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承継と改革の挑戦者

――過去から学び、未来を拓くリーダーたち――

第1回:株式会社ホギメディカル 代表取締役社長CEO 川久保秀樹氏

創業家から非・創業家へ経営移行。

組織運営の“型”を築く。

歴史のある大手企業の経営を承継し、さらなる発展を目指して組織改革や事業変革にチャレンジする――。

そんなリーダーたちの苦悩や成功のストーリーを綴るインタビュー企画。

第1回目は、医療用不織布製品や医療材料を集めたキット製品で手術準備が効率的に行えるようにすることで、医療機器市場で圧倒的なトップメーカーの地位を築いている株式会社ホギメディカルの川久保秀樹氏。

1955年の創業から二代続いての創業家の経営が続き、2024年4月に非創業家による新社長として就任した。

これを機に、創業家のリーダーシップによる経営から、企業理念や企業価値を求心力とする経営に移行。それとともに、まずは属人的に行われてきた営業の在り方に“型”を設け、業績が上がる仕組みづくりに取り組み始めている。

◆企業概要

会社名株式会社ホギメディカル
所在地東京都港区赤坂2丁目7番7号
代表者名代表取締役社長CEO 川久保秀樹
創業1955年12月
設立1961年4月
従業員数単体727名、連結1,408名(2024年3月末現在)
拠点国内23拠点26営業所、3工場ほか、海外現地法人3社
企業サイトhttps://www.hogy.co.jp/

◆事業概要

手術室周辺を中心とした手術用キット製品(プレミアムキット)、メッキンバッグ、医療用不織布製品、手術室支援管理システム「オペラマスター」、低侵襲手術用機器、再製造単回使用医療機器(R-SUD)など医療関連製品の製造販売

医療現場のニーズにきめ細かく対応した様々な製品と安定した供給体制により、医療機関における安全で効率的な手術室の運営と理想的な病院経営をサポート

◆企業年表

  • 1955年 保木明正堂 創業
  • 1961年 保木記録紙販売株式会社 設立
        医療用記録紙 発売
  • 1964年 メッキンバッグ 発売
  • 1970年 株式会社ホギに商号変更
  • 1972年 医療用不織布製品 発売
  • 1987年 株式会社ホギメディカルに商号変更
  • 1991年 東証二部上場(2000年 東証一部上場)
  • 1994年 キット製品 発売
        P.T.ホギインドネシア 設立
  • 2004年 オペラマスター 発売
  • 2016年 プレミアムキット 発売
  • 2018年 ホギメディカルアジアパシフィックPTE.LTD 設立

◆数字で見るホギメディカル

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“研究の虫”で製品を開発した優れたマーケッター

梶山 御社は、1955年に創業以来、画期的な製品を開発し、トップメーカーとして成長を続けてこられたと伺っています。まずはその概要からお教えください。

川久保氏 創業者の故・保木将夫は「保木明正堂」という文房具店を開業しましたが、紙製品を扱う中で創業当時から心電図の記録紙に着目し、医療界にアプローチしました。

1964年には「メッキンバッグ」の製造販売をスタートさせて、本格的に医療機器メーカーに転身しました。当時、滅菌装置にメスなどの器具や材料を綿布や紙に包むか金属容器に入れて滅菌する方法が主流となっていました。しかし滅菌不良などによる院内感染が問題となっていたことに着目し、滅菌後も無菌状態で保管しておくための袋を病院に提供したわけです。

 次は、1972年の医療用不織布製品です。それまで、手術などで使うガウンや患者にかけるドレープなどは綿布製で洗って再利用していたのですが、これも院内感染の温床であることに着目し、ディスポーザブルとして開発しました。これらの製品は、現在まで50%近い圧倒的なシェアを占めています。

 その後、1994年にキット製品、2004年に手術室支援管理システムの「オペラマスター」、2016年には手術に必要な材料の多くを弊社でセット化し、準備時間の大幅な削減により「働き方改革」や作業手順の平準化による効率化と安全性の向上の実現をサポートできる「プレミアムキット」という製品を出し、現在の主力商品になっています。

梶山 こうした画期的な製品を次々と開発できたのには、どういった要因があると考えていますか?

川久保氏 創業者は、非常に優れたマーケッターであったと思います。自らお客様の現場に足を運んで課題を見つけ、どういう製品をつくればいいかを研究しました。子息である保木潤一前会長は、「家に帰って来てからもひたすら製品を見つめて研究していた」と話しています。

 創業者は、まず世の中を水平に見て何が起きているかを把握し、次に時代の先を見て求められる製品を考えるということを実践していました。当社には、経営理念を綴った冊子があるのですが、そこには「製品のライフサイクルを考える」といったことが書かれています。

メーカーとして先行的に設備投資をし、そこからの収益が最大化できているうちに次の製品開発に投資するというサイクルを徹底して回してきました。その文化が定着し、2005年に前会長が2代目社長に就任した後も「プレミアムキット」などを生み出し続けられていると言えます。

「手術室を変えていく」という情熱に引かれる

梶山 そんな御社に川久保さんが入社された経緯をお教えください。

川久保氏 私は、アステラス製薬で経営企画に従事の後、テーマパークを運営するユー・エス・ジェイの人事総務部を経て、スマートフォンなどの機能性材料メーカーであるデクセリアルズでIRに携わっていました。

またライフサイエンス領域に戻りたいと思っていた2017年の時に、知人から「上場企業の経営者に会ってみないか」と当時の保木潤一社長を紹介されたのです。そして、保木の「手術室を変えていく」という情熱に引かれました。トップシェアの素晴らしい製品を提供していて、この事業は絶対に残っていくだろうと。

一方、売上の伸びが鈍化していたのです。そこで、何人かの幹部社員にも会って少し詳しく当社について調べてみました。すると、特に営業部門は属人的に仕事をしていて、組織があるようでないような感じを受けたのです。

この課題にチャレンジできれば面白いだろうと感じて、2018年4月の入社を決めました。優秀な人材が多いことも決め手になりましたね。私の職歴から、経営企画部長として入社することになりました。3か月後に執行役員、2年後に取締役に就任しています。

梶山 入社後、改めてどんな課題があると感じましたか?

川久保氏 組織のカルチャーは優秀なマーケッターである経営者による完全なトップダウン型で、「いいモノをつくれば売れる」という文化がありました。営業部隊を全国に配置し、新しい概念の製品ばかりですから、まさに市場を開拓していったわけです。

売り方は属人的で、言わば“野武士集団”のようでした。創業者は、「新製品は売れるまで数年以上はかかる、その間は耐え忍ぶ必要がある」と言っていましたが、かなわず会社を去った者も少なくなかったようです。

梶山 その中で生き残った人が、今幹部になっているわけですね。

川久保氏 そのとおりです。それぞれ独自のスタイルを持った優秀な営業が本部長や部長になっています。

良いものを残し、悪しきものは改める

梶山 そして、2024年4月1日に川久保さんが新社長に就任されました。

川久保氏 保木前会長は当時まだ63歳でしたが、健康上の問題もあり、また必ずしも創業家から後継者を出す必要はないというお考えだったことから私に白羽の矢が立った形です。

梶山 それまで2代続いてきた創業家による経営から、非創業家による経営へと移行されることになりました。どういった経営方針を打ち出されたのでしょうか?

川久保氏 これまで創業家のリーダーシップや事業構想力に頼っていたところから、会社のビジョンや事業の価値といったものを求心力にした経営に円滑に変えていくことが最大のミッションであると捉えています。

これまでの、いいモノをつくれば売れる経営から、顧客価値をいかにつくるか、それを担う人材をいかに育成するかという経営への変換が問われるようになる。そのための基盤を整備することが大きなテーマです。

梶山 創業家を否定することなく刷新する必要があると思いますが、どうバランスさせていこうと考えていますか?

川久保氏 4月1日に就任あいさつを行った際に、「良いものを残して悪しきものは改めていく」と話したのですが、いずれも人に関することと捉えています。最たるものは、能力が高い人材がいても、それを後進に伝えて育成する仕組みが弱いことです。

先述のようにトップダウンが強力だったので、営業部隊は考えることよりもまずは機敏に動くことに徹するという状態になっていたわけです。そこを改めていこうと考えています。

社員の価値向上のための還元策を手厚く

梶山 上場企業として、対外的にはどのように打ち出していかれるのですか? また、社内ではどういった方向で話しているのでしょうか?

川久保氏 2025年3月期から3年間の新中期経営計画を発表したところですが、まず、10年後である2035年のありたい姿として「日本・ASEANにおける医療進歩の一翼を担うオンリーワン企業へ/顧客視点に立脚し、価値を生みだすソリューションプロバイダーへ」を掲げました。

過去の10年間は、売上は微増の一方、ROEが7.8%から3.3%まで下がり続けていることが大きな課題です。そこで、新中計でまずは2027年3月期にROE6%を目指し、製品ポートフォリオの見直しや営業組織改革、海外事業の推進といった事業戦略に5つの基本方針を掲げています。

一方、社内的には、社員の価値向上のための還元策が手薄なので、そこを分厚くしていくことを打ち出しています。待遇面というよりは、成長に向けた育成施策に軸足を置いています。決して転職を促すわけではありませんが、転職市場での価値を高めるように自分を磨いてほしいと。

梶山 転職しようと思えば年収が上がる状態にする、ということですね。

川久保氏 まさしく。それでも辞めないのは、ホギにいれば成長できるから。それで成長し価値がアップしてオファーが来ても残る。こんなサイクルを繰り返せば強い組織になると思っています。

梶山 営業組織改革の方向性としては、どういったものでしょうか?

川久保氏 先述のとおり、これまでの創業家のリーダーシップに野武士集団が従っていた構図があり、まずはこれを変えていかなければなりません。そこで、組織の“型”をつくりたいと考えています。

これまで、現場をガチガチに管理しているところもあれば、ほとんど把握していない部署もあるといったバラバラな状況で、そもそもルールもなかったからです。

成果を求めて社員が成長する場を

川久保氏 そこで、組織全体を変えるための最初のステップとして、私を含めた全幹部の概念を揃えることから着手することにしました。そして、どういった概念で揃えるべきかを探索し、協議していく中で最も腹落ちできたのが識学の理論だったのです。

識学はまだ始めたばかりで受け止め方や実践度合はまだら模様ですが、徐々に効果は表れ始めています。幹部への導入を始めてから2年ほどで、顧客への訪問量が前年比118.7%、商品に興味を持たれた上での提供サンプル数は同じく146.7%、そして、主力商品であるプレミアムキットの受注数量は同じく121.6%という成果を上げています。

今後は、幹部から組織全体まで浸透させていくことで、安定的に成長できる組織に変えていきたいと考えています。そのためにも、人事制度が35年ほど前に策定されたものを今でもベースにしているので、これも変えていきます。これによって、地下に溜まっているマグマが動き出せばいいと考えています。

梶山 社長就任前に整理された課題やその解決策を、就任のタイミングでスムーズに打ち出された形ですね。それらの解決策によって、改めてどういった組織風土をつくっていきたいと考えていますか?

川久保氏 会社として、成果を求めて社員が成長する場をしっかりつくるということです。イメージは“厳しくも、明るく”でしょうか。創業家による経営から変わり、社員側にバランスを寄せると言っても、甘くなるわけではありません。

社員の心理的安全性を担保しつつも、成果には厳しく対応したいと思います。成長できなければ明るい未来は描けないからです。

そうした組織や仕組みをしっかりとつくり、次のトップに渡すのが私の任務であると考えています。

創業家との対話が肝心

梶山 今後の展望はいかがでしょうか?

川久保氏 組織改革でたとえ小さくても「ここが変わった」という成果をいくつも出していければ、それが追い風になって成長に弾みがつき、新しい人材も集まってくると思っています。焦らずに取り組んでいきます。

梶山 御社のように、創業家による経営から脱皮する仕組みづくりが日本中に広まれば、巨大な力になると思います。そうした経営者にメッセージをお願いします。

川久保氏 創業家は絶対にないがしろにしてはならないと思います。私が実感していることですが、健在なうちに創業家から直接いろいろな話を伺っておくことは承継する上で非常に意義のあることで、こうした機会はそうそうないと思うからです。

そんな創業家と会社の組織運営のバランスを取るのは難しい面もありますが、いずれにしろ「ここは変えないがここは変えるべき」といった対話が肝心であると思います。社内に対しても、「牛歩のように思えるかもしれないが、いざ変える時はしっかり変えて行こう」と言い続けることが大事かと思います。

こうしたことはテクニカルに解決できるものではなく、時間をかけてでも対話を重ねて解決していくべき。奇をてらってスキャンダラスなことにでもなれば、ライバル会社を利するだけですから。

梶山 どうもありがとうございました。

インタビュアーのまとめ

川久保社長における“位置認識”の素晴らしさ

川久保社長は、社長就任以前、自らの評価者は前保木会長であることを認識しつつ、自らの役割である会社を変革させる意思決定を行ってきました。発展的な承継を行うためには、引き継ぐ側の経営者が、上記2つの事柄を相反する概念として扱うのではなく、いかに共存させることができるかが最大のポイントなります。

しかしながら、意識しなければ、どうしても新しく打ち出す経営方針に重きをおいてしまうため、結果的に過去を否定することになってしまうケースも少なくありません。川久保社長は取締役就任時からこの位置認識を意識しており、今回の経営交代もスムーズに実現しました。

今後も、識学コンサルタントとして、ホギメディカル川久保社長の改革に伴走し続ける所存です。

識学担当コンサルタント 取締役副社長 梶山啓介

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