顧客満足度を高めるには、成果物の品質管理が重要です。それに必要なのが、品質マネジメントです。
品質マネジメントとは、製品やサービスなどの成果物やその製造過程に対して、監視し管理するシステムのことを指します。
この記事を読むことで
- 品質マネジメントの基本がわかる
- 品質マネジメントの重要性や必要性がわかる
- 品質マネジメントの7原則がわかる
ようになります。
企業にとってもプロジェクトマネージャーにとっても大切な『品質マネジメント』について理解を深め、より高い顧客満足を実現できるよう、参考にしてみてください。
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目次
品質マネジメントとは
品質マネジメントは「Quality Management System」を略してQMSとも呼ばれており、プロジェクトのプロセス、または成果物である製品やサービスの品質を監視するシステムや活動、ルールのことです。
顧客が要望する基準に適う製品やサービスを製作するために、品質をコントロールする方法を策定し、パフォーマンスを調べ「改善活動」を実施していきます。
注意するポイントは、ただ作ったものに対してだけではなく、製造過程そのものの品質も対象となることです。製造過程においてトラブルや問題があった時、その要因や解決策を探ることでさらなる品質向上が実現できます。
一般的には製品やサービスをつくる際は費用や締切のことを考えることが多いですが、重要なのは品質であり、基準に満たない成果物では顧客を納得させることはできません。したがって、顧客が「何を求め、望んでいるのか」を明確にし、わかりやすい形に再構築することが品質マネジメントの要になります。
品質マネジメントの必要性
品質マネジメントの必要性はどのような点にあるのでしょうか?
それは、品質マネジメントを実践することによって、数いる顧客との効率的なコミュニケーションを実現することにあります。
例えば、まだ品質マネジメントがなかった時代は、顧客とプロジェクトマネージャーがお互いに一対一の関係を保ち、双方が品質を上げるために努力をしていました。しかし、この状態が続けば、将来的には顧客の数が増加した際にこの関係が壊れるのは目に見えています。
しかし、品質マネジメントシステムが普及することで、顧客と企業やプロジェクトマネージャーの架け橋となり、円滑なコミュニケーションが実現するのです。つまり、品質マネジメントが広まることで、顧客である企業や国といった大規模な対象への対応の合理化が進み、より良い品質を目指すことができます。
品質に対する考え方
「品質を管理する」と聞くと、検査で生じた不具合やバグの数といった数字から品質を計測していくようなイメージを持つかもしれませんが、これは品質マネジメントの1つに過ぎません。
製品やサービスの質を高めるために、成果物のみに照準を合わせるのではなく、製造過程そのものの質を高めることなど、品質を落とさない活動全てが品質マネジメントになります。
品質マネジメントでは基準を設けることが重要
顧客は、企業に対して常にクオリティの高い製品やサービスを望んでいます。しかし、「高いクオリティ」というのは極めて曖昧な要求であり、一言で言い表せるものではありません。
それでも、企業は顧客の高い要求に応じるため、クオリティの高いものを提供する必要があります。したがって、良いものを提供するためには品質の基準を、顧客との間で明らかにしておかなければなりません。
初めに自分自身で品質の規準を設けて、必要な費用や締切も視野に入れて複数のパターンを用意します。クオリティを高めるほどコストがかかるため、顧客には費用対効果を確認してもらったうえで、品質基準を決めていかなければなりません。
品質基準の限界を設ける
品質基準を決める際の注意点は「顧客が求めるものを把握しているか」という点です。
一般的には、決められた資金のなかで可能な限りクオリティを上げようとします。しかし、この行為は必ずしも顧客のためになっているわけではありません。顧客は「クオリティの高いもの」を求めつつも、自分の要望に相応しいものを求めています。
つまり、どんなに多機能で高機能な製品だとしても顧客がそれを求めていなければ、顧客はニーズに合致している必要最低限の機能を備えた安い製品を買うということです。大切なのは顧客のニーズに応えることであり、単純にクオリティを高くすることではありません。
このような事態に陥らないためにも、品質基準ではあらかじめ限界を決めておき、基準値に達し次第、それ以上クオリティーは求めないという「基準値」が必要です。
「グレード」に注意
「グレード」という言葉は、「品質」や「クオリティー」と混同されることがありますが、グレードとは「プラスαの機能性の要素」です。
いくつもの機能をもった製品でも、壊れやすい、扱いが難しいということであれば「グレードは高いが、品質は低い」ということになります。一方で、機能は1つしかないが壊れにくく堅牢な造りであれば「グレードは低いが、品質は高い」ということになるのです。
したがって、大切なのはグレードと品質やクオリティのバランスです。唯一絶対の正解はなく、顧客の特徴や要望に沿ったバランスを求める必要があります。
品質マネジメントの重要性とは
プロジェクトの成果物を顧客に納めることでプロジェクトは終了するため、その時点でその後の品質については手を出すことはできなくなります。
もし、リコールといったトラブルが生じると、プロジェクトに投じた費用以上の金銭的負担もあり得るため、品質管理は徹底して行わなければなりません。このような事態に陥らないためにも、品質マネジメントの重要性は高いと言えます。
「性善説」では通じない相手に対する備え
品質マネジメントはトラブルを避けるために重要ですが、もう1つ重要な理由があります。
それが、「性善説」では通じない相手に対する備えです。今日では偽装や捏造は日常茶飯事となり、日本で古くから根付いている「性善説」に疑問の目を向けざるを得なくなってきています。
つまり、性善説でプロジェクトを進めていては、高確率でどこかに存在する「悪意ある人間」に対応できないということなのです。その結果、日本の製造業では品質管理体制の欠陥がたびたび指摘されています。
今後は品質マネジメントシステムを定着させるだけではなく、実践しつつその知見がプロジェクトに関わる全ての人間に共有される仕組みづくりが重要になっていくでしょう。
品質マネジメント7原則を解説
品質マネジメントには、ガイドラインともいうべき「品質マネジメント7原則」というものがあります。これは、品質マネジメントの規格となっている「ISO9001」によって規定されている、下記の7つの原則です。
- 顧客重視
- リーダーシップ
- 人びとの積極的参画
- プロセスアプローチ
- 継続的な改善
- 客観的な事実に基づく意思決定
- 関係性管理
それでは1つずつ解説していきます。
原則1.顧客重視
まず原則1の顧客重視ですが、ISOでは下記のように記載されています。
引用:「組織はその顧客に依存しており、そのために現在及び将来の顧客ニーズを理解し、顧客要求事項を満たし、顧客の期待を超えるように努力すべきである。」
簡単に言うと「お客様は神様」ということになります。
なぜなら、企業が存続していくには利益や利潤が必要であり、それらをもたらしてくれるのは顧客だからです。したがって、企業は永続的に顧客の要望を把握し、顧客の満足度を高めていく必要があります。
つまり、企業にとって顧客満足は最終的な目的です。また、「顧客」という言葉が意味するのは一般的な「消費者」だけではなく、製品やサービスに関係するすべての人間も含まれます。
原則2.リーダーシップ
ISOではリーダーシップは下記のように記載されています。
引用:「リーダーは、組織の目的及び方向を一致させる。リーダーは、人々が組織の目標を達成することに十分に参画できる内部環境を創りだし、維持すべきである。」
要するに、プロジェクトや企業のトップの責任が重要ということです。
なぜなら、企業のトップには品質マネジメントを計画し、実践し、改善を続ける全責任があるからです。また、リーダーは組織としてどの方向に進むかを決める役割があるのですが、その方向が間違っていれば全ての努力が水の泡になってしまうのです。
つまり品質マネジメントシステムにおいても、トップが誤った判断をしないように明確なビジョンを掲げ、それを品質方針として言語化していく必要があります。
原則3.人びとの積極的参画
原則3はISOでは下記のように記載されています。
引用:「すべての階層の人々は組織にとって根本的要素であり、その全面的な参画によって、組織の便益のためにその能力を活用することが可能となる。」
つまり「傍観者を出さずに、全員で参加する」ということなります。
原則2でリーダーがビジョンを示して明文化することが重要と解説しましたが、それだけでは足りません。なぜなら、適切な品質マネジメントを実現するには、企業の全員が参加するべきだからです。
最終的な目標は顧客満足度の上昇であり、そこに向かってリーダーがビジョンを示して、全員で目指すことが理想になります。「自分の部署はこのプロジェクトには直接関係しない」ということはありえないのです。
原則4.プロセスアプローチ
原則4はISOでは、下記のように記載されています。
引用:「活動及び関連する資源が一つのプロセスとして運営管理されるとき、望まれる結果がより効率よく達成される。」
これは、成果物である製品やサービスだけではなく、製造過程である「プロセス」を評価するということです。
プロセスアプローチでは、製造過程を細かく分解してそれぞれの工程が「適切なプロセスかどうか」「非効率的な作業はないか」を評価・検証し、全てのプロセスが合理的に一本化されたかたちで運用していく必要があります。
原則5.継続的な改善
ISOでは「断続的な改善」は下記のように記載されています。
引用:「組織の総合的パフォーマンスの継続的改善を組織の永遠の目標とすべきである。」
つまり、常に「改善」をし続けることが重要ということです。
あらゆる工程、作業において「もっと良くする方法はないか」と目を光らせて、常に品質向上を目指す姿勢が重要になります。問題が発生した時だけではなく、問題がない時にも常に改善できる余地はないかと探すことが大切です。
原則6.客観的な事実に基づく意思決定
原則6はISOでは、下記のように記載されています。
引用:「効果的な意思決定は,データ及び情報の分析に基づいている。」
簡単に言えば、憶測や推測ではなく、事実をもとに決断を下すということです。
どのような意思決定においても、楽観的な思い込みや憶測だけで決めていては目標を達成することはできません。得た情報をもとに導き出した「客観的な事実」によって意思決定を下すことが重要です。
また、どのような目標をたてるかということについても、漠然とした耳触りの良いキャッチフレーズのようなものにはせず、データに基づく具体的で計測可能な目標にするべきでしょう。
原則7.関係性管理
最後の原則、関係性管理はISOで下記のように記載されています。
引用:「相互の関連するプロセスを一つのシステムとして明確にし、理解し、運営管理することが組織の目標を効果的で効率よく達成することに寄与する。」
要するに、企業の最終目標から利害関係者、顧客に至るまでを別々ではなく1つのシステムとして意識した運営が重要ということです。
原則1では「お客様は神様」と説明しましたが、本来であれば企業と顧客は平等で対等な関係であるという認識に基づいて、プロジェクトや成果物に関わる全ての利害関係者が協力することが大切になります。
そして、良好な関係をもってして顧客の満足度を高めていくことが必要です。
品質マネジメントにおける検査の目的
プロジェクトの成果物である製品やサービスは、出荷される前に最終チェックをします。
その際の検査を通して商品のクオリティーを高められるという認識をしている人も少なくありません。当然、検査は必要です。検査をすることでその結果をフィードバックし、PDCAサイクルによって改善される問題は多くあります。
しかし、商品のクオリティーを上げるために必要なことは作業工程の改善です。作業工程を改善することで、それらに従い作業すれば必ず品質基準を満たすことができるという認識を持つべきであり、検査目的とはまたずれた主旨になります。
本来であれば検査の目的は、不具合のある成果物が顧客の手に渡らないようにすることです。
最終検査が済めば、次の工程では商品は顧客の手元にあります。したがって、その後は商品の品質を上げようがありません。品質規準以下の成果物を提供しないために仕分けることが検査が必要な理由です。
まとめ
企業の最終目標である「顧客の満足度の向上」を達成するために欠かせないことは、提供する製品やサービスによって顧客に満足してもらうことです。
そのためにも常により高い品質を求め、管理していく品質マネジメントが必要になります。品質マネジメントを徹底することで、顧客の信頼性も上がり、継続的に取引が可能になるだけではなく、自社においてもより良い組織を構築することに繋がります。
品質マネジメントについての知識や実践方法を紹介してきましたが、大切なのは知るだけではなく、いかに実践していくかです。顧客の要望を把握し、品質に反映していく仕組みをつくっていきましょう。
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