新型コロナウイルスに対する緊急事態宣言が全国で解除されましたが、これまでの日常に戻ったような、しかしところどころは変わった、という生活が始まっています。
今回の災禍でビジネススタイルの大幅な変革を強いられた企業、また「ニューノーマル」という言葉が浸透してきたことで対応を迫られている企業、とそれぞれあるでしょう。
企業という存在に向けられる目の変化はすでに現れているようです。
目次
ニューノーマルという不可逆反応
「ニューノーマル」という言葉は、元はリーマン・ショック後に使われるようになった言葉です。
「ある程度の経済回復は遂げたとしても、完全に元と同じ社会には戻らない」
という意味です。
そして今回はさらに社会が変容を遂げる「ニューノーマル2.0」と呼ばれるようにもなっています。
実際、多くのビジネスパーソンが事業での変化を感じています。
日本能率協会の調査によると、まず83.2%の人が「事業に影響があった」と回答しています[1]。
その上で、感染拡大の収束後、会社のビジネスモデルや事業構造は変化すると思うか、という質問に対し、62.2%が「変化すると思う」、自身の働き方についても61.4%が「変化すると思う」と答えています(図1)。
図1 ビジネスや働き方への影響について
(出所:「新型コロナウイルス感染症に関連するビジネスパーソン意識調査結果」日本能率協会)
https://jma-news.com/wp-content/uploads/2020/05/43ca5deeb14469b9dc78bb7e5b8321e0.pdf p2
また、在宅勤務については、今回初めて経験した人の中のうち8割が在宅勤務の継続を希望しています(図2)。
図2 コロナ収束後の在宅勤務について
(出所:「新型コロナウイルス感染症に関連するビジネスパーソン意識調査結果」日本能率協会)
https://jma-news.com/wp-content/uploads/2020/05/43ca5deeb14469b9dc78bb7e5b8321e0.pdf p3
働く人の間に「ニューノーマル2.0」は浸透し始めていると言ってよいでしょう。
いわゆる「働き方改革」が半ば一方的な外圧のような形で始まり、浸透しづらかったにも関わらず、今回は内部からそのあり方を模索する動きが結果的に広がった形です。
そして、消費行動も変化しています。
MMD研究所の調査によると、ショッピングでの支払い方法について2割の人が変化したと答えています[2]。
その変化は、現金の使用量が減り、スマホ決済が増えたというものです(図3)。
実店舗に行く機会が減り通販の利用が増えた、お金を直接触りたくない、スムーズに決済してなるべく早く店を出たい、というのがその理由です。
図3 支払い方法の変化(出所:「新型コロナウイルスによる支払い方法の変化に関する調査」MMD研究所)
https://mmdlabo.jp/investigation/detail_1860.html
また、三井住友カードの調査では、高年齢層のデジタルシフトが進んだという結果が出ています。
60代・70代の「ECモール・通販」利用の増加幅が20代・30代よりも大きく、かつ「スーパー」を大きく上回っているという結果です[3]。
混雑した店舗が敬遠され、通販や宅配が増えるようになりました。
また、ソーシャル・ディスタンスへの配慮も飲食店などへの出入りに影響しています。
行列はこれまで以上に敬遠されるでしょう。
こうした変化が、すぐに元通りになるとは考えにくいのではないでしょうか。
大規模イベントはいまだに再開の方策を模索しています。商談会や懇親会などはどうなるのでしょう。
5つの価値観変化への対応
PwCジャパンは、新型コロナの体験によって、消費者や顧客接点について5つの変化が起きていると指摘しています[4]。
①同じ時代を共にサバイブする社会的価値・貢献への共感
②見えない未来を前提とした厳選消費行動 ③強制的なデジタルシフトからデジタル利便性の需要と利用 ④”人と触れ合わない”リモートファーストへのライフスタイルの変化 ⑤安全安心な場所・オペレーション・経験価値への期待 |
それぞれについて見ていきましょう。
①に関しては、短期的な利益にはならないものの、社会の課題解決のために自社の機能を提供することを買って出た企業が、世間的に共感を得るようになりました。
本業のインフラやリソースを医療機器や衛生用品の製造に振り分ける動きは多く見られました。
②に関して言えば、「不要不急」の外出自粛や手元に現金を残しておきたいという意識が広がり、消費活動も「今必要なもの」にフォーカスされています。
③は先にも挙げたように、高齢層のデジタルシフトという形で現れています。
高年齢層にとっては、これまでデジタルは「苦手だけれど使わされる」存在でした。
しかし、身を守るため、通販などで積極利用するようになっています。
こうして「利便性」を享受するようになると、買い物の仕方は元には戻らないでしょう。
④に関しては、多くのことが、人と対面せずとも可能だという意識が浸透したということです。
この結果、自社ブランドの商品を通販で消費者に直接販売する「D2C」の動きが加速したという指摘があります。
⑤に関しては、衛生と健康に対する意識の高まりで、店を選ぶにしても衛生面に配慮する場所を優先する、衛生や安全に配慮している企業のイメージが高まる、といった具合です。
COVID-19については第二波も懸念されているため、この傾向は強まることでしょう。
顧客がこの間何を経験し、何を考えるようになったのか、それを最優先に考え、つながりを維持しなければなりません。
顧客の属性や変化を一度見直す必要がありそうです。
疲弊する企業に吐きつけられた恨み節も
また、企業に対してこのような厳しい視線を向けている人もいます。
企業倒産・廃業が相次ぐ中で、実はこんな恨み節がSNSで話題になりました。政府による全業種への支援に反対するというものです。
「状況の変化に対応しろ、死ぬ奴は死ぬといわれ続けた第一次就職氷河期世代として、全ての業種への支援に反対します。つぶれる会社がつぶれるだけ。甘えるな。経営者だのオーナーだのが没落していくのが当たり前になるというのが危機というもので、備えなかったのが悪い、自己責任。今回はお前らの番だ」
かつては就職できない自分たちに散々自己責任論をぶつけておいて、今更何を言っているんだ、という痛烈な批判に、多くの同世代が共感したのです。
今回のコロナ禍では、内定取り消しを受けた学生も多く報じられています。
彼らもまた、良い思いはしていないでしょう。
もともと「安定性」を重視する現代の就活世代は、就職に際して、これまでよりもっと厳しい目で企業を選ぶと考えられます。
「環境の変化」「今は特殊な時期」というのは、もはや経営サイドのわがままでしかない、と捉えられる時代になりつつあるとも考えられます。
特に、デジタル化の遅れで自分の首を絞めてしまった企業となると、デジタル・ネイティブ世代からはそっぽを向かれてしまうことでしょう。
カスタマーエクスペリエンスから再出発を
ある日突然経済がストップする、という経験のない事態に遭遇し、しかも影響がいつまで続くかわからないといった状況ですが、「ニューノーマル2.0」への入り口は、「カスタマーエクスペリエンス」の見直しではないでしょうか。
例えば、先に紹介した「消費行動の変化」の場合は、「モノ」をECで手に入れることが新しい日常として定着し、実店舗やどこかに足を運ぶのならば、その分「価値のある経験」をしたいという要求もあるでしょう。
いわゆる「コト消費」です。
この間どのように人が代わり、何を不便と感じ不必要と感じたか、何を便利と感じ必要と感じたか、まず生活者としての自分を振り返ってみるのも良いでしょう。
そして、カスタマーに限らず、「ステークホルダーエクスペリエンス」と言えるものへの意識も必要になるでしょう。
今回、サプライチェーンの中で自社がどのような振る舞いをしたか。
思わぬボトルネックに遭遇しなかったか。顧客に不便を与えなかったか。なぜ与えてしまったのか。
「安定性」「レジリエンス」がより強く求められるこれからの時代に向けて、これまでの自社の構造やシステムと一度じっくり向き合い、変えるべきは大幅に変えるという覚悟も迫られそうです。
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[1]「新型コロナウイルス感染症に関連するビジネスパーソン意識調査結果」日本能率協会
https://jma-news.com/wp-content/uploads/2020/05/43ca5deeb14469b9dc78bb7e5b8321e0.pdf
[2]「新型コロナウイルスによる支払い方法の変化に関する調査」MMD研究所
https://mmdlabo.jp/investigation/detail_1860.html
[3]「コロナ影響下の消費行動レポート」三井住友カード
https://www.smbc-card.com/company/news/news0001527.pdf
[4]「新型コロナウィルス感染症の体験が与える顧客接点再構築の方向性-ニューノーマルに対応した顧客接点改革とコスト最適化に向けて」PwCジャパン
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/2020/assets/pdf/consumer-transformation2005.pdf