2020/04/16

「Ⅰの部」から読み解く、マネーフォワードの資本政策は、”超先行投資型”

企業がビジネスを遂行するに当たり、どのようにして資金調達を行うかは最重要テーマの一つと言えます。
資金調達には、その場面において、企業がどのような意図を持って自社を成長・発展させていこうとしていたかということが如実に現れてきます。
調達金額がどれほどの規模であるかということのみならず、誰から、どのような方法で資金調達を行ったかということも重要です。
また、その資金調達によって、企業が思った方向へ発展を遂げることができたのか、それとも迷走してしまい軌道修正を迫られたのかということは、次回以降の資金調達の内容に反映されていくことになります。

このように、企業の資金調達を分析することは、その企業の特徴や哲学などを浮かび上がらせ、私たちに大きな示唆を与えてくれる、非常に興味深い作業と言えるでしょう。

企業の資金調達をうかがい知るための手掛かりとして私たちに開かれている資料に、「新規上場申請のための有価証券報告書(Iの部)」(以下「Iの部」といいます。)というものがあります。
Iの部は、日本国内の証券取引所に上場を希望する企業が、各証券取引所の上場規程に従い作成する書類です。Iの部を読み解くことにより、上場以前の成長段階において、その企業がどのような資本取引を行っていたかを知ることができます。
そして、資本取引の流れを、企業の成長曲線と重ね合わせて分析することによって、よりリアルな形で企業のたどってきた道筋をトレースすることができるのです。

この記事では、主にIの部を読み解き、分析することにより、企業の創業以来の資本取引を、第三者の視点からあたかも将棋の感想戦のように振り返ります。
そして、その背景にあった資本政策の意図を考察することによって、企業の資本政策に関する学びを得ることを目的とします。

今回は、分析対象の企業として、東証マザーズ上場企業の「株式会社マネーフォワード」(以下「マネーフォワード」といいます。)を取り上げます。

マネーフォワードは、2012年5月の創業以来、活発に株式の第三者割当による増資を繰り返し、2017年9月に第6期目にして東証マザーズにスピード上場を果たした、FinTech関連企業の先駆けと言える企業です。
個人事業主の方であれば、マネーフォワードの提供するクラウド会計ソフトの利用を一度は検討したことがあるのではないでしょうか。マネーフォワードは、個人向けクラウド会計ソフトで大きなシェアを持っています。
また、マネーフォワードは金融機関や会計事務所、中小企業などに対するBtoB領域においてもクラウド会計ソフトを提供しており、個人向けと並ぶ売り上げの柱となっています。

マネーフォワードのきわめて特徴のある資本政策を振り返り、その企業哲学と経営戦略を読み解きます。

 

1.創業期の資本政策~創業から第3回新株発行まで

 

それでは早速、マネーフォワードの資本政策について、創業期から時系列に沿って見ていきましょう。

マネーフォワードは、2012年5月18日に「マネーブック株式会社」として設立されました。その際、創業メンバー8名による合計1475万円の出資が行われています(第1回新株発行)。

さらに、2012年9月28日には、創業メンバーの中でも中心的な役割を担う3名により、追加で525万円の出資が行われています(第2回新株発行)。

マネーフォワードの創業期は、同社の黎明期の主力商品である自動家計簿・資産管理サービスの開発期間として位置づけられます。
主力商品のセットアップが整っていない段階では、外部からの資金調達を行える可能性は低いため、必然的に創業者の自己資金の投下による運転資金の確保が必要となります。

マネーフォワードでも、この時期は創業者の自己資金による運転資金の確保が行われました。
第2回新株発行による525万円の追加出資は、運転資金の不足分を補填する意図であることが推測されます。
後に解説するように、マネーフォワードは積極的な先行投資を行うことを棋風としています。創業期における資本政策からも、開発・広報に積極的に費用を投下し、最速での事業のセットアップを急ぐという意図が窺えます。

2012年12月10日、マネーフォワードはVC等に対する総額約2000万円の第三者割当増資を行うことを発表しました(第3回新株発行)。
さらに程なくして、同月15日に自動家計簿・資産管理サービス「マネーフォワード」オープンβ版のリリースを発表しました。

ここでマネーフォワードは初めて、その企業価値について資本市場からの積極的な評価を獲得したということになります。
比較的早期に外部からの資金調達に成功し、主力商品のセットアップも完了したマネーフォワードは、これ以降積極的な資本政策による事業の拡大路線へと舵を切っていきます。

 

まとめ

・当初は創業メンバーの自己資金による運転資金・開発資金の確保
・比較的早期に外部からの資金調達に成功

 

2.1億円の資金調達、法人向けサービスのリリース

 

VCからの資金調達に成功したマネーフォワードですが、自動家計簿・資産管理サービス「マネーフォワード」のみをもって当初から資本市場から引く手あまたであったというわけではありません。
第3回新株発行で調達した2000万円の運転資金もいずれは底をつきます。
そこで、マネーフォワードは積極投資の第1弾の勝負手を繰り出すことになります。

2013年3月1日、マネーフォワードは主に創業メンバーなどによる総額1億円超の資金調達を行います(第4回新株発行)。この黎明期としては大規模な調達により、マネーフォワードは人員の拡大も含めた開発・運転資金を確保します。

下記は、同月14日に発表された、マネーフォワードの第4回新株発行に関するプレスリリースの抜粋です。

株式会社マネーフォワード(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長CEO 辻庸介)は、この度個人投資家、株式会社早稲田情報技術研究所および創業メンバーを引受先とする第三者割当増資を実施し、総額102,645,000円を調達しましたので、お知らせいたします。

今回の資金調達により、更なる経営基盤の強化を図ると共に、資産管理、家計管理ツール「マネーフォワード」の開発に加え、ソーシャルネットワークを組み込んだ、お金に関する新しい個人向けのプラットフォーム構築に向けた開発人員の採用等を進める予定です。

このプレスリリースからは、第4回新株発行の当初の目的は個人向けサービスの拡充であることが読み取れます。

しかし、実際には2013年11月、マネーフォワードは法人向けサービスを含んだ『マネーフォワード For BUSINESS』(現・『MFクラウド会計・確定申告』)をリリースすることになります。

このことからは、マネーフォワード経営陣の中で「個人向けから法人向けへ」という方向転換が途中で発生したことが推測されます。
1億円規模の資金調達により運転資金に余裕を得たマネーフォワードは、柔軟に多角化の可能性を模索した結果、より実利を得られる法人向けサービスの開発にフォーカスする方向へシフトしたというのが実情かもしれません。

マネーフォワードの勝負手は、次なる大規模資金調達という形で奏功することとなります。

 

まとめ

・身内資金による大規模資金調達で開発加速・人員拡大・多角化
・法人向けサービスの開発に注力し始め

 

3.ジャフコからの5億円の資金調達と法人向けラインナップの拡充

 

マネーフォワードは、翌月にリリースを控える『マネーフォワード For BUSINESS』(現・『MFクラウド会計・確定申告』)を引っ提げ、2013年10月22日にジャフコSV4共有投資事業有限責任組合から5億円の資金調達をすることに成功します(第5回新株発行)。

このジャフコからの資金調達は、以下の3つの意味でマネーフォワードにとっての転換点となりました。

①大規模資金調達による運転資金の充実
5億円という大規模な資金調達に成功したことにより、マネーフォワードはその後の事業拡大の基礎となる充実した運転資金を得ました。
マネーフォワードは、後に説明するように、獲得した資金を法人向けサービスのさらなる拡充に振り向け、飛躍的な成長を遂げる結果となります。

②資本市場からの評価を獲得
マネーフォワードは、ジャフコからの資金調達より前は、基本的に創業メンバーを中心とした身内からの出資により運転資金を賄っていました。
したがって、ジャフコからの資金調達は、マネーフォワードにとって初となるベンチャー・キャピタルからの大規模な資金調達としての意義を有します。

③株価の飛躍的上昇
第4回新株発行においては、普通株式が1株当たり4万5000円にて発行されました。
これに対して、第5回新株発行においては、乙種類株式が1株当たり50万円で発行されています。
乙種類株式を含めて、すべての種類株式は上場直前に1対1で普通株式に転換されています。
したがって、相対ベースではあるものの、第4回から第5回の間でマネーフォワードの株価は10倍以上に急騰したということになります。

第5回新株発行を機に、マネーフォワードの資本市場におけるレピュテーションは一挙に向上し、これ以降のさらに大規模な資金調達への道が開かれることになります。

第5回新株発行により獲得した運転資金をベースに、マネーフォワードは法人向けラインナップの拡充に着手します。
2014年5月には、その序章ともいうべき法人向けの『MFクラウド請求書』がリリースされました。

駒組みを終えたマネーフォワードは、ここから積極的なビジネスの拡大に訴えていきます。
さしずめ中盤戦の幕開けといったところでしょうか。

 

まとめ

・VCからの大規模資金調達を機に資本市場からの評価を獲得
・法人向けサービスのラインナップを拡大

 

4.合計15億円超の大規模資金調達、さらに法人向け事業に注力

 

ジャフコからの資金調達を機に獲得した資本市場からの評価をバックに、2014年12月、マネーフォワードはベンチャー・キャピタル、クレディセゾンなどから総額15億円超のさらなる大規模資金調達を行います(第7回、第8回新株発行。なお、2014年1月19日にはメディア・金融系VCから総額5500万円の資金調達を行っています(第6回新株発行)。)。

第7回、第8回資金調達においては、取引上のパイプラインを意識した出資元の選定が行われていることが特徴です。2014年12月19日のマネーフォワードのプレスリリースを引用します。

2014.12.19 プレスリリース

引受先との協業について

・ジャフコ
ジャフコは2013年10月に当社に5億円を出資しており、今回が2回目の出資となります。2013年10月の出資以来、当社の企業価値向上に向けて経営体制の強化、ジャフコが有するネットワークを活用した顧客、提携先の紹介等を中心に全面的なサポートを行っております。

・クレディセゾン
既に2014年5月に当社個人向け事業における業務提携を発表し、1,000万超のクレディセゾンのネット会員に対してマネーフォワードサービスの利用を促進しておりますが、今後当社個人向け事業における更なる連携強化、ビッグデータ活用での連携、資産運用事業での協業等の検討についても進めてまいります。
また、当社法人向け事業においては、クレディセゾンが有する中小企業顧客基盤を活用し、相互送客によるユーザー層の拡大に加え、MFクラウド請求書とクレディセゾンのカード決済の連携、MFクラウド会計利用者への金融商品開発といった両社のユーザーにメリットをもたらす新たなサービスの開発、イノベーション創出に取り組んでまいります。

・ソースネクスト
これまでソースネクストを介して、当社個人向け事業においては、NTTドコモのスマートフォン向けサービス「スゴ得コンテンツ」、KDDIのAndroid スマートフォン向けサービス「au スマートパス」、スマートフォン向けサービス「アプリ超ホーダイ」に当社のコンテンツを提供してまいりました。
当社法人向け事業においては、ソースネクストが有する全国の主要な家電量販店チャネルにおける「MFクラウド会計」と「MFクラウド確定申告」のパッケージ版の販売、ソースネクストが提供する法人向けPCソフトの使い放題サービス「超ホーダイ Business」に対する当社コンテンツの提供、といった協業を行ってまいりました。
今後は更に当社個人向けおよび法人向けビジネス両面におきまして、協業を推進し、新たなサービス及びチャネル開発、当社サービスの販売促進に取り組んでまいります。

・三井住友海上キャピタル
三井住友海上グループが有するネットワークを活用した顧客、提携先の紹介等を中心に当社の企業価値向上に向けたサポートを行います。

・DDH
電通グループのネットワーク、ノウハウを活用した当社の広告事業の拡大、PR戦略の策定・実行に向けたサポートを行います。

・GMO VP
当社法人向けサービスMFクラウドシリーズの中心的な顧客層である中小企業への幅広いネットワークを有しているGMOグループにおけるベンチャーキャピタルであり、当社の事業拡大に向けたGMOグループ各社との連携強化を促進します。

なお、マネーフォワードは第7回、第8回新株発行に先立って、2014年12月15日に100倍の株式分割を行っています。
これが直後に控える大規模資金調達の準備であったことは明らかですが、マネーフォワードの株式の価値は、相対ベースではあるものの、創業以来急速に上昇を続けています。

(1株当たりの株価)
第1回新株発行(2012.5.18):1万円
第2回新株発行(2012.9.28):1万円
第3回新株発行(2012.12.10):3万2500円
第4回新株発行(2013.3.1):4万5000円
第5回新株発行(2013.10.22):50万円
第6回新株発行(2014.1.19):50万円
第7回・第8回新株発行(2014.12.19, 24):1万2500円(100倍分割後)

第7回、第8回資金調達の後、マネーフォワードはたて続けに法人向けのサービスをリリースします。
2015年3月には『MFクラウド給与』を、2015年4月には『MFクラウド請求書』における新機能「自動入金消込機能」を、2015年8月には『MFクラウドマイナンバー』をリリースしています。

 

まとめ

・パイプラインを意識した出資元の選定
・急激な株価上昇

 

5.マネーフォワードの資本政策の棋風~超先行投資型~

 

ここまで時系列を追う形でマネーフォワードの資本政策を紹介してきました。
マネーフォワードはエクイティ(株式の発行)による資金調達を短期間で非常に活発に行っていることがわかります。

マネーフォワードが活発な資金調達を必要とする最大の理由は、「超先行投資型」ともいうべき経営スタイルにあります。
マネーフォワードが調達した資金の最も大きな使い道は、サービスの開発費用ではなく広告宣伝費です。
このことから、マネーフォワードの経営戦略は、以下のような循環を目指すことであると推測されます。

①まず惜しみなく広告宣伝費を投入して、サービスの認知度を向上させます。
②①により、ビジネスを拡大すると同時に資本市場へのアピールを行い、資金調達先を拡大します。
③さらに大きな金額を資本市場から調達し、調達した資金を広告宣伝費として再投入します。

上記のプロセスを繰り返すことにより、目先の営業利益よりも最速でのビジネス拡大を目指すのが、マネーフォワードの超先行投資型の経営スタイルです。

その表れとして、マネーフォワードは創業から現在に至るまで、毎事業年度営業赤字を継続しています。

上場前の2期分の損益計算書を見てみましょう。

2015年11月期の損益計算書によれば、当期の売上高は4億4000万円余り、売上原価は4億3000万円余りで、1000万円余りの売上総利益が上がっています。
その一方で、販売費及び一般管理費を11億円以上計上しており、これが丸々当期の営業損失に反映されています。

2016年11月期の損益計算書によれば、当期の売上高は15億4000万円超と、前期の3倍以上になっています。売上原価は7億3000万円余りで、8億円以上の売上総利益が上がっています。
一方、販売費及び一般管理はさらに増大して16億8000万円を超えており、当期は8億7000万円余りの営業損失となっています。

このようにマネーフォワードは、業績が拡大したとしてもさらにそれを上回る事業投資を行う超積極型の経営により、スピード上場への道をひた走ったと言うことができるでしょう。

 

まとめ

・マネーフォワードの資本政策の特徴は事業拡大優先・超先行投資
・広告宣伝費を惜しみなく投下し、事業拡大の好循環へ

 

6.再び大規模資金調達、金融機関との連携を強化

 

ここからは再び、時系列に沿ってマネーフォワードの資本政策を見ていきます。

2015年9月3日、マネーフォワードは10億円の資金調達を行います(第9回新株発行)。
第9回新株発行は、マネーフォワードにとっては再三の大規模資金調達という意味を持つだけでなく、その提携先として金融機関やその系列会社が含まれていることに特徴があります。

マネーフォワードは、2015年8月25日付のプレスリリースにおいて、第9回新株発行による資金調達の狙いを説明しています。
https://corp.moneyforward.com/news/release/service/20150825-sbi-shizugin-mf/

まず、住信SBIネット銀行との提携により、銀行提供の公式APIを主力サービス『マネーフォワード』に導入することで、より高いセキュリティと利便性の提供を目指すとしています。

さらに、静岡銀行との提携により、地銀ならではの個人資産運用に関するノウハウを付加し、より幅広い領域をカバーする個人向け資産管理サービスの提供を検討するとしています。
また、中小企業向け融資ビジネスへの関心を有している様子も窺えます。

総合すると、マネーフォワードは金融機関と連携することにより、単なる資産管理サービスではなく、より総合的な資産運用サービスへとビジネスを進化させることを模索していたものと考えられます。

2015年10月19日、マネーフォワードは三井物産等からさらに約5億5000万円を調達し、その提携範囲を拡大することになります(第10回新株発行)。

2016年1月には、法人向けの『MFクラウド経費』をリリースし、サービスのラインナップもいよいよ充実してきました。

 

まとめ

・金融機関との連携を強化
・総合的な資産運用サービスへ

 

7.上場に向けた準備期間・基礎固め

 

資本市場からの確固たる評価を獲得し、サービスのラインナップも充実させたマネーフォワードは、上場に向けた準備を着々と進めていきます。

2016年2月26日、マネーフォワードは資本準備金について18億円超の減資を行います。
資本準備金(または資本金)の減資は、IPO準備の段階で、配当金目的の投資家の投資意欲を刺激するためにしばしば行われる手法です。

株式会社における剰余金の配当は、原則として利益剰余金を原資として行われます。
2015年11月期の貸借対照表におけるマネーフォワードの利益剰余金は18億円超のマイナスとなっています。
この利益剰余金の欠損を、資本準備金から振り替えることにより丸ごと埋めたというのが減資の実情です。

ただし、マネーフォワードは翌2016年11月期にさらに8億8000万円超の純損失を出しているため、2016年11月期の利益剰余金には8億8000万円超の欠損が生じています。
後述するとおり、マネーフォワードは上場の直前にこの欠損の補填を再び減資により行うことになります。

2016年9月23日、マネーフォワードはみずほ系のVCや北洋銀行などから総額8億円超の資金調達を行い(第11回新株発行)、さらに金融機関との連携を強化します。

その他にも、従業員向けのストックオプションの発行や、子会社3社の設立などを行い、上場会社となるための体制を着々と整えていきました。

 

まとめ

・投資意欲刺激を目的とした減資
・上場への体制を整える

 

8.上場への最終仕上げ~棋風を貫く赤字上場~

 

いよいよ上場に向けての最終仕上げの段階に入ります。

2017年5月15日、マネーフォワードは資本金と資本準備金を合わせて9億円弱の減資を行います。
2期連続の減資となりますが、減資金額は前期の純損失によって生じた利益剰余金の欠損金額とほぼ等しいことから、上場に向けた財務諸表の数字改善を目的としていることは明らかです。

2017年6月23日から24日にかけては、上場準備のための形式的な一連の手続きが行われました。
①全種類株式の取得条項を行使して普通株式を交付
これまで、マネーフォワードが株式の第三者割当増資を行う際には、基本的には回ごとに異なる種類株式(甲、乙、丙・・・)が発行されてきました。

上場に当たって、マネーフォワードはこれらの種類株式に付された取得条項(会社が株式を取得することができる権利)を行使し、全種類株式をすべて1対1で普通株式に転換することにより、株式の統一を図りました。

なお、創業以来のマネーフォワードの株価推移(相対ベース)は以下のとおりです。

(1株当たりの株価)
第1回新株発行(2012.5.18):1万円
第2回新株発行(2012.9.28):1万円
第3回新株発行(2012.12.10):3万2500円
第4回新株発行(2013.3.1):4万5000円
第5回新株発行(2013.10.22):50万円
第6回新株発行(2014.1.19):50万円
(100倍の株式分割)
第7回・第8回新株発行(2014.12.19, 24):1万2500円
第9回、第10回新株発行(2015.9.3, 10.19):2万400円
第11回新株発行(2016.9.23):2万4000円


②1単元を100株とする単元株制度を導入
東証の売買単位統一の方針に従い、1単元を100株とする単元株制度を導入しました。

③20倍の株式分割
上場後の市場における取引を意識して、20倍の株式分割を行いました。

第11回新株発行時点の株価を基準にすると、分割前は売買の最低単位である1単元は240万円ですが、分割後は12万円となっています。
これにより、小口投資家に対しても株式購入の門戸が開かれたことになります。


そして、これらの準備を経て、2017年9月29日、マネーフォワードは東証マザーズに上場を果たすことになりました。

上場直前の四半期連結損益計算書によると、2016年12月1日から2017年5月31日までの期間における純損失が6億8000万円余りとなっています。

超先行投資型の棋風を貫いた赤字上場と言えるでしょう。

なお、赤字上場に関しては、マネーフォワードの当時のCFOである金坂直哉氏は以下のように語っています。
https://note.biz.moneyforward.com/n/ncb37dfe56672

「最も大変だったことはやはり赤字で上場しようとしたことです。SaaSのビジネスモデルで上場する企業というのは、アメリカでの事例はかなり出ていましたが、当時の日本国内において赤字での上場というのはバイオベンチャーといった企業に限られていたんですね。
そのため、審査においては黒字化の改善性を示すことが非常に大変でした。証券会社や東証の方々に何度も何度も詳しく計画を説明し、理解してもらう必要がありました。」

 

まとめ

・超先行投資型の棋風を貫いた赤字上場

 

9.総括

 

マネーフォワードの資本政策を創業から上場まで時系列に沿って振り返りました。
総括として、いくつかポイントを挙げてみたいと思います。

①法人向けサービスの拡充が好手に
創業から1年足らず、2013年3月1日の1億円の資金調達以降、法人向けサービスの拡充に舵を切ったことが、マネーフォワードが資本市場における評価を獲得するきっかけとなったものと考えられます。
以降、マネーフォワードのビジネスは好循環のプロセスに入り、多額の資金調達に相次いで成功していきました。

②一貫した事業拡大・先行投資の方針
マネーフォワードは、創業から上場まで一貫して超積極型・超先行投資型の経営戦略を取り、サービス認知度の向上・資本市場からの評価獲得による事業拡大を目指し続けました。
これは、高速度で成長する企業にはしばしば見られる傾向ではあるものの、マネーフォワードの場合はいっそう顕著だったと言ってよいと思います。
その成果が上場という一つの形に結実したと言うことができるでしょう。

③黒字化に課題、今後次第
マネーフォワードは、超先行投資型のスタイルを貫き、赤字上場をいわば「押し切った」形となりました。
しかし、それが好手になるか悪手になるかは、今後黒字化をどのように達成するかにかかっていると言えます。

マネーフォワードは創業以来黒字化したことは一度もなく、上場後現在に至るまでも同様です。
なかなか黒字化が実現しないことも関係してか、マネーフォワードの株価は2018年3月の最高値を最後に頭打ちになっています。

上場は果たしたものの、マネーフォワードが企業として完成されていくためには、これ以降が終盤戦の正念場と言えるかもしれません。
金融機関と連携して競合他社から差別化されたサービスをさらに打ち出し、黒字化を実現することができれば、株価も最高値の更新が見えてくるでしょう。

 

10.おわりに

 

今回は、「Iの部」のデータから読み解くマネーフォワードの資本政策というテーマで議論を展開しました。

「Iの部」の情報を細かく分析して、その時々のプレスリリースやインタビュー記事、ニュースなどと照らし合わせながら考察するだけでも、企業の営みについての様々な洞察と学びを得ることができます。
伝統的な大企業、分野の異なる企業を分析すれば、また違った内容の考察になるでしょうし、個々の企業の「棋風」に触れることも非常に興味深いものです。

是非この記事をきっかけとして、様々な企業の営みに関心を持っていただければと思います。