なるべくコストを抑えつつ、効果的に人材育成をしたいと考えてはいませんか。
人材育成は今後の企業の成長にもつながる大切な要素のため、コストを削る部分は慎重に検討しなければなりません。
この記事では人材育成にかかるコストや費用の内訳、限られた費用で人材育成をするポイント、企業の成功事例などを紹介します。
自社の人材育成プログラムを最適化して、変化の速い時代でも利益を上げ続ける企業を目指しましょう。
目次
企業が人材育成にコストをかける理由
企業が継続して活動を行うためには、安定的に売上を上げるだけでなく、競争力の維持が必要不可欠です。
人材はそのための重要なリソースであり、育成することで将来のための投資になります。
昨今は変化が激しく、未来の予測が立てづらい時代です。
従業員のスキルや知識が最新であれば創造的な思考や問題解決能力も高まり、革新的なアイデアの創出につながる結果、市場の変化に素早く対応できるでしょう。
人材育成のコストは平均どのくらいかかるのか
自社における人材育成の進め方を検討する際には、平均的なコストを把握して取捨選択していくことが大切です。
人事労務分野の情報機関である産労総合研究所は、2024年6〜7月に169社の回答をまとめた「2024年度(第48回) 教育研修費用の実態調査」を発表しました。
こちらのデータによると、従業員1人当たりの2023年度の教育研修費用は34,606円であるとわかっています。
コロナ禍に突入した2020年度は24,841円と、2019年度の35,629円と比べて10,787円落ち込みましたが、その後徐々に増加し、コロナ禍前の水準に近づきました。
なお、教育研修費用を今後1〜3年間増加する見通しと回答した企業は約6割と、過半数に達しています。
2024年度に重点的に取り組む教育研修として「新入社員研修」や「中・上級者向け研修」などの階層別研修、「キャリアデザイン・ライフプラン研修」や「選抜型幹部候補者育成教育」などの目的別研修と回答しています。
人材育成に関するコストの相場
人材育成にかかるコストは、育成の内容により幅があります。
教育内容の種類とそれぞれの相場は、以下のとおりです。
研修の種類 | 費用相場 |
外部/内部講師による研修 | 5〜50万円/回 |
オンライン研修 | 2〜5万円/人 |
eラーニング | 2千円〜1.5万円程度/コンテンツ |
個人学習(書籍の補助や資格取得支援など) | 5千〜3万円/月 |
個人的な興味関心で受講する講座でなければ、従業員の研修費用は基本的に企業が負担します。
効果を考えながら適切に予算を設定して、研修内容を検討することが効果的です。
研修にかかる費用の内訳
例えば、講師を外部から招く研修は特に費用がかかりますが、その内訳は以下のようになっています。
- 研修費用
- 会場費用
- 教材費用
- 宿泊・移動費用
順に解説します。
研修費用
外部の人材に講師を依頼する場合は、企業に合った研修を提供してもらうための準備や講師の派遣料などを支払います。
外部講師の場合は知名度や専門性、研修内容をカスタマイズする程度によって、そのコストは大きく変動するでしょう。
有名講師や特定分野の専門家を招く場合、費用は高額になりがちです。
その一方で、社内講師の場合はそういった直接的な費用は発生しないものの、講師の準備期間や業務から離れるうえでの損失を考慮する必要があります。
一般的に長期間、もしくは少人数向けの内容になるほど、受講者1人当たりのコストは上がるものです。
講座がオンラインかオフラインかによっても費用は異なり、オンラインの場合、大規模になるほどコスト効率は良くなります。
会場費用
オンラインではなく会議室やホールなどで集合研修を行う場合は、会場に支払う費用も加味しなければなりません。
自社で所有している会議室や空間を使えるのであれば、費用はかかりません。
仮に外部から提供された場所を使う場合、参加の人数や立地、大きさ、使用する部屋のグレード、曜日などによって料金が変わるので、程度に応じた場所の選定が必要です。
その他プロジェクター、Wi-Fi、音響などの設備の有無やオプション利用によっても料金体系は異なります。
教材費用
内容の習得にかかる教材費用は研修費用に含まれている場合もあれば、別途必要になるケースもあります。
テキストをデジタルで作成するか、印刷して配布するかによっても費用は変わります。
研修内容を自社独自のものに変更する場合は、それにともなって教材も内容の変更が必要になるケースが多いため、教材費用がどの程度変動するかについても確認しておくと安心です。
宿泊・移動費用
集合研修で遠方からの参加者が多い場合、交通費や宿泊費などの見積もりも欠かせません。
宿泊施設は、地域やグレード、日程によっても料金が変わります。
交通手段の選択も重要で、飛行機、新幹線、バスなどの選択肢のなかから利便性と費用とのバランスを考慮する必要があります。
その他、講師と受講者の食事代や、研修に必要な道具を送る場合、荷物配送料も見込んでおかなければなりません。
準備・運営費用
研修を行うためには、当日までに社内の人事や管理職、講師とで準備しておく必要があります。
準備期間は通常の業務をできなくなるため、事前準備のための人件費も費用に見込んでおくとよいでしょう。
また、当日は会場準備や運営、受付など、別途スタッフが必要になる場合もあるため、研修を遂行するための運営費用も含めて計算しておかなければなりません。
限られたコストで人材育成をする際のポイント
企業は日々広告宣伝費や仕入れなど、人材育成以外にも多くの費用を出費しているため、限られたコストで最大限の結果を得られるようなアプローチが必要です。
ここからは、効果を最大化させて人材育成を成功させるためのポイントを紹介します。
目標設定と振り返りを行う
人は目的が明確でないと、何に力を入れてよいのか分からなくなってしまうものです。
人材育成では、受講者に研修を受ける目的を把握してもらうと同時に、しっかりと自分でも振り返ってもらうことで効果を高められます。
そのため、研修の前に目標を設定し、研修後に効果を測定するようにしましょう。
また、研修直後だけでなく、3か月後、半年後など時間をおいて、学びが実務にどのように活かされているのかを確認します。
知識を「どのように活用したか」「何が障壁となったのか」を議論することで、次の育成施策も効果的にできます。
受講対象者を絞る
研修は受講する人数によって費用が変わるケースもあります。
必ず全員が参加するものだとは考えずに、研修の受講対象者を戦略的に絞ることで、限られた予算内で最大の効果を得られます。
そのためにはまず、組織のなかで育成による効果が最も期待できる部門や層を特定しましょう。
例えば、将来のリーダー候補、新規プロジェクトを担当するチーム、顧客とのコミュニケーションが多い部門など、投資効果が高い対象を洗い出すとよいでしょう。
さらには、研修後に他のメンバーに学びを共有できる機会を与えることで、研修効果を組織全体に波及させられます。
メンバーの選定基準は透明性を確保すると同時に、選ばれなかった従業員にも今後機会があると伝えることで、公平性を保てます。
長期的なスケジュールを組む
限られたコストで人材育成の効果を最大化させるためには、短期的ではなく長期的なスケジュールを組んで段階的に学習する視点が必要です。
そのためには、まず2〜3年の育成計画を立て、毎年の重点テーマや段階的な学習目標を設定して実践しましょう。
例えば初年度は基礎的なスキル、2年目は応用力、3年目は専門性を深めるといった流れで、体系的な計画を構築します。
すると着実にスキルを習得できるうえ、年度をまたいでコストを分散させることも可能です。
研修内容が現状に合っているかを見直す
現在の市場の状況と合っていない、もしくは実務で活かす場面があまりない種類の学びは、いくら資金を投下しても限定的な学びに留まります。
そのため、研修内容が組織の現状や現場のニーズに合っているかを定期的に見直すことが大切です。
そのためにはまず部門の責任者やチームリーダーからフィードバックを収集し、実際の業務課題と研修内容の整合性を確認するようにしましょう。
このとき、業界のトレンドとも合致しているかを判断することで、同業種の他企業に対して競争力を高めやすくなります。
適材適所の人材配置をする
限られたコストで効果的な人材育成を行うには、適材適所の配置をすることも重要です。
なぜなら、従業員が業務に対して強みや適性を発揮できると、モチベーションが高まり、特別な研修を行わなくても能力が自然に開花するからです。
まずは定期的に従業員のスキル・適性評価を実施し、各従業員の強み・弱み・興味関心を把握しましょう。
そのうえでチャレンジングで達成可能な業務を担当してもらうことで、日常業務そのものが育成の機会になると期待できます。
人材育成がうまくいっている企業の例
P&Gジャパン合同会社|リバースメンター制度
P&Gジャパン合同会社は、アメリカに本拠地を置く大手日用品消費財メーカーの日本法人。
同社は約20年弱の間「社内メンター」を全社的に活用しており、対象は新入社員・外国人社員問わず従業員となっています。
人材育成というと、一般的には上司が部下にノウハウを教えるというイメージを持たれるかもしれませんが、同社ではその逆です。
管理職がメンティとなり、数ランク下の社員をメンターとする「リバースメンター」という仕組みを取り入れています。
こちらは部下の悩みや気持ちを理解したり、多様な状況下にある部下に対して柔軟な対応をとったりするために活用されています。
社員同士が自発的に関係を築いて学ぶ組織風土を醸成することで、社内での学びの機会が創出されている例です。
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
コンピュータ、ネットワーク、アプリケーションなどのコンサルティングからシステムの開発、運用・保守などITライフサイクル全体にわたるサポートを行う、伊藤忠テクノソリューション株式会社。
同社では、誰もが自由に情報を発信・受講できる新たな情報共有基盤のリソースとして『eSchool(イースクール)』が提供されています。
かつては社内PCを使った全社研修が中心で、リモート研修やスマホ対応ができていなかったのを刷新し、あらゆる部署の約1,300名もの従業員が動画を含むコンテンツを作成・配信できるようになりました。
内容は人事部やセキュリティ部門による全従業員向けの教育コンテンツや、一部の職種向けにクローズドで行われる研修や情報共有などです。
自由で活発な共有の場を生み、人材育成に活かしている成功例です。
参照:伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 | eラーニングのデジタル・ナレッジ
ソフトバンク株式会社
携帯端末の販売や固定・移動通信サービスの提供、インターネット接続サービスを提供するソフトバンク株式会社。
新卒・キャリア向け、1〜3年目向けなど階層に応じた研修を提供するほか、2010年から「ソフトバンクアカデミア」を開校しています。
目的は、ソフトバンクグループの後継者およびAI群戦略を担う事業家の発掘・育成です。
孫正義氏が自ら行う経営学の講義や、各自が経営陣の前で行うプレゼンテーション、任意参加の勉強会などが開催されています。
その他、「Web-Leaning」として実際の講義風景やサテライト配信の形で、場所や時間を問わず受講が可能なオンデマンド研修も提供されており、従業員の幅広い学びを促進する機会が提供されています。
まとめ
人材育成にはコストがかかりますが、人材が成長すると企業にとって中・長期的には大きな利益となります。
研修やOJT、eラーニングとあらゆる手段があるため、方法を迷ってしまうときもあるかもしれません。
人材育成のコスト一覧や成功事例を確認して自社に合った方法を検討することで、従業員の成長をうながしましょう。