突然ですが、下記のようなことを考えてはいませんか?
- 「三方よしってどんな考え方なの?」
- 「三方よしのもとになった近江商人ってなに?」
- 「三方よしを実践するにはどうすればいいの?」
三方よしとは、買い手と売り手、そして世間の3つに良い影響をもたらす商売が良いとする考え方です。経営の神様と呼ばれるパナソニックの創業者である松下幸之助も、この三方よしを重要視していました。
本記事では、この三方よしについて基本的な知識から、この考え方が生んだ近江商人などを解説していきます。
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三方よしとは?
三方よしの「三方」とは何を指しているのかというと、「売り手」と「買い手」、そして「世間」の3つを指しています。つまり、「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」を表した、良い商売をするための考え方を指しているのが「三方よし」です。
一般的に企業は、「営利企業」と言われるように営利を目的として、利益の追求をするために存在しています。したがって、多くの企業では「売り手よし」を心がけてビジネスをしているのではないでしょうか。
しかし、古くから三方よしという商売の哲学が現代まで受け継がれてきたように、「自分だけ儲かれば良い」という考え方だけでは長期的に存続するような企業にはなれません。また、そのような考え方で利益を求めるほど近視眼的になり、業績も伸び悩んでしまいます。
昔からビジネスの競争に打ち勝ち生き残ってきた老舗はこのことをよく理解して、自社の利益だけを考える経営はしません。つまり、売り手である自社と、買い手となる顧客の利益となるようにWinーWinの関係を目指して経営してきたのです。
そして、そのさらに上をいく考え方が「三方よし」です。これは、自社と顧客だけではなく、社会の利益にもつながる商売をする考え方であり、これを初めに提唱したのは「近江商人」でした。
近江商人は、「取引をしている自分と顧客だけが豊かになれば良い」とは考えずに、社会にも貢献するようなビジネスを目指していたのです。
このように、売り手(自社)と、買い手(顧客)と世間(社会)がより豊かになるための商売をすることが「三方よし」なのです。
とはいえ「三方よしのビジネスができればいいけど、そう都合よくはいかないよ」と感じる経営者の方も少なくありません。しかし実際に近江商人は三方よしでビジネスを展開し、成功していました。さらに、現代の企業でも三方よしを経営理念に掲げている企業があります。
「三方よし」を経営理念に掲げる伊藤忠商事
伊藤忠商事といえば日本を代表する大手総合商社です。その伊藤忠商事は2020年4月1日に「三方よし」という経営理念に変えました。
それまでは、1992年に定めた「豊かさを担う責任」という経営理念を掲げていましたが、およそ30年ぶりに現代に即した経営理念として「三方よし」に改めたのです。さらに、伊藤忠商事の創業者である伊藤忠兵衛は近江商人でもあったため、原点に立ち返るという思いもあるのではないでしょうか。
三方よしは近江商人が生み出してから300年以上経っても、良い商売をするための考え方として現代でも色褪せずに残っており、まさに「今だけ、金だけ、自分だけ」とは正反対の価値観だと言えます。
(参考:企業理念│伊藤忠兵衛)
CSR=三方よし?
近年は企業の社会的責任である「CSR(Corporate Social Responsibility)」が強く求められるようになりましたが、「このCSRが三方よしである」とする意見も少なくありません。しかし、実際には「CSRは正確には三方よしではない」と指摘されています。
CSRとは、企業がビジネスを行う以上、そのビジネスの土台となる社会に対しても何かしらの責任を負い、社会貢献をするべきだという考え方です。確かにこれは間違ってはいませんが、これだけではまだ足りません。
企業は社会に対してだけではなく、企業のステークホルダーに対しても責任を持つべきなのです。したがってCSRは「Corporate Social Responsibility」ではなく、「Corporate Stakeholder Responsibility」というように考えるべきだと指摘する人もいます。
ステークホルダーは企業に関わる利害関係者の全てを指しており、顧客や株主だけではなく社員や地域住民、金融機関、研究機関、官公庁なども含まれています。
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CSRとは?実際の事例やメリット・デメリットを解説三方よしの考え方のもとになった近江商人とは?
三方よしという商売の哲学を提唱したのは、近江商人です。
明治維新が起こる前までは、現在の滋賀県は「近江」という名前であったため、近江を本拠地として近江国内外で活動していた商人たちのことを「近江商人」と呼びます。
ちなみに近江国内だけで商売を展開していた商人は「地商い」とされ、近江商人とは別の呼び名で呼ばれていました。つまり、近江商人は近江に本店を置いていただけで、商売自体は日本各地で行っていたのです。
また、近江商人はエリアによって活躍した時期や商品など特質が違うので、出身地で下記の4つの商人に大別されています。
- 高島商人
- 八幡商人
- 日野商人
- 湖東商人
それぞれ、江戸時代の初期に活躍していたり、江戸後期から明治にかけて活躍した商人など、さまざまな商人がいました。
近江商人が商売で活躍できた理由
では、なぜ近江商人は「三方よし」となる考え方に行き着いたのでしょうか?
それは、当時の社会情勢に理由がありました。当時は、自分の発祥の地ではない他国でビジネスを展開するには、自分の利益よりもビジネスの土台となるその土地や社会を優先しなければ、商売になりませんでした。
ただ、商売のためだけにその地域や社会に貢献していたわけではなく、古くから育まれてきた近江ならではの生活規範に則った理念でもあったのです。
また、近江(滋賀県)は琵琶湖を有する土地でもあったため、その特殊な地理的条件や歴史的に重要な意義を持つエリアでもあったため、独特な風習や習慣をもつ近江商人が輩出されていきました。
近江商人にルーツがある現代の有名企業
ちなみに、近江商品にルーツがある現代の有名企業には下記のような企業があります。
- ヤンマー(伊香郡出身の山岡孫吉が創業)
- ワコール(仙台出身神崎郡育ちの塚本幸一が創業。社名は「江州に和す」に由来)
- 武田薬品工業(日野発祥の薬種仲買商である近江屋喜助からののれん分け)
- 住友財閥(初代総理事広瀬宰平は野洲郡出身、2代目伊庭貞剛は蒲生郡出身)
- トヨタ自動車(彦根出身の豊田利三郎が初代社長)
(引用:近江商人│Wikipedia)
今では誰しもが知っている大企業のルーツには、近江商人の存在があるのです。このような実績を目の前にすると、「三方よし」が商売にとってどれだけ重要なのかを実感できるのではないでしょうか?
三方よしに込められたそれぞれの意味
三方よしは下記の3つの「よし」を必要とする考え方ですが、それぞれにはどのような意味があるのでしょうか?
- 売り手よし
- 買い手よし
- 世間よし
それでは1つずつ解説していきます。
売り手よし
まず「売り手よし」ですが、商売をする商人や企業が利益を出せることを指しています。
具体的に言うなら「自社が行う事業で提供する価値に、釣り合う利益をあげられていること」という意味です。したがって、事業を継続できないほどの利益しかあげられていないなら、売り手よしとはなりません。
利益が思ったようにあげられない企業がよく陥りがちなことは下記のような状態です。
- 直接利益につながらない作業にリソースを割きすぎている
- サービスや商品の価格が安すぎる
例えば、直接利益につながらない作業は「不当なクレームに対応しすぎること」があげられます。「お客様は神様です」というような文言を真に受けている消費者が、モンスタークレーマーとして企業にイチャモンをつけることはよくありますが、企業はその全てに丁寧に対応していてはリソースがいくらあっても足りません。
さらに、そのような対応を続けていては、対応する従業員の精神的にも悪い影響を与え、メンタルが悪化してしまいます。売り手が消耗してしまうようなビジネスをすることも「売り手よし」ではないでしょう。
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「買い手よし」は、自社のサービスや商品の消費者やユーザーにとっての利益につながることを指しています。簡単に言えば、顧客の満足度をどれだけ高められるか、ということです。
しかし、近年はモンスタークレーマーも増えているため、どのような消費者に対しても一律の価値を提供する必要はありません。人によって価値観は異なり、どんどん多様化しているため、売り手が価値を感じてもらいたい人にだけ価値を提供しましょう。
消費者は「高い品質に満足する消費者」と「値段が安いことに満足する消費者」という2つに分類することができます。この両者に対して同じ価値を提供することは困難です。
例えば、高級リゾートホテルに「値段の安さに満足する人」が泊まると、「泊まるだけなのに高すぎる!」と不満を感じるでしょう。一方で、「高い品質に満足する人」が低価格帯のホテルに泊まれば「狭いし汚いし楽しくない!」と不満を抱くでしょう。
このように、同じホテルと言えど消費者が求める価値に応じて提供する品質やグレードを変えて、ターゲットとしない消費者には来てもらわないようにしているのです。その結果、自社が提供するものと消費者が求めるものが一致するため、満足度の向上につながります。
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そして最後の「世間よし」とは、自社と顧客ではない他者や社会にも貢献することを意味しています。
例えば、汚染物質を川や海に垂れ流し続けている企業は、いくら便利な商品やサービスを提供していても、その会社にはお金は払いたくありませんよね。つまり、世間よしを達成できていない企業は短期的には大きな利益を得られるかもしれませんが、長期的には社会や周辺地域からの反対の動きが起こるため存続できなくなります。
また、現代は環境への配慮が強く求められるようになったため、そのような企業は減りましたが、自社で働いてくれる従業員に対して酷い扱いをしている企業はまだまだ少なくありません。
つまり、俗に言う「ブラック企業」もまた、人権の観点からも世間よしとは言えないのです。したがって、売り手と買い手、そして世間にとっても「よし」と言えるようなビジネスでなければ、業績を伸ばすことはできませんし、長期的に存続する企業にはなれません。
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それでは、現代で三方よしのビジネスをするにはどうすればよいのでしょうか?
近江商人というと「商売は牛のよだれ」という言葉が有名ですが、どのような意味かご存知でしょうか? この言葉は「商売で儲けたいなら一気に稼ごうとしても失敗するため、切れ目がなく長く垂れる牛のよだれのように、商売も気長に続けていかなければならない」という意味です。
つまり、商売は高い利益をとるよりも、広く少ない利益をとったほうが長期的にみて良いということでもあります。
実際、近江商人の家には「薄利の商いをすること」という旨の家訓が数多くあります。しかし、これは「安売りをしろ」と言っているわけではありません。安売りをせず薄利の商売をすることが重要なのです。
安売りをせずに薄利を得続けるビジネスは困難であるので、これを実現するためには工夫が必要になります。工夫して利益がでるビジネスを考え、そのうえで利益を取りすぎずに展開していくのです。これを実現し続けたからこそ多くの近江商人は成功し、現代まで続く企業を残しています。
商売の工夫とは、現代風に言い換えると「イノベーション」です。イノベーションはどのような業種にも必要で、日夜どのように工夫をするべきかを考えてきたからこそ、「近江商人」の名が歴史に残っているといえます。
まとめ
ここまで、三方よしの基本的な知識や、近江商人の歴史について簡単に解説してきました。
古くから商売において重要なこととして「三方よし」が実践されてきましたが、現代においてもその有用性が認められつつあります。SDGsへの取り組みがあらゆる企業に求められていますが、まさに三方よしは日本で古くから行われてきたSDGsと言えるでしょう。したがって、今からでも三方よしを取り入れた経営やビジネスを進めていくことは非常に重要です。
中小企業や創業して間もない企業であれば、三方よしのうち2つか1つしか達成できていない企業も少なくありません。しかし、顧客や自社、社会をないがしろにしたビジネスは長続きしないため、少しずつでも三方よしの考え方を導入してみてはいかがでしょうか。