識学のマネジメント理論は、結果重視や上司の指示の徹底といった明快な原則ゆえに支持される一方、「本当に使えるのか」「現場の複雑さに対応できるのか」という疑問も根強く存在します。
とりわけ、「上司ガチャ」と呼ばれるマネジメント品質の差、SEOのような外部要因が支配する業務、そして部門間の利害対立など、多くの組織が悩む課題は簡単には片づきません。
本記事では、識学がこうした問題をどのように整理し、どのようなアプローチで解決につなげるのかを具体的に解説します。
誤解されがちな識学の本質を理解する手がかりとなる内容です。
目次
上司を飛び越えた相談はなぜ禁じられるのか
組織において、部下が直属の上司を飛び越えて上位者へ相談する行為は、一見すると合理的に見えるかもしれません。
しかし識学では、こうした行動は原則として禁じられています。
その理由は、個々の上司の性質ではなく、組織全体の「役割」と「責任」の構造を保つためです。
もしこの行動が常態化すれば、中間管理職の役割は形骸化し、育成の機会も奪われます。
同時に、責任の所在が曖昧になり、組織は必ず混乱します。
ここで重要なのは部下の提案が正しいかどうかではなく、定められた階層の中で意思決定が行われることです。
仮に上司が事なかれ主義であったとしても、その背景には「役割が不明確」「評価基準が曖昧」など、構造上の課題が潜んでいる可能性があります。
識学はまず、この構造を正すことこそが、健全な組織運営の第一歩だと考えています。
違法な指示には従わない。適法だが疑問のある指示は事実を積み上げて正す
上司からの指示であっても、違法性を含むものに従う必要はまったくありません。
例えば、無名産地の肉を「松阪牛」と偽って販売するように命じられたケースは明確な法律違反であり、自分自身も組織も重大なリスクを負います。
このような指示は即座に拒否し、自身を守る行動を取ることが不可欠です。
一方で、適法であるにもかかわらず「うまくいかないのでは」と感じる指示については、識学ではまず実行する姿勢を求めます。
そのうえで得られた結果を、感情ではなく客観的な事実として上司に伝え続けることが重要です。
判断を修正する根拠になるのは、現場で積み上げられた事実以外にありません。
部下が正確な事実を共有することで、上司は軌道修正の機会を得られ、組織の意思決定もより健全なものになっていきます。
外部要因が大きい業界は成果の定義を変える
外部要因の影響が大きい業界では、最終的な結果だけで個人を評価することは適切ではありません。
SEOのように、Googleのアルゴリズム変動が成果を大きく左右する領域では、努力と結果が必ずしも結びつかないためです。
そこで識学が重視するのが、「成果の定義そのものを見直す」という考え方です。
具体的には、個人が自分でコントロールできる行動をKPIとして設定します。
例えば、想定検索ユーザーの調査件数、改善提案の提出数、重要ページのリライト本数、技術改善の完了期限、外部要因を除いた順位変動の分析件数などが該当します。
こうした行動指標を達成していれば、最終成果にかかわらず評価されるべきだと識学は考えます。
反対に、行動指標を達成していても最終成果が出なかった場合は、KPI設定や戦略に誤りがあったという上司側の責任だと明確に位置づけています。
部門間の対立は評価基準に他部門への貢献を加えることで解消する
部門ごとに異なる目標を設定していると、しばしば利害の衝突が生じます。
例えば倉庫部門が「在庫を三割削減する」という目標を掲げ、営業部門が「売上目標の必達」を指標としている場合、在庫を減らすほど欠品リスクが高まり、営業の成果を阻害してしまう可能性があります。
識学では、こうした対立は目標設定そのものに原因があると考えます。
部門ごとの成果指標に「他部門へ不利益を与えないこと」という条件を加えることで、利害の衝突を防ぐことができるのです。
例えば倉庫部門であれば、「営業部門で納品遅延をゼロに保ちつつ在庫を三割削減する」といった具合です。
また、あえて対立が起きるような目標設定を行い、その摩擦から改善のヒントを得るという方法もあります。
重要なのは、各部門の目標が独立せず、組織全体の最適化と連動した状態を作ることです。
識学は硬直的ではない。ルールの明文化こそ組織を柔軟にする
識学に対しては「硬直的で冷たい」というイメージが語られることがありますが、識学講師、羽石はこれを大きな誤解だと言います。
むしろ組織が硬直化する原因は、上司の気分や場当たり的な判断が優先され、基準が曖昧なまま意思決定が行われることにあります。
これでは部下は何を基準に行動すべきか分からず、意見も出しづらくなります。
識学が重視するのは、この曖昧さを排除し、期待される行動や判断基準をルールとして明文化することです。
ルールが明確であれば、上司と部下は同じ土台で議論でき、必要に応じてルールそのものを改善することも容易になります。
明文化された基準は人を縛るためのものではなく、不要な忖度や誤解を取り除き、組織を柔軟に働かせるための基盤です。まずは「何を求めているのか」を文章で共有すること。
これが識学実践の第一歩になります。
まとめ
識学が示すマネジメントの本質は、個々の性質ではなく、組織構造の歪みを正して誤解や曖昧さを取り除くことにあります。
多くの組織が抱える課題の根本にあるのは、上司の指示への向き合い方、外部要因が大きい業務の評価、部門間の対立など、役割と責任の不明確さです。
識学は、これらをルールとして明文化し、事実に基づいて運用することで、組織全体の柔軟性と再現性を高めていきます。
感情や相性ではなく、構造によって組織を強くする。この姿勢こそが識学の特徴であり、健全な意思決定と安定した成果につながるのです。










