心理的安全性は、チームの生産性や創造性を高める鍵となる要素です。
しかし、心理的安全性を重視し過ぎてしまい、組織全体が「ぬるま湯状態」になるのは避けなければいけません。
本記事では、心理的安全性を保ちつつ、チームを活性化させるマネジメント術について詳しく解説します。
この記事を読めば「チームビルディングで重要な心理的安全性の本質」がわかります。
目次
心理的安全性をチームビルディングに活かす方法
心理的安全性をチームビルディングに活かすには、次の3つのポイントに留意するといいでしょう。
- オープンコミュニケーションを促進させる仕組みを作る
- 失敗を糧に挑戦する文化やルールを作る
- 個人目標を明確に伝える
チームビルディングにおいて心理的安全性はとても重要ですが、ネガティブ意見が蔓延し、メンバーや組織の成長が止まることだけは避けたいところです。
チーム運営における、あるべき心理的安全性というのは、単に意見が言いやすい環境というだけでは不十分です。
ポジティブな意見をチームビルディングにどのように活かすのか、よく考えながらマネジメントするようにしましょう。
関連記事:職場の心理的安全性を高める方法
オープンコミュニケーションを促進させる仕組みを作る
心理的安全性をチームビルディングに活かしたいなら、リーダーはオープンコミュニケーションを促進できる仕組みを作るよう努力しましょう。
オープンコミュニケーションを促進できる仕組みには、次のようなものがあります。
- リモートでも情報共有や意見が言い合える環境を整備する……チャットツールなどの導入
- 定期的な面談機会の提供……定期的な1on1面談のスケジュールを決める(いつでも意見が言えるという安心感が部下に生まれる)
- コミュニケーションスキルに関する教育が受けられる仕組みを作る……上司やリーダー向けのマネジメント研修の実施、多様性を理解するメンバー向け研修など
「なんでも自由な意見を言って欲しい」といっても、意見を言う機会がなかったり、リーダーが忙しすぎたりすると、部下は意見を言うことをあきらめてしまいます。
心理的安全性をチームビルディングに活かすには、まずは意見を出せる仕組みを作っておきましょう。
失敗を糧に挑戦する文化やルールを作る
失敗を責めるのではなく、失敗を次の成功につなげられるポジティブな組織を作るのも、リーダーとして重要な任務のひとつです。
「心理的安全性=未達でも許される甘い組織」と勘違いする人もいますが、組織に所属する一員である以上、個人やチームに与えられた目標は達成しなければいけません。
また、目標を達成できないメンバーがいた場合、部下の頑張りやプロセスを褒めて、心理的安全性を確保しようとする行動はおすすめできません。
リーダーは感情的に部下を評価せず、失敗した部下と話すときは「未来の話」に終始するようにしましょう。
失敗したときに「次に何をすべきか?」を明言し、挑戦する文化やルールを作っておくと、前向きな意見も出やすくなります。
個人目標を明確に伝える
心理的安全性をチームビルディングに活かすには、個人目標やルールを明確に伝えておくことも重要です。
「目標を明確に伝えること」と「心理的安全性」とは、一見関係がないように見えますが、実は密接な関係があります。
個人目標が明確に伝えられることで、メンバー自身が「何をやるべきか?」が明確に理解でき、余計なことを考えずに安心して業務に取り組めるのです。
一方、「自分がやりたいようにやっていいよ」と行動目標を伝えずに曖昧にしていると、メンバーは迷ってしまい、さまざまな不安が生まれ、収拾がつかなくなるでしょう。
「心理的安全性がある組織」とは、単に不安や愚痴が言い合える組織のことではなく、目標達成に妨げとなる要素を取り除くための、ポジティブな意見が言い合える組織なのです。
心理的安全性の定義とは
心理的安全性とは「自分の意見や提案を伝えたときに、罰や非難を受けることがない安心できる環境」のことを指します。
ここから、よりそれを紐解いていきましょう。
参考:厚生労働省公式資料「心理的安全性に基づくパワーハラスメント防止対策」より
【心理的安全性】
◆組織のために正直に発言することに不安や恐れがないこと(安心して自分の意見や考えが言える) ◆Googleの調査で、離職率が低く職場の生産性が高い組織では、個々の能力が高いことよりも、心理的安全性が高いことの方が重要と判明 |
関連記事:プロジェクトアリストテレスとは?【Googleが明かす】「効果的なチーム」に必須な「心理的安全性」
心理的安全性とは「どんな意見でも罰せられることはない」安心感
心理的安全性とは、「どんな意見でも罰せられることはない」安心感を意味します。
決して「なんでも話せて未達成も許される緩い環境」ではありません。
心理的安全性があれば、新しいアイディアや提案が言えるようになり、目標達成に向けたポジティブな意見が活発に出る組織になります。
その結果、メンバーのモチベーションも維持され生産性も高まるでしょう。
大事なのは「心理的安全性は意見の自由を保障するものであり、業務の達成や責任を放棄するものではない」ということなのです。
心理的安全性の研究結果
心理的安全性がチーム運営にどのような影響を与えるかについては、さまざまな研究がその効果を証明しています。
下記は、日本労働衛生安全機構執行役員でもある、大阪大学医学部客員教授「中島和江氏」の資料「チーム学習と効果的チームワークを生み出す心理的安全」から抜粋したものです。
この資料には、心理的安全性に関する研究者「ハーバードビジネススクールのエイミー・エドモンドソン教授」が行った研究結果として、次のような記載があります。
心理的安全が高いチームでは、他者から意見や情報を集め、エラーを含め何でもオープンに議論し、互いに協力を求める等、常にチーム学習(team learning/collective learning)が行われており、そのようなチームではチームパフォーマンスが優れていることを明らかにした。チーム学習とは、チームのメンバーで共に考え行動し、個人で得ることのできない英知をチームで見出すことである。 |
また、同じ資料のなかでは「本当の心理的安全性」について、失敗についてもオープンにして議論できる環境のことであると述べられています。
「チームで仕事をする際に、人との関係性にびくびくすることなく、自分が疑問に思っていること、心配していること、皆と異なる意見などについて気兼ねなく発言できる、また、周りの人たちに意見や助けを求めることができ、失敗についてもオープンにし議論
できるような環境」のことである。 |
引用:チーム学習と効果的チームワークを生み出す心理的安全日本労働衛生安全機構執行役員、大阪大学医学部客員教授「中島和江氏」著
さまざまな研究結果を見ても、目標達成を目指すチームには、心理的安全性は欠かせない要素といえるでしょう。
心理的安全性をチームビルディングに取り入れた場合のメリットとデメリット
では、心理的安全性をチームビルディングに取り入れた場合、具体的にどのようなメリットやデメリットが生まれるのでしょうか。
心理的安全性がある職場では、イノベーションが推進されパフォーマンスがあがります。
一方、「間違った心理的安全性を高めるとぬるま湯状態になる」デメリットもあります。
より詳しく見ていきましょう。
メリット1:イノベーションの推進
心理的安全性をチームビルディングに活かした場合のひとつ目のメリットは、チーム内でイノベーションの推進が行われる点です。
メンバーが自由に意見や提案を行える環境があると、新しいアイディアや解決策が生まれやすくなり、結果としてチームにイノベーションが生まれます。
失敗を恐れずに、新しいプロジェクトや実験的な取り組みが推進されるようになると、メンバー自らが挑戦する姿勢を持つことができるようになるでしょう。
また、自由で前向きな意見が出る組織では、メンバー間の適度な競争環境が生まれます。
自分にはない意見を持つ他者を見て刺激を受けると、メンバー個々の自己成長の意識も高まるはずです。
メリット2:パフォーマンスの向上
ふたつ目のメリットは、自由な意見が言えることによるパフォーマンスの向上です。
チーム内で互いの意見が尊重されることで、チーム内の信頼関係が深まり、全員が同じ目標に向けて努力し、最大の成果が出せるようになります。
また、メンバーが自由に意見を共有することで、隠れていた問題や課題を早期に発見でき、迅速な対応もできるでしょう。
オープンコミュニケーションを尊重する組織なら、誤解や不明確な点も迅速に解消できるためスムーズな業務の進行ができるようになります。
デメリット1:ぬるま湯状態になるリスク
心理的安全性をチームビルディングに活かした場合のデメリットとしては、組織が「ぬるま湯状態になる」点があげられます。
ポジティブな意見だけではなくネガティブな意見を受け入れすぎてしまうことで、チーム全体が挑戦や変革の必要性を感じなくなる可能性が出てくるのです。
この状態はそもそも心理的安全性をはき違えているといえるでしょう。
「心理的安全性=問題を許容してしまうこと」を勘違いしてしまうと、組織内の問題点や課題の指摘を避けるようになり、チーム目標の達成も難しくなります。
また、すべての意見を等しく受け入れてしまうと、最終的な意思決定の責任が不明確になり、問題がますます大きくなるケースもあり、注意が必要です。
チームが挑戦的な目標を持たなくなると、メンバーのモチベーションや成長意欲が低下し、組織は衰退します。
心理的安全性は、あくまでも「目標の達成」を前提として取り組むべきといえます。
デメリット2:過度なコンセンサスが形成される
ふたつ目のデメリットは、「過度なコンセンサスが生まれる」、つまりチーム内での意見の対立を避けるあまり中立的な決定が多くなる点があげられます。
「なんでも言える環境」を尊重し過ぎてしまい、チーム内での意見の対立を避けてしまうと、挑戦的な意思決定ができなくなります。
また、すべてのメンバーが同じ意見に寄り添ってしまうと、新しい視点やアイディアが生まれにくくなるかもしれません。
結果として、本音が言いにくい組織になり、メンバーの間で不満やストレスが蓄積される可能性もでてきます。
真の心理的安全性とは「傷の舐め合いをすることではない」ということは常に認識しておきましょう。
ぬるま湯組織にならないために|心理的安全性と目標達成のバランスを保つ方法
では、ぬるま湯組織を作らず、心理的安全性と目標達成のバランスを保つには、どのような点に注意すればいいのでしょうか?
そのためには、次のポイントに留意するといいでしょう。
- 過度な心理的安全性の確保は避ける(仲良し組織を作らない)
- プロセスではなく結果を評価する
- 階層別の指示系統を崩さない
過度な心理的安全性の確保は避ける(仲良し組織を作らない)
ぬるま湯組織を作らないためには、過度な心理的安全性は避け、仲良し組織を作らないようにしましょう。
リーダーの責務は目標の達成であり、単に「仲がよい組織を作ること」ではありません。
チームビルディングに重要なのは、リーダーがメンバーに対して具体的な目標やビジョンを明確に伝え、「目標達成」をチーム運営の最優先事項として捉えることです。
心理的安全性は、あくまでも目標達成のための要素に過ぎないのです。
個々のメンバーが自由でポジティブな意見を言い合える組織を作り、全員から出た意見をもとに、目標達成のための具体的なアクションを常に考えるクセをつけるようにしましょう。
プロセスではなく結果を評価する
常に前向きな組織を作るには、メンバーの取り組み姿勢やプロセスを評価するよりも、最終的に目標を達成したかどうかで評価する組織が理想です。
メンバーの頑張りやプロセスを評価しすぎると、目指すべき目標が曖昧になり成長が止まります。
リーダーは、チーム目標の達成を最重要課題とする文化を醸成するようにしましょう。
そのためにも、常にメンバーの目標達成に向け、惜しみないサポートをするのがリーダーに課せられた責務といえます。
階層別の指示系統を崩さない
ぬるま湯組織になるのを避けたいなら、階層別の役割や責任を明確にし、指示系統を崩さないようにしましょう。
例えば、360度評価などのアセスメントツールの声を重視し過ぎてしまい、マネージャーがリーダーを超えて直接メンバーに指示したり要望に応えたりすると、組織の秩序が保たれなくなります。
階層を超えた要望が通ると、部下は「上層部に意見を言えば、なんでも言う通りになる」と勘違いしてしまいます。
組織内で指示をする際には、階層別の指示系統は守るようにしましょう。
指示系統が明確であれば、誤解や混乱を避けることができ、業務の効率化にも寄与します。
まとめ
心理的安全性はチームビルディングに重要な要素ですが、間違った心理的安全性をもとに組織運営をしてしまうと馴れ合い組織ができあがります。
リーダーに求められるのは、目標達成です。
メンバーの意見を聞いたり、日々の悩みを聞いたりするのは、すべて「目標達成のため」であることは忘れないでおきましょう。