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中小企業を経営している社長であれば、一度は「ドミナント戦略」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
ドミナント戦略は「小が大を倒すためのビジネスモデル」として、セブンイレブンを代表とするさまざまな企業が今まで取ってきた戦略です。
本記事では、そんなドミナント戦略についてわかりやすく解説します。
本記事を読むと、ドミナント戦略のメリットやデメリット、注意点までがわかるようになるので、ドミナント戦略を詳しく知りたい方はぜひご一読ください。
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ドミナント戦略とは
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ドミナント戦略は、「小が大を倒すための戦略」として知られています。具体的には、同じ地域に何店舗も同看板のお店を集中的に出店するという方法をとります。ドミナント戦略を詳しく理解するために、ここでは以下4つの切り口で解説していきます。
- ドミナント戦略の意味、定義
- ドミナント戦略の具体例:セブンイレブン
- ドミナント戦略と関わりのある戦略:ランチェスター戦略
- ドミナント戦略と反対の戦略:ミート戦略
それぞれ詳しく解説をします。
ドミナント戦略の意味、定義
ドミナント(dominant)は、「支配的な」「有力な」「優勢な」「支配力を持つ」という意味をもつ言葉で、ビジネスにおけるドミナント戦略も同様の意味を持っています。ある特定の地域にリソースを集中させる出店方式で「地域集中出店方式」とも表現され、チェーン展開をしたコンビニエンスストアがその代表的な例です。
ドミナント戦略が生まれた背景には、市場の変化があります。1970年代後半、日本では「ものが溢れる時代」になり、小売主体の販売形式から顧客主体の買い手主義へと移行しました。
顧客の要望をいち早く本部へと届け、商品販売に顧客の声をすぐに反映させることのできるドミナント戦略は、当時の顧客ニーズを満たす手法であり、コンビニエンスストアはビジネス規模の拡大に成功しました。
ドミナント戦略の具体例:セブンイレブン
ドミナント戦略で必ず例に挙がるのが、セブンイレブンです。セブンイレブンは1974年5月に1号店を豊洲に開いて以来、徹底したドミナント戦略を実施してきました。
セブンイレブンの経営方針は「変化への俊敏な対応」です。創業以来「顧客の要望にいち早く応える商品を並べることが最も大切」と考えたセブンイレブンは、ドミナント戦略を実施し、顧客の要望に合った商品を店舗に並べることができるように物流システムを整えました。
時間帯ごとに小分けした製品を店舗に届けることが可能となり、顧客のニーズに応えた商品展開で規模を拡大しました。
ドミナント戦略と関わりのある戦略:ランチェスター戦略
ドミナント戦略と関わりがある戦略として、ランチェスター戦略が挙げられます。
ランチェスター戦略とは、弱者が強者、あるいは強者が弱者に勝つための方法です。
フレデリック・W・ランチェスターが航空機の損害状況を研究しはじめたのがきっかけといわれており、戦後企業戦略として展開され、今ではマーケティング理論としても実践されています。
ランチェスター戦略では以下3つの戦略が明示されています。
- シェアナンバー1を目指す
- 差別化
- 集中
弱者が強者に勝つためには、小さな市場に戦力を集中し、差別化を測りながら特定の分野でシェアアップを図ることが重要です。
例えば、整髪店のQBハウスは、市場をオフィス街に集中し、他社が休みとしていた定休日にも営業しました。こうして他競合との差別化を測ったことで、市場のシェアアップに成功したのです。
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ドミナント戦略と反対の戦略:ミート戦略
ミート戦略もランチェスター戦略のひとつですが、ドミナント戦略とは正反対の策略です。ミート戦略は、ランチェスター戦略の中でも「勝者の戦略」といわれており、弱者の差別化戦略を封じることを指します。
ミートは「追従」という意味で、差別化戦略に対し追従するように戦略を徹底的に真似をするというものです。
例えば、先ほど説明したQBハウスのシェア拡大の特徴は、以下2点でした。
- オフィス街に市場を見出す
- 休日にも営業する
この特徴を確認した大手がQBハウスに追従して上記2点を真似していたのであれば、QBハウスはここまでシェアを上げることはできなかったでしょう。
ミート戦略の元になるのは、「多VS少」で武器が同じならば必ず「多」が勝つという基本戦略です。
したがって、大手企業はイノベーション企業にシェア負けしないためには、イノベーション企業と同様のポジションを取ることが重要となります。
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ドミナント戦略を採用することで以下5つのメリットと効果が生まれます。
- コスト削減効果
- 新規参入阻止効果
- 労務管理効果
- 独占的利益効果
- 販売促進効果
それぞれわかりやすく解説します。
コスト削減効果
ドミナント戦略を活用することで、コスト削減効果が期待できます。
集中的に店舗を近場に増やすことで、効率的なロジスティック機能を構築できるほか、近場の地域のエリアマーケティングデータは既に本部が取得しているケースが多いため、新規でマーケティング費用をかける必要がなくなります。
また、店舗が増えるごとにスケールメリットが図れるため、仕入れにかかる費用も改善される傾向があります。
したがって、コスト削減にも繋がるのです。
新規参入阻止効果
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ドミナント戦略を実施しあるエリアを掌握した場合、そのエリアへは他店舗が算入しづらくなります。
例えば、「げんこつハンバーグさわやか」は静岡県でドミナント戦略を展開しています。
静岡のハンバーグといえば「さわやか」というブランディングイメージが既に構築されているため、他のハンバーグショップの参入障壁となっているのです。
広告コスト削減効果
ドミナント戦略を実施することで、広告コストを削減できます。全国にバラバラに出店をしているケースでは、広告媒体はテレビコマーシャルやWEB広告と全国規模の広告を打ち出す必要があります。
一方で、ドミナント戦略を採用する場合は、広告を出す地域が絞られます。
さらに地域が限定されることでペルソナを限定することができ、広告宣伝効果の期待が高まるほか、広告媒体も広告単価の低い看板などに切り替えることもできます。
したがって、ドミナント戦略を採用することで、広告のコストの削減、広告宣伝効果の最大化を図ることができます。
独占的利益効果
論文「チェーンストアにおけるドミナント出店戦略の経済分析」によれば、高いシェアを有していることで、独占権を行使した価格設定が可能になり、利益を拡大させることができると説明されています。
競合企業に対して地域内での競合が緩やかである場合には、価格の値下げ競争も起こりづらいため、安定した利益の確保が可能です。
参考:チェーンストアにおけるドミナント出店戦略の経済分析 | ニッセイ基礎研究所
販売促進効果
同一店舗を特定の地域に出店させることで店舗が消費者の目にとまる回数が増えるので、結果として知名度向上につながるのもメリットです。
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経営者
特定地域へ集中的に出店することで効率的な経営を可能とするドミナント戦略ですが、デメリットも存在します。それが以下の3点です。
- カニバリゼーション
- 災害、人口減少リスク
- マイナスイメージの波及
カニバリゼーション
カニバリゼーションは「共食い」を意味しています。
マーケティングでは、自社の商品、事業がシェアを奪い合うことを意味しており、ドミナント戦略ではこの「カニバリゼーション」が起きやすいといわれています。
皆さんは、「同じコンビニエンスストアがすぐ近くにできた」というシーンを目にしたことがあるでしょう。
ドミナント戦略を実施すると、必然的に近隣区域に同店舗が増えることになります。新規店舗が出店することで、競合他社から顧客のシェアを取ることができればいいのですが、時には同会社の顧客の奪い合いが発生することがあります。
フランチャイズチェーン店の場合には、利益の一部はロイヤルティとして本部に吸収されますが、残りはその支店の取り分となります。
そのため、同じ看板を背負っている会社であれどライバルなのです。
専門家
災害、人口減少リスク
災害や人口減少リスクに対してドミナント戦略が弱いのもデメリットです。ある特定の地域への集中戦略であるため、例えばその地域に大規模な災害が発生し、店舗が損害を受けた場合は他の店舗も損害を受けることになります。
また、仮に狙った地域で人口が減少してしまうと、前述したカニバリゼーションが起きる可能性も高くなります。
このように、災害や人口減少リスクに対しては非常に弱く、さらに有効な打開策がないのもドミナント戦略のデメリットです。
マイナスイメージの波及
ブランディング戦略がしやすいのとトレードオフの関係にあるのが、マイナスイメージの波及です。仮にひとつの店舗で問題が発生してしまうと、その影響は近くにある他店舗にも波及します。
一度広がったマイナスイメージは消化しづらいため、ドミナント戦略では口コミや顧客の声を大切にし、ネガティブイメージにいち早く対策を講じる必要があります。
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ドミナント戦略を実施する際のポイントは以下3点です。
- 地域の人口調査
- 競合調査
- 地域特性の把握
ドミナント戦略を実施する際は、必ずポイントを押さえた上で実行に移しましょう。万が一ポイントを踏まえずにドミナント戦略を実施してしまうと、デメリットばかりの意味のない企業戦略になる可能性があります。
地域の人口調査
専門家
まずは最低限地域の人口調査をします。ドミナント戦略を実施するにあたり、その後人口が大幅に減少する地域に出店を続けてもメリットはありません。
ドミナント戦略で狙うべきなのは、「人口がしばらくは安定している地域、今後増加が見込まれる地域」です。
現在の少子高齢化社会においては人口が増える地域はそう多くはありませんが、ドミナント戦略を実施しても採算が取れる地域を設定することが大切です。
競合調査
競合調査もドミナント戦略には欠かせません。既に他社がドミナント戦略を実施している地域では、参入障壁が高いためドミナント戦略は失敗に終わるリスクがあります。
ランチェスター戦略の法則通り、どれほど違いを際立たせて新分野に参入をしても、シェアが大きな企業にミート戦略をされてしまうと勝てません。
したがって、対象地域にはどれほどの競合がいるのか、その規模とシェアはどの程度なのかを事前に確認しておきましょう。
地域特性の把握
これから出店する予定の地域の特性は、事前に把握しておきましょう。地域特性を把握せずにドミナント戦略を実施すると、思わぬ落とし穴になりかねません。
例えば、その地域の近くには競合が少ないのはそもそも地域柄的に外食が少ない地域なのかもしれません。
また、その地域に人がいるのは、近くに大型のショッピングモールがあり、そのついでに顧客が訪れていただけなのかもしれません。この場合、仮にショッピングモールが店を閉じてしまえば人が集まらなくなります。
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ドミナント戦略は性質上フランチャイズチェーン店が多いように見えますが、必ずしもそうでなければいけない理由はありません。
例えば、コンビニエンスストアの場合は、フランチャイズチェーンを利用したドミナント戦略を実施し、成功しています。
しかし、例えばスターバックスなどは同様にドミナント戦略を実施している企業例として挙げられることはありますが、フランチャイズチェーン店ではなく、あくまでも本部が主体の直営店です。
したがって、ドミナント戦略を実施している企業は必ずしもフランチャイズチェーン店とは限らないので、誤解しないようにしましょう。
ドミナント戦略の実例
ドミナント戦略を実施した企業の成功例を2社取り上げて説明します。
- アパホテル
- 俺の株式会社
アパホテル
アパホテルは需要の良い大都市を中心にドミナント戦略を押し進めた企業です。
アパホテルと聞くと、つい「どこにでもあるホテル」と勘違いしてしまうのですが、実際は最も利益が見込める東京23区のすぐ近くに出店を続けてきました。
したがって、現在もアパホテルが位置するのは地方であっても、相応の人数が確保できる大都市付近です。
アパホテルでは2010年よりドミナント戦略を徹底し続け、今では他社が真似できない価格優位性を獲得しています。
俺の株式会社
俺の株式会社はフレンチレストランやイタリアンを手掛ける企業ですが、普通の飲食店が原価率30%に対し、原価率が60%を超えても利益が生まれるという型破りな価格で商品を提供している企業です。
ここまでの原価率が高いのにもかかわらず、利益が生まれているのにはドミナント戦略を採用していることが要因です。
俺の株式会社は銀座8丁目に集中して店舗を出店しているため、広告宣伝効果が高く、アルバイトなどの人材も効率的に回すことができます。
こうした背景から、俺の株式会社は効率的な経営を実施できるようになりました。
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専門家
このようにメリットがあるドミナント戦略ですが、限界があるのではないかという指摘もあります。それが、以下の2点です。
- 人手不足に苦しむオーナー
- 少子高齢化社会
それぞれわかりやすく解説します。
人手不足に苦しむオーナー
ドミナント戦略の代名詞ともいえるコンビニは、フランチャイズ契約によりオーナーを増やしてきました。ところが、そのフランチャイズ契約には限界が来ています。
- 人手不足によるオーナーの連続勤務
- フランチャイズ契約によるロイヤルティの支払い
- 経営自由度の低い店舗
こうした問題により、フランチャイズ経営の破綻が垣間見えました。
行き過ぎたドミナント戦略により、従業員がより好条件を求めて周辺の同系列のコンビニに鞍替えすることはよくあり、その度に従業員獲得のための時給上げ競争が勃発するのはここ最近の話ではありません。
少子高齢化社会
「いい商品なら売れる」そんな時代は既に終焉を迎えています。
人口増が続いていた30年前であれば、ドミナント戦略は確かに素晴らしい戦略であったかもしれません。
しかし、緻密に計画された出店計画でなければカニバリゼーションが発生してしまうドミナント戦略は、人口減社会においても同様にうまく機能するかといわれたら疑問点が残ります。
少子高齢化社会により、顧客の数は自然と減っていきます。
そのような中、Uber eatsなどの外食産業の配達が流行り始め、「すぐ近くにコンビニがなくても生活できる」環境が既に整っています。
フランチャイズを起点とするドミナント戦略は、転換の時期を迎えているのかもしれません。
まとめ
本記事では、ドミナント戦略の意味と定義、メリットやデメリットなどを紹介しました。
ドミナント戦略は、小が大を倒すために必要な戦略です。
しかし、そのビジネスモデルは社会状況によって柔軟に変えていかないと、カニバリゼーションが発生する危ういものでもあります。
自社にあった戦略を立てることが今後も必要になりそうです。
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