新型コロナウイルスの広がりが始まってから、間もなく1年になります。
イベントなど日本社会は少しずつ「日常」に近づこうという動きはありますが、ここに来て再び感染拡大が報じられていて、収束は簡単に見通せません。
過去の感染症に学べば、数年にわたってこの影響が続くのは必至です。
その中で「ニューノーマル」に対応したマーケティングのあり方も変わってきており、環境に適応しなければ、企業経営はさらに厳しい状況に追い込まれるでしょう。
パンデミックから今までの間に、消費者の意識は揺れ動いています。
各種データを見てみましょう。
目次
影響は数年続く
まず足下の状況です。
再流行がみられるとして、この秋になってフランスやドイツではすでに改めてロックダウンが実施されています。
日本でも感染者増加の報道が続いています。
冬場に再流行する可能性については以前から触れられていましたが、現実になってもおかしくない状況にあります。
また、経済的には厳しさが増しています。
店舗での飲食や近隣の観光に出かける人が少しずつ増えている印象はありますが、消費支出は前年同月比でマイナスが続き、マイナス幅は時を追うごとに拡大中しています(図1)。
図1 家計調査報告 2020年9月分(総務省)
https://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/index.html
こうした状況にあっては、「いずれ収まるだろう」という楽観的な見通しを持つことは賢明ではありません。
なお、今回の新型コロナウイルスの流行はスペイン風邪によく例えられます。
100年前に流行したスペイン風邪は、3年間に渡って死者を出し続けました(図2)。
図2 スペイン風邪の死者数(出所「通商白書2020」p24
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2020/pdf/01-01-01.pdf
厳しい環境が数年単位で続くことを前提にした企業経営が必要です。
変化への対応はまだ「模索中」
電通が、コロナ以降の消費者意識についての定期調査を行っています。
消費者の心理ステージを、
①混乱、動揺:感染が広がりをみせる中で、今後どのように自身の生活に影響が出るか分からず、対策を行うことに混乱や不安、怒りを感じる。
②変化への対応:感染拡大に伴い日々の生活を変えていくようになった。動揺や不安を感じる瞬間もあるが、今は自分にできることに集中している。
③順応・適応:自体が発展するに従い、徐々に新しい生活スタイル(ニューノーマル)に慣れ、適応できるようになってきた。
④収束の兆し:国や地域、身近なつながりの中で、自体が収束に向かい始めていると感じる。少しずつもとの日常に戻り初めていると感じる。
⑤収束後の生活へ:自体が収束し、感染に対する恐怖もなくなり、もとの日常生活(仕事や普段の生活)を取り戻した。
という5段階に分けています。
その上で、4月以降の生活者はどのステージにいるかを定点観測するものです(図3)。
図3 生活者の心理ステージ(出所「電通、新型コロナウイルス日米定点生活者意識調査第8回目を実施」電通)
https://www.dentsu.co.jp/news/sp/release/2020/1016-010247.html
最新の調査が9月16日から18日の間です。
日本の様子を見ると、まだ13%が「混乱・動揺」の中にあり。最も多いのは「変化への対応」段階です。
ステージ3「順応・適応」以降の心理状態にある人とそれ以前の段階にある人の割合は半々といった結果になっています。
また、ステージ1の段階にある人の数が決して右肩下がりというわけではなく、増減を繰り返しています。
他にもいくつかの意識調査がありますので紹介します。
まず、ジャパンネット銀行の調査では、現在の「巣ごもり生活」を今後も続けたいかという質問に対し、「続けたい」と「続けたくない」が50%ずつという結果になっています(図4)。
図4 巣ごもり生活について(出所「withコロナ150日間、日常生活と価値観の変化を調査」ジャパンネット銀行)
https://www.japannetbank.co.jp/company/news2020/200825.html
また、テレワークで出勤回数が減ったり、混雑を避けるために郊外へ引っ越す人が増えるのではないか、という憶測もありますが、大東建託の6月時点での調査では、
・「コロナをきっかけに郊外へ引越しを考えている」:5.3%
・「コロナをきっかけに都心への引越しを考えている」:5.3%
と、この時点では拮抗しています[1]。
電通の他の調査では、このようなものがあります。デジタル消費の動向です(図5)。
図5 コロナ禍で利用したデジタルサービスの継続利用意向(出所「コロナ禍におけるデジタルネイティブ世代の消費・価値観調査」電通)
https://www.dentsudigital.co.jp/release/2020/0928-000626/
緊急事態宣言の発令や外出の大幅な自粛要請があった時期には様々なオンラインサービスの利用者が増えました。
しかしそれらを継続したいかどうかというと、こちらも半々と言える結果になっているのです。
巣ごもりを楽しんでいる人ばかりとは限らず、メディアの報道で見聞きするイメージとは必ずしも一致しない消費者の姿が浮かび上がります。
まさに「人それぞれ」、個人の生活や嗜好がダイレクトに消費行動に繋がる時期にあります。
言い換えれば「多様化」への対応がますます求められることになります。
ニューノーマルへの環境適応
ビジネスの上では「非接触・非対面」の標準化の必要性が叫ばれ、実際、飲食店では宅配を標準化したり、営業の場面でもzoomが使われたりするなどの対応は比較的浸透しています。
そして今、その先を提案するビジネスが登場しはじめています。
まずはJR東日本です。
時差通勤の時間帯の利用者にポイントを還元するというサービスを来春から実施すると発表しています(図6)。
図6 JR東日本の時差通勤ポイント還元事業イメージ(出所「多様化する通勤スタイルに合わせた JRE POINT の新サービスについて」JR東日本)
https://www.jreast.co.jp/press/2020/20201110_ho01.pdf p1
通常のピークタイムの前後を「早起き時間帯」「ゆったり時間帯」として、これら2つの時間帯の入出場に対してポイントを還元するというものです。
このビジネス展開は、生活者にニューノーマルを提案・提供するだけでなく、SUICA事業の拡大にも寄与します。
ワークライフバランスの見直しを見込むと、SUICAによるお買い物などさらに事業全体でに貢献する可能性も高いと言えるでしょう。
また、松屋銀座はタクシー事業者チェーンと組んで買い物代行サービスを開始しています。
長引く在宅の間、食材を運んでくれるのはありがたいサービスであると同時に、「デパ地下」に行く機会が減っている人も少なくありません。
そんな中、巣ごもりのちょっとした贅沢を楽しもうという層のニーズにも合致するでしょう。
年末商戦を見据えたサービス開始ですが、高齢社会との相性も良いものです。
消費者は利便性にいったん慣れると元には戻りません。
新しいニーズへのいち早い対応であり、なおかつ「ニューノーマルとして定着」できるビジネスである点も特徴的です。
消費行動を分析し自社の役割を再定義しよう
なお電通の調査では、デジタルネイティブに消費行動の中に「熱中行動」という要素を見つけ、それをさらに下のように分析しています(図7)。
図7 デジタルネイティブの消費パターン(出所「コロナ禍におけるデジタルネイティブ世代の消費・価値観調査」電通)
https://www.dentsudigital.co.jp/release/2020/0928-000626/
ただ単に「デジタル消費が増える」と括ってしまうのではなく、個性や嗜好によって「なぜ」「何を」消費しているのかに踏み込んだものです。
上記は「便利」を超える心理的満足の類型です。
闇雲な「非接触」「デジタル化」ではなく、どのタイプのデジタル消費者をターゲットとするのか、と言う分析です。
また、自社サービスを分割して考えてみることも必要です。
先の銀座松屋との提携で使われるタクシーの場合を例えにしてみると、タクシーは元々「人を運ぶ」サービスです。
しかしその「運輸」の部分と「個人接客」の部分を切り離した時、運ぶものは人でなくてもよく、接客は「買い物代行」という形式でも良いということになります。
このように自社を「社会インフラ」と捉えた時、その根源的な機能は何なのかを考え、絞り込むことが、新たなマーケティングの第一歩です。
すると、適応先の選択肢が広がります。
企業の枠を一度取り払う「デフレーミング」を実施する、ということです。
環境が変わり新たなニューノーマルが生まれつつある中で、消費者の求めるものは何なのかを、まずは冷静に正しく把握する。
その上で、自社の役割を根源のレベルで定義して、新たなニューノーマルの中で何に適応していくのかを再定義する。
それこそが、withコロナ時代の企業経営に求められるマーケティングであり、マネジメントではないでしょうか。
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参照
[1]「新型コロナウイルスによる住まいの意識変化やテレワーク実施状況を調査」大東建託ニュースリリース
https://www.kentaku.co.jp/corporate/pr/info/2020/coronachosa2020.html
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