ロジカルシンキング(論理的思考力)の大切さについて認識しつつも、「ロジカルシンキングの能力って生まれつきのものじゃないの?」と感じている方も多いでしょう。
ところが、実際には多くの専門家が「ロジカルシンキングの能力は後天的に身につけることができる」としており、「論理的思考がニガテな人だな」という人でも、ロジカルシンキングの能力を鍛えられるためのトレーニング方法も存在します。
この記事では、そもそもロジカルシンキングとはどういったものなのか、マスターするメリットなどについて解説するとともに、ロジカルシンキング能力を鍛える方法についてもご説明していきます。
目次
ロジカルシンキング(論理的思考力)とはどういうもの?その重要性について
ロジカルシンキング、すなわち論理的思考力とは、一言で言うと、「事象や問題を論理的に分析し、理解し、解決への道筋を立てる能力」のことを指します。
組織に属しているビジネスパーソンは日々、業務計画にはなかった想定外の問題に対処したり、業績不振やトラブルの原因を分析したりと、頭を働かせる必要があります。
「気合と根性、そして仲間との協力で乗り切ろう!」というわけにはいかないのです。
もちろん、精神的なタフネスや仲間との協力は重要な要素ですが、そもそもの問題認識を誤っていたり、非論理的な方向性で行動していると、気合や協力もすべて無駄になってしまいます。
ゆえに、論理的に問題を分析し、筋道の通った方針を立てることにつながるロジカルシンキングの能力は、企業の活動に従事するビジネスパーソンにとって必要不可欠なのです。
ロジカルシンキングができないと何が起こる?“非論理的な思考”の例
ロジカルシンキングの有益さについて理解するうえでは、逆に「非論理的な思考がどのような弊害をもたらすのか」について想像を巡らしてみるべきでしょう。
ロジカルシンキングの欠如がもたらす弊害としては、例えば以下のようなものが挙げられます。
- 表面的で本質を見落とした議論
- 早まった一般化(類推の危険)
- 感情的推論
1.表面的で本質を見落とした議論
物事の表面的な部分だけに目を向け、その背後にある本質的な部分を見落とすという思考パターンです。
例えば、経営陣が企業としての戦略を決める場において、「売上を前期比で15%増加させる」というような結論に至るケースが多々みられます。
これは、“戦略”について話し合った結論としては表面的であり本質が欠けた議論であると言わざるをえません。
というのも、戦略とは「組織としてどのような方針を持ち、どのような行動をしていくのが適切か」を意味するものです。
そのため、戦略を話し合う会議では本来、「売上を向上させるためにあえて都心への出店を諦め、郊外での露出を増やす」というふうな方針が話し合われるべきであり、「売上の前期比15%増加」などは“戦略”ではなく“目標”にすぎません。
このように、論理性を欠いたビジネスパーソンが議論の主役となってしまっている場では、本質からズレた結論に至ってしまうことが往々にしてあります。
2.早まった一般化(類推の危険)
個々の事例や体験から、全体へと広範な結論を導き出してしまう、誤った思考パターンのことを指します。
この種の思考パターンは、特定の状況や体験を基に、全体のシナリオや他の人々、さらには自己についての過度に一般化された信念を形成することがあります。
例えば、「この人事制度は欧米企業で広く普及しているから、日本企業でも上手くいくはずだ」「日本人のビジネスマンは欧米人と違って〇〇の習慣がないから生産性が低いに違いない」という議論を、十分な検証をせずに進めてしまうのが典型的なパターンです。
3.感情的推論
感情的推論とは、自分の感情を事実と混同し、その感情に基づいて結論を導き出す思考パターンのことです。
感情的推論は、自分の感情が客観的な現実を正確に反映したものだという誤った信念に基づいており、行動や意思決定に大きな影響を及ぼす危険性があります。
ただ、誤解されがちですが、感情があること自体は否定されるべきものではありません。
例えば「見るからに不審な人物」が視界に入って危機感を覚えた時、いちいち「本当は怪しい人ではないかもしれないし、様子を見てじっくりと判断しようか…」などと考えず、すぐにその場を離れるのが賢明でしょう。
このように、感情には「急を要すべき事態下で素早い行動を促す」という役割があるのです。
ただし、私たち現代のビジネスパーソンの間では、拙速に判断せず熟慮すべき場面でも感情のスイッチが入ってしまい、論理的な思考が後回しにされてしまうケースが多々見られます。
結果として、問題解決や人事評価に感情が入ってしまい、論理的に不適切な判断が下されてしまうのです。
ロジカルシンキングをマスターする3つのメリット
ビジネスパーソンとして、ロジカルシンキングをマスターしておくことで得られる主なメリットには以下の3つがあげられます。
- 課題認識の精度アップ
- 問題解決能力の向上
- コミュニケーションの質の向上
以下、順番に説明していきます。
1.課題認識の精度アップ
ロジカルシンキングを身につけることで、目の前の問題の原因を表面的に解釈せず、より本質的な原因を認識して見抜く力が向上します。
情報を論理的に整理し、解析することで、表面上の情報だけでなく、それらの背後にある課題やその本質を明確に認識することが可能となるでしょう。
2.問題解決能力の向上
ロジカルシンキングの能力は、情報の整理や本質の理解を助け、それによって問題解決への道筋が分かるようになります。
実際に、ロジカルシンキングのフレームワークでは複雑な問題を細かく分解して考えることを学びます。
さらに、問題の分解というプロセスを通じて、自身の思考を客観的に見つめ直すことができ、判断の偏りや思考の盲点を発見する機会も生まるのです。
3.コミュニケーションの質の向上
ロジカルシンキングを磨くことで、単なる会話の交換から一歩進んだ、深いレベルでのコミュニケーションの質が向上します。
論理的に思考し、自分の考えを整理し、明確に伝える能力が高まることで、ただ情報を伝えるだけではなく、複雑なアイデアや議論を他者に明確に伝えられるようになるのです。
さらに、他人の発言を論理的に解析し、その意図や考えを深く理解することも容易になります。
ロジカルシンキングを鍛える5つの方法
ここからは、ロジカルシンキングを鍛える手段として、以下の5つの方法についてご紹介していきます。
- ロジカルシンキングのフレームワークを習得する
- (問題集形式の書籍などで)例題を解く
- ディベートを通じて訓練する
- ロジカルシンキングをテーマとした研修を開催
- 「作文」「小論文」を通じてトレーニングする
1.ロジカルシンキングのフレームワークを習得する
ロジカルシンキングのフレームワークを理解し、事象の分析や問題解決の際にこれらのフレームワークを当てはめて思考する練習を積むことが有効です。
反復練習を積めば、日常で出くわす問題について対応を考える時、特に意識せずとも論理的な思考を働かせることができるようになります。
ロジカルシンキングのフレームワークは多種多様ですが、以下にその一部を紹介します。
MECE(ミーシー)原則
この原則は、問題を「モレなく、ダブりなく」分解して分析する思考のフレームワークです。
これは問題を理解し、全体像を描くうえで有効に働きます。
5W1H
これは「Who(誰が)」「What(何を)」「Where(どこで)」「When(いつ)」「Why(なぜ)」「How(どのように)」という問いを通じて、問題を詳細に理解し、情報を整理するためのフレームワークです。
フィッシュボーンダイアグラム(特性要因図)
これは一つの結果に関連すると思われる複数の原因を図表化し、それらの関係を視覚化するためのツールです。
魚の骨のような図を描き、目の前の現象が起こった要因について、因果関係を炙り出していくのに使われます。
「一つの問題に対していくつもの要因があり、どこにどう手をつけていいか分からない」という現場の問題を解決するために、石川馨氏によって開発されました。
これらのフレームワークを習得し、それぞれの問題や状況に適したフレームワークを適用する練習を反復して積むことで、ロジカルシンキング能力は大幅に向上します。
2.(問題集形式の書籍などで)例題を解く
ロジカルシンキングを鍛えるための有効な手段として、ロジカルシンキングの能力向上のために作られた書籍を利用する方法があります。
このような書籍では、例題を解きながら上記したフレームワークを身につけることができます。
また、コンサルティングファームなどの入社試験でも「地頭の良さを測る問題」として出題される「フェルミ推定」の考え方を学ぶことも可能です。
問題を解きながらロジカルシンキングを身につけることで、実務にも活かせるスキルを習得できるでしょう。
このような書籍は多数存在し、自分のレベルや興味に合わせて選択することも可能です。
3.ディベートを通じて訓練する
ディベートは自分の主張を論理的に組み立て、相手の意見に対して反論するための技術を鍛えるのに最適な手段です。
第三者を立ててディベートの判定役とすることで、ただ勢いで相手を言い負かすのではなく、周囲で聞いている人も納得できるよう、理路整然と意見を述べる必要が出てきます。
4.ロジカルシンキングをテーマとした研修を開催
ロジカルシンキングを強化するため、そのテーマに特化した研修やワークショップを導入する企業は数多くあります。
ロジカルシンキングの研修では、社員が研修の進行を担当する他、外部から研修講師を招くケースも多いです。
研修では、具体的なツールやフレームワークの使い方、論理的な思考の訓練も行っていきます。
5.「作文」「小論文」を通じてトレーニングする
書く行為は思考を整理し、理解を深めるのに非常に有用です。
自分の意見を論理的に表現し、それを他人に伝えるためには、自分の考えを明確に整理し、一貫性を持たせる必要があります。
また、自分の考えを書くことで、普段の会話では自覚できないような思考のブレや非論理的な部分を発見し、改善することも可能になります。
作文や小論文を通じたトレーニングの方法としては、例えば新入社員に作文や小論文の課題を課し、指導担当者がその中身を添削して指導する、といった形式が考えられます。
まとめ
ロジカルシンキングは、事象や問題の本質を理解し、筋道の通った解決策を導くために重要なスキルです。
非論理的な思考に支配されると、表面的な議論に陥ったり、早まった一般化による間違った結論を導き出す危険性があります。
また、感情的推論は、不適切な意思決定につながることもあるでしょう。
ロジカルシンキングを備えた人材が組織の中に増えることで、課題の本質を見抜き、高度な問題解決能力を発揮できる組織となっていきます。
ロジカルシンキングは、フレームワークの習得や書籍を用いた訓練、ディベート、研修、作文・小論文の作成といった方法で鍛えることが可能です。
組織全体としても、個々のビジネスパーソンとしても、ロジカルシンキングの重要性を理解し、能力向上に努めていきましょう。