プロジェクトの成功には、ステークホルダーマネジメントが必須です。
ステークホルダーとはプロジェクトの利害関係者のことを指し、プロジェクトの進行に大きく影響を与える存在としてエンゲージメントの監視とコントロールをしていくことがプロジェクト管理には必要不可欠です。
この記事を読むことで、
- ステークホルダーマネジメントの重要性がわかる
- ステークホルダーマネジメントの方法がわかる
- ステークホルダーとの適切なコミュニケーション方法がわかる
ようになります。
ステークホルダーマネジメントの基本的な知識と実践方法を身に着けて、プロジェクトを成功に導きましょう。
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目次
ステークホルダーマネジメントとは「利害関係者の管理」
ステークホルダーマネジメントとは、企業やプロジェクトに関する「利害関係者」を「管理」することです。
ステークホルダーと聞くと「株主」のことをイメージする方もいるかもしれません。本来は株主を指す言葉でしたが、企業の経営やプロジェクトを進行していくうえで影響を与え合う関係性の「利害関係者」を指します。
したがって、「利害関係者の管理をすること」という意味になるのです。
ステークホルダーの対象者は幅広く存在する
ステークホルダーは企業経営やプロジェクトに関する利害関係者だと説明しましたが、実際にはどのような人が当てはまるのでしょうか?
具体的には、株主や経営者、取引先、顧客、自社で働く従業員、さらには地域住民までもステークホルダーとなります。そのほか、金融機関や行政機関、企業と関わりがある地域社会や自治体なども含まれています。
実に多くの対象が当てはまっていると言えるでしょう。
ステークホルダーマネジメントの目的は「良好な関係の構築」
ステークホルダーマネジメントの目的は、利害関係者と良い関係を保ち、プロジェクトの進行を円滑に進めていくことです。
ステークホルダーには多くの対象者が当てはまるため、中にはプロジェクトに否定的な人もいます。そのような人を特定し、いかに関係を改善していくかが重要になります。
例えば、プロジェクトメンバーの関係を良好に保っていても、否定的な意見をもつ利害関係者を特定できていなければ、土壇場になって急にプロジェクトにストップをかけられてしまうかもしれません。
このようなことを避けるためにも、利害関係者の特定をして管理しておくことは非常に重要になってきます。また、コミュニケーションを密にとっていることで、情報共有もしやすくなり、プロジェクトの進行がスムーズになります。
ステークホルダーマネジメントが重要な理由
いま、ステークホルダーマネジメントに注目が高まっている理由は下記の3点です。
- 多様化する社会で利害関係が複雑化している
- PMBOKガイドで10のマネジメント領域の1つに位置づけられた
- 良好な関係の構築と維持を実現できる
それでは1つずつ解説していきます。
多様化する社会で利害関係者が複雑化している
理由の1つは、多様化する現代社会において利害関係者が複雑になってきているからです。働き方もビジネスもグローバル化・多様化が進んだ結果、ステークホルダーもまた複雑になり、重要度も増しています。
したがってこれまでのプロジェクトの進め方では、思いもよらない利害関係者が突然現れて、プロジェクトの進行が止まってしまったり、トラブルに巻き込まれることがあります。しかし、利害関係者の管理を念入りにしておくことで、このような問題を回避することが可能となるのです。
PMBOKガイドで10のマネジメント領域の1つに位置づけられた
PMBOKとは、プロジェクトマネジメントの知識や方法をまとめたガイドブック「Project Management Body of Knowledge」の略称です。アメリカの非営利団体であるPMI(プロジェクトマネジメント協会)が発表しており、プロジェクトマネジメントの世界標準として知られています。
多様化するステークホルダーの現状を受け、「PMBOK」では下記のように10あるマネジメント領域の10番目にステークホルダーマネジメントを新しく追加しました。PMBOKでは1996年以降マネジメント領域の新設は一度もなかったため、世界的にステークホルダーマネジメントに注目が高まっていることがうかがえます。
- 統合マネジメント
- スコープマネジメント
- スケジュールマネジメント
- コストマネジメント
- 品質マネジメント
- 資源マネジメント
- コミュニケーションマネジメント
- リスクマネジメント
- 調達マネジメント
- ステークホルダーマネジメント
マネジメント領域は現代社会の多様性や、それぞれが働く環境に応じて細分化されていますが、いまやその1領域として扱われてるほど重要視されているということです。
良好な関係構築と維持を実現できる
全ての利害関係者と良好な関係性を築き、それを保つことはプロジェクト成功のために非常に重要な要素です。
例えば、社内のプロジェクトメンバーと良好な関係性を築き、質の高い内容をまとめたとします。しかし、それが素晴らしい内容だとしてもプロジェクト進行中、決定権を持つ外部発注者が急な方針変更を望めば、スケジュールに大幅な遅れが発生しかねません。
このような状況を避けるために、全てのステークホルダーを洗い出しておく必要があります。お互いに信頼関係を構築しておくことで普段から情報共有ができ、突発的な方針変更などのイレギュラーも事前に把握できます。
ステークホルダーの分析方法
ステークホルダーの分析方法は下記の3つがあります。
- それぞれの考え方を把握する
- それぞれの影響力を把握する
- 影響力は複数の評価軸から分析する
それでは1つずつ解説していきます。
それぞれの考え方を把握する
マネジメントを行う前に、ステークホルダーそれぞれを対象にした分析が必要です。
特定の利害関係者は、プロジェクトに対してどのような考えを持っているのか。前向きなのか、後ろ向きなのか、中立なのかというスタンスを正確に把握しているか否かが、実際のプロジェクト進行に大きな影響を与えます。
つまり、ステークホルダーがプロジェクトの潤滑油になるか、障害になるかどうかの見極め作業です。
それぞれの影響力を把握する
ステークホルダーの考え方を分析するとき、同時に影響力の大きさも調べておきましょう。
ここでの影響力は、ステークホルダーがプロジェクトにどれだけの関心を寄せているか、決定を左右する力をどれだけ持っているかなどを指します。
正確に把握することで、プロジェクト進行中の連絡に対しての優先度や時間、手間のかけ方が明確になっていきます。
影響力は複数の評価軸から分析する
ステークホルダーの影響力を把握するために、実際どのように手法を用いて分析を行えばいいのでしょうか。さまざまな方法の中のひとつに、複数の評価軸を使用したものが存在しています。
評価軸は5つです。
- 利益:プロジェクトに関する意思決定で発生するであろう利益や損害の有無
- 権利:法的権利や道徳的権利を持ち合わせているか
- 所有権:資産、財産の法的な権利を持ち合わせているか
- 知識:プロジェクトに有益な知識を所持しているか
- 貢献:プロジェクトに効果的な人材や資源、付加価値をもたらすサポートができるか
この5つの軸を活用しながら影響力を評価して考え方と組み合わせることで、ステークホルダーを明確に分析することができます。
ステークホルダーの分析で得られる効果
ステークホルダーの分析を行うことで、プロジェクト進行時に企業が各ステークホルダーに対して取るべき行動やその程度が明らかになります。
例をあげると、綿密にコミュニケーションを取るべき相手は誰か、さらにデザインの決定責任権持っているのは誰か、高い資産力を持つのは誰か、プロジェクト全体の問題に対して強い影響を及ぼすのは誰か、などです。
それぞれの役割を明確にしておくことで、ステークホルダーにプロジェクトの方向性を変えられるなどのハプニングを避けられるでしょう。
ステークホルダーマネジメントの実施方法
それでは実際に、ステークホルダーマネジメントを実施する方法をみていきましょう。
その基本的な方法は下記の4ステップになります。
- 特定、洗い出し
- マネジメントの計画
- エンゲージメントの管理
- エンゲージメントの監視
それでは1つずつ解説していきます。
ステークホルダーの特定・洗い出し
ステークホルダーマネジメントのステップ1は、プロジェクトに関係する利害関係者を洗い出すことです。プロジェクトに影響を与える人物だけでなく、組織もリストアップしていき、利害関係・影響度の大小をまとめていく作業になります。
このとき、ただステークホルダーの名前を集めるのではなく、役割や影響度とともにプロジェクトを進める人全員で情報を共有することが重要です。
このような洗い出し作業をすることで、プロジェクトの進行中にどのステークホルダーとどのようなコミュニケーションをとっていけばいいかがわかりやすくなります。
ステークホルダーは2種類存在する
ステークホルダーは、直接的ステークホルダーと間接的ステークホルダーの2種類に分けることができます。どのような違いがあるかを解説していきます。
直接的ステークホルダー
企業の活動に直接的に影響をもたらす存在を、直接的ステークホルダーと呼びます。
顧客や消費者のような人物はもちろん、所属する従業員、取引先や株主など、企業に対して意思決定権を持つ人などが対象です。
間接的ステークホルダー
企業の活動に対して直接的ではなく、間接的に影響を与える存在を間接的ステークホルダーと呼びます。
該当しているのは労働組合、従業員の家族、行政機関、自治体や地域社会などです。一時的もしくは間接的に影響をもたらす存在のため、直接的ステークホルダーと異なり意識しづらい存在です。
しかし、非常に重要な影響をもたらすこともあるため、間接的ステークホルダーにも細やかな目配りをしておく必要があるでしょう。
ステークホルダーマネジメントの計画
ステークホルダーを特定したら、次のステップではステークホルダーマネジメントの計画を立てていきます。
その計画内容は、利害関係者に対してどのようにプロジェクトに関わってもらうかを決める戦略のようなものです。課題になりうる問題の特定とディスカッションの開催、仕様の確認、進捗報告の頻度など細かく決定していきましょう。
ステークホルダーを洗い出した際に書き出した役割や重要度などの情報を元に、合理的な計画を立てることでスムーズなプロジェクト進行を目指すことができます。
ステークホルダー・エンゲージメントの管理
ステップ3は、ステークホルダー・エンゲージメントの管理です。
エンゲージメントとは、一般的には従業員の会社に対する強い思い入れや愛着心という意味で使われますが、ここでは「満足度」のような意味合いで用いられます。つまり、ステークホルダー・エンゲージメントの管理とは、プロジェクトの利害関係者の満足度を管理して高めることです。
ここでもやはり、こまめなコミュニケーションを欠かさず、良好な関係を築くことが重要になります。具体的には下記のような方法です。
- 会議
- 課題を探すためのディスカッション
- 進捗報告
エンゲージメントを適切に管理していくには、主に利害関係者の人間関係とプロジェクトチームへの心配りが重要です。プロジェクト進行ではリソースの不足や、課題の優先順位、人それぞれの仕事の進め方など、衝突が生じる要因は少なくありません。こういった問題を解決するために、常に目を光らせておく必要があります。
ステークホルダー・エンゲージメントの監視
最後のステップが、エンゲージメントの監視です。このステップでは、プロジェクトが進むにつれて変化するステークホルダーとの関係性を監視し、コントロールするのが主な目的になります。
例えば、「プロジェクトの初期段階ではコンセンサスがとれていたことが、プロジェクトの進行とともに少しずつコンセンサスが破られるようになった」といった問題が生じて、初期の計画が形骸化してしまうことも少なくありません。
そのような事態に陥らないためにも、必要なのがステークホルダー・エンゲージメントの監視とコントロールです。プロジェクトのスタート時点にとったコンセンサスが破られていないかを見張り、破られていれば報告し、改善を促します。
ステークホルダーマネジメントではコミュニケーションが重要
ステークホルダーマネジメントにおいて重要な点の1つは、ステークホルダーとのコミュニケーションです。
関係者全員が仲良く円満なままプロジェクトを完了することが理想ですが、実際はそううまくはいきません。だからこそステークホルダーマネジメントが重要視されているのです。
ステークホルダーも人間だからこそ、不満やストレスが溜まることもあり、プロジェクトの進行に私情を挟み込むこともあります。
日頃のコミュニケーションが大切
ステークホルダーマネジメントにおけるコミュニケーションでは、戦略的なコミュニケーションも重要になりますが、日頃から積極的に自然体で利害関係者と関わる姿勢が重要です。
プロジェクト関係者のそれぞれの特徴を知るには、日頃の関わりを積み重ねるほかありません。進捗具合や課題といった重大で共有すべき情報は、書面ではなく口頭でディスカッションするようにしましょう。
丁寧かつ戦略的なコミュニケーションが、円滑な交渉や計画調整へつながります。
相手も人間ということを忘れない
ステークホルダーとの円滑なコミュニケーションをとるためには、相手も感情を持った人間だということを忘れないようにすることが大切です。
たとえば、ステークホルダーAは積極的な協力者だが、プロジェクトへの影響力が少ない。Bに承認してもらわなければ進まない事項があるが、プロジェクトに消極的。Cは強い影響力を持ち、プロジェクトにも理解を示している。
このような個々の特徴を可能な限り迅速に把握することが、ステークホルダーマネジメントにおけるコミュニケーションでは重要です。
その結果、誰に何を頼むか明確になり、プロジェクトを円滑に進められるようになります。相手を知り、相手の立場を考えながら接する、相手に対する思いやりを忘れないのは、通常の人間関係と同じように重要だと意識しましょう。
1番のプロジェクト失敗原因はコミュニケーション不足
ある調査では、プロジェクトが失敗した原因で最も多い理由が「コミュニケーション不足」だとしています。
プロジェクトに参加していた人物のなかで「自分はプロジェクトに無関係だ」と思っていたメンバーが多く、このような認識は「傍観者効果」という心理現象による影響とみられます。
集団の人数が多ければ多いほど、人は問題に対して自らが介入行動を起こす確率は下がってしまいます。プロジェクト関係者を傍観者にさせないためには、プロジェクトの情報共有や課題のディスカッションを積極的に行い、当事者意識を持ってもらう努力が必要なのです。
ステークホルダーマネジメントは無視できない
ステークホルダーの存在を正しく理解すると、マネジメントは大きく改善します。
「ステークホルダーは感情を持つ人間」ということを忘れず、相手とのコミュニケーションを重ねて良好な関係性を築くことが重要です。
情報共有、利害関係の調整なども含め、適切なステークホルダーマネジメントが実践できてこそ、プロジェクトの障害を減らし、成功に導くことが可能となるでしょう。