人と組織は「互いに有益な関係である」と思うからこそ、つながりを持ちます。
仮に、組織に対して有益性を感じられなくなると優秀な人材ほど他社へ流出してしまい、成果を上げていない人材が残ってしまうという、不健康な組織体質になってしまうでしょう。
そのような事態を防ぐには、有益性の意味を正しくとらえたうえで、適切な対応が欠かせません。
この記事では、有益性の意味や活動を続けるための理由すなわち糧の与え方などを解説します。
相手が真に望む価値を提供することで、組織と従業員双方にとってWin-Winとなるマネジメントを実現しましょう。
目次
有益性と似た意味で使われる言葉
有益性という言葉は、役に立つことや有効であること、ためになることを意味する言葉です。
組織のなかで使う際には、ニュアンスがうまく伝わらない場合もあるため、以下のような類語も覚えておくとよいでしょう。
- 有用性……実際に役に立つこと、実務的・機能的な意味での使いやすさ
- 効果的……効き目や成果が速やかに得られること
- 実利的……抽象的な価値ではなく、金銭や具体的利益などの実際的な効用があること
- 価値……対象がどのくらい大切か、役に立つかという尺度
- メリット……選択肢や手段がもたらす利点・好ましい側面
- 利益……経済的・実質的に得をすること
言い換えの言葉を知っていると、スムーズに内容を伝えられるケースもあります。
企業と従業員間における「有益性」とは
識学では、企業と人とは基本的に有益性で結びつくと説明しています。
企業側の有益性と従業員側の有益性とは異なるため、ときには人材の流出にもつながります。
基本的に組織は有益性のつながりによって成り立っているため、活動を続けるための糧が与えられないとバランスが崩れてしまうのです。
では、双方はどのような結びつきを期待しているのでしょうか。
ここでは、企業・従業員それぞれから見た有益性を紹介します。
企業における「有益性」とは市場から評価されること
企業にとっての有益性とは、企業価値を上げ続けて市場から評価されることです。
こうして存続と繁栄をしていくためには、組織における生産性の向上が欠かせません。
生産性の向上には、限られた人員でより多くの成果を出す必要があるため、企業は従業員に対して成長を期待するようになります。
従業員における「有益性」とは学びや成長の機会をを得ること
従業員が企業に求める有益性は給与や福利厚生だけでなく、環境、ブランド、協働することでの楽しみや成長につながる刺激があるなども当てはまります。
人は何のために働くのかという問いに対してはあらゆる答えがありますが、多くの人にとって共通するのは、「学びや成長の機会を得るために働く」ということです。
従業員への間違った糧の与え方
できれば優秀な従業員が流出してしまう事態は避けたいという気持ちゆえに、適切ではない糧を与えてしまうケースがあります。
ここからは、従業員への間違った糧の与え方を紹介します。
企業が従業員のやる気を上げようとする
上司から、部下へモチベーションを上げさせることがありますが、こちらは良い糧の与え方ではありません。
なぜなら、部下は「主張すれば企業が自分に合わせてくれるようになる」と勘違いを起こすからです。
部下の主張を可能な限り聞いたり、1on1でケアしたりしても、モチベーションは一時的なものです。
モチベーションの低下を目標が未達であることの原因だと認めてしまっては、本人が真に何が良くなかったのかを考えられず、成長を止めさせてしまいます。
従業員を褒める
従業員のやる気を上げようとすることに少し似ていますが、褒めるなどの感情で糧を与えたり、帰属意識を向上させようとするケースがあります。
しかし、上司が客観的な評価ではなく感情や主観で部下に接してしまうと、部下は上司から気に入られることに目が向いてしまい、本来するべき責任を果たすことの優先順位が下がってしまいます。
本来、マネジメントでは従業員が出した結果により、平等に判断しなければなりません。
平等に接しているつもりでも、えこひいきだと思われてしまい、他の従業員の士気を下げるため、注意しましょう。
仕事の経過に対して必要以上に介入する
部下が知らない業務に対してやり方や教育をすることは否定しませんが、必要以上に部下が行う仕事の経過に指示を出さないようにしましょう。
なぜなら、部下が仕事に取り組んでいる際に口出ししてしまうと、部下はその仕事に対して自分なりの仮説を立てられなくなってしまい、成長を止めてしまうからです。
上司からの介入が多いと「指示したとおりに動いたので自分のせいではない」と過失を他人に押しつけてしまい、日々の業務から何も学ばなくなってしまいます。
給料を良くする
従業員の離脱を防ぐために、給料を上げるケースもあるでしょう。
ひとつのアプローチ方法ではありますが、単体で行ったとしても正しい糧の与え方ということにはなりません。
なぜなら、給料は結果を出した、もしくは利益をもたらした、価値を生み出したという「有益性」に対して支払われる対価であるからです。
給料を良くすると、本来は有益性に対して支払われるべき給料が、有益性をそれほど生んでいない人にも支払われることになってしまいます。
その結果、優秀な人材がさらなる不平等感を抱えてしまうこともあります。
過度に部下をフォローする
人材の流出を阻もうとする際、部下に対して過度に手伝ったりフォローしたりしてしまうケースがありますが、これは良くありません。
なぜなら、過度に上司からフォローされていると、部下は「できなくてもこの人から大事にされている」と思ってしまうからです。
部下としての存在意義を獲得する意欲がなくなり、成長しようとする意識が薄れて組織にとっては逆効果になってしまいます。
従業員が有益性を感じられないと人材流出につながる
有益性は目に見えないため、従業員が求める要素を見誤ってしまうと、企業と人とのつながりは簡単に切れてしまいます。
例えば、設定した目標を達成しており利益にも貢献しているような優秀な従業員は、さらなる高みに行けるように成長を望む傾向があります。
ところが、もし自分自身が成長できない環境と感じた場合はどうでしょうか。
優秀な従業員は、このままだと自分の成長スピードが組織の成長スピードを上回り続けてしまい、組織に居続ける有益性が低いと判断してしまいます。
その結果、不満を多く抱えたり、最悪の場合は退職したりしてしまうのです。
組織は継続的に発展していくために、従業員に対して給与や同業他社を超える水準を維持しつつ、成長を感じられる環境を作らなければなりません。
もしどちらかに比重が偏っていた場合は、以下のような問題が起こります。
【ケース1.給与のみが魅力的である場合】
当初、給与のみに魅力を感じた求職者は、子どもの独立や配偶者の昇進などで、自分が多くの金銭を得る必要性をを感じなくなってしまった場合、退職を決意してしまいます。
【ケース2.成長機会のみが与えられている場合】
成長の機会を与えれば良いのかというと、そうではありません。
成長の機会のみ与えれば良いという考え方はブラック企業の考え方に該当します。自分が挙げた成果に対して正当な処遇が得られなければ、無意味なことをしているように感じて仕事が嫌になってしまいます。
このように、自分が挙げた成果に対する給与や給与以外にも成長を実感できる要素が最低限そろっていないと、定着率は高まりません。
成長という有益性を感じられる職場にするポイント
真に「部下を大切にする」というのは、成長させて生き抜く力を身につけさせることです。
ここからは、従業員が成長という有益性を感じられる職場にするための方法を解説します。
部下の責任範囲と権限を明確にする
何かあるたびに細かく管理や指示された部下は、達成できなかった際に他人のせいにしてしまい、自分の行動を振り返ろうとは思いません。
すると自分はすでにできていると感じて日々改善もしないため、部下の責任範囲は明確にしておくことが大切です。
それと同時に「何をやってもよいのか」という権限範囲を明確に設定しておくことによって、部下の責任逃れを防げます。
自責思考でとらえられるようになり、成長している実感が得られるでしょう。
企業理念を明確に定めて共有する
従業員がこの組織にいても成長を得られないと感じるひとつの原因は、進むべき道がわからないことです。
この事態を避けるため、企業のミッション・ビジョンを明確に定め、事業戦略と合わせて従業員に対して共有することが大切です。
人は何をするべきかわからないとき、時間を無駄にしてしまっているような気持ちになり、自分の存在意義を認識できなくなってしまいます。
行動に迷いがなくなれば、日々の業務に集中できる結果、高いパフォーマンスを維持できます。
不足を理解させる
従業員が「この企業では学ぶことがない」と思うと、いとも簡単に退職してしまうケースがあります。
実際には現在の企業で成長できる要素はあるにもかかわらず、「別の企業であれば成長できる」と思ってしまうのです。
このような錯覚を起こさせないために、上司は部下を客観的に評価して知識やスキルの不足を理解させましょう。
「今いる企業でまだできていないことがある」と実感することで、部下自身が今後の伸びしろを把握できます。
従業員が自分の役割に集中できる環境を作る
誤解や錯覚が組織内に多いと、主体的で自分の業務に集中したいと思っている優秀な部下ほど、自分が求める糧が得られず退職してしまいます。
このようなときは、個々に与えられたルールやミッションが明確でなく、各々が自分の感覚に基づいて行動している可能性があります。
そのため、個々のやるべきことをきちんと明確化しましょう。
例えば提出書類は〇日の〇時などと期限や状態が明確にわかるように指示することで迷いが解消される結果、重要な仕事に割く時間を増やせます。
結果で管理する
プロセスや内面的な成長は目に見えづらく評価がしづらい一方、数値で測れる結果は客観的で目に見えやすいものです。
成長を感じられるようにするためには、期限を迎えた際の達成度がはっきりするよう、結果を数値で評価し、期限を迎えた際の達成度を明確に表せるようにしましょう。
達成具合による評価基準も統一することで、評価者が変わっても同一のフィードバックができるようになります。
もし達成できた場合は、達成感を得られることで次への行動のモチベーションが生まれます。
仮にできなかった場合でも、不足が明確になり、改善策を検討しやすくなるでしょう。
属人化を解消する
組織はしばしば、特定の人に仕事が集まる流れに甘えてしまう傾向があります。
業務が属人化すると仕事が集中する担当者は不平等感を抱えてしまい、他の従業員にとっても新しいことを覚える成長機会が失われてしまうでしょう。
そのような事態を避けるため、誰が何をするかを最初に仕組みとして決めることが重要です。
仕事を振り分けることによって責任の範囲が明確になり、長期的な成長が促進されます。
マイナス評価を取り入れる
成果を上げずとも給与や評価に何も影響がなければ「別に頑張らなくてもいい」という認識につながりかねません。
そこで、マイナス評価を取り入れて給料に反映させましょう。
責任として自分に跳ね返ってくることを実感すると、「自ら成長しなければならない」という気持ちが醸成されます。
有益性を正しく認識して組織の力を最大化させよう
人と組織は、互いに有益性が感じられなくなると簡単に離れてしまいます。
感情でマネジメントをしたり、過程に対して具体的な指示をしたりすることが部下の成長のためになると思うかもしれません。
しかし、実はそのことが組織に所属する意欲を低下させる原因になっている場合もあります。
部下が継続して成長できることこそが、部下にとっての有益性であるととらえ、今回紹介した適切なマネジメントによって組織の力を最大化させましょう。