変化の激しい現代社会では、従業員一人一人が主体的に行動できるようになることが求められます。
そこで注目されているのがコーチングです。
コーチングを通じて従業員の考えや能力を引き出すことで、結果として企業の業績も向上すると考えられます。
そこで本記事では、経営者やマネージャー向けにコーチングについて解説していきます。ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
コーチングとは?
コーチングとは、簡単にいうと目標を達成するためのツールであり、コミュニケーション方法のひとつです。
相手との対話や質問などのコミュニケーションを通してモチベーションを上げたり、相手の実力を最大限に引き出したりして、目標達成に導くことを指します。
「コーチ」という言葉は、もともと「馬車」という意味をもっており「人が望む地点まで送り届ける」という文脈で用いられていました。
それが現在では意味が転じて、人が目標を達成するまで支援して導く行為を「コーチング」というようになったのです。
コーチングの効果とポイント
コーチングを受ける人(クライアント)は、下記のような効果を得られます。
- 新たな発見や気づきを得られる
- 物事を多面的に見られるようになる
- 凝り固まった固定観念や思い込みをなくすことができる
- 目標達成に対するモチベーションが高まる
コーチングにおいて重要なのは「本人の自主性を重んじること」です。
コーチをする者が対象者に無理やり行動を起こさせるのではなく、あくまで本人が積極的に行動するように促します。
その際、コーチは対話や傾聴することを通して、本人が成長するように導くのです。
したがって、立場的にはコーチ(コーチングをする人)が、クライアントより上になって教えるのではありません。
コーチは質問をして傾聴する受け身のコミュニケーションを通して、相手自身から新たな行動や考えを引き出します。
その結果として、さまざまな効果を得られるのです。
仕事で用いられるコーチングの価値
近年ではビジネスの世界でもコーチングが用いられるようになっています。
組織の研修や人材育成にも「コーチング型マネジメント」として活用することで、対象者のモチベーションを引き上げ、能力を最大限まで高めることが目的です。
コーチングでは、下記の3つの考えがもとになっています。
- 人間の可能性には限りがないこと
- 問題への答えはクライアント(対象者)のなかにあること
- コーチはクライアントが自分で答えにたどり着くためのパートナーに徹すること
この3つの考えに基づき、コーチングを通して対象者に下記の3つの能力やスタンスを、身につけてもらうことを目的としています。
- 自分で答えにたどり着く能力
- 自発的・積極的に課題に取り組み、考える姿勢
- 今までにしてこなかった考え方や価値観を受け入れる姿勢
しかし、コーチングはすぐに結果が出るものではありません。
また、対象者にその気持ちや能力がない場合は、いくらコーチングをしても結果が出ないこともあります。
したがって、コーチングをする際は、結果が出るまで長い時間がかかることを想定して取り組むことを心がけましょう。
また、ビジネスにおけるコーチングの主な効果は、下記のものがあります。
- 手取り足取り教えなくても、新人社員が自分で答えを導き出せるようになる
- 新人社員が仕事に対して積極的になる
- 上司と部下とのコミュニケーションが円滑になる
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コーチングと混同されがちな言葉に「ティーチング」と「カウンセリング」があります。
これらの言葉の違いについて、解説していきます。
ティーチングとコーチングの違いとは
ティーチングとは、知識やノウハウ、技術・技能といったスキルを、相手に直接的に指導して「教える」ことです。
課題や問題に対する答えを、直接教える教師と生徒のような立ち位置になり、一方的な関係といえます。
一方、コーチングは「教える」ということはしません。
問いかけや傾聴を通して、自分で答えを探させるというアプローチを取るのがコーチングであり、クライアント自身がもっている資質や素養を引き出して目標達成に導くのです。
ティーチングのメリットは、教える側が1人しかいなくても、一度に複数人に教えられることです。
また、答えそのものを伝えて教育するので、成長が早く効率的という点もメリットといえます。
しかし、ティーチングに依存してしまうと、対象者が教える側の言うことを聞くだけになり、自分で考えて動くという能力が育たないというデメリットもあります。
ティーチングは特定の業務手順や業界知識、PCスキルといった分野では効果を発揮するので、使用用途を考えて活用しましょう。
カウンセリングとコーチングとの違いとは
カウンセリングも混同されがちですが、コーチングとの違いは目的や対象者、アプローチの方法にあります。
カウンセリングは、悩みや不安を抱えている人や相談相手が必要な人を対象に、その人が抱えている問題や課題の解決・解消を目的とします。
また、アプローチの方法は一方的に教えるわけでも、質問をするだけでもありません。
対象者とカウンセラーの双方向のコミュニケーションをもって、より望ましい解決策を模索していきます。
一方、コーチングは目標達成に向けて、クライアントを理想の状態に導くことが目的となり、アプローチの仕方が未来志向となっています。
コーチングを行うメリット
コーチングを行うメリットは、下記の4つです。
- 行動を変えることができる
- 新人と信頼関係をつくれる
- 内省する機会
- セルフコーチングの実現
ひとつずつ解説していきます。
行動を変えることができる
コーチングを行うと、クライアントの行動が変わります。
コーチングでは目標達成に向けて成長を促しますが、コーチングを受ける前と比べて行動が変わらなければ、成長はありません。
しかし、人は簡単には変われないからこそ、コーチングが必要なのです。
例えば、目標達成のためのチャレンジが失敗した際に、そのまま落ち込んでいては成長につながりません。
しかし、ここで失敗の原因を探ったり、もう一度トライしたりするような行動変容を起こせば、目標達成の確率は飛躍的に向上します。
さらに、そこから自信や自発的な行動も生まれて、さらなる成長が見込めます。
新人と信頼関係をつくれる
会社に入ってくる新人と信頼関係をつくることは、仕事を円滑に進めるうえで必要不可欠です。
コーチングは新人と上司のような立場が違う人同士の関係を、良好にするメリットがあります。
コーチングでは立場の上下をなくして対等に接するため「上司と部下」という固まった関係からでは見えない、部下の成長を発見できます。
その点を褒めたり、言葉に出して承認することで、部下は自分のことを見てくれていると感じ、上司への信用につながるのです。
その結果、部下は思っていることや、仕事の相談などを気軽に話してくれるようになり、信頼関係がより深まり、仕事が円滑に進むようになります。
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内省する機会
コーチングを実施することで、メンバーに内省する機会を提供できるメリットがあります。
現代社会はとにかく刺激的で、かつとても忙しいため、自分と向き合う時間を確保するのがとても難しいです。
そこでコーチングを実施して、メンバーが内省を実施するようになれば、社会の変化に惑わされることなく、自己理解を進めることができます。
自分の強みと弱み、そして価値観を理解できるかどうかは、今後のキャリアにおいて非常に重要です。
セルフコーチングの実現
コーチングのメリットとして、セルフコーチングの実現が挙げられます。
コーチングの最終目標は、コーチングが必要ない状態に持っていくことです。
自分自身でコーチングができるようになれば、あらゆる意思決定において、客観的な目線を保つことができます。
客観的な目線は、ビジネスにおいて非常に重要です。
ビジネスは、あらゆる事柄が数字で動くので、感情に惑わされないようにすることが求められます。
コーチングを行うデメリット
さまざまなメリットのあるコーチングですが、デメリットも存在します。
主なデメリットは下記の3つです。
- 成否がコーチ次第
- 効率が悪い
- コーチを担うマネージャーの負担が大きい
ひとつずつ解説します。
成否がコーチ次第
まず1つ目のデメリットは、コーチングが良い結果で終わるかどうかは、コーチの腕次第ということです。
コーチングはコーチ個人の能力に依存するため、コーチの腕が悪ければ、結果も悪くなってしまいます。
例えば、クライアントの話を傾聴していたとしても、コーチがなんのリアクションも示さなければ、クライアントは不信感を抱いてしまいます。
そのため信頼関係が作れず、うまくコーチングできなくなるのです。
また、コーチの腕が良かったとしても、コーチとクライアントの相性が悪い場合などは、十分な結果を得られないこともあるため注意しましょう。
効率が悪い
コーチングはクライアントと1対1でのコミュニケーションを通して行うため、一度に多人数を相手にできません。
また、結果が得られるまでに長期間を要します。
このことから、コーチングは効率が悪いというデメリットが挙げられます。
一度に多人数を相手に、かつ短期間で何かを教えたい場合はティーチングの活用を検討しましょう。
コーチを担うマネージャーの負担が大きい
コーチングのデメリットとして、コーチを担うマネージャーの負担が大きいことが挙げられます。
組織内でコーチングを行う際、マネージャーがコーチとなるのが基本であり、コーチングは1on1で実施されます。
メンバーの内面を引き出すために、1人あたりでそれなりの時間を要するので、部下の人数が多すぎると、マネージャーの負担が大きくなってしまうのです。
一般的に1人の上司が抱えられる部下は7人までと考えられており、これを超えるとキャパオーバーになってしまいます。
コーチングを導入する際は、チームの規模や構成がどのようになっているのかを確かめて、マネージャーの負担が大きくならないようにしましょう。
コーチングの進め方
コーチングの進め方は以下の通りです。
- アイスブレイク
- 目標をヒアリングする
- 自己評価をヒアリングする
- 内省を促す
- 重要なポイントをフィードバックする
- アクションプランを考えさせる
それぞれ詳しく解説していきます。
手順①:アイスブレイク
まずはアイスブレイクを実施しましょう。
上司と部下が1on1で真正面になって話すのは、普段とは異なるシチュエーションのため、緊張してしまう可能性があります。
部下が上司に対して萎縮してしまう可能性もあるでしょう。
そこでまずは、上司の方から雑談を振り、緊張感を解くようにします。
敵意がないことを示し、あくまでもコーチングが目的であることを部下に伝えるようにしましょう。
手順②:目標をヒアリングする
次に、目標をヒアリングしていきます。
現在、メンバーが設定している目標をヒアリングして、どのように目標を達成しようとしているのかを聞いていきましょう。
その際は、組織目標だけでなく個人目標もヒアリングします。
コーチングの目的は、あくまでも「メンバーの能力を引き出すこと」です。
そのためには、メンバーが考えていることを引き出して、仕事に生かせるようにアシストする必要があります。
手順③:自己評価をヒアリングする
目標の次は、自己評価をヒアリングしていきます。
メンバーが自分の仕事ぶりをどのように評価しているのかをヒアリングする中で、メンバーがどれほど自分の仕事を客観視できているのかも見ていきます。
さらにその過程で、普段からどのように仕事しているのかを質問していきましょう。
その際は、必ず「否定」の言葉は用いないことが大切です。
あくまでもヒアリングに徹して、メンバーの考えを引き出していきます。
手順④:内省を促す
自己評価を促したあとは、内省を促していきます。
内省とはつまるところ、自分自身の立ち振る舞いを見つめ直すことです。
これまで取り組んできたことを内省させて、それに対する改善策もメンバーに考えさせるようにします。
マネージャーは、メンバーの行動パターンや改善策に対して気づいたことを、そのまま口にするのではなく、質問形式でアドバイスするようにしましょう。
そうすることで、メンバー自身が考える力が身につきます。
手順⑤:重要なポイントをフィードバックする
メンバーの内省が終わったあとは、重要なポイントを客観的な目線で要約して、それに対してフィードバックします。
これまでヒアリングした内容を要約することは、メンバーが客観的に自分を見つめ直す機会を与えることになるでしょう。
自分のことというのは、どうしても客観視しづらいものです。
自身で言語化したものをさらに上司が要約することで、あらためて自分が考えていたことを客観的に見られるようになります。
また、フィードバックの際は否定的な言葉を用いずに、あくまでも「支援」を意識します。安心感を与えて、メンバーの考えを引き出していきましょう。
手順⑥:アクションプランを考えさせる
最後に、アクションプランを考えさせてみます。
自分が考えていることを引き出せたとしても、それを自分の仕事に落とし込まなければ、コーチングの意味がありません。
部下と上司でいい関係になれていれば、より具体的なアクションプランを策定することができるでしょう。
この際、もし部下が途中で挫けそうになったら、マネージャーが「いつでも支援する」という意思を込めることも大切です。
コーチングを成功に導くための重要なポイント
コーチングを成功に導くためのポイントとして、さまざまな方法論がネットで公開されています。
しかしコーチングの本質は、部下の能力を引き出すことにあるはずです。具体的に言えば、心理的安全性を確保することが求められます。
そのためには、方法論やテクニックではなく、部下と上司の信頼関係が何よりも大切です。
コーチングを成功させたいのであれば、一度きりの1on1ミーティングだけではなく、日頃からコミュニケーションを重ねて、信頼関係を構築する必要があります。
具体的には、会議後に上司の方から声をかけたり、カフェに誘ったりすることで、コミュニケーションを促進していきます。
また、企業の中で働いている以上、一定の成果は求められます。そしてコーチングの目的は、メンバーの能力を引き出すことにあるはずです。
つまり、コーチングはあくまでもビジネス目標達成のための手段に過ぎません。目的と手段を間違えないようにして、コーチングを進めていくのがポイントです。
コーチングに求められるスキルやその学び方
コーチに求められる基本的なスキルは、下記の3つです。
- 傾聴
- 質問
- 承認
ひとつずつ解説していきます。
傾聴
傾聴とは、相手と信頼関係を構築するために耳や目、心を使って、相手の話を親身になって聴くコミュニケーション法のことです。
話している内容だけでなく、相手の姿勢や表情などからも何を考えているのか、感じているのかを読み取ることが重要です。
傾聴をする際は、相手を否定せずにまずは受け止める「受容」と、相手の考えに対して同じように感じる「共感」をします。
その結果、相手は自分の思考が整理され、自分自身をより理解できるようになるのです。
コーチングにおける傾聴では、下記の3つがポイントになります。
- 相手の話をよく聴く
- 相手の姿勢やしぐさから思考や感情を読み取る
- 相手の思考や感情に共感する
こうすることで、クライアントはコーチに対して心を開き、強い信頼関係を築けます。
質問
傾聴をしたあとは適切な質問をします。
質問の目的は、傾聴でわかったクライアント自身の問題や課題に、自分自身で新しい気づきを得てもらうことです。
傾聴でわかった問題を、そのままクライアントに伝える方が早いと感じるかもしれませんが、一般的に人は他人に自分の問題を指摘されても、素直に聞き入れるのは難しいでしょう。
だからこそ、自分で気づかせることで、素直にその問題の克服に動きやすくなるのです。
質問のポイントは「オープン・クエスチョン」を用いた形で質問することにあります。
オープン・クエスチョンとは、相手が自由に答えられる質問のことで、反対に「はい・いいえ」でしか答えられない質問は「クローズド・クエスチョン」といいます。
例えば「あの仕事はもう終わりましたか?」という質問はクローズド・クエスチョンであり、相手は「はい・いいえ」でしか答えられず、そこで対話が終わってしまいます。
この場合は「あの仕事の調子はどうですか?」と質問することで、相手は自由に答えられるため、気づきを得られるチャンスが増えるのです。
承認
そして最後のスキルが「承認」です。
承認では、クライアントの良い点やうまくいったことを見つけて、それを相手にわかるように伝えたり褒めたりすることが重要になります。
簡単にいうと、長所を見つけて褒めて、モチベーションを上げるスキルです。
人は意外と自分の良い点や、うまくできたことについては鈍感なところがあり「できて当然」「これは当たり前」と思ってしまうもの。
そこで、それは「当たり前ではなく、あなたの能力ですよ」と伝えることで、クライアントは自分の能力に気づけるのです。
また、承認をする際は下記の3つがポイントです。
- 気づいたらすぐに行う(印象に残るため)
- 具体的に伝える(曖昧だと伝わらないため)
- ブレずに伝え続ける(一貫性がないと何が良いのかわからなくなるため)
このように褒めていくことで、クライアントは望ましい行動を繰り返すようになります。同時に望ましくない行動が減り、目標達成が近づきます。
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1on1ミーティングのポイントとは?意味ある1on1にするために大切なことコーチングを実施する際の覚えておくべき3つの原則
コーチングを実施する際に覚えておくべき原則として、以下の3つが挙げられます。
- インタラクティブ
- テーラーメイド
- オンゴーイング
それぞれ詳しく解説していきます。
原則①:インタラクティブ
コーチングの原則の1つめは「インタラクティブ」です。
インタラクティブは「双方向性」という意味で、お互いに考えを述べることで、インタラクティブなコミュニケーションが可能になります。
コーチングでは、部下が上司に萎縮している場合、部下の考えを引き出せないことがあるため、上司がヒアリングの姿勢を作っておくことが大切です。
フィードバックも丁寧に実施することで、メンバーは自分の意見に自信を持ち、どんどん考えを述べるようになっていきます。
原則②:テーラーメイド
コーチングの原則の2つめは「テーラーメイド」で、個別対応という意味があります。
コーチングは人によってやり方やヒアリングの仕方が大きく異なります。
マネージャーは、複数の部下に対してコーチングを実施する必要があるため、それぞれの部下に対して適切なコーチング方法を見つけ出すことが大切です。
また、メンバーによって課題や業務の深刻度が異なるため、コーチングの頻度もテーラーメイドで対応する必要があります。
原則③:オンゴーイング
コーチングの原則の3つめは「オンゴーイング」です。
オンゴーイングは「継続」という意味で、コーチングでは1on1を一度行うだけでなく、継続的にコミュニケーションを取ることが求められます。
コーチングの成果がすぐに出る人もいれば、数年かけてようやく自分を客観的に見られるようになっていく人もいます。
そのため、長い時間をかけて継続的にコミュニケーションを取ることがコーチングでは求められるのです。
コーチングにおけるよくある失敗例3選
コーチングにおけるよくある失敗例は以下の3つです。
- 誘導尋問のようになる
- テクニックを重視してしまう
- 上司のスキル不足
それぞれ詳しく解説していきます。
失敗例①:誘導尋問のようになる
コーチングの失敗例として、まず挙げられるのが、誘導尋問のようになってしまうことです。
もちろん、上司が誘導尋問を仕掛けるのはNGです。
一方で、上司が意図していないにもかかわらず、誘導尋問になってしまうケースがあります。
それは、部下が上司に萎縮している場合です。
部下が上司の様子を見て「この回答だったら模範解答だろう」という風に帳尻を合わせてしまう場合があります。
コーチングを始める前にアイスブレイクなどを実施して、部下の心を開くようにしましょう。
失敗例②:テクニックを重視してしまう
コーチングの失敗例として、テクニックを重視してしまうことが挙げられます。
コーチングの基本は、雰囲気作りと徹底したヒアリングの姿勢です。
部下の心理的安全性を確保し、上司がヒアリングの姿勢を作ることさえできれば、コーチングは一定の効果が見込めます。
一方で、小手先のテクニックを重視してしまうと、もっとも重要な要素である「雰囲気」と「ヒアリングの姿勢」が失われ、部下の心が閉ざされてしまいます。
テクニックではなく、目の前にいるメンバーのことを考えましょう。
失敗例③:上司のスキル不足
コーチングの失敗例として、上司のスキル不足が挙げられます。
コーチングでは、メンバーが客観的に自分を見つめ直せるように、さまざまな角度で質問をする必要があります。
また、メンバーの自発的な行動を引き出すことも求められます。ただ何でも質問するだけでは、メンバーは自分の内面にある気づきを得ることができません。
コーチングを導入する際は、数日間の「コーチング研修」をマネージャーに受講させて、最低限のスキルを身につけてもらうのがいいかもしれません。
コーチングを学ぶ・身につける方法
コーチングを学んだり身につける方法としては、以下の4つが挙げられます。
- 実際にコーチングを受けてみる
- 書籍や動画で独学する
- eラーニングで学ぶ
- コーチング研修に参加する
それぞれ詳しく解説していきます。
方法①:実際にコーチングを受けてみる
まずは実際にコーチングを受けてみましょう。
コーチングのプロがどのように質問するのかを目の当たりにすれば、具体的なイメージが掴めるはずです。
また、参加者としてコーチングを受けてみることで、気持ちがどのように変化するかも体験できます。
その経験は、自らがコーチの立場になったときに、必ず活きてくるでしょう。
コーチングを身につけたいのであれば、まずは実際にコーチングを受けてみてはいかがでしょうか。
方法②:書籍や動画で独学する
書籍や動画で独学するのも、コーチングを学ぶ上で有効です。
現在コーチングは世界的に注目されるようになっているため、関連書籍や動画が増えてきています。
まずは関連書籍を1冊読んでみて、イメージしづらい部分はYouTubeを活用してみるのがいいかもしれません。
書籍や動画を用いた独学であれば、比較的安価に、かつ自分のペースで進められるのもメリットです。
方法③:eラーニングで学ぶ
コーチングをeラーニングで学んでみるのもいいでしょう。
既にいくつかの企業で、コーチングをテーマにしたeラーニング教材が販売されています。
eラーニングであれば、コーチングを自社に導入する際に、一斉に学習を開始させることが可能です。
ただし実践的な内容を得られない可能性がある点には注意が必要です。
まず始めにeラーニングを実施して、そのあとに実践的な研修を受けるのがいいでしょう。
方法④:コーチング研修に参加する
コーチングを学ぶ方法として、やはり定番なのがコーチング研修に参加することです。
eラーニングや書籍を通じた学習とは異なり、コーチング研修であれば実践的なスキルを身につけることが可能です。
対面で実施するため、コストが発生しますが、高い効果が見込めます。
コーチングを自社に導入する場合は予算を多めに確保して、コーチング研修を導入するのがいいかもしれません。
コーチングに役立つ資格
マネージャーや社内コーチをめざす場合、コーチング関連資格の取得が有効です。
本項では、以下の代表的な3つの資格を紹介します。
- 一般財団法人障害学習開発財団認定コーチ資格
- 日本コーチ連盟のコーチング資格
- 国際コーチング連盟(ICF)認定コーチ資格
一般財団法人生涯学習開発財団認定コーチ資格
(一財)生涯学習開発財団認定コーチ資格は、1998年に始まった日本で最初のコーチ認定制度です。
8,200人以上が取得しており、組織のマネジメントや社内コーチとしての能力を証明する代表的なコーチング資格です。
この認定コーチ資格を取得することで、コーチングにより部下の主体性を引き出し、目標達成や成長を促すコーチングマネージャーとして活躍できます。
コーチングプログラムにより理論やスキルを学びながらコーチングを受け、職場で実践に活かすことで、半年から1年ほどで資格試験を受けられます。
(参照:コーチ・エィ アカデミア『(一財)生涯学習開発団体認定コーチ資格』)
日本コーチ連盟のコーチング資格
コーチングの普及・発展をめざす日本コーチ連盟による、コーチング資格です。
日本コーチ連盟は資格の発行をはじめ、コーチング技能養成校「コーチアカデミー」の運営、法人向けのコーチング研修などを行なっています。
資格は大きく2種類に分けられ、コーチングの技能を証明するためのコーチ資格と、コーチングを教える能力を証明するインストラクター資格があります。
それぞれレベルに応じてコースが分かれており、徐々にステップアップをめざせるのも特徴です。
(参照:日本コーチ連盟『コーチング資格の詳細』)
国際コーチング連盟(ICF)認定コーチ資格
世界最大規模のプロコーチ支援団体である、国際コーチング連盟(ICF)が認定するコーチング資格です。
コーチとしてグローバルな活躍をめざすなら、必須の資格といえます。
国際コーチング連盟の定めるコーチングプログラムを修了し、100時間以上のコーチング実績を積むことで受験できます。
(参照:コーチ・エィ アカデミア『国際コーチング連盟(ICF) 認定コーチ資格』)
コーチングが機能しない場合と対策
コーチングを受けても、以下のような場合は効果を得られない可能性が高いでしょう。
- コーチの力不足・相性の不一致
- コーチングに適さない領域だった
- 受け手側の取り組み不足
本項ではコーチングが機能しない場合と、その対策を解説します。順番に見ていきましょう。
コーチの力不足・相性の不一致
コーチングが機能しない場合、コーチに問題があるケースが考えられます。
コーチには質問によって相手の思考を整理して、気づきを促し、相手のなかにある答えを引き出すことが求められます。
そういった質問には高度な技術や経験が必要であり、コーチのスキルが不十分な場合、思うような効果は見込めません。
また、スキルが十分にあっても、コーチとの相性が悪ければコーチングが機能しないこともあります。
コーチングには、対象者が「この人になら心を許して話せそう」と思えることが肝心です。
コーチとの対話に違和感を感じる場合は、信頼関係を築けず、無意味になってしまうこともあるでしょう。
それぞれ対策としては、コーチを十分に選び、お互いの合意のうえでコーチングに取り組むことが重要です。
コーチングに適さない領域だった
内容によっては、コーチングの効果が十分に見込めないケースがあります。
コーチングは、相手に目標達成のための行動を促すことが目的です。
よって、以下の場合はコーチングすべき内容が、そもそも欠如している状態といえます。
- 目標が定まっていない
- 目標達成に対する意欲がない
- 目標を達成するための能力がない
また、コーチングでの解決を見込むにはある程度の時間を要するので、緊急性の高い課題や仕事にも向きません。
以上のような内容に対しては、ティーチングをはじめとする、他のアプローチを選ぶ方が効率的です。
受け手側の取り組み不足
コーチングを受ける場合は、コーチングを理解し、コーチングによる自身の成長や目的達成・課題解決をめざす姿勢が必要です。
「コーチングを受ければうまくいく」「コーチになんとかしてもらおう」といった受け身の姿勢では、改善は見込めません。
コーチの協力を得ながら、自分で考え行動に移す、というスタンスを意識しましょう。
まとめ コーチングについて
本記事ではコーチングについて解説してきました。
コーチングはコミュニケーションを通じて相手の能力を引き出す取り組みで、コーチには一定のスキルが求められます。
もし、マネージャーが部下に対してコーチングを実施する際は、あらかじめコーチング研修を受けておくのがいいかもしれません。
また、コーチングは「手段」に過ぎないことを忘れないようにしましょう。
マネージャーの目標はあくまでも「チームの能力の最大化」です。コーチングが必要ない状態が、理想的なチームだと言えます。