「社員たちのスキルを伸ばして生産性を上げたい」
「社内情報の共有化を図ることで、社内の無駄なコミュニケーションを減らし、顧客対応力強化を実現したい」
「社内メンバーの知見やノウハウ、発想を結集し、新たな事業を立ち上げたい」
このような考えから「ナレッジマネジメント」に取り組むも、思うような成果が出せていない会社が多くあります。
今回は、ナレッジマネジメントを組織に浸透させるための注意点をお伝えします。
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目次
ナレッジマネジメントとは
ナレッジマネジメントは、個人の持つ知識やスキル、ノウハウなど業務上で役立つ情報を組織全体で共有し、活用する取り組みを指します。
個人によってつくり出される知識を組織的に増幅し、組織の知識ネットワークに結晶化することでイノベーションを起こす経営の実践です。
これが本来の意味ですが、通俗的な意味において、属人的な知識、スキル、ノウハウを可視化し、ITツールなどを活用することで管理する取り組み、暗黙知を形式知に変換して共有し活用する取り組みをナレッジマネジメントと呼んでいるケースもあります。
本来の意味と通俗的な意味のどちらの観点でナレッジマネジメントを捉えるかは、文脈によると言えるでしょう。
前者の観点において、社内の知見やノウハウ、発想を結集し、イノベーションを起こすことは企業の競争力を強化することにつながりますので、ナレッジマネジメントは極めて大切な取り組みです。
後者の観点においても、昨今は働く人の高齢化により業務ノウハウの社内伝承が必要となっていることや、終身雇用の正社員を中心とした組織から時短勤務社員、副業社員、アウトソーシング活用など、多種多様な労働力を活用することが求められている背景により、ナレッジマネジメントの重要性は高まっています。
一社員が幅広い業務を属人的に対応する組織ではなく、業務の属人性を排し、複数の社員が誰でも対応できる業務運営体制をつくっていかなければ、組織の持続が困難な環境となっているからです。
本記事では、後者をナレッジマネジメントとして捉え、これがうまくいかない理由について、解説していきます。
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ナレッジマネジメントが失敗する原因 三つの「ない」
ナレッジマネジメントは、個人に属する暗黙知を、誰もが認識できるマニュアル、文書、音声・画像データなどの形式知に変え、組織内で活用することで進められます。
「わが社でもナレッジマネジメントを推進していこう。まずは業務のマニュアル化から着手しよう」
「社内の属人的なノウハウを見える化できるITツールを導入しよう」
「社内で使っている営業資料、管理資料を一元管理し、皆で資料をブラッシュアップして業務効率を上げていこう」
このような社長の号令の下、「ナレッジマネジメント担当者」が社員のなかから選ばれ、プロジェクトとしてナレッジマネジメントの推進を行いますが、以下のようにプロジェクトが形骸化し、試みはしたけれど成果に結び付いていない会社も少なくありません。
- 作成された業務マニュアルは既に業務経験があるメンバーばかりの該当部署では見向きもされない。
- ナレッジマネジメントのためにITツールを導入したのに誰も使っていない。
- 社内資料を共有したけれども社員は相変わらず独自の資料を使って業務を行っている。
なぜナレッジマネジメントで失敗するのか。
その理由は、ナレッジマネジメントを導入する以前の組織運営にあります。三つお伝えします。
関連記事:暗黙知・形式知とは?ナレッジマネジメントや形式知化する方法を解説
ルールに基づく組織運営ができていない
従業員個人が保有している暗黙知を文書や図、動画に変換し、形式知として他の従業員に周知したとしても、そもそも手順書、マニュアルといったルールに則って運用する組織でなければ、形式知も機能しません。
そのためにも、当たり前に守るべきルール(例えば、あいさつ、整理整頓、報告など)の運用状況が徹底されることから確認する必要があります。
導入後の目標設定が明確になっていない
マニュアル化、ITツール導入、社内情報の一元管理を進める上で目標設定が明確になっていないケースも散見されます。
例えば、従業員の多能工化による生産性向上を期待し、業務のマニュアル化を進めるのであれば、従業員の多能工化が実現されている状態、もしくは生産性向上が実現されている状態を目標として定めるべきです。
多能工化の状態を明確にするための従業員スキルマップの作成や、生産性を測る指標の明確化とセットでマニュアル化を進めなければ、マニュアル作成の効果を判定できません。
マニュアル作成後の改善が進まなくなり、マニュアル作成が一過性の取り組みとなります。
ナレッジマネジメントを実施する上でどのような成果を期待するのか、この目標設定なしには暗黙知の形式知化が成果のための手段ではなく目的そのものになってしまいます。
目標設定ができている場合であっても、従業員の評価とこの取り組みが連動していない状況で、自身の評価項目に全く関係のないナレッジマネジメントに関する業務を上司から与えられたとしても、従業員の取り組み姿勢が消極的になる恐れがあるため、注意してください。
育成のためのジョブ・ローテーションの仕組みがない
人の流動性が乏しい職場は、暗黙知を形式化するニーズに乏しく、属人化が進み、組織を拡大成長させる上での弊害となります。
属人的なノウハウが現時点での環境に適応できているかの検証を行う機会も少ないため、環境変化に対し硬直的となり、結果として現状維持の思考が事業を衰退に導く可能性も高まるのです。
理想は、事業成長に伴い新たな人材を採用し、育成を踏まえた人材のジョブ・ローテーションを計画・実行しながら、人材の新陳代謝が図られる組織です。
その過程で職場に従業員の流動性が生まれ、必要に応じたナレッジの共有、ナレッジマネジメントが行われるのが自然の流れでしょう。
事業成長を前提とした組織構築とこれに伴う育成機能を踏まえたジョブ・ローテーションの仕組みが、情報の共有化というナレッジマネジメントの必要性を醸成します。
特定の目的を実現するために事業成長を描き、成長の過程においてジョブ・ローテーションの仕組みが機能し、必要に迫られナレッジマネジメントが行われる。
この仕組みがないと、ナレッジマネジメントという手段が目的化する危険性をはらみます。