内示とは、ビジネスにおいて、非公式に人事異動情報を本人を含む一部関係者に通達することです。
内示は企業の人事にとって重要なものですが、機密情報であるためさまざまなトラブルが生じることもあります。
この記事では内示とは何かを詳しく解説し、内示の際に生じるトラブルや内示を秘密にしておく理由などについて紹介します。
目次
内示(人事異動情報)とは
内示という言葉には、「情報を内々で伝えること」や「非公式に知らせること」といった意味があります。
一方でビジネスにおける内示は人事異動の通達の際に使用され、人事異動を公式に示す前に、非公式で対象者や一部の関係者などに対して内々で示すことです。
また、人事異動には下記のような種類が挙げられます。
- 転勤:働く場所がこれまでの場所と変わること
- 昇格:職能資格の階級が上がること
- 昇進:職位(役職)が上がること
内示と辞令の違い
内示と混同されがちな言葉に「辞令」がありますが、辞令は企業が従業員に対して転勤や異動、昇進、降格などの決定について公式に知らせるための公式文書のことです。
人事異動の際は、対象者に「内示」を通達してから、タイミングを見計らって公式文書の「辞令」を出すことになります。
内示の目的
なぜ、辞令の前にわざわざ内示を出す必要があるのでしょうか?
その目的は、人事異動に伴うさまざまな準備をする期間を設けることにあります。
人事異動の際には手続きや業務の引き継ぎ、心の準備や生活環境を整えることなど、さまざまな準備が必要です。
したがって、企業は人事異動のときに対象者に突然伝えるのではなく、前もって内示を出すことが求められます。
原則として断ることはできない
内示を出された際、従業員は断ることができるのでしょうか?
結論から言うと、原則として断ることはできません。
なぜなら、内示が出された時点で既に辞令が出ることが決定しているためです。
厳密には、内示の目的としては人事異動に伴うさまざまな準備期間を用意することだけではなく、内示の段階で対象者に断る機会を与えるという点も挙げられます。
というのも、内示は業務命令ではなく法的な拘束力もありません。
そのため、適切な理由がある場合は拒否することも可能ではありますが、その希望が通らないケースもあります。
関連記事:中小企業が導入するべき人事評価制度とは?活用ポイントを解説
内示が秘密である必要性とは
辞令が出るまでは内示について公にしてはいけませんが、一般的にはその期間は1ヶ月から2ヶ月ほどとなります。
では、内示が秘密裏に行われる必要性はどこにあるのでしょうか?
ここでは、なぜ内示を明かしてはいけないのか、その理由を解説していきます。
戦略的な理由
従業員の役職や職位が重要な場合、経営戦略における機密性は高まります。
例えば、代表取締役の内示が計らずも公になってしまうと、株価に悪影響を及ぼす可能性があります。
なぜなら投資家が「代表取締役が変わることで企業が不安定になるかもしれない」と危惧するからです。
辞令までの悪影響を抑えるため
内示が秘密である理由は、業務への悪影響を抑えるためでもあります。
内示から辞令の間に内示の情報が漏れてしまうと、社内に不和が生じて信頼関係が損なわれるなど、従業員に悪影響が及ぶ危険性があります。
また、辞令は出されると変更できませんが、内示は調整可能な段階であるため、調整や取り消しが可能です。
まだ未確定な部分があるため、公にしてしまうことで混乱が生じることのないよう、内密にしておく必要があります。
内示を出す時期と秘密にしなければならない期間とは
従業員に内示を出す時期は企業によっても異なりますが、概ね辞令を出す1~2ヶ月前です。
内示から辞令までの期間は、従業員が異動のための準備を整える期間でもあります。
そのため、転居を伴う異動の場合や家族がいる場合、海外赴任の場合などには、3~6ヶ月前に内示が出されることも珍しくないでしょう。
従業員が内示を受けてから秘密にしておかなければならない期間は、異動の事実を知ったときから辞令交付されるまでです。
つまり、長い場合は6ヶ月ほど秘密にしておく必要があります。
企業によっては辞令交付の約1週間前に内示を行うところもありますが、たとえ期間が短くても、内示を受けて辞令が出されるまで、従業員には少なからず黙っておかなければならないという心理的な負荷が生じます。
さらに秘密にしなければならない期間が長ければ長いほど、漏洩のリスクも高まるでしょう。
そのため、内示を出す時期は慎重に決定しなければなりません。
内示が漏れてしまう背景・原因とは
なぜ、内示(人事異動の情報)が漏れるのでしょうか?
主に下記のようなケースが考えられます。
- 人事異動に納得せず周囲に相談する
- 望む人事異動のため喜びのあまり明かしてしまう
- 業務の引き継ぎなどから漏洩してしまう
- 人事異動情報を持つ担当者の不注意
内示が漏れてしまう原因としては、対象者がうっかり周囲に話してしまうケースが多いですが、内示を出す側や人事異動情報を持つ担当者の不注意によって漏洩してしまうケースもあるため、注意しなければなりません。
情報管理のルールを設けていない・機能していない
「内示は口外禁止である」など社内で人事情報の管理ルールを設けていない場合は情報漏洩が起こりやすいと言えます。
また、ルールがあっても形骸化していて機能していない場合も、漏洩のリスクが高まるでしょう。
内示に限らず社内の機密情報の漏洩を防ぐには、各種情報の取り扱いについて社内の統一ルールを定めて明文化する必要があります。
さらにルールは、従業員の日常業務に則していて運用しやすいものであることがポイントです。
内示情報の受け手の感情を刺激してしまう
内示の内容に納得がいかない、うれしさを隠しきれないなど、内示が本人や周囲の人の感情を刺激してしまうと口外しやすくなり情報漏洩のリスクが上がります。
このような事態を防ぐためには、普段からキャリアプランやビジョンなどについて企業と従業員が情報を共有しておくと良いでしょう。
ある程度内示が予想できたり、受け入れやすくなれば、感情を刺激することなく落ち着いて内示を受け止められるはずです。
内示(人事異動情報)が漏洩するリスク・デメリット・注意点を解説
万が一、内示が漏洩するとさまざまなデメリットが生まれます。
そのため、内示を伝える際には本人や関係者に対して情報漏洩のリスクをきちんと伝え、口外禁止であることを徹底しておきましょう。
処罰を設けるのも一つの方法です。
内示が漏洩することで起こる代表的なリスクやデメリット、注意点は以下の通りです。
- 従業員の離職につながる
- 従業員のモチベーション低下や業務効率の低下を招く
- 従業員や取引先などから信用を失う
- 内示の取り消しや内容の変更を迫られる
- 内示情報を悪用される
一つずつ見ていきましょう。
従業員の離職につながる
辞令や本人に内示を伝える前に内示情報が漏洩してしまうと、人事異動の対象となった従業員が内示の内容に納得できず、企業に不満を抱いたり失望したりして離職を選んでしまうリスクがあります。
また、離職のリスクは内示の対象者だけではありません。
異動先に内示対象者と相性の悪い従業員がいる場合などは、一緒に働くことに不安やストレスを感じて離職するケースもあります。
従業員のモチベーション低下や業務効率の低下を招く
内示の情報漏洩は、従業員のモチベーションの低下や業務効率の低下を招くリスクがあります。
もし、内示の内容が対象者の希望に沿っていなかった場合や納得がいかない場合、本人または関係者の仕事へのモチベーションは低下してしまうでしょう。
するとネガティブな感情が社内に広がって、全体の士気を下げることにもつながります。
士気が下がると仕事へのモチベーションも下がり、その結果、業務効率が落ち、社内に混乱を招いてしまうリスクがあります。
従業員や取引先などから信用を失う
内示の情報漏洩は、企業の信用問題にも大きくかかわります。
辞令交付前に内示が公になってしまうと、真偽がわからず社内は混乱します。
すると、企業の情報管理の甘さから、従業員は企業に対して不信感や不安を抱いてしまうでしょう。
信用を失うのは社内からだけではありません。
取締役などの異動情報が社外に漏れることで、情報管理が徹底されていないという印象を与え、取引先企業からの信用も失います。
場合によっては、社会的信用を失うこともあるでしょう。
内示の取り消しや内容の変更を迫られる
人事異動情報が漏れてしまうと、対象となっている従業員のなかにはショックを受けたり、不満を抱いたりする人もいるでしょう。
すると、その従業員が内示を拒否したり、抗議して取り消しを求めたりなどして、社内に悪影響を及ぼすリスクがあります。
社内の混乱は企業にとって損失であるため、最悪の場合、企業は内示の取り消しや変更を迫られるかもしれません。
内示情報を悪用される
代表や取締役役員など、企業経営に大きな影響を与える立場の人の人事情報が競合他社に漏洩すると、他社に悪用されるリスクもあります。
他社が知り得た人事異動の情報をわざと口外して取引を行い、自社を優位に立てるように利用するかもしれません。
その結果、売上が減少したり株価が暴落したりなど、自社に大きな不利益が発生するかもしれません。
さらに、取引先との関係も悪化するリスクがあります。
内示(人事異動情報)の漏洩を防止する4つの対処法を紹介
内示の漏洩は、企業にとってリスクが大きい課題です。
場合によっては社会的信用を失ってしまうため、命取りになりかねません。
内示の漏洩を防ぐためには、あらかじめ対処法を考えておく必要があります。
ここでは、以下の4つの対処法について詳しく解説します。
- 内示に関する社内ルールを定める
- 情報共有の仕組みを作りルールを守れる環境を整える
- 従業員教育を行う
- 内示後のフォローを徹底する
内示に関する社内ルールを定める
内示の漏洩防止対策で最初にやるべきことは、内示に関する社内ルールの作成です。
まず、内示を誰まで知らせるか範囲を明確にします。
本人が勝手な判断で同僚に話してしまったり、家族に話してしまったりすることで、漏洩につながるパターンは少なくありません。
先に内示を共有しても良い範囲を決めておくと情報漏洩を防げます。
内示を秘密にしておく期間を事前に伝えることも大切です。期限がないと、いつまで秘密にしなければならないのか不安になる人もいるでしょう。
秘密にしておく期日を設けて伝えることで、内示の対象者も安心できます。
さらに、内示の伝え方も決めておくと伝達ミスによる情報漏洩を防げます。内示は、基本的に後に残らない口頭で行いましょう。
情報共有の仕組みを作りルールを守れる環境を整える
次に、策定したルールを守りやすい環境を整備します。
内示はある一定の関係者の中で共有されるものですが、情報の伝わり方にタイムラグがあると個人の間で解釈にバラつきが生まれてしまいます。
内示情報を伝えるときは定例会で行うなど、個々でライムラグが発生しないような仕組み作りが大切です。
デジタルツールもうまく活用して、内示のルールを守れる環境を整えましょう。
従業員教育を行う
内示情報のルールを定め運用しやすい環境を整えても、従業員にそのルールを守る意識や情報リテラシーがなければ意味がありません。
従業員に教育を行って、内示情報の漏洩はコンプライアンス違反であると理解してもらいましょう。
情報セキュリティに関する法令は頻繁に更新されるため、情報リテラシー教育は定期的に従業員に行うことが大切です。
社内規定も定期的に見直したほうが良いでしょう。
社内ルールに違反した場合、罰則を設けておくと情報漏洩防止につながります。
内示後のフォローを徹底する
内示を受けた従業員は、辞令交付まで口外してはならないというプレッシャーを感じています。
加えて、内示の内容によっては異動を不安に感じていることも少なくありません。場合によっては、モチベーションの低下も招きます。
そのため企業は内示後に対象者の不安に寄り添い、負担を軽減するよう努めなくてはなりません。
転居を伴う異動の場合やキャリアチェンジにつながるような部署異動の場合などは、特にフォローを徹底してください。
まとめ:内示が漏れない組織を作り出すために
内示が漏れてしまうことを避けるためには、基本的なルールを従業員に守らせることが大切です。
ルールには、誰でも守れるルールとそうではないルールの2種類があります。
- 誰でも守れるルール:出社と退勤の挨拶をする
- 守れない可能性があるルール:売上目標を達成する
上記2つのうち、誰でも守れるルールを徹底することで、内示の漏洩を防ぐことができるようになります。
あくまでも例でしかありませんが、組織の健全化、透明性を守るためには「組織のルールを徹底し、形骸化させない」ことが大変重要なのです。
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