認知的不協和とは、自分の信念と事実が相反する際に感じる不快感のことです。
ビジネスにおける認知的不協和は使い方によって武器にもなりますが、失敗を招く危険なワナにもなりかねません。
そこで本記事では、認知的不協和の概要や具体例、解消する方法、ビジネスで活かす方法などを解説していきます。
目次
認知的不協和とは
認知的不協和とは社会心理学用語の1つであり、自分が信じていることや行っていることに対して、矛盾している事実を目の当たりにしたときに感じる不快感や心理状態のことです。
認知的不協和に注意しなければならない理由
私たちは認知的不協和によって、間違った選択や非合理的な選択をするケースがあります。
なぜなら感じている不快感を解消しようとして、自分の信念を優先する選択をしてしまうためです。
ビジネスにおいてはたった1つのミスが大きな損害につながる可能性があります。
したがって自分やメンバーが認知的不協和によって、思考や行動が歪められていないか注意しなければなりません。
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認知的不協和の有名な実験とは
認知的不協和の例として有名なものが、心理学者であるレオン・フェステシンガー氏による実験です。
実験では、被験者をいくつかのグループに分けて退屈な作業をしてもらいました。
Aグループには作業だけをしてもらい、Bグループには作業後に1ドル、Cグループには20ドルの報酬を支払い、B,Cグループの人には他の被験者に「この作業は楽しいものだ」とウソをついてもらいました。
実験後、被験者に「実験は楽しかったか」と質問すると、
- ウソも報酬もないAグループは「楽しくなかった」
- 1ドルをもらってウソをついたBグループは「楽しかった」
- 20ドルをもらってウソをついたCグループは「楽しくなかった」
と答えたのです。
認知的不協和によって「楽しい」と認知を修正した
Bグループだけが実験を楽しいと感じた理由は、「ウソをついて退屈な作業をしたのに1ドルしかもらえなかった」という不快感を解消しようと、自身の認知を修正したためだと考えられています。
一方でCグループは、「ウソをついて退屈な作業をしたけど20ドルもらえた」と正当化できたので、実験が楽しくなかったものだと素直に認めることができたのです。
このように、自身の思考や行動に対して事実が矛盾する際に、人は自分の行動や感じ方を変えることで自分を正当化して不快感を解消するのです。
認知的不協和の具体例
認知的不協和は私たちの身近にあるありふれた現象です。
ここでは具体的な例を紹介します。
「お酒は体にいい」と信じる
お酒をよく飲む人ほど「適度なお酒は健康にいいんだ」といったことを言うイメージがありませんか?
実際にはアルコールは体に悪く、ある論文によると健康リスクを最小化するためのお酒の量は1日0杯、つまり「飲まないのがもっとも健康に良い」と指摘されています。
しかし、こういった事実はお酒が好きでよく飲む人にとっては耳が痛い話であり、体に悪いと知りながらお酒を飲むと認知的不協和を起こすのです。
そこで、人は不協和を解消しようと行動か信念を変えるのですが、お酒が好きな人はお酒を飲むのをやめるのではなく、「適度なお酒は体にいい」と信じるようになるのです。
自分に都合の良い情報を集める
自分がなにかモノを買った際に、そのモノに関するポジティブな情報を集める傾向があります。
これもまた認知的不協和を解消する行為です。
例えば、買ったモノに対するネガティブなレビューや口コミを目にすると、人は「別の商品のほうが良かったのではないか?」と不協和を起こします。
したがって、「自分の選択は正しかったのだ」と信じられる情報だけを集めようとするのです。
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ビジネスにおける悪い認知的不協和の例
認知的不協和はビジネスにおいても下記のような悪さをする場合があります。
ブラック企業を辞められない
ブラック企業に勤めている人に対して「すぐ辞めればいいのに」と考えたことはありませんか?
しかし、ブラック企業で働く人は認知的不協和に陥っている可能性があります。
例えば、「給与が安くて辞めたいのに辞める勇気がない」「仕事が辛いけど転職できるか不安で辞められない」と行動と本音に矛盾が起きている状態です。
この矛盾を解消するために、「辛いし給料は安いけど、やりがいがあって楽しい」と思い込んでいるのです。
若くして出世している人を悪く言う
自分よりも若い従業員が自分よりも出世していると、不協和を起こすケースがあります。
この場合、「汚いことをやって出世したんだ」「コネを使ったんじゃないか?」と自分を納得させて認知的不協和を解消しようとするのです。
まとめ
認知的不協和を解消しようとする働きは、自分の心を守るためなのでそれ自体は大切なものです。
しかし、不快感が生じたときに最も簡単で最も手っ取り早い方法を選ぶと、非合理的な選択になってしまうケースが少なくありません。
なにか不快感を感じたときは、感情よりも客観的なデータを参考に判断したり、頼りになる人物に話してみたりすることが重要です。