人事評価で評価を受けるとき、また自身が部下などほかの従業員に対して評価を下すとき、「この人事評価はおかしいのではないか」、と考えたことは誰にでもあるのではないでしょうか。
この不信感は積もり積もって、退職や裁判ごとに繋がることがあります。
本記事では不当な人事評価が具体的にどんなものなのかを解説しています。
また、不当な人事評価を解決する方法も紹介しました。ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
【おかしい!】そもそも不当な人事評価はどういうもの?
そもそも不当な人事評価とはどのようなものなのでしょうか。具体例は以下の通りです。
- 評価者の先入観・主観に影響を受けた人事評価
- 明確な評価を避ける人事評価
- 期間全体ではなく直近の出来事を重視してしまう人事評価
- 事実ではなく推測で評価してしまう人事評価
それぞれ詳しく見ていきましょう。
評価者の先入観・主観に影響を受けた人事評価
不当な人事評価の例として、評価者の先入観・主観に影響を受けた人事評価が挙げられます。
例えば「この従業員は印象が薄いからコミュニケーション能力は低いだろう」というように、評価者の先入観が反映されてしまうと、不公平な人事評価が発生してしまいます。
また、自分自身を基準にして評価してしまうのも問題でしょう。
例えば「この従業員は私よりコミュニケーション能力が高いから高評価にしよう」というイメージです。
この場合、まず評価者自身の能力がどれくらいのレベルなのかを考慮しなければなりません。
例えば評価者自身のコミュニケーション能力が大して高くないにもかかわらず、先ほどの例のように高評価してしまっては、公平な人事評価など実施できません。
評価者の先入観・主観に影響を受けた人事評価は、高確率で不公平なものになります。
関連記事:社員への人事評価制度の問題点は?導入・見直し方法を解説!
明確な評価を避ける人事評価
明確な評価を避ける人事評価も、不当な人事評価になりがちです。
例えば、評価者自身が自信を持てず「私がきっぱり評価してしまうのはよくない」と考えてしまうと、5段階評価のうち「2・3・4」を選択しがちになります。
このように、無難な人事評価を実施してしまうことを中央化傾向と呼びます。
一方で、5段階評価のうち「1・5」を選択しがちになってしまうケースを極端化傾向といいます。
どちらのケースも、事実ではなく評価者の性格や人間性が反映されてしまっているため、不当な人事評価だといえます。
期間全体ではなく直近の出来事を重視してしまう人事評価
期間全体ではなく直近の出来事を重視してしまう人事評価も、不当な人事評価です。
一般的に、人事評価は1年に1度のペースで実施されます。そのため、1年の期間全体を見て人事評価を行う必要があるでしょう。
しかし、人事評価は人が行うものです。期間全体が対象と言っても、どうしても直近の出来事は記憶が新しく、注目してしまいます。
そのため、直近の出来事を重視してしまう人事評価になりがちなのです。この評価エラーのことを、期末効果といいます。
事実ではなく推測で評価してしまう人事評価
事実ではなく推測で評価してしまう人事評価も、不当な人事評価です。
例えば業務プロセスを評価する際、「この人はこういう仕事の進め方をするだろうな」と推測すると、実際の事実と異なる場合があります。
できる限り、実際に評価者の目で業務プロセスをチェックする必要があるでしょう。
それが厳しい場合は、被評価者の周囲の人に話を聞いてみるのも一策です。
正当な事実評価を実施する際は、可能な限り主観を取り除くために、客観的な事実を重視すべきでしょう。
関連記事:人事評価と自己評価のズレとは?なぜズレが生じるのか、その理由を解説
不当な人事評価が発生してしまう原因
上記で説明したような不当な人事評価が発生してしまう原因は、以下の通りです。
- 人事評価項目が曖昧
- 評価基準が公開されていない
- 評価者がしっかり指導されていない
- 評価が報酬に反映されない
不当な人事評価の原因の多くは、評価基準の取り扱いにあります。
適切な評価基準が設定されていなかったり、公開されていなかったりする場合に、被評価者は不信感を抱くようになるでしょう。
また、最も気をつけなければいけないのは、報酬への反映です。従業員は、業績を出した分だけの報酬を欲しています。
特に営業職やエンジニア職は、その傾向が強いでしょう。
実力主義かつ優秀な従業員は金銭的インセンティブを求めているので、評価が報酬に反映されていないと、すぐに転職を検討してしまいます。
人事評価制度を導入している以上、評価と報酬は結びつけるべきです。
不当な人事評価を放置するのが危険な理由
不当な人事評価を放置するのが危険な理由は以下の通りです。
- 不服申し立てが発生する可能性があるため
- 離職率・退職率が上昇するため
- 従業員の生産性が低下するため
それぞれ解説していきます。
不服申し立てが発生する可能性が高まるため
不当な人事評価の放置が危険な理由として、不服申し立てが発生する可能性が挙げられます。
不服申し立てとは、人事評価に納得のいかない従業員が裁判を起こすことです。
身内である従業員に裁判を起こされると、裁判コストの発生や企業イメージの悪化といったデメリットが発生します。
また、一人の従業員の不服申し立てが拡散し、ストライキも発生したら最悪です。
不当な人事評価は放置すべきではありません。自覚している場合はすぐに改善しましょう。
離職率・退職率が上昇するため
不当な人事評価の放置が危険な理由として、離職率・退職率の上昇が挙げられます。
なぜなら従業員にとって、不当な人事評価によって頑張りが評価されないのなら、その環境に居続ける価値がないからです。
特に成長志向の強く将来性のある従業員ほど、公平な人事評価を実施する環境を求めています。
そのため、不当な人事評価を実施していると、優秀な人材が流出してしまう可能性があるのです。
そして、退職者は本当の退職理由を自社に説明しないことがあります。
そのため、人事担当者としても、「人事評価が原因で退職してしまった」と気付けず、負のサイクルから抜け出すのも難しくなってしまうのです。
従業員の生産性が低下するため
不服申し立てや退職率の増加がなくても、不当な人事評価は従業員の生産性を明らかに低下させます。
なぜなら不当な人事評価により、業績が公平に評価されない環境において、従業員は「頑張っても無駄」と考えるようになってしまうからです。
そして従業員は「どれだけサボれるか」という点にフォーカスするようになり、上司にバレないようにネットサーフィンしたり、タバコ休憩を取りまくったりする事態になってしまうのです。
ここまで雰囲気が落ち込んだ職場環境の活気を取り戻すのには、凄まじいエネルギーが必要になるでしょう。簡単なことではありません。
関連記事:パフォーマンスを向上させる人事評価項目とは?設定のコツまで紹介
不服申し立てが発生した場合の対処法
不服申し立てが発生した場合の対処法は以下の通りです。
- 評価者と被評価者から話を聞く
- 従業員の意見に正当性があれば制度を見直す
- 個別労働紛争解決のあっせんを申し込む
- 訴訟・裁判の準備をする
それぞれ詳しく見ていきましょう。
評価者と被評価者から話を聞く
まずは評価者と被評価者から話を聞いてみましょう。
評価者からは評価の正当性や理由を、被評価者からはどのような点に不満を抱いたのかを聞き出します。
この際の注意点として、まずは聞き手に回ることが大切です。
もちろん、評価者も被評価者も、主観を交えて話し出すかもしれません。
しかしそれでも、まずは人事評価に対してどのような印象を抱いているのかを聞き出しましょう。
この際、誰が話を聞くのかも慎重に検討しなければなりません。
可能な限り、評価者と被評価者との面識のない第三者が話を聞くべきです。
被評価者の意見に正当性があれば制度を見直す
評価者と被評価者から意見を聞き出したあとは、どちらの意見に正当性が見られるかを吟味します。
被評価者の意見に正当性が見られた場合は、人事評価制度の見直しを検討すべきです。
これは、想像以上に苦渋の選択だといえます。
なぜなら被評価者の意見に正当性があると判断するということは、自社が設けていた人事評価制度に欠陥があるという事実を受け入れることと同義だからです。
しかし、長期的な目線では、人事評価制度を見直して改善することは、企業にとって大きな利益になります。
また被評価者も、自分の意見が人事評価制度に反映されるのであれば、企業に残ってくれるかもしれません。
個別労働紛争解決のあっせんを申し込む
逆に、評価者の意見に正当性が見られた場合は、被評価者に対してその旨を論理的に説明すべきです。
しかしそれでも被評価者が認めず、不服申し立てを続行する意思を見せたのであれば、「個別労働紛争解決のあっせん」を申し込みましょう。
個別労働紛争解決のあっせんとは、労働者と事業者の間で労働関係における何かしらのトラブルが発生し、当事者間で解決できない場合に、各都道府県労働委員会における労働問題の専門家がヘルプに入ってくれる制度のことです。
このあっせんの最大のメリットは、基本的に無料であることです。
裁判を起こす前にまずはあっせんを申し込むことで、可能な限りコストを削減できます。
詳しくは各都道府県の労働委員会に問い合わせてみてください。
訴訟・裁判の準備をする
個別労働紛争解決のあっせんでも解決できなかった場合は、いよいよ訴訟・裁判となります。
ここまで至るケースは稀ですが、実際に人事評価が裁判に発展したケースも見受けられるので、事前に想定しておくことは大切でしょう。
こうなってしまったら、可能な限り有利な判決になるように弁護士を立てる必要があります。
また、知名度のある企業の場合は、ブランドイメージを崩さないようにする広報戦略も立てる必要があるでしょう。
裁判の準備をあらかじめマニュアル化しておくことで、焦らずに対処することが可能です。
不当な人事評価を改善する方法
不当な人事評価を改善する方法は以下の通りです。
- 人事評価基準をオープンにする
- 評価者をしっかり指導する
- 人事評価の目的を明確にする
それぞれ解説していきます。
人事評価基準をオープンにする
まずは、人事評価基準をオープンにしましょう。
クローズドな人事評価は従業員の不信感を煽ります。
期首面談の段階で人事評価基準を公開し、従業員を納得させるべきです。
また、人事評価基準をあらかじめ公開しておくことで、従業員が評価基準を基に行動するようになるのもメリットです。
評価者をしっかり指導する
主観の入った人事評価を防ぐために、評価者をしっかり指導するのも大切です。
具体的には、人事評価エラーを引き起こさないように指導するのがいいでしょう。
代表的な人事評価エラーは以下の通りです。
- ハロー効果
- 中央化傾向・極大化傾向
- 期末考課
- 寛大化傾向・厳格化傾向
- 対比誤差
まずは以上のような人事評価エラーが存在することを説明し、数字などの客観的な事実のみを人事評価に組み込むことを指導すべきです。
また、適切なフィードバックを実施するように指導しましょう。
人事評価における適切なフィードバックは以下の通りです。
- その評価に至った理由を論理的に説明できている
- ネガティブな評価に対して、次に繋がるようなアドバイスを伝えられている
- 被評価者のキャリアプランが考慮されている
以上のようなフィードバックが実施できていれば、被評価者の不満は大幅に解消されるようになるはずです。
人事評価の目的を明確にする
不当な人事評価を防ぐためには、人事評価の目的を明確にすべきです。
人事評価の目的の例としては以下が挙げられます。
- 人材育成
- 報酬・待遇の決定
- 適切な人材配置
- 企業理念の浸透
もちろん、これらは非常に大切な要素で、全てを目的に設定すべきです。
その上で、自社で最も大切にすべき目的は何かを明確にする必要があります。
例えば、壮大なビジョンを掲げている企業の場合は企業理念の浸透を重視すべきです。
また、実力主義の風土のある企業の場合は、報酬・待遇の決定にフォーカスすべきでしょう。
自社にとって人事評価制度は何のためにあるのか。今一度、吟味する必要があります。
まとめ
それでは本記事をまとめていきます。
- 評価者の主観・推測が入ったり、明確な評価を避けたりする場合は不当な人事評価になる
- 不当な人事評価を放置することは、デメリットでしかない
- 不服申し立てが発生した場合は、裁判に発展させないようにすべき
不当な人事評価を放置しても、企業にとって良いことは何もありません。
また、組織内でバイアスがかかっている場合があるので、経営層が手を入れたり、第三者の意見を取り入れたりするのもいいでしょう。
そして不服申し立てが発生した場合は、大事にならないように慎重に対応を進める必要があります。
冷静に対処できるように、事前にマニュアルを作成しておくのもいいでしょう。ぜひ検討してみてください。