経営者の高齢化に伴い、事業承継を検討する会社が増えています。今回は、会社経営を先代から引き継ぐ際、後継者はどのようなことに取り組むべきかを解説していきます。
目次
経験では勝てない後継者がやってしまいがちなこと
後継者が先代から会社経営を引き継ぐ場合、先代が会長になって会社に残るケースが多いのではないでしょうか。また、引き継いだ会社には、先代の下でこれまで会社を支えてきた経験豊富な古参社員がいることがほとんどです。
こういう状況下で後継者がやってしまいがちなことは、足りない経験を社外から仕入れてきた知識で補って会長や古参社員にマウントを取り、自分の居場所をつくろうとすることです。
「うちの会社は古い。今の時代、デジタルシフトしないと生き残れないよ」
「トップダウンで一方的に社員に指示を出すのではなく、コーチングの考え方で、社員の考え方を上司が引き出していかないと、社員は主体的に動かないな」
「今の時代、SNSに力を入れて会社のブランド力を高めないと」
社外で得てきた有益な情報を社内で活用することは素晴らしいことです。しかし、後継者が先代や古参社員から認めてもらいたいがために、そのやり方を否定しようとしてしまうことは適切ではありません。
社長が向き合うべきは市場
「先代に認められたい」「社員に一目置かれる社長になりたい」「自分を軽んじる先代や古参社員を見返したい」といった内向きの取り組み姿勢では、残念ながら成果は出ません。経営者が向き合うべきは市場です。
市場とは、売り上げや利益を求めるのであればお客様、資金調達を求めているなら金融機関や出資者、人材を求めている場合は採用市場(求職者)です。経営者は、向き合う相手を間違えると、組織としての成果が上がらなくなるでしょう。
売り上げや利益、資金調達、採用といった成果に直結しないデジタル化、社内コミュニケーション、社外とのSNSでのコミュニケーションを新たに導入し、「自分は新たな取り組みにより改革の旗を振っています」といった社内アピールを行い、一部の若手からの支持を得て、先代や古参社員に対してマウントを取る後継者がいるとすれば、それは向き合う先が間違っています。
なぜ、後継者が向き合う方向を間違ってしまうのか。それは、従業員の向き合う方向が示されず、バラバラとなっているからです。
後継者としての社長がいるのに、会長の顔色を見る古参社員。社長が採用した若手社員は、上司である古参社員を飛び越えて社長に組織改革を期待し、古参社員と若手社員の間に会長派、社長派といった派閥ができてしまう。先代の会長は、社長を飛び越えて現場に直接指示を出す。
自分はどこを向くべきなのか、誰からの評価を獲得すべきなのか。その考え方が経営者も含めて各々バラバラになっているケースが散見されます。後継者である社長は、「まずは自分が社員から評価されなければいけない」とか「社員から頼られる存在とならなければいけない」と考え、市場に向き合わない、成果に直結しない言動を取ってしまいがちなのです。
後継者はいかにして組織を引き継ぐべきか
先代には、ここまで会社を継続させてきた経験があり、古参社員には、先代とともに会社を支えてきた経験があります。一方、後継者である社長には、会社での経験が先代や古参社員に比べて不足しています。
よそで仕入れた新しい知識でマウントを取る後継者に、経験豊富な先代や古参社員はこう思うでしょう。
「やったこともないのに、偉そうに。これまで会社を支えてきたのは自分達だ」
このように思われた後継者に社員が付いていくことは難しいはずです。
経験が不足している後継者に、組織を引き継ぐことはできないのでしょうか。もちろん、そんなことはありません。では、どうすべきか。
それは、組織図を整えて社員それぞれの役割を決め、評価の仕組みを導入したうえで、ルールに基づいた組織運営を行っていくことです。
組織図、役割、評価の仕組みに則った組織運営を行う
組織には、目的や目標があり、これを達成するために組織図があります。組織図に描かれている各ポジションには役割が決まっていて、組織の構成員がそれぞれに与えられた役割を果たすことで組織の成果は最大化されます。
経営者には経営者としての役割が、部長には部長としての役割が、現場スタッフには現場スタッフとしての役割があるのです。組織のなかで与えられている役割が果たせているかどうかを評価するものが評価制度であり、通常、評価は組織図上の直上の上司が行います。
組織図や役割、評価の仕組みが整っていないと、社員は誰の指示に従うべきか、どのようにすれば評価されるのかが分からなくなるでしょう。それぞれ独自の考えで動き、成果を発揮しづらくなります。
先代や古参社員と比べて経験が不足している後継者は、組織図、役割、評価の仕組みに則った組織運営を行うこと、つまり、個人の経験をそれぞれの役割に応じて活かし、組織の成果を最大化するための運用が必要となります。
目的と目標を見直すところから始めよう
ルールを明文化することも忘れてはなりません。こうすることで、年齢や社歴に関係なく違反した人を指摘しやすくなるからです。
ルールに基づく運営を行うための前提となるのが、組織の目的や目標です。後継者は、先代から事業とともに引き継ぐ目的(企業理念)と目標(中期目標)を自らの考えで見直し、会社が進むべき方向、市場との向き合い方を明らかにすることが求められます。
目的と目標を社内で共有した上で、これを達成するための組織図、役割、評価の仕組み、ルールを整えていくことが、後継者がやるべき組織運営の手順となります。
先代である会長と古参社員の間で板挟みにあい、若手社員から組織改革を期待されているものの何から始めていけばよいか分からない、そのような後継者の方がいるのではないでしょうか。また、自分のやるべきことが明確でないなか、新たな取り組みを始めて、成果ではなく、新たなことに挑戦している姿勢で社内の評価を得ようとしている後継者の方、いませんか。
後継者がやるべきことは、市場と向き合う上での、自社の目的、目標を明らかにし、組織図・役割・評価の仕組みやルールを決めて、ルールに基づいて組織運営を行うことです。この原則を振り返り、先代から事業を承継した後継者の方は、まずは目的・目標を見直すところから始めて、ルールによる組織運営につなげてもらえれば何よりです。