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「事業承継を考えているが、引き継げる後任者が見つからない。とはいえ、会社を畳むと従業員にも迷惑がかかってしまう。」
こうしたお悩みを持たれている経営者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、株式譲渡というM&A手法についてわかりやすく解説します。
株式譲渡にかかる税金から手続きまでを徹底的に解説しますので、参考にしてみてください。
- 株式譲渡のメリットは、後継者問題を解決できること
- 株式譲渡でも税金は発生するので注意
- 実際の手続きの流れがわかる!
目次
株式譲渡って何?
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株式譲渡とは、会社の株式を売却する手法のことです。
会社の株式を売却するので、株式譲渡は経営権の譲渡を意味します。このため、株式譲渡はオーナー社長が会社を引退する際のエグジットとして利用されることも少なくありません。
少子高齢化が進む中で、事業承継ができる子供や従業員がいない際には、従業員の雇用を守るために株式譲渡が利用されるケースが増えています。
一般的にM&Aというと、株式譲渡によるM&Aを指すことが多く、数あるM&Aの手法の中で最も一般的な手法です。
買い手にとっては経営権を取得できるため、メリットが多い一方で、偶発債務が発生するリスクのあるM&Aでもあります。
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株式譲渡と事業譲渡の最も大きな違いは、何を譲渡するかです。
株式譲渡が株式を譲渡するのに対して、事業譲渡で譲渡するのは事業になります。事業とは、事業そのものや会社の取引先、従業員など様々ですが、事業譲渡では細かく何を譲るのかを明確にします。
したがって、株式譲渡といえば「包括的な会社全体の引き渡し」となり、事業譲渡といえば「細かく何を譲るかを設定した上での引き渡し」ということになります。
このため、株式売却の目的は経営権の譲渡、事業売却の目的は不採算事業などの売却のために利用される、と理解しておくとよいでしょう。
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株式譲渡のメリットとは?株式譲渡にかかる税金から手続きまでをわかりやすく解説株式譲渡のメリット
株式譲渡のメリットは以下5点です。
- 従業員の雇用を守れる
- 比較的迅速に早く売却できる
- オーナーの税負担が小さい
- 負債を全て解消できる
- 後継者問題を解決できる
それでは1つずつ解説していきます。
①従業員の雇用を守れる
株式譲渡を選択することで、従業員の雇用を守れます。
オーナー社長が最も気にしているのは、今まで一緒に苦楽を乗り越えてきた従業員のその後ではないでしょうか。
株式譲渡を選択することで、経営権は全て買い手側に移転してしまいますが、従業員は今までの環境下で働き続けることが可能です。従業員からすると、社長が変わるくらいの認識なので、会社がなくなってしまうよりも遥かに大きなメリットを株式譲渡から受けることができます。
特に、買収先が資本を潤沢に持っている会社であれば、従業員の給与が上がる可能性もあるのは大きなメリットです。
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②比較的迅速に売却できる
2つ目のメリットは、事業譲渡などと比較すると、手続きがシンプルな点です。
株式譲渡は、株式を他社へ売却をするだけなので、取引先や従業員から個別で同意を取得する必要はありません。その他にも、会社が所有する資産、許認可などもそのまま引き継げます。
買い手からすると、後述するデューデリジェンスなどの必要があるため負担はありますが、完全に経営権を取得できる株式譲渡はメリットが大きいです。
売り手の負担が大きくかかる事業譲渡に対し、株式譲渡では売り手側の負担は軽減されているため、早ければ1ヶ月ほどで事業譲渡が済んでしまうパターンもあります。
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③オーナーの税負担が小さい
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オーナーの税負担が小さいこともメリットです。
事業売却などのスキームを利用した場合、一度会社に売却代金が入った後に、社長への役員報酬として事業売却代金を徴収することになります。
このため、約30%の法人税がかかってしまった後で、さらに受け取った報酬に対して最大で55%の累進課税がかかってしまう可能性があります。すると、せっかく売却しても税金のキャッシュアウトが大きく、手元にほとんどお金が残りません。
一方で、株式譲渡を利用し、オーナーが相手先に株式を売却すれば、この所得は譲渡所得となるため、税率は20%と小さくなります。
④負債を全て解消できる
株式譲渡の場合は、資産と負債を全て譲渡できるので、負債を全て解消できることが多いです。負債の移転は、全てを個別で決めていく事業譲渡ではハードルが高くなってしまうため、株式譲渡ならではのメリットといえます。
なお、株式譲渡では、簿外債務も全て買い手に引き渡すこととなります。したがって、簿外債務がある場合には、後述する買い手のデューデリジェンスの際に必ず正直に伝えるようにしましょう。
正直に申告しておかないと、株式譲渡をして第二の人生を歩もうとした際に、買い手からのクレームが入ってしまう危険性もあるからです。
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⑤後継者問題を解決できる
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後継者問題を解決できるのもメリットです。
少子高齢化が進む中で、ご子息がいないという悩みや、ご子息が事業を引き継がないパターンが増えています。さらに、従業員の中でも、経営者人材になれる適切人材がいないため、経営を引き継げる方がいない問題もあります。
こうした際に、経営権を第三者に譲渡することで会社に新しい経営者を呼び込むことが可能です。
特に会社に思い入れがある社長からしてみても、会社を廃業にしてしまうよりかは、誰か他の人材に経営を引き継がせて、会社を存続させた方がよいと考えるケースが多くあります。
このため、事業承継の代替案として株式譲渡が利用されるケースも増えています。
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株式売却のデメリットは以下3つです。
- 税金に留意する必要がある
- 経営権が完全に移転する
- 簿外債務が発生する
それでは1つずつ解説していきます。
税金に留意する必要がある
まずは税金に留意する必要があります。
オーナーが株主であり、株式を譲渡した際にはかなり大きな金額を受け取れます。中には、そのお金を元に、新たな別の事業を立ち上げたいと考える人もいるでしょう。しかし、事業譲渡よりも税金は小さいものの、株式譲渡でも税金はかかります。
この税金に留意しておかないと、現金を全て投資してしまい、税金が払えないといった事案も発生しかねません。したがって、株式譲渡後は、税金がいくらかかるのかを計算しておくようにしましょう。
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経営権が完全に移転する
株式を売却すると経営権が完全に移転します。
このため、現在経営者であったとしても、株式譲渡後は経営陣から外されてしまう可能性があります。特に、株式譲渡の直後はまだ引き継ぎなどもあるため、そのまま経営者として働ける可能性はありますが、基本的には社長の座から降りることになると認識しておきましょう。
会社売却後もオーナーとして残りたいのであれば、一部事業の売却ができる事業売却など他のM&Aの方法を検討することをおすすめします。
簿外債務が発生する
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買収側からすると、株式譲渡を受けることで簿外債務まで引き継ぐリスクがあります。
簿外債務とは貸借対照表にのっていないリスクのことです。簿外債務の例としては、退職給付引当金、賞与引当金、貸倒引当金などの各種引当金から、リース債務、その他偶発債務などが含まれます。
簿外債務が発生してしまうと、本来は払う予定のなかった出費が発生してしまうので、M&Aをして損をすることになります。
こうしたリスクは事前のデューデリジェンスで洗い出し、偶発債務の可能性まで織り込んだ買収額の設定が必要です。逆に、株式譲渡側は、デューデリジェンスの調査の際には協力する姿勢を見せることが大切になります。
株式譲渡後の社員はどうなるのか
オーナー社長は特に、株式譲渡後に社員の処遇がどうなるのか気になるかと思います。
ここでは、株式譲渡後の社員の処遇と注意点について説明します。
- 株式譲渡後における社員の処遇
- 株式譲渡後の社員の注意点
株式譲渡後における社員の処遇
結論を言うと、株式譲渡後も社員の処遇が変わることはありません。
社員は雇用契約書によって会社との契約をしています。株式譲渡により、株主はオーナーとしての権利を失うことになりますが、従業員は会社と雇用契約を結んでいるため突然給与が変わる可能性はないのです。
したがって、ほとんどの場合、労働条件は今まで通り引き継がれます。
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株式譲渡後の社員の注意点
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株式譲渡後は従業員のモチベーションが一時的に低下するケースや、勤務時間や組織体系の変化により従業員が困惑するケースがありますので、買収企業側は特に従業員のケアを怠らないようにしましょう。
経営陣が一新し、出世の可能性が広がったことを従業員に伝え、モチベーションアップへ繋げるのも一つの方法です。
また、他に注意すべきは未払い残業代が残っているか否かです。
中小企業によっては、労務環境を十分に構築しておらず、残業代が支払われていなかったことが買収後に明らかになるケースもあります。このため、買収企業側はデューデリジェンスの時点で、未払い残業代がないかを確認する必要があります。
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株式譲渡の場合は、株式譲渡契約書の作成が必要になります。
株式譲渡契約書とは、株式譲渡の際に、譲渡人と譲受企業とで株式譲渡に関する細かい契約内容を記載する合意書面です。
株式譲渡契約書に記載される内容
株式譲渡契約書に記載されるのは、下記の5点です。
- 譲渡合意
- 代金の払込方法
- 株主名簿の名義書換
- 表明保証
- 契約解除
特に表明保証は株式譲渡について最も重要です。
表明保証では、資産などの会社の実態が、提供された状況と異なっていないかを譲渡企業に確約させます。何か不測の事態が発生した際には、表明保証を参照することになるので、内容は漏れがないように決めることが大切です。
株式譲渡で譲受企業が大きなリスクを背負わないためにも、株式譲渡契約書はつぶさに設定が必要です。
株式譲渡価格の決まり方
株式譲渡を検討していても、自社の株式がどのくらいの値段で売れるのか検討がつかないという経営者も少なくありません。
専門家に丸投げしてしまってもいいですが、専門家には恣意的な側面もあるため、少なくとも経営者もご自身で簡単な見積もりができると便利です。
このため、株式価格を決定する3つの方法についてそれぞれわかりやすく説明します。
- コスト・アプローチ
- インカム・アプローチ
- マーケット・アプローチ
コスト・アプローチ
コストアプローチとは、企業のもつ純資産に注目して企業価値を算出する方法です。コストアプローチ方法には、簿価純資産法、時価純資産の2つがあります。
この2つの違いは、債権や棚卸資産などを簿価評価、時価評価するかですが、もちろん時価評価をした方が企業価値算出の正確性は高くなります。
コスト・アプローチは比較的簡単に企業価値を算出できる一方、営業権が反映されないため、他の2種類よりも安い値段が出てしまう可能性がありますので注意が必要です。
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インカム・アプローチ
インカム・アプローチとは、営業権を考慮した企業価値の算定方法です。企業価値は、実際の資産と目に見えない営業権からきているという見方に寄り添っています。
したがって、インカム・アプローチでは将来企業が稼ぐであろう値を現在価値に織り込みます。
これにより企業価値は向上しますが、あくまでも会社が継続して事業を行えることが大前提になるので、譲受企業はその算定方法が妥当かをしっかりと判断する必要があります。
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マーケット・アプローチ
マーケット・アプローチは、今までM&Aが実際に成立した例に当てて企業価値を算定する方法です。実際に成立した例を元にしているので、妥当性は比較的高いといえます。
一方で、比較のためには同業種で同規模の実例が必要になるため、一般的には上場企業が株式譲渡をする際の根拠にされることが多いのが実情です。
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株式譲渡の手続きについて
株式譲渡の手続きについて簡単に説明します。
株式譲渡は以下6つのSTEPに分かれます。
- 株式に譲渡制限がかかっていないかを確認する
- 株式譲渡契約を締結し、株式譲渡承認請求する
- 株式譲渡の承認決議をする
- 株式譲渡契約の締結
- 株主名義の書換
- 株主名簿記載事項証明書の交付請求
それぞれ詳しく説明します。
STEP1 株式に譲渡制限がかかっていないかを確認する
譲渡制限株式とは、会社が第三者に株式を譲渡しないようにするため、株式に制限がかかっているものを指します。
譲渡制限がかかっている場合は、会社の承諾が先に必要になるので注意が必要です。
STEP2 株式譲渡契約を締結し、株式譲渡承認請求する
株式譲渡承認請求とは、株式を譲受する際に、譲受会社から承認を得るために必要な手続きです。
この際、譲渡する株式の種類と数、買い手の住所と氏名、自身の住所と氏名、捺印が必要になります。
また、株式譲渡承認請求自体はシンプルなもので問題ありません。
STEP3 株式譲渡の承認決議をする
取締役会設置会社であれば、取締役会の実施をし、譲渡を承認するかを決定します。
そうでなければ、株主総会を開き、承認決議を実施します。
STEP4 株式譲渡契約の締結
株式譲渡契約の取り決めをしっかりとしていないと、後ほどトラブルに発展してしまう場合があります。取り決めは曖昧にせず、文字に明確に書き落とすようにしましょう。
STEP5 株主名義の書換
譲渡側と譲受側で株式の受け渡しが完了すると、会社に対して株主名簿を書き換えるように請求をします。
STEP6 株主名簿記載事項証明書の交付請求
株主名簿記載事項証明書は、株主の利益を得るために必要な書類です。
このため、株主名簿書換請求をした後は、必ず株主名簿記載事項証明書を受け取るようにしましょう。
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株式譲渡すると税金がかかります。株式譲渡により、どういった税金がかかるのかをわかりやすく解説します。
よくあるのが、中小企業の個人オーナーが相手先の法人に対して株式を譲渡するパターンですので、その際にかかる税金について解説します。
オーナー側の税金
売り手であるオーナーにかかる税金は、株式譲渡による譲渡所得税です。譲渡所得税は20.315%になるので、取得した譲渡所得に対して20.315%の税金がかかることになります。
買い手法人側の税金
買い手側に税金はかかりません。
しかし、譲渡された株価が時価の1/2を下回る場合には、買い手にも受贈益がかかりますので注意が必要です。
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まとめ
本記事では、株式譲渡のメリットと、株式譲渡にかかる税金から手続きまでをわかりやすく解説しました。
オーナーが事業承継などで困っており、今後経営を降りるタイミングを探しているのであれば株式譲渡は適切なM&A方法といえます。しかし、その他の理由で、会社の売却を考える際は、他のM&A手法を検討してみる必要があるかもしれません。
M&Aにはさまざまな種類がありますので、経営者自身が適切な方法をとることで、今後の企業経営も大きく変わってきます。
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