化を最善とする考え方です。
本来、企業ではお客さま本位を徹底し、お客さまのための商品開発や商品改善を行っていく必要があります。
しかし、大企業病に陥ると、お客さまのことよりも自分がリスクを取らないことの方が重要になり、無難な当たり障りのない施策しか打てなくなります。
チャレンジができなくなる
大企業病が進行すると、新しいことを始めるための意見を受け入れられず、否定される割合が増えます。
チャレンジによるリスクを避け、現状維持を望むようになったら注意が必要です。
社内に「チャレンジをすることで、新しい業務を増やしたくない」と考える人が多いときは、改善を試みましょう。
顧客を優先しなくなる
大企業病は顧客を大事にしなくなる要因にもなります。大企業病が進むと、社内政治や派閥争いに注意が向いてしまのが原因です。
ビジネスにおける基本がブレてしまっていては会社の成長は見込めません。
社内のことにだけ意識が向いてると感じたら、大企業病を疑ってください。
形式主義に陥っている
形式主義に陥っている場合も、大企業の傾向があります。社内向けの報告書や意味のない会議が多いと思ったら注意が必要です。
形式主義になると「意味のないこと」に時間を使ってしまいます。意思決定が遅くなり、重要な業務が進まなくなるため、早期改善を試みるようにしましょう。
成果をあげている人が評価されない
成果を上げている人が適正評価されなくなったら大企業病を疑いましょう。
大企業病は挑戦する人よりも、無難に過ごせる人を重視する傾向があり、社内政治を重んじる悪しき風潮があります。
したがって、成果を上げている人を評価できない状況に陥ります。
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経営者
大企業病による弊害は以下の通りです。
- 新事業に乗り遅れる
- 優秀な人材を失う
- 生産性が低下する
大企業病の症状は、ビジネスおいて様々な弊害を引き起こすため、注意が必要です。
それぞれの弊害について、詳しく解説します。
新事業に乗り遅れる
大企業による弊害として、新事業に乗り遅れる危険性があります。大企業病の症状で、チャレンジ精神が欠乏するからです。
社内にチャレンジを避けるムードが漂うと、新しい事業を思い付いても「どうせ却下される」という思考に陥ります。
会社にとっては機会損失に繋がるだけでなく、世の中の変化について行けなくなり、会社の優位性を失う危険性もあるため注意が必要です。
優秀な人材を失う
大企業病を患っている企業では、優秀な人材が離れてしまう傾向があります。なぜなら、大企業病になっていると成果を正当に評価されなくなるからです。
優秀な人材を失うと、顧客とのビジネスが円滑に進まないだけでなく、企業内に仕事ができる人間がいなくなってしまいます。
結果として、仕事を正確に教えられる人がいなくなり、育成すらまともに行えなくなる可能性があるため、公平な評価制度を整えることが重要です。
生産性が低下する
生産性の低下は形式主義から引き起こされます。形式主義が普及してしまうと、無駄な作業に時間をかけすぎて、重要な意思決定が即座に行われないという弊害が生まれます。
生産性の低下を防ぐために、社員のモチベーション向上に力を入れてください。
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大企業の原因として挙げられるのは以下の5つです。
- 事業が安定している
- 企業が掲げている理念が浸透していない
- 新しい挑戦に対する評価制度がない
- ルールが多い
- 風通しがよくない
それぞれの原因について詳しく解説します。
事業が安定している
展開中の事業が安定していると、大企業病に陥る可能性が高くなります。もちろん事業の安定は、企業が目指す目標のひとつでありそれ自体が問題ではありません。
しかし、事業の安定は、リスクがある選択肢を選べなくなる要因になり得ます。
リスクと現状の維持を比べたときに、安定思考になりすぎていないか、再度確認しましょう。
企業が掲げている理念が浸透していない
企業が掲げる理念は、経営にとって重要な要素ですが、会社が大きくなるにつれて、組織が拡大し、ビジョンや理念が共有しづらくなります。
社内の人数が少数の場合、会社が目指している目標に共感して入社してくれる人も多いのですが、会社の規模が増すと福利厚生や制度を目当てに入社する人も増加します。
したがって、会社の理念に対してどんな印象を抱いているのか、採用段階で見極めが必要です。
新しい挑戦に対する評価制度がない
挑戦に対する評価制度がないと、社員のモチベーションが上がらず、大企業病になる確率も高くなります。
すでに決まっている制度にだけ縛られると、現状維持に固執する要因となるため、新しい評価制度の制定も視野に入れましょう。
ルールが無駄に多い
社内のルールが無駄に多すぎると、ルールの見直しなどに時間を取られてしまいます。
結果的に、社員のモチベーション低下や形式主義に陥る危険性があるため、注意が必要です。
明確に定められているルールだけでなく、暗黙の了解も含め、そのルールが本当に必要なのか再検討しましょう。
風通しがよくない
社内の風通しがよくないということは、コミュニケーションが円滑に行えない状況になっている可能性が高いです。
社内のコミュニケーションが上手くいっていないと、生産性の低下につながってしまいます。立場が低い社員が上司に意見をしっかり言えるような体制を整えることが重要です。
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専門家
大企業病を克服する方法は以下の4つです。
- 管理職の意識を変える
- 企業文化を見直す
- 社内コミュニケーションを活発にする
- 人事制度を整理する
自社が大企業病だと判断したら、改善方法をしっかりと理解し対策を試みましょう。それぞれの改善方法について、解説します。
管理職の意識を変える
大企業病を改善するには、管理職の意識を大きく変える必要があります。管理職は、一般の社員と経営者の間に立つ重要な存在です。
管理職が上手く機能していないと、大企業病は改善できません。一般の社員の意見が経営層に届かない企業では誰も声を上げないからです。
社内に漂っている諦めの雰囲気を打破するためには、管理職の意識から変えていくことが重要です。
企業文化を見直す
企業文化とは「企業と従業員の間にある意識的、もしくは無意識的な行動規範」を指します。企業文化を見直すことで、現状の問題の把握、改善ができます。
特に、企業が培ってきた伝統は、企業を支える礎になることもありますが、時に組織の硬直化を招くこともあります。
今一度、自社の企業文化がポジティブに働いているのか、確認するようにしましょう。
社内コミュニケーションを活発にする
社内のコミュニケーションの有無は、大企業病に直結する大きな要因です。
社内コミュニケーションを活発にすることで、会社が抱えている問題への理解や解決への糸口が見つかります。
また、コミュニケーションを行える会社だと認知されれば、立場に関係なく、事業の展開についても活発な議論が行われるでしょう。
定期的にグループワークを行い、意見交換の場を作るとよいでしょう。
人事制度を見直す
人事制度の見直しも大企業病の改善には有用です。人事制度の中でも、昇格や評価制度を再度確認することをおすすめします。
昇格や評価に関する制度が明確でないと、社員のモチベーションは著しく低下します。
評価制度を明確にし、仕事の目標を明確にすると「何をやっても評価されないから意見を言わない」という、大企業病の弊害を回避できます。
定量的な人事制度が明確に定まっているかを再度確認し、社員のモチベーション管理を計りましょう。
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『指揮系統が年功序列なのはおかしい』組織を活性化するための適材適所を徹底解説!大企業病の事例
大企業病の事例として、挙げられるのは以下の2社です。
- パナソニック
- トヨタ
どちらの企業も日本を代表する企業ですが、成長の裏には「大企業病に苦しみ、なんとか克服できた歴史」があります。2つの事例について、詳しく紹介します。
パナソニック
パナソニックは、日本に拠点を置く大手の電気機器メーカーであり、1935年に創立されて以降、日本の産業を支えてきた企業のひとつです。
大企業として躍進を続けてきたパナソニックですが、会社が大きくなったことで、大企業病に悩まされていました。
社員の考えが経営者の立場まで届かず、海外の企業に家電事業のシェアを奪われる危険性があったのです。
当時若手社員であった浜松誠氏は「出る杭が打たれる」状況を危険視し、社内交流会を活用し管理職と社員が話す場を設けることを提案。結果として提案は受け入れられました。
現在では、他の企業も参加する大きなイベントまで行うようになり、新たな価値を創造するための場として、大きな力を発揮しています。
トヨタ
トヨタが大企業病を問題視していたのは1990年ごろです。組織の硬直化により意思決定が遅い状態の中、トヨタの国内シェアは40%を割り込み、海外勢の勢いにいよいよ先を越されてしまうのではないかと危惧していました。
大企業病の深刻さを理解し、行動に起こしたのは1995年にトヨタの社長に就任した奥田碩氏です。奥田碩氏は、1999年に開発予定であるハイブリッドカーのプリウスを、1997年までに完成するように促しました。
奥田碩氏の決断は、会社の利益だけでなく、後の企業文化にも大きな影響を与えています。
大胆な事業展開や素早い決断を行える人物を重役に採用したことで、大企業病を脱した事例だと言えます。
まとめ
大企業病は、大企業だけでなく、中小企業などにとっても大きな問題です。
大企業病が深刻化すると、社内だけに意識が向いてしまい、社員のモチベーション低下や機会損失に繋がってしまいます。
自分の会社が大企業病になっていないか再確認し、適切な改善を試みることが重要です。
大企業病を克服した事例からも学び、より具体的な改善方法の策定も行っていきましょう。
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