厚生労働省が企業に対して行った調査によると、自社が競争力を更に高めるため今後強化すべき事項として最も割合の高かった回答は、52.9%で「人材の能力・資質を高める育成体系」でした。
調査結果から分かるように、人材育成は近年の企業経営において重要な課題となっていると言えます。
本記事では、人材育成において企業が重視すべきことを、以下の観点から解説します。
- 人材育成とは?
- 人材育成の目的
- 人材育成の考え方
- 人材育成の効果を上げるポイント
- 人材育成の具体例3選
目次
人材育成とは、人的資源を戦略的に育成すること
人材育成とは、企業のビジョンやミッションに共感し、企業の発展や存続の要となる人材を育てることです。
人材育成の主な手法には以下のようなものがあります。
- OJT(On the Job Training):職場内で先輩や上司から指導を受けること
- Off-JT(Off the Job Training):企業の事業活動と区別して行われる研修のこと
- SD(Self Development):自ら積極的に学習や資格取得を行うこと
人材育成は企業の競争力を高めるためにも欠かせない取り組みです。
企業の経営戦略や業務内容に応じ、適切な目標や研修機会を設定しましょう。
人材育成の目的
厚生労働省の平成30年版「労働経済の分析」によると、以下の内容を人材育成の目的として挙げる企業が多くなっています。
- 今いる従業員の能力をもう一段アップさせ、労働生産性を向上させる
- 従業員のモチベー ションを維持・向上させる
- 数年先の事業展開を考慮して、今後必要となる人材を育成する
このことから、本記事では以下3つを企業における人材育成の目的として分かりやすく解説していきます。
- 生産性の向上
- リーダーの育成
- 人材が流出するのを防ぐ
1.生産性の向上
前出の調査において、企業が人材育成を行う目的で最も多かった回答は81.9%の「今いる従業員の能力をもう一段 アップさせ、労働生産性を向上させる」です。
OJT がうまくいっており、職場の生産性が向上している企業では、以下のような取り組みが相対的に多く実施されています。
- 段階的に高度な仕事を割り振っている
- 仕事について相談に乗ったり、助言している
- 仕事の幅を広げている など
社員一人ひとりの労働生産性が向上することで、新しい商品やサービスを生み出したり、売り上げや利益が向上したりします。
「働き方改革」や「働き方の多様化」がトレンドの今、時代の変化に対応していくためにも、人材育成によって社員一人ひとりの生産性を向上させることを目的とすることが大切です。
2.リーダーの育成
企業の存続には後継の経営者や経営に携わる管理職の存在が不可欠です。
将来的にリーダーが不在になれば企業の存続も危うくなってしまいます。
人材育成とは、企業のビジョンやミッションに共感し、企業の発展や存続の要となる人材を育てることだと説明しました。
自社のビジョンやミッションに共感しチームや部署を率いることができる人材の育成には、リーダーシップやマネジメントスキルを身に付けさせる必要があります。
3.人材が流出するのを防ぐ
人材不足が深刻化し人手の確保が難しくなった今、企業に求められているのは「魅力ある職場づくり」です。
従業員にとって働きやすく働きがいのある「魅力ある職場」では以下の効果が生まれます。
- 従業員の意欲向上
- 業績・生産性の向上
- 人材確保
「魅力ある職場づくり」を進め人材を確保するためには、社員の視点に立った人材育成が効果的です。
それぞれの企業が抱える課題を社員の視点に立って解消していき、必要な人材が流出しない環境を作ることが大切です。
参考:取り組みませんか? 「魅力ある職場づくり」で生産性向上と人材確保|厚生労働省
人材育成の考え方
新入社員・若手社員と、ある程度経験を積んだ中堅社員では、企業が求めるレベルに差があります。
人材育成では、社員のレベルに合わせて目標やプログラムを検討することが大切です。
本章では、以下の階層別に人材育成の考え方を解説します。
- 新入社員、若手社員の育成
- 中堅社員の育成
新入社員、若手社員の育成
新入社員や若手社員の育成では、以下のような考え方が大切です。
- 会社のビジョンやミッション、目標や方針などを浸透させることで、社員のモチベーションやコミットメントを高めること
- 基礎的な知識やスキルを習得させることで、仕事の質や効率を向上させること
- さまざまな手法を使い、個々の能力や特性に応じた教育を行うこと
- フィードバックや評価制度を活用すること
- 社員の成長過程や課題を把握し、改善策を提案すること
新入社員教育の時点でOJTを取り入れたり、研修を強化するなどして、会社のビジョンやミッションに共感する人材を育成します。
また、若手社員をメンターに抜擢するといった、将来育成できる人材を育成することも必要です。
中堅社員の育成
中堅社員の育成においては、以下のような考え方が大切です。
- 経験学習という考え方を取り入れて、仕事で得た経験から学びを深めてもらうこと
- メンター制度やコーチングなどを導入して、自己分析や自己啓発の機会を促すこと
- キャリアプランニングやキャリアカウンセリングなどの支援を行い、キャリアプランを明確にしてもらうこと
- 管理職やリーダー候補として必要な知識やスキル、マインドセットなどを教育すること
中堅社員は会社の中心とも言える存在ではありますが、若手とも役職者とも違う悩みや苦労からモチベーションが低下しやすい層でもあります。
中堅社員の「中だるみ」を引き起こさないためにも、新人の指導は若手社員に任せたり、キャリアアップに配置換えを行うことも検討しましょう。
人材育成の効果を上げるポイント3つ
「人材育成の目的」で解説した3つが達成され、人材が企業の競争力に貢献して、初めて「人材育成の効果が出た」と言えます。
本章では、人材育成の効果を上げるポイントとして以下の3つを挙げて解説します。
- 社員の主体的な学習意欲を高める
- 決断機会を増やす
- セカンドチャンスを提供する
1.社員の主体的な学習意欲を高める
社員の主体的な学習意欲を高めるためには、社員に自己開発の機会を提供したり、経済的支援を行ったりすることが大切です。
主体的な学習意欲を高めることは、社員が自身のキャリアプランニングを明確にしたり見直したりする機会にも繋がるためです。
主体的な学習意欲を高める方法として、以下のような環境づくりや制度が検討できます。
- 社内勉強会の開催
- 社内外のセミナーへの参加
- 書籍の購入補助支援
- オンラインコースの費用補助
- 資格取得の報奨金制度
- 社内の学び合いコミュニティ
- メンター制度 など
自己開発の機会を提供することは社員の業務の質や生産性の向上はもちろん、経験やキャリアの幅を広げられるよい機会と言えます。
離職率低下にもつながるでしょう。
2.決断機会を増やす
経営者や管理職は常にさまざまな決断と実行に迫られます。
従って、人材育成の効果を向上させるには意思決定能力を養い、決断機会を増やすことも有効です。
例えば、マネジメント経験のない社員にプロジェクトの目標設定や予算配分、進捗管理などを任せます。
任された社員はプロジェクトの方向性や予算、人員、納期などさまざまな決断を迫られ、自身の決断で成功にも失敗にもなることを体験できます。
この時、失敗を恐れずにチャレンジできる風土やフィードバック制度があるとよいでしょう。
決断機会を増やすことで、社員の成長意欲や創造性を引き出すことも可能となります。
3.セカンドチャンスを提供する
人材育成は、社員に新しいスキルや知識を身に着けてもらう機会にもなります。
社員に新しいスキルや知識を身に着けてもらうためには、異なる職種や部署への異動やローテーション制度を活用することを検討しましょう。
営業から企画や、開発から営業などの配置換えやローテーションを行うことで、社員は自分の得意分野以外の業務に挑戦し、幅広い視野や知見を獲得できます。
また、異動やローテーションに伴う不安やストレスを軽減するためには、事前の説明や相談、適切な教育やフォローアップなどのサポートが必要不可欠です。
人材育成の具体例3選|民間企業の事例
現代において人材育成は、業界や業種問わずに盛んに行われている取り組みのひとつです。
しかし「人材が育たずに辞めてしまう」「組織に合った手法で人材育成に取り組みたい」など、人材育成に課題や悩みを抱える企業もあるのではないでしょうか。
そこで、本記事では民間企業の人材育成の具体例として以下の3社を例に解説していきます。
- 株式会社ニトリホールディングス
- パナソニック株式会社
- 東京海上日動
3社の共通点は、日常生活で見かけることの多いサービスや商品を提供していることです。
ぜひ参考にしてみてください。
1.株式会社ニトリホールディングス
ニトリの“人財育成”の柱は、広い視野と柔軟な思考を養う「配転教育」です。
配転教育は関連する部署や職種をユニットとして定義し、2~3年ごとに異動を繰り返すことで、専門分野に特化したキャリア形成を行う制度です。
配転教育のもとで、本来の所属部署(本籍)を明確化し、将来は本籍への配転を前提としている制度となっています。
また、ニトリには人材育成を体系化したニトリ独自のカリキュラム「ニトリ大学」があります。
ニトリ大学が「大学」と銘打っているのは、多彩なカリキュラムが用意され、従業員が受講するごとにステップアップしていけるからです。
ニトリ大学には、経験年数に応じた研修やeラーニング、セミナーや海外赴任制度などがあります。
2.パナソニック株式会社
パナソニックグループは、経営理念を体現した行動指針として「パナソニック・グローバル・コンピテンシー(PGC)」を定めています。
PGCは、全社員とリーダーに求められる能力や行動を明確化したものです。
人材育成の基本体系は、グローバル共通で最低限求めるナレッジ体系をベースに階層ごとに構築されます。
ビジネススキル研修や職能別研修などを行っています。
さらに、人材開発カンパニー(HRDC)はグローバルにあらゆる階層の人材開発・研修を専門的に行う組織として、新入社員教育や選抜型の幹部開発研修などを実施しています。
パナソニックグループが人材育成で大切にしていることは、思い切って部下に仕事を任せることです。
上司は部下に自主性を持って自ら考え改善し続けるように働きかけるとともに、部下からも教えてもらうことで、上司自身の成長にもつながるとしています。
3.東京海上日動
東京海上日動は、社員の人材育成を第一の目的とした「育成型人事考課制度」を採用しています。
社員のコンピテンシー(行動特性)を客観的に観察・分析し、OJTや適性に合った職場への配属などを通じて、人材育成に結び付けていくことが目的です。
東京海上日動の人材育成の主な制度として「役割チャレンジ制度」と「JOBリクエスト制度」があります。
役割チャレンジ制度は、上司・部下の定期的な面接の場で年4回行われており、キャリアビジョンやなどについての対話を行います。
JOBリクエスト制度は、社員自らがキャリアビジョン実現のためにチャレンジしてみたい職務に応募できる制度です。
他にも、自律的なキャリア形成をサポートする制度やさまざまな研修など、全ての社員が成長できるカリキュラムが豊富となっています。
人材育成は企業存続にも関わる重要な課題
本記事では、人材育成の目的や階層別の考え方、効果を上げるポイントなどを解説しました。
リクルートワークス研究所のデータによると、2040年には企業で働く担い手不足が全国で1100万人にのぼるとも言われています。
人材確保が難しくなると企業活動を維持できなくなり、倒産の危機に陥る可能性もあります。
人材育成は、企業存続にも関わる重要な課題です。
人材育成と聞いて「なんだかよく分からない」「後回しになっている」と感じた方はぜひ本記事を参考にしてみてはいかがでしょうか。