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「感情労働」とは、感情のコントロールが必要とされる労働です。
かつては人と接する機会の多い職業のみが当てはまりましたが、近年は感情労働が必要とされる職業が非常に増えています。
そのような背景もあり、感情労働によるトラブルや懸念点も注目されつつあるのが現状です。
本記事では感情労働の意味やトラブル回避法など幅広く取り上げました。
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感情労働の意味
感情労働について正しく押さえるには、言葉そのものの意味だけでなく、似た用語との適切な区別も必要です。
まずは感情労働という概念についてわかりやすく解説します。
自身の感情コントロールが必要とされる労働
感情労働とは、自身の感情コントロールが必要とされる労働全般を意味する用語です。
アメリカの社会学者であるA・R・ホックシールドにより提唱された概念で、1983年に出版された書物「The Managed Heart」内で詳しく言及されています。
感情労働に当てはまる業務では、感情のコントロールをしないと報酬が得られません。
したがって気分が落ち込んでいる時でも笑顔を保つ、マイナスの感情を押し殺して業務に従事するなどの対応が求められます。教師や看護師などが例として挙げられるでしょう。
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頭脳労働との違い
感情労働と並ぶ用語として、「頭脳労働」という言葉も聞いたことがあるかもしれません。頭脳労働とは、頭を使って生み出した結果により報酬を得る労働です。
例えば、アイデアや提案を生み出す、もしくは専門知識を使って実施する業務が当てはまります。
税理士など専門知識が必要な士業や、小説家・デザイナーなどのクリエイティブな職種が代表例です。
感情労働という概念が生まれる前は、感情のコントロールが必要な業務も頭脳労働に含まれていました。しかし現代では頭脳労働には知識や発想が必要、感情労働には感情コントロールが必要と明確に区別されています。
肉体労働との違い
肉体労働は報酬獲得にあたって、身体を使った業務が必要とされる業務です。
代表的な例として農産業や建築業、工場での作業などが挙げられます。
感情労働や頭脳労働と違い、労働には身体的な疲労が伴うため、身体への影響が大きいという点が違いです。
また、頭を使わない単純作業は、肉体労働に含まれます。
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感情労働は前述のように1980年代に登場しましたが、最近になってさらに注目度が高まっている概念です。
感情労働が注目される背景として以下の2つが考えられます。
- 付加価値としてのコミュニケーションが求められる
- 感情で選択する消費者が増えている
それぞれ具体的に解説します。
付加価値としてのコミュニケーションが求められる
現代は似たようなモノやサービスが多く存在し、消費者の選択肢が多数ある状態です。
したがって企業には選ばれるための付加価値が求められており、その1つとしてコミュニケーションが挙げられます。
競合他社との差別化が必要不可欠とはいえ、選択肢が溢れている状況において、機能や性能のみで差をつけるのは容易ではありません。
したがって消費者に選ばれるために、コミュニケーションによる誘導が求められます。
適切なコミュニケーションは付加価値となり、同業他社より一歩先に進める可能性が生まれます。
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感情で選択する消費者が増えている
消費者の選択肢が増えている現代では、論理的な理由ではなく、感情を重視して選択するケースが増えています。すなわち消費者に選ばれる存在になるためには、購入につながる感情を持たせる必要があります。
感情は些細な理由によって変化する上、その人がとる選択に大きく影響します。
そして感情を上手く誘導するためには、商品・サービスを提供する側が感情に左右されてはいけません。
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感情労働が求められる職種
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感情労働が求められる代表的な職種としては、以前から以下が挙げられます。
- 客室乗務員
- 看護師・介護士
- コールセンター
- 受付・店舗の販売員
- 保育士・教師
しかし先ほど説明したように、現代においては上記に限らず、あらゆる職種で感情労働が必要です。
まずは例として挙げた職種で感情労働が求められる理由、そして現代における実情について解説します。
客室乗務員
客室乗務員は感情労働が求められる職種の代表例です。感情労働の提唱者、A・R・ホックシールドは感情労働が必要な職種の例として、著書内で客室乗務員を挙げています。
客室乗務員の仕事は飛行機など交通機関内での接客サービス提供です。
顧客は拘束時間が長く活動においても制限が多くなりますが、満足度を高めるためには快適さを感じてもらう必要があります。
したがって客室乗務員には、笑顔の維持や明るく丁寧な対応、すなわち感情労働が求められます。
看護師・介護士
看護師や介護士の仕事は幅広いですが、主な業務は、顧客と直接関わることです。
治療や補助などに付随する業務であるため、自身の感情に関係なく、真心のある丁寧なサービスが求められます。
また、顧客すなわち患者や利用者と近い距離で接するため、顧客に与える影響も大きくなりやすいです。
その上多くの顧客は、病気やケガなどのトラブルにより精神が不安定な状態です。
顧客に悪い影響を与えない、そして自身が影響を受けないよう、感情を強くコントロールすることが必要とされます。
コールセンター
コールセンターは対面ではないとはいえ、顧客と直接コミュニケーションをとる職種です。
したがって顧客との物理的な距離は遠いものの、感情労働が求められます。
コールセンター業務の中でも、クレーム対応は特に感情のコントロールが必要です。顧客から非常にネガティブな感情を受けますが、どのような場面でも真摯な対応をしなければなりません。
表情や身振りなどを使った表現ができないため、対面での接客より難しいケースもあります。
受付・店舗の販売員
受付・店舗の販売員は、顧客と直接コミュニケーションを取る職種です。
適切な対応のために感情のコントロールが求められるため、感情労働の一種と考えられます。
また、こういった職種は、モノやサービスの選択を取ろうとしている顧客と近い位置にいます。
すなわち受付・販売員の接客によって、顧客の選択が変わる可能性が高いのです。
「感情労働が注目される背景」で取り上げた、付加価値としてのコミュニケーションと密接に関係する職種です。
保育士・教師
保育士・教師は人を指導する立場であるため、感情に関わらず常に適切な行動・態度が求められます。模範的な存在となるため、感情の高度なコントロールが必要です。
常に一定の態度というより、その場に合わせて適切な変化が求められます。
褒める場面では喜びを表現し、叱る場面では冷静ながらも毅然とした態度が必要となります。
一定の感情を保つわけではありませんが、その場に合わせた感情の表現が必要という意味で、感情労働に当てはまります。
あらゆる職種で感情労働が求められている
例として挙げた職種は、感情労働としてわかりやすい特徴を持っていますが、現代ではあらゆる職種において感情労働が求められています。
例えばエレベーター内で案内や対応をするスタッフは、特定の顧客とのコミュニケーションは少ないです。しかし表情や態度によって顧客が受ける印象が大きく変わるため、常に笑顔が求められます。感情に関係なく笑顔が必要ということから、感情労働に当てはまります。
また広報のように、消費者ではなくメディアなど法人を対象とする職種でも、適切な業務遂行のためには感情のコントロールが必要です。
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感情労働では本来の感情を抑制し、その場に適した振る舞いが求められます。
このような対応のためには、以下のようなスキルが必要です。
- 高度な自己コントロール
- 自己と他者の分離
それぞれ詳しい内容について解説します。
高度な自己コントロール
感情労働における高度な自己コントロールとは、自身の感情に関わらず、求められる感情表現を実施することを意味します。
理不尽な要求やクレームを受けると腹が立つのは自然な現象です。
疲れが溜まっている状態では、明るい気持ちになれないのも仕方ありません。
しかし感情労働が必要な場においては、その場に適した感情を出す必要があります。
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自己と他者の分離
自己と他者を分離するスキルも、感情労働が求められる職種に必要不可欠です。
ここでは教師を例に解説していきます。
教師は生徒を導く立場であるため、多くの場面で相談を受けます。
相談相手である生徒は多くの場合、悩みによる悲しみや怒りの感情を抱えています。
こうした状況下で、自己と他者が上手く分離できていないと、自身までマイナスの感情にとらわれてしまう恐れがあるのです。
人と深く接する職種では、他者の感情を理解するスキルが欠かせません。
しかし相手に傾倒しすぎてしまうと、今度は相手の感情から強い影響を受けてしまいます。
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感情労働によって引き起こされやすい問題
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感情労働では本来の感情を抑制する必要があるため、以下のような問題が懸念されます。
- ストレス過多によるバーンアウト
- うつ病をはじめとする精神疾患
- 労働に対するモチベーション・充実感の低下
具体的な内容について解説します。
ストレス過多によるバーンアウト
感情のコントロールは精神的な消耗が非常に大きいです。
したがってストレス過多になりやすく、結果としてバーンアウト(燃え尽き症候群)につながる恐れがあります。
バーンアウトとはエネルギーが消耗し、無気力となった状態を意味します。
本来の自分を抑制しなければならない感情労働は、精神的なエネルギーの消費が多いので、
疲れが溜まった状態ながらも回復させずにいると、いつのまにかエネルギーが完全に枯渇するという事態に陥ります。
そうして「働きたくない」「やりがいがない」といった無気力状態、バーンアウトが起きてしまうのです。
うつ病をはじめとする精神疾患
うつ病をはじめとする精神疾患も、感情労働の現場でよく見られる問題です。
精神疾患の多くは大きなストレス、もしくは長時間のストレス状態などによって引き起こされます。
自身の感情を抑圧しなければならない感情労働は、当然強いストレスを感じやすく、適切に対応せずにいると精神疾患を招いてしまいます。
精神疾患の治療中は、業務時間の短縮もしくは完全な休養が必要です。
したがって業務が精神疾患の原因となっていることが認められた場合、企業には該当従業員への手当の支給や休職などの対応が求められます。
労働に対するモチベーション・充実感の低下
バーンアウトや精神疾患まではいかない場合でも、モチベーションや充実感の低下は大きな問題です。
感情労働は性質上、実施して当然という雰囲気が存在します。
感情労働ができていない場合は叱責を受けるものの、上手くできている場合の称賛は特にないのが一般的なため、精神的な負担のわりに、やりがいや満足感などを得にくいのです。
業務を通じて明るい気持ちが得られないと、自然とマイナスな考えに移ってしまいます。
このような理由から、感情労働は労働に対するモチベーション・充実感の低下が起こりやすいのです。
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感情労働が求められる現場では、上記のような労働者の精神的トラブルが多く見られます。トラブルを防ぐためには適切な対策が必要です。その方法として、以下の3つが挙げられます。
- 労働環境の管理・改善
- 定期的なストレスチェック
- 雇用側と従業員との適度なコミュニケーション・面談
それぞれの方法について解説します。
労働環境の管理・改善
労働環境は労働者のストレスに大きく影響する部分です。
したがって快適に業務ができるよう、労働環境の管理・改善が求められます。
具体的なポイントは以下の通りです。
- 労働時間:長時間労働の是正、残業が必要ない環境の整備など
- 人間関係:労働者同士・上司との関係におけるトラブルの防止や迅速な対処など
- 物理的な環境:職場における清潔感の維持や適切な備品の用意など
特に労働時間については、精神的な疲れを軽減させるために必ずチェックするべきポイントです。
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定期的なストレスチェック
人がどれほどのストレスを抱えているかは、外部はもちろん当人自身もなかなか認識できません。
知らないうちにかなりのストレスが溜まっており、気づいた時にはバーンアウトや精神疾患が起きているケースも散見されます。
ストレス状態が明らかになれば、早いうちから適切な対策が可能になるため、労働者に対する定期的なストレスチェックが有用です。
専門家
参考:ストレスチェック制度 | 厚生労働省
雇用側と従業員との適度なコミュニケーション・面談
感情労働でストレスが溜まりやすい理由として、感情の抑制が日常化してしまいやすい点が挙げられます。
業務時間という1日の大半で感情をコントロールしていると、日常的に自分の本音や本来の感情を表現しにくくなってしまいます。自覚のないままストレスが溜まり、結果としてトラブルを引き起こしてしまうのです。
従業員自身の感情を表現できる場を作るには、雇用側と従業員の適度なコミュニケーションや面談が効果的です。従業員の感情に寄り添うだけでも、感情労働による従業員のストレスは軽減されます。
専門家
まとめ:感情労働の実行には適切なケアが必要不可欠
感情労働は現代社会において避けられない場面が非常に多いです。
本来の自分を抑制する感情労働はストレスにつながりやすいため、バーンアウトや精神疾患などのトラブルが珍しくありません。
大きなストレスを抱えている労働者は多いため、トラブルを防ぐためには労働環境の管理やストレスチェックなど、適切なケアが必要不可欠です。
今後はますます、企業の経営者が感情労働について正しく理解し、適切な対応をすることが求められます。
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