私の会社は3年11ヵ月で上場を果たしました。
自慢をするつもりはないのですが、けっこうな早さだと思います。
「いやでも、安藤さん。それは識学という商品がよかったからでしょう?」と言われることもあります。
しかし、はじめから商品に対する需要があったわけではありません。
識学なんてまったく認知もなかったですし、むしろ当時はモチベーションを高めるためのサービスがベンチャー業界を席巻していた時期でした。
我々が少しずつ、商品に対する需要をつくっていったのです。
目次
需要が先か、採用が先か
経営者の相談を受けていると「商品に対する需要が増えてから人を採るのか? 借り入れしてでも、いい人は採ったほうがいいのか?」と聞かれることがあります。
私の答えは「死なない程度に、いい人はどんどん採るべき」というものです。
人を増やせば売上が増える。これがいま私のつかんでいる感覚です。
ベンチャー社長のなかには、すでに需要も見えているのに、いつまでも人を増やさずにこねくり回してる人は多くいます。
そして「もっと収益性のいいビジネスがあるんじゃないか……」と新規事業に手を出してしまう。そうではなくて、ひとつの事業が立ち上がって手応えがあるのなら、まずそこをとにかく深めないといけないのです。
もっと人を採用しておけばよかった
いい人はどんどん採用すべきです。
というのも、採用してから戦力になるまでには時間がかかるからです。仕事にもよりますが、最低でも半年から9カ月くらいはかかるでしょう。
どんな仕事も入社してすぐできるようになるわけじゃない。だから経営者は将来を見据えて採用しておかなければいけないのです。
そこで怖がって採用できなければ、会社は一生大きくなりません。
私は他社と比べれば強気に採用するほうです。ギリギリまで採用するので、創業2期目くらいのときに一度キャッシュアウトしかけたくらいです。
それでも、今ではぜんぜん弱かったと思っています。いまの増え続ける需要と比較すると、まだまだ採用すべきだった。
よっていまは、採用のアクセルをフルで踏みこんでいるのです。
会社がつぶれる恐怖なんてない
アクセルをガンガン踏んで積極採用をしているわけですが、たまに「会社がつぶれる恐怖はないんですか?」と聞かれることがあります。
私の答えは「ない」です。
たしかに創業間もないころは、会社がつぶれるリスクを認識する必要はあったでしょう。それでも「なんとか自分が稼いででも、帳尻を合わせればいい」と思っていた。というよりも、当時はむしろ成長速度が落ちることのほうが恐かったのです。
今では会社の財務体質もある程度安定してきています。いきなり会社がつぶれるようなリスクを認識する必要はないと考えています。
採用した社員についても、心配していません。
そもそもうちの会社では、常日頃から社員にきちんと「生きていく力」をつけさせているので、特に心配はしていないのです。
会社がなくなっても生きていく力をつけさせる
私は、会社の役割は「仮にいま会社がなくなっても社員が生きていける力をつけさせる」ことだと考えています。
いまこの瞬間、会社がなくなっても生きていける社員を育てる。
だから、社員に対してきちんと指導するわけです。
よく「厳しく指導するのは気が引ける」というセリフを聞きます。また、指導するときに「あえて厳しく言うと」みたいなエクスキューズを入れてしまう人もいます。
しかしそれは指導する側の「嫌われたくない」という気持ちの表れです。社員のことを本当に考え、成長を願うなら、きちんと指導できるはずです。
感情を挟まずに、淡々とフィードバックする。そのほうが指導する側もされる側も疲れません。
それに指導される側は「ホントはダメなのに、言われていない部分があるんじゃないか?」と疑心暗鬼にもなるでしょう。
きちんと指導したほうがお互いにラクなのです。
ルールに基づいて指摘をする
淡々とフィードバックする。
これが大切なのですが、ひとつ注意しなければいけないのが「ルール違反に対して指摘をする」ということです。
ルール設定を明確にせずに、ただの「ダメ出し」になるとお互いストレスになります。
どういうことか。
「記事のタイトルがおもしろくないからやり直して」と指摘するとします。しかしこれでは「どのルールに違反しているからやり直しなのか」がわかりません。「なんとなくダメ」「なんとなくやり直し」という場面は極力減らさなくてはいけないのです。
たとえば予め、
・タイトルは初見の人が1秒以内に理解できること
・20文字以内におさめること
・そこから会話が始まるようなタイトルであること
といったルールが言語化できていれば「3番めのルールにそぐわないからやり直して」などと指摘することができます。
ルールをなるべく言語化して、「ここができてないから、やり直してください」と言わなければ、社員は何がダメだったのかがわからないので成長できません。
たしかにクリエイティブがからむ世界では、ルール設定の難易度は高くなります。それでも、フィードバックするのであれば「おもしろくない」ではなく、なるべく言語化する努力をすべきなのです。
そして、言語化しにくい部分をもし言語化できれば、マネされにくくなるので、会社にとっての大きな強みにもなるはずです。
経営は「再現性」が命
一人ひとりの暗黙知をきちんと言語化してマニュアルにできれば、それは「会社のノウハウ」になります。これが強力な武器になります。
マニュアルを作りはじめても、つい「肌で感じないとダメですね」とか「背中を見て覚えるしかないですね」となりがちなのですが、それでは社員は育ちません。センスのいい人が入ってくるのを待つしかなくなります。
経営において大切なのは「再現性」です。
再現性がなければ、会社は成長できません。再現性を持たせられないのであれば、それは「経営」ではなく「職人の世界」です。
再現性をつくれない経営者は、いつまでも手を動かし続けなければいけません。たとえば50歳を超えても営業をしたり、コードを書いたり、デザインしたりすることになります。
日本には「職人礼賛」の文化が強くあります。
ただ、経営者がいつまでも「職人」をやっていては、社員は育ちません。会社も大きくなっていきません。
私は、経営者がヒマをしていても動く会社をつくるのが「経営」だと考えます。私のまわりでも、数字を伸ばしている経営者ほど、実務のオペレーションで忙しいなんてことはなく、わりとスケジュールに余裕があるものです。
というわけで、
なぜ、うちの会社は積極的に採用をしているのか?
それは、人が育つのには時間がかかるからであり、需要が生まれてから人を採用していては遅いからです。
そして、採用したからには「生きていく力」を全員につけさせます。ルールの言語化やマニュアルなどで再現性を高め、確実に育てる。よって社員は、仮に会社がなくなったとしても、どこでも生きていけるようになります。
だから採用のアクセルベタ踏みでも怖くはないのです。
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「識学」のノウハウがエキサイティングな小説になりました。
本書『優しい社長が会社を潰す』は、倒産寸前の会社が「識学」を導入することで危機を乗り越え、再生を成し遂げていく物語です。
識学を導入すると、組織にどんな変化が生まれるのか?
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社員や幹部たちのネガティブな反応はどのように解消されていくのか?
小説を読み進めながら会社の再生を擬似体感できる1冊です。
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引用元:安藤広大/株式会社識学 代表取締役社長note「なぜうちの会社は、怖がらずに採用ができるのか?」