毎年、この時期になると、新人の「5月病」が始まる。
今年はちょっと事情が異なるので、「6月病」あるいは「7月病」かもしれないが。
いずれにせよ、状況に適応しきれずに、ストレスを抱えてしまう人はいつでもいる。
ところで社会人の「仕事のストレス」の原因トップは、
「仕事の内容」だ。
「職場でストレス感じる」8割に 民間調査、過去3年で最高値に(日本経済新聞)
ストレスの原因(複数回答)については「仕事の内容」(34.6%)、「給与や福利厚生などの待遇面」(31.8%)、「同僚との人間関係」(27.3%)が挙がった。
「仕事が難しすぎる」
「仕事の量が多すぎる」など、仕事の内容に関する悩みは尽きない。
さらに、新人にありがちなこととして、「仕事が思っていたほど楽しくない」と悩む方も多いだろう。
なにせ新卒は「楽しく働きたい」という人が最も多いのだ。
2020年卒 マイナビ大学生就職意識調査(マイナビ)
学生の就職観では、ここ10年以上変わらず「楽しく働きたい」(38.6%、前年比5.3pt増)がトップにあり、文系女子では4割を超えた。
だが現実的には新卒に割り当てられる仕事は「ルーティンワーク」や「雑用」がほとんどであり、職場で大したことをやらせてもらえない。
「こんなはずでは……」という状況に苛立つ新卒も多いのではないか。
こうした人々にとっての「甘い囁き」が、”下積み否定からの転職” のコンボだ。
入社してもすぐ転職 急増する「超若手」転職、成功に必要な3つの要素とは?(Nikkei style)
「若手の早期離職者の転職理由として、真っ先に上がる要因が『思ったより残業がある』『仕事にやりがいを感じられない』の2つです。
コロナウイルス禍で転職市場が落ち着いているとはいえ「ここから早く出ていきたい」という人が減るわけではない。
そして、このような風潮に拍車をかけるのが「勝ち組」の皆様のドヤ顔だ。
【堀江貴文×井戸実】美味い寿司を握るのに、長い下積みなんていらない(mag2 News)
オリラジ中田敦彦が語る、下積み仕事不要論 。“言いなり営業マン”は「あえて先輩にケンカを売れ」(type)
「もう下積みをやるような世の中じゃない」
「下積みは不要」
「仕組みで成功できる」
など、勝ち組の皆様が宣うのを見て、頷いた方も多いかもしれない。
「ここじゃないどこかなら、自分はもっと活躍できるのではないか」と思う人が増えるのも、
宜なるかな、である。
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目次
「下積み」は「スキルの獲得」が目的ではない。
ただ、「こんな会社には一時たりとも、在籍したくない」と
思いつめる前に、少し心に留めておいてほしいことがある。
それは、悩んでいることの大部分が「転職」では解決しない、という事実だ。
もちろん「残業代が出ない」とか「パワハラが横行している」などの法律違反や人権侵害などがある会社は別だ。
すぐに脱出を考えたほうが良いし、場合によっては出るところに出たほうが良い。
だが、下積みが「つまらない」「スキルがつかない」という悩みは見当外れだ。
なにせ「下積み」とは、つまらないのが当たり前であり、目的も「スキルの獲得」ではない。
では「下積み」とは何なのか。
それは、「周りの人々の、信用を得る行為」だ。
「スキルの獲得」は、下積みの後に悩む話であり、下積み時代の話ではない。
実際には新卒の仕事は、以下のように流れる。
1.「つまらない」「スキルのつかない」下積み仕事をまじめにやる
↓
2.権力者の信用を獲得する
↓
3.面白く、スキルの付く仕事を回してもらえる
↓
4.仕事を一生懸命やる
↓
5.失敗し、試行錯誤する(けど、権力者のお気に入りなので失敗は許してもらえる)
↓
6.仕事が徐々にうまくいくようになる
↓
7.自信とスキルが付く
どこの世界でも面白くてスキルの付く仕事は希少だ。
信用のおけない人に任せるわけにはいかない。
だから「下積み」を新人にさせ、社内営業を通じて、「こいつに面白い仕事を任せてもいいのか」を判定する。
場合によっては、「こいつには失敗させよう」と思ってもらえる。
それが「下積み」の本来の意味だ。
上の流れを見て「古いなー」「合理的でないなー」「ムダ」と思った方もいるだろう。
でも、間違っている。
これは世界のどこでも同じであり、合理的であり、ムダもない。
なぜなら「仕事」は「スキル」の前に、なによりも「信用があること」が大事だからだ。
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寿司職人に「下積み」が必要な真の理由
例えば、先程の堀江貴文氏がいう「寿司職人」の話だ。
実はこれ、私も気になり「一流の寿司職人」に、この話の妥当性を聞いてみた。
すると大将は
「そっすね。間違ってません。」という。
「店を開くのに、技術的な部分はそれほど重要じゃないんすよ。」
と。
これは私も意外だった。
「なにが重要なんですか?」と聞くと、
「なにより、仕入れっすね。」
という。
彼が言うには、「極上の魚」というのは極めて数が限られており、まず、ポッと店を出しても仲卸が「魚を売ってくれない」そうだ。
「要するに、修行時代って、人脈づくりなんで。」
と、大将はいう。
さらに「あと、長いこと勤めると、暖簾分け、要するに店を出す時にお客さんの一部を持っていっていい、と言われるわけですよ。ブランド含めて。それが「店を出した当初」の運転資金の確保につながるんす。だから「下積み」ってのは、そういうのが全部、含まれる。
そういうのを積み上げる期間が「下積み」です。」
そして大将は言った。
「つーことはですよ、逆に言えば、仕入れのルートもあって、最初から寿司に何万も払うような客のツテを持っていれば、別に下積みなんて不要なんすよ。」
彼が言うには、最近「ウデの良さそうな新人寿司職人」に、パトロンとしてカネとコネを与え、独立させる金持ちが結構いるらしい。
彼らにとって見れば「下積みなんて不要」なのだろう。
だが、流石にこれは「雇っている側」としては、たまったものではない。
「技術・ノウハウを盗まれて」「客も盗られた」と感じて、元弟子に憤っている、という話もちらほら聞く。
だが、要は最初からマーケティングがうまく、信用を得ており、仕入れルートを持っているような「スーパースター」には下積みは不要なのだ。
ただ、人脈を持たず、客がおらず、仕入れルートもない積み上げが必要な凡人には、下積みによって、信用を獲得する期間が必要だ、ということだ。
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「先輩の武勇伝」を聞くのは、純粋な社内営業
だから決して、「転職」で新人の不満は、解決しない。
逆に転職を繰り返せば繰り返すほど、「信用」は失われ、面白い仕事、スキルの付く仕事を得る機会は少なくなっていく。
「仕事が面白くないからと言って、すぐに転職を考えるのはやめとけ」というのは、そのような理由からだ。
本質的には信用を得るために、ある程度は下積みを我慢してやり、社内営業、権力者のご機嫌取りに時間を使うのは、特に悪い取引ではない。
「先輩の武勇伝」を嫌がる人は多いが、その程度を我慢すれば面白い仕事がもらえるのなら、私は喜んでそれを聞く。「飲みに付き合う」のももちろん、同様だ。
「先輩が嫌がる、つまらない仕事」を引き受ける人はどんな会社でも可愛がられ、チャンスが有れば優先的に回してもらえる。
むしろ「下積み」をイヤイヤやるのは、一番の時間のムダだ。
そういうことを知っておくと、当面の「仕事がつまらない」も、少し楽な気持ちでできるのではないだろうか。
なお、「いやいや、ムダっしょ。」という人や、「俺は独立しても十分やってけるぜ!」と思うような人は、自分で仕事を取り、すぐに事業を立ち上げよう。
仰るとおり、下積みは、時間のムダだ。
ただ、「普通の人」はそう考えないほうがいい。
焦る気持ちもわかるが、これは長期戦だ。
じっくり構えて取り組む者が、最後に笑うのだ。
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