「成果を出せる人材」を育てるにはどうすればいいのか。これは多くの企業が抱える課題でしょう。
その答えのヒントになるのが、人材育成に関する理論です。
現場経験や直感だけに頼らず、人材育成を再現可能な仕組みにするには、理論に基づいて人材育成のプランを作成する必要があります。
本記事ではX理論・Y理論や経験学習モデルなどの代表的な理論を10個紹介していきます。
また、識学式マネジメントの人材育成理論についても解説していくので、ぜひ参考にしてください。
目次
人材育成に理論を取り入れた方がいい理由
人材育成に理論を取り入れた方がいい理由は以下の3つです。
- 人材育成の再現性、一貫性を高められるから
- 状況や部下に合わせた関わり方を学べるから
- 育成施策の効果を測定、検証しやすくなるから
それぞれ詳しく解説していきます。
人材育成の再現性、一貫性を高められるから
属人的な指導に頼る人材育成は、どうしても指導者ごとのばらつきが生じます。
そこで人材育成理論を取り入れることで、指導内容や評価基準に一貫性を持たせることが可能となるのです。
また、どのような場面で何を教えるべきか、その効果をどう測定すべきかが明確になります。
理論に基づいたアプローチは、担当者が変わっても同じ方針で育成を続けられるため、組織全体の人材育成の品質が向上し、長期的な成果につながるでしょう。
状況や部下に合わせた関わり方を学べるから
人材育成に理論を取り入れた方がいい理由として、状況や部下に合わせた関わり方を学べることも挙げられます。
複数の人材育成理論を理解していれば、さまざまな場面で適切な判断が可能です。
現在は人材の多様性が重視されていますが、理論を活用することで、部下に合わせた適切な育成プランを組めるでしょう。
さまざまなシチュエーションで適切な判断ができるようにするためにも、複数の人材育成理論を理解することが効果的です。
育成施策の効果を測定・検証しやすくなるから
経験や勘に頼った人材育成は、どうしても主観的な要素が多くなりますが、理論に基づいた人材育成であれば、あらかじめ型や指標が決まっているため、平等に効果測定できます。
そのため、課題や解決策が明確になり、人材育成の施策がアップデートされ続けるのです。
特に大企業の場合、人材育成の「質」を担保するために、理論に基づいて効果測定することが重要です。
人材育成に役立つ代表的な理論10選
人材育成に役立つ代表的な理論としては、以下の10個が挙げられます。
- X理論・Y理論
- SL理論
- PM理論
- 経験学習モデル
- 成功循環モデル
- 組織学習理論
- 成人発達理論
- インテグラル理論
- カッツモデル
- カークパトリックモデル
それぞれ詳しく解説していきます。
X理論・Y理論:部下への人間観が育成スタイルを左右する
X理論・Y理論は、アメリカの経営学者ダグラス・マグレガーが提唱した仮説のことです。
- X理論:人は本来怠け者でできるだけ働きたくないと考える前提
- Y理論:人は条件次第では自己実現のために積極的に行動する前提
リーダーがX理論かY理論かどちらの視点を重視しているかで、指導方針が変わることをダグラスは指摘しました。
ダグラスによれば、現代は最低限の生活が保障されているため、Y理論を重視した方がいいそうです。
ただし、X理論の要素は誰もが持っているため、バランスを取ることが重要だと考えられます。
SL理論:状況に応じて指導スタイルを変化
SL理論(状況対応型リーダーシップ理論)は、部下の成長段階や状況に応じて、上司のリーダーシップスタイルを変えるべきとする理論です。
部下には「能力」と「意欲」の2軸があり、その成熟度に応じてスタイルが変化します。
- 指示型:能力も意欲も低い部下に対して明確な指示を与える
- コーチ型:能力は低いが意欲はある部下に対して指示しながらも対話を重視する
- 支援型:能力はあるが意欲が低い部下に対して判断を任せつつ相談に乗る
- 委任型:能力も意欲も高い部下に対しては自主性に任せる
このように、部下の成長段階や状況に応じて、指導スタイルを変化させるのがSL理論の特徴です。
PM理論:目標達成と関係維持に分類
PM理論はリーダーシップを「目標達成機能(M)」と「集団維持機能(P)」の2つの視点で分類する理論です。
PM理論ではリーダーを以下の4つに区分します。
- PM型:高いリーダーシップを発揮できている
- Pm型:結果に厳しいが人間関係に無頓着
- pM型:優しいが成果に結びつかない
- pm型:リーダーシップを発揮できていない
PM理論では「PM型」を理想とし、成果だけでなく人間関係とのバランスを重視するリーダーを高く評価します。
リーダー人材を育成する際に参考にしてみてもいいかもしれません。
経験学習モデル:経験からの学びを最大化するサイクル思考
経験学習モデルは、以下の4つのステップを繰り返していくことで経験から学習する考え方です。
- 具体的経験:何かを体験する
- 内省的観察:経験を振り返り何が起きたのかを観察・整理する
- 抽象的概念化:観察結果から理論やルールを見出す
- 能動的実験:理論を元に次の行動を実践してみる
そして能動的実験を行った際に、新たな具体的経験が得られるため、4つのステップがサイクル方式で回っていきます。
ただ仕事をこなすだけではなく、振り返りを通じて、次はどのようにすれば成果が出せるかを改善し続けることが人材育成で求められます。
成功循環モデル:ポジティブな組織循環を育てる思考法
成功循環モデルは、組織が成果を上げ続けるために必要な、4つの質とプロセスを元にした思考法です。
- 関係の質:メンバー同士の信頼・尊重・心理的安全性の高さ
- 思考の質:チーム内で生まれる前向きで建設的な思考、視野の広さ
- 行動の質:より良い考えに基づいた前向きで効果的な行動
- 結果の質:高い成果や個人・組織の成長
社員同士が良好な関係になれば、アイデアが生まれ、それが行動の質を高め、最終的な結果に繋がっていく、という考え方と言えるでしょう。
成功循環モデルは、成果ばかりを追い求めるのではなく、まず信頼関係を築くことから始める必要があることを強調しています。
組織学習理論:個人の学びを組織の力へと昇華
組織学習理論は、個人の学びを組織全体の成長や変革に繋げるための理論です。
個人がどれだけ優れた知識や経験を持っていても、それがチームに共有されていなければ、企業全体の力にはなりません。
組織学習理論では、個人が得た知見をチームに共有し、改善策として制度に落とし込むことで、企業全体の成長を促します。
人材育成でも、部下同士で知見を共有できるようにすると、学び続ける組織作りが可能になります。
成人発達理論:内面的成長を促す
成人発達理論は、大人になってからも人は内面的に成長し続けるという前提に立った発達心理学の理論です。
具体的には以下の成長段階に分けられます。
- 利己的段階:自分のニーズを満たすためだけに行動する
- 環境順応型知性:周囲の期待や価値観に大きく影響されるも基本的に指示待ち
- 自己主導型知性:自分なりの価値観や原則を持ち、主体的に判断できる
- 自己変容型知性:変化を受け入れ柔軟に対応できる
成人の約7割は環境順応型で、そこから自己主導型にまで移行できる人は3割程度、自己変容型知性にまで到達する人はさらに少なくなると言われています。
成人発達理論は、部下にどこまで任せられるかの指標になるのが特徴です。
インテグラル理論:複雑な人間関係を統合的に捉える
インテグラル理論は個人と組織の関係性をまとめた理論で、以下の4つの象限で人間関係を捉えます。
視点 | 内的 | 外的 |
個人 | 主観(やりがいや動機など) | 行動(スキルやパフォーマンス) |
組織 | 文化(チームの価値観・風土など) | システム(評価制度や組織構造) |
人材育成においては主観・行動・文化・システムの4象限ごとにアプローチを考えることで、人間関係を効果的に改善できます。
カッツモデル:階層ごとに求められるスキルの違いを把握する
カッツモデルはマネジメント階層ごとに求められるスキルの違いを示した理論です。
- コンセプチュアルスキル:複雑な状況を整理し戦略や全体像を描くためのスキル
- ヒューマンスキル:傾聴力やチームビルディングなど他者と円滑に関係を築くスキル
- テクニカルスキル:専門知識や業務スキルなど現場で直接成果を出すためのスキル
一般的に、マネジメントが上位に移行するにつれて、テクニカルスキルよりもコンセプチュアルスキルが求められるようになります。
人材育成を実施する際は、階層に応じた育成が必要です。特にマネージャー候補人材には、早い段階でコンセプチュアルスキルを強化する必要があります。
カークパトリックモデル:4段階で評価する
カークパトリックモデルは、人材育成や研修の成果を4段階で評価する理論です。
- レベル1(反応):受講者の満足度
- レベル2(学習):実際にスキルや知識が身についたか
- レベル3(行動):職場で実践されているか
- レベル4(結果):組織の結果に貢献したか
多くの研修は「やって終わり」になりがちですが、カークパトリックモデルを使えば、研修の効果を可視化・数値化することが可能です。
特にレベル3とレベル4は、研修や人材育成のROI(投資対効果)を重視する際に不可欠な指標だと言えます。
識学式人材育成理論の3つの特徴
識学では、個人や組織の意識構造を分析し、それを最適化する学問である「意識構造学」を活用したマネジメント理論を提供しています。
ここでは識学式人材育成理論の3つの特徴を解説していきます。
「部下は評価される存在である」ことを明確にする
識学では「部下は評価される存在である」ということを明確にします。
例えば、新入社員が部署異動やチーム異動を要求するとしましょう。
この場合、新入社員の意向を重視して、部署異動やチーム異動を検討することがあります。
しかし、識学式マネジメントでは、これは悪手です。
誰がどの仕事に最適かを選択するのは、責任者であるマネージャーやチームリーダーであり、部下に選択権はありません。
そして新入社員にできることは、評価者に求められることを確実に実行し、会社からの評価を高めることです。
部下はあくまでも評価される存在であり、評価者が求める成果を上げることで、昇進や給料などの対価を得られます。
この「事実」を新入社員に明確に伝えることが重要です。
やり方に口出しせず結果で管理する
識学式人材育成では、上司が部下のやり方に口出しすることはありません。
例えば、部下が「何をやればいいのかわからない」状態になっても、上司はアドバイスを出すのではなく、部下に考えさせるようにします。
仮に上司がプロセスに介入してしまうと、「上司の言う通りにやったのに……」と部下の言い訳の材料になってしまいます。
これでは、部下の成長の機会を奪ってしまうことに繋がりかねません。
また、プロセスではなく結果で管理した方が、上司の管理工数も削減されます。
プロセスではなく「結果だけ」で管理するのが識学式マネジメントの基本です。
むやみに部下を褒めない
マネジメントでは、よく「褒められて伸びるタイプ」の従業員がいると思われがちですが、識学ではむやみに褒めることを推奨しません。
なぜなら、人は不足を認識しなければ成長できないからです。
また、むやみに部下を褒めてしまうと、褒めなければ頑張れない人間になってしまい、部下の持つ達成基準が低下する恐れがあります。
基本的に「褒める」という行為は、基準を大きく上回ったときだけにすべきことで、安易に褒めないようにすることが大切です。
まとめ
人材育成は現場任せにするのではなく、理論を活用することで、再現性と効果が飛躍的に高まります。
本記事で紹介した10の理論は、それぞれに特化した視点を提供してくれます。
しかし大切なことは、組織や部下の状況に応じて理論を柔軟に組み合わせることです。
特に、徹底的に数値化を行う識学式マネジメントは、再現性が非常に高く、あらゆるシチュエーションに対応した手法として注目されています。
今後の人材育成に、ぜひ理論の力を取り入れてみてください。
識学では、再現性の高いマネジメントを理論的に学べる各種研修やコンサルティングサービスを提供しています。
成果に繋がる人材育成をしたい方や、組織に一貫した評価基準を導入したい方は、識学資料をダウンロードするか、お気軽にお問い合わせください。