人材育成を実施する際は、人材育成ロードマップを作成した方が効果的です。
しかし、あらかじめロードマップを作成することの意義を理解していない担当者も多く、理解はしていても「どうやって作ればいいのかわからない」という声もよく聞かれます。
そこで本記事では、人材育成ロードマップを徹底解説していきます。
関連記事:人材育成とは?【具体例あり】目的や階層別の考え方、効果を上げるポイントを解説!
目次
人材育成ロードマップを作成する目的3選
人材育成ロードマップを作成する目的は以下の3つです。
- 人材育成のプランを関係者に共有するため
- 人材育成のビジョンをイメージできるようにするため
- 従業員のモチベーション維持に繋がるため
それぞれ詳しく解説していきます。
目的①:人材育成のプランを関係者に共有するため
人材育成のロードマップを作成する目的として、まず挙げられるのが「共有」です。
企業にもよりますが、人材育成には多くの従業員が携わることになります。
特にマネージャー、リーダー、人事担当者については、人材育成を実施する前の段階で、大まかな計画を共有する必要があるでしょう。
そこで、人材育成ロードマップが役立ちます。
あらかじめロードマップをPDFなどにまとめておけば、メールやチャットで一斉送信するだけで、簡単に共有可能です。
人材育成の担当者が1人で集中してロードマップを作成し、そのあとにPDFで一斉に共有するのが効率的だと言えます。
目的②:人材育成のビジョンをイメージできるようにするため
人材育成のロードマップを作成しておけば、人材育成のビジョンをイメージできるようになります。
仮に、ロードマップを作成しない状態で人材育成を進めてしまうとどうなるでしょうか。
きっと、方向性が定まらずに右往左往してしまうことでしょう。
あらかじめロードマップを作成しておけば、人材育成に携わる従業員が方向性を見失うリスクを極力抑えることができます。
人材育成のロードマップを作成して、人材育成のビジョンを明確にしておきましょう。
目的③:従業員のモチベーション維持に繋がるため
人材育成のロードマップを共有することは、育成対象者となる従業員のモチベーション維持に繋がります。
ロードマップを作成して人材育成の方向性を視覚化することで、それを見た従業員自身が将来の理想像をイメージするためです。
人材育成は、育成対象者にも一定のストレスがかかるので、どうしても楽な方向に流れてしまいます。
人材育成のロードマップを作成しておけば、育成対象者はより長期的な視点に基づいて、楽な選択肢よりも将来の自分の利益になる選択肢を選ぶようになるでしょう。
人材育成の代表的な手法5選
人材育成の代表的な手法として、以下の5つが挙げられます。
- OJT
- Off-JT
- ジョブローテーション
- eラーニング
- メンター制度
それぞれ詳しく解説していきます。
関連記事:人材育成で大切なこと7選!必要なスキルや活用できるツールをまとめて解説
手法①:OJT
OJT(On the Job Training)は実践形式の育成手法です。
基本的には上司と一緒に実践することで、部下が上司の仕事を見て学びます。
一般的には、座学である程度の知識を得た新入社員に対して、OJTが実施されることが多いようです。
例えば新卒社員の営業職であれば、3ヶ月間の研修の後、1年から3年ほど、上司や先輩社員と一緒に行動して、営業先を回っていきます。
OJTは実践形式なので、そこで得た技能がそのまま仕事に活きるのが最大のメリットです。
一方で、育成担当者である上司・先輩社員の負担が大きくなったり、育成担当者によって差が出やすかったりするのがデメリットだと言えます。
手法②:Off-JT
Off-JT(Off the Job Training)は研修形式の育成手法です。
セミナー、eラーニングなどの座学で従業員を育成します。
一般的にOff-JTは、まだビジネス経験がほとんどない新卒の新入社員に実施されることが多いようです。
特に何十人から何百人も新卒採用する大企業において、Off-JTで一括で育成を実施できるのは大きなメリットとなっています。
一方で、Off-JTは現場から離れて実施される育成手法なので、仕事に活きるスキルが身につきづらいのがデメリットとなっています。
OJTとOff-JTを組み合わせるのは必要不可欠です。
手法③:ジョブローテーション
ジョブローテーションは、様々な職場や職種を体験させることで、マルチで活躍できる人材を育成する手法です。
勤続年数が長い企業や、従業員が少ないスタートアップ企業で有効な育成手法だと言えるでしょう。
ジョブローテーションのメリットとしては、多様な経験を積めること、属人化を防げること、人的ネットワークを構築できることなどが挙げられます。
一方でデメリットとしては、スペシャリスト人材を育成できない点が挙げられるでしょう。
特に現代は転職を前提にキャリアを組むケースがほとんどなので、手に職を持ちたい若者が多い印象を受けます。
ジョブローテーションでジェネラリストを育成するのは、もしかしたら現代的ではないのかもしれません。
手法④:eラーニング
eラーニングはオンライン上で配信される研修のことです。
現在、世界中の専門家がインターネット上で教材を販売しており、それをフル活用できるのがeラーニングの最大のメリットだと言えます。
また、場所と日時を問わないので、リモートワークをキープしながら研修を実施できるのが特徴です。
一方で、従業員の自発的なモチベーションがないと、eラーニングで育成するのは難しいと言えます。
従業員のモチベーションを促す仕組みを構築した上で、eラーニングを提供するといいでしょう。
手法⑤:メンター制度
メンター制度は、年齢の近い先輩社員が部下をサポートする育成手法です。
一見するとOJTによく似ていますが、メンター制度は精神的なサポートを重視しているのが特徴となっています。
これは若手社員の3年以内離職率が高いことが背景にあるようです。
部活動における「仲の良い先輩後輩」のような関係性を目指すのがメンター制度の目的の一つとなります。
ただしOJTと同様に、メンターの質に大きく左右されるのがデメリットです。
関連記事:メンター制度は人材教育にも活かせる?導入のメリットと活用方法を解説
人材育成ロードマップの作り方
人材育成ロードマップは以下の流れで作成するのが一般的です。
- 企業理念を明確にする
- 自社が求める人物像を明確にする
- 人材育成計画を策定する
- 人材育成のシステムを構築する
- 現場定着のための施策を策定する
それぞれ詳しく解説していきます。
①:企業理念を明確にする
まずは企業理念を明確にしましょう。
10年後、20年後にどのような企業になり、どのように社会に貢献するのかを決定します。
そして、自社が何を大切にするかを明確にするのです。
ここで企業理念を明確にしておけば、逆算する形で人材育成ロードマップを作成可能です。
また、企業理念を決定する際は、内的要因だけでなく、外的要因も考慮した方がいいでしょう。
もちろん内的要因も重要ですが、競争優位を考えた時に、他社とは違った魅力を演出する必要があると言えます。
業界や社会全体においてどのようなポジションを獲得した方がいいのかを考えた上で、企業理念を決定してみてもいいでしょう。
②:自社が求める人物像を明確にする
企業理念を決定したあとは、自社が求める人物像を明確にします。
10年後、20年後の自社の理想像を見据えた時に、その際にどのような人材がいなければならないかを考えるのです。
おそらく、企業理念やビジネス戦略を決定しておけば、自社が求める人物像も容易に決定できます。
自社が求める人物像を策定する際は、具体的にどのようなスキル・価値観を持っていてほしいかをリストアップするのがいいでしょう。
③:人材育成計画を策定する
自社が求める人物像を明確にしたあとは、逆算する形で人材育成計画を策定します。
例えば、10年後の時点でグローバル人材を増やしておきたいのであれば、ビジネス英語や国際感覚を身につけられる10年計画を決定します。
10年計画を策定したら、今度は5年計画、1年計画、3ヶ月計画など、スパンを短くして、具体的なアクションプランを決定します。
関連記事:人材育成計画の作成方法とは?理想の人材が育つ計画の立て方やポイントを解説
④:人材育成のシステムを構築する
人材育成計画を策定したあとは、具体的な人材育成システムを構築していきます。
人材育成を実施する上で、どのような手法を活用し、どれくらいのお金・人材を投入するかを決定しておくのです。
特に、お金の管理は非常に重要です。
人材育成には多くの人が関わり、さらに長期間行うもののため、目に見えないコストも多く存在します。
想像以上に大きな予算を必要とするでしょう。
場合によっては、回収が見込めないぐらいにコストが肥大化することもあるため、可能な限り、お金は厳しく管理した方がよさそうです。
また、人材育成のシステムを構築する際は、人事部だけでなく、現場の意見も取り入れた方がいいでしょう。
手法によっては現場の負担が大きくなることもあるので、生産性が落ちかねません。
現場の意見も取り入れて、パフォーマンスを最大化できる人材育成システムを構築しましょう。
⑤:現場定着のための施策を策定する
人材育成システムが決定したら、いよいよ実行です。
その前に、人材育成システムを現場に定着させるための施策を策定しておきましょう。
具体例としては、ロードマップの共有、説明会の開催が挙げられます。
特にロードマップの共有に関しては、計画段階で共有してしまってもいいかもしれません。
現場から貴重なフィードバックを得られる可能性があります。
実際に現場で人材育成を実施すると、様々な問題・トラブルが発生するでしょう。
それに対して可能な限り早く対応して、少しずつシステムの質を向上させていくようにします。
人材育成ロードマップ作成の注意点
人材育成ロードマップを作成する際の注意点としては、以下の3つが挙げられます。
- 計画通りに進むことはない
- 教育者によって差が出る
- 目に見えづらいコストが存在する
それぞれ詳しく解説していきます。
注意点①:計画通りに進むことはない
人材育成ロードマップを作成する上で、「計画通りに進むことがない」ということを理解しておく必要があります。
人材育成に限った話ではありませんが、物事は基本的に計画通りに進みません。
なぜなら未来は、何が起きるかわからないからです。
では、具体的にどうした方がいいのか。
それは、どんなトラブルが起こっても対策できるように余裕(バッファ)を設けておくことです。
例えば7年計画であれば、1年間をバッファに設定しておきます。
そうすれば、もし何かトラブルが発生しても、1年の遅れは十分に許容可能です。
計画通りに進むことはない前提で、余裕を設けておきましょう。
注意点②:教育者によって差が出る
人材育成は、どのような手法でも、教育者によって大きな差が生まれます。
そのため、人材育成があまり上手ではない担当者に対するサポートが必要不可欠です。
また、ローテーションを採用して、人材育成の質を均一化させるのもいいかもしれません。
先ほど述べた「計画通りに進むことはない」も、この「担当者による差」が大きな要因となっています。
教育する人のスキル、能力だけでなく、相性といった問題もあるでしょう。
事実、退職理由のトップに必ず食い込んでくるのは「人間関係」です。
人材育成ロードマップを作成する際は、教育を担当する従業員へのサポートもしっかり用意しておきましょう。
注意点③:目に見えづらいコストが存在する
人材育成ロードマップでは、目に見えづらいコストが存在します。
例えば、以下の通りです。
- 上司が部下を指導することによって失われる時間
- コミュニケーションを促進させるための飲み会代
- 自己啓発によって失われる従業員の体力
コストはお金だけでなく、時間と健康も含まれます。
どちらもパフォーマンス、つまり利益に繋がる大切な要素です。
このような目に見えづらいコストを可視化するために、定期的に面談やヒアリングを実施するのがいいでしょう。
まとめ
それでは本記事をまとめていきます。
- 人材育成ロードマップは関係者への共有やイメージの確立で活用できる
- 人材育成ロードマップを策定する際の順番は①企業理念の決定、②自社が求める人物像の決定、③計画の策定、④システム構築、⑤現場定着
- 人材育成ロードマップを策定する際は計画通りに進まないことや目に見えづらいコストを理解しておいた方がいい
人材育成を実施する前に、あらかじめロードマップを作成しておいた方がいいでしょう。
なぜなら人材育成は長期的な視点が必要不可欠だからです。
最低でも1年の時間をかける必要があるため、目的を見失わないようにする必要があります。
人材育成ロードマップを作成することで、適切に人材育成を進められるはずです。