ピーター・ドラッカーが提唱したMBOは、現代でも十分通用するマネジメント手法です。
とはいえ、どれだけ優れたマネジメント手法でも、適切に活用しなければ、その真価は発揮されません。
MBOをフルに活用するためには、まずMBOそのものを深く理解する必要があります。
本記事では、MBOを設定するメリット・デメリットや実施手順を、識学目線でお届けします。
ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
MBO(目標管理制度)とは?
MBO(Management By Objectives)は、日本語訳で「目標管理制度」と呼ばれる経営管理手法です。
「マネジメントの父」とも呼ばれ、多数の関連書籍があるアメリカの有名な経営学者、ビーター・ドラッカー教授によって提唱されました。
MBOでは、組織全体にとっての目標とは別に、一人ひとりの従業員(もしくは課などのグループ)が自主的に個別目標を設定し、これを組織全体の目標と連動させるという方法をとります。
MBOが日本企業においても広く受け入れられるようになった背景としては、1950年代以降、世の中に大型の企業組織が増えるに伴って社員の数が増え、またそれぞれ異なる役割を持った社員が協業するようになったことがあげられます。
このような状況下で、各社員がそれぞれ自分の役割と能力に応じた目標を自律的に決めることが求められるようになっていったのです。
また、社員自身が「自分にとって現実的に達成しやすい」と思える目標を自ら設定するため、モチベーションが損なわれず、かつ強いコミットを引き出せるという期待も、導入が進んだ理由のひとつでしょう。
日本においても、早い企業では1960年代からMBOの導入が進められていました。
しかし本格的に普及したのはバブル崩壊後の1990年代で、組織改革の一環としてのことでした。
KPIとの違い
KPIは「Key Performance Indicator」の略で、日本語では重要業績評価指標のことです。
最終的な目標であるKGI(重要目標達成指標)を達成するためのプロセスを計測する中間指標のことをKPIと呼びます。。
MBOとKPIは、どちらも目標達成のためのマネジメント手法です。
ただし、KPIはプロジェクトの目標を達成させること自体が目的なのに対し、MBOは組織と個人の目標を共通化して目標管理を行うのが目的という点で異なります。
OKRとの違い
OKRとは、「Objectives and Key Result」の略で、日本語に直訳すると「目標と主要な成果」となります。
OKRは、Intel社の元CEO・グローブ氏によって提唱された目標管理手法です。
アメリカのシリコンバレーを中心に数多くの企業で導入が進み、近年注目を集めています。
MBOとOKR、どちらも目標管理のためのフレームワークですが、MBOが長期的な視点で目標管理するのに対し、OKRは短期間での生産性向上や課題解決を目指すために、高頻度で軌道修正する点が大きく異なります。
MBOを設定する3つのメリット
MBOを設定するメリットは以下の3つです。
- 部下の主体性を育める
- 上司の工数削減に繋がる
- 客観的な指標で評価しやすくなる
それぞれ詳しく解説していきます。
メリット①:部下の主体性を育める
MBOを設定するメリットとして、まず挙げられるのが部下の主体性を育めることです。
MBOでは、部下自らが目標を設定するため、責任感が芽生え、業務の主体性が高まる効果が見込めます。
日本では人事評価制度の一環としてMBOが捉えられがちですが、ドラッカーは効率的な人事評価のためにMBOを作り上げたわけではありません。
部下の自己統制を育める最適な管理手法を構築した結果がMBOなのです。
実際、自分が抱えている業務が他人ごとなのか自分ごとなのかで、モチベーションは大きく変わります。
日本のどこかで起こった殺人事件と、近所で起こった殺人事件。はたしてどちらの方が一大事でしょうか?
これと同じことがビジネスシーンでも言えます。自分で責任感を抱いている仕事に対して、人は全力で取り組むものなのです。
この「自己統制によるモチベーション」を最大限引き出せる可能性があるのがMBOの最大のメリットです。
メリット②:上司の工数削減に繋がる
MBOは、上司の工数削減に繋がるのがメリットです。
従来の目標管理手法の場合、上司が責任を持って部下の目標を設定する必要がありました。
しかしMBOでは、基本的に部下が自分自身で目標を設定します。
そのうえ、MBOによって自己統制が育まれ、部下が主体性を持って仕事してくれるようになれば、上司が業務プロセスに介入する必要がなくなります。
MBOを上手に活用することで、上司の工数削減に繋げることができるのです。
メリット③:客観的な指標で評価しやすくなる
MBOは目標管理手法でありながら、人事評価でも活用することが可能です。
MBOでは、従業員自らが設定した目標の達成度を算出できるため、比較的客観的な指標で評価できます。
客観的な評価は、人事評価において非常に重要です。
公平性の高い人事評価であれば、従業員の不満が出づらく、高いモチベーションを維持できるようになります。
MBOを設定する3つのデメリット
MBOを設定するデメリットは以下の3つです。
- 組織目標が疎かになる
- 中長期的な視野が欠如しやすい
- 計画の柔軟性が損なわれやすい
それぞれ詳しく解説していきます。
デメリット①:組織目標が疎かになる
MBOを設定するデメリットとして、組織目標が疎かになることが挙げられます。
MBOは、それぞれの従業員ごとに目標が設定されます。
そのうえ、マネージャーではなく部下が目標設定の主導権を握るため、どうしても組織目標が疎かになってしまうのです。
だからといって、組織目標を重視しすぎてしまうと、今度は部下の自己統制が失われる可能性があります。
そこでマネージャーが組織と個人の中間に立ち、部下の自己統制を引き出しながらも、組織目標の達成に導けるように、部下の目標設定をサポートします。
MBOを設定することで組織目標が疎かになる点には注意が必要です。
デメリット②:中長期的な視野が欠如しやすい
MBOを設定することで、中長期的な視野が欠如する恐れがあります。
基本的に、MBOの適用期間は「数ヶ月から1年ほど」です。
そのため、MBOを設定することで、部下が短期的評価を重視してしまう可能性があります。
識学では、長期的視点を重視することを推奨しています。
理由は、短期的目線に比べて長期的目線を用いた方が、未来に対してほどよい危機感を持てると考えているためです。
MBOを設定する際は、中長期的な視野を確保するための工夫が必要になります。
デメリット③:計画の柔軟性が損なわれやすい
MBOは計画の柔軟性が損なわれやすいのがデメリットです。
先ほども述べた通り、MBOの適用期間は「数ヶ月から1年ほど」なので、その間は基本的に目標や計画を安易に変更できません。
一方で、現代社会は変化が非常に激しく、1ヶ月経過するだけで市場が大きく変化することも珍しくありません。
その際、計画を自由自在に変更できないのは、大きなデメリットとなります。
MBOを導入する際は、計画の柔軟性を確保するために、計画変更の権限を部下に委譲するなどの工夫が必要です。
MBOの実施手順【4STEP】
MBOの実施手順は以下の通りです。
- 部下主導で目標を設定する
- 目標達成までのアクションプランを策定する
- 定期的に進捗を確認する
- 目標達成度を振り返り、評価する
それぞれ詳しく解説していきます。
手順①:部下主導で目標を設定する
MBOの運用は、目標設定から始まります。
経営層や上司は、部下の考えを尊重しながらも、個人目標が組織全体の目標につながってくるかを第三者目線でチェックします。
その際、部下が適切な目標を設定できるよう助言を与える事が大切です。
簡単すぎる目標では部下の気の緩みに繋がり、高いモチベーションを引き出せない可能性があります。
逆に難しすぎる目標だと、部下のモチベーションが削がれる恐れがあります。
部下が設定する目標の難易度については、上司がバランスを整えてあげるのがいいでしょう。
手順②:目標達成までのアクションプランを策定する
部下は、自らが設定した目標を達成するための、具体的なアクションプランを作成します。
アクションプランを策定する際は、最終目標から逆算した上で、KPIを設定するのがおすすめです。
なお、KPIを設定する際は「確率」ではなく「行動量」を重視することを識学は推奨しています。
上司はフィードバックを通じて、部下が作成した行動計画が、組織目標の達成に貢献できるように調整します。
手順③:定期的に進捗を確認する
MBOの運用には定期的な進捗確認が不可欠です。
期末だけでなく、中間のタイミングでの進捗確認をこまめに行うことで、問題点を早期に解決して軌道修正することが可能になります。
進捗を把握する方法としては、定期面談に加え、社員からの日報や週報を通じて行うのが一般的です。
手順④:目標達成度を振り返り、評価する
目標達成度を振り返り、フィードバックを実施します。
「部下目線での自己評価」と「上司からのフィードバック」という2つの視点で評価を実施した上で、認識を擦り合わせます。
達成状況の結果に関しては、上司からの評価を伝えて終わりではなく「なぜ達成できなかったのか」を部下に考えさせることが重要です。
その上で、次回の目標設定に活かせる教訓を、部下と上司で一緒に考えていきます。
MBOを成功に導く3つのコツ
MBOを成功に導くコツは以下の3つです。
- 個人目標と組織目標のベクトルを合わせる
- 業務プロセスに介入しない
- ストレッチ目標を設定する
それぞれ詳しく解説していきます。
コツ①:個人目標と組織目標のベクトルを合わせる
MBOを成功に導くコツとして、まず挙げられるのが「個人目標と組織目標のベクトル合わせ」です。
部下が設定した個人目標が、部下の自己実現のために素晴らしいものであっても、それが組織目標に繋がらないのであれば意味がありません。
マネージャーは、部下の目標設定をサポートしながら、個人目標と組織目標のベクトル合わせに徹します。
コツ②:業務プロセスに介入しない
MBOを成功させるためのコツとして、上司が部下の業務プロセスに介入しないことが挙げられます。
上司の役目は、目標設定のサポート、定期的な進捗確認、フィードバックだけです。
それ以外のことについては、上司はとやかく言いません。基本的に部下の主体性に任せます。
識学では、部下の業務プロセスに介入せず、結果だけで管理することを推奨しています。
そうすることで、部下は自らが抱えている業務を自分自身の頭で考えるようになり、結果的に人材育成に繋がります。
そのうえ、上司はプロセスに介入しなくていいので、大幅な工数削減を実現できます。
MBOは「目標管理制度」であって「プロセス管理制度」ではありません。
上司は、部下の目標設定をマネジメントすることだけに集中しましょう。
コツ③:ストレッチ目標を設定する
MBOを実施する際は、ストレッチ目標を設定するようにします。
具体的には、部下の能力値が100だとしたら、120の力でようやく達成できるぐらいの目標を設定するのです。
達成できるかどうかギリギリのストレッチ目標を設定できれば、部下のモチベーションが高まります。
また「どうやったら目標を達成できるのか」を部下自らが考えるようになるのも大きなメリットです。
まとめ
それでは本記事をまとめていきます。
- MBOは目標管理制度のことで、上司ではなく部下自らが目標を設定するマネジメント手法を指す
- MBOを活用することで、部下の自己統制を促進させ、かつ上司の工数を大幅に削減することができる
- MBOを実施する際、上司は部下の業務プロセスに介入しないようにする
MBOは、部下の主体性を育むことができる優れたマネジメント手法です。
部下の業務プロセスに上司が介入してしまっては、MBOの最大の魅力が台無しになってしまいます。
もちろん、業務プロセスを評価することは大切です。
ただし、業務プロセスに上司が口出しすることはありません。
MBOを実施する際、上司は「目標管理のサポート」「進捗確認」「フィードバック」に徹しましょう。