新潟県を拠点にインターネット広告の配信やローカルメディアの運営を手がけるベンチャー企業のユニークワンは、2020年6月から識学を導入している。代表取締役社長の立川和行氏は、もともとは社員を幸せにしたいとの考えから、できるだけルールでしばらないマネジメントを理想としていた。そんな立川氏は、なぜ考え方が「180度違う」識学を選んだのか。
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SNS広告を見かけて、名前だけは知っていました。識学に興味を抱いたのは、あるとき、識学社の安藤広大社長が、私がかつて勤務していたNTTドコモ出身だと知人に教えてもらったからです。
ドコモの社員は、そもそもあまり辞めないんですよ。辞めるにしても大企業に転職する方が大半です。起業する人はかなり珍しく、実績を残す人となるとほとんどいません。
そんななか、安藤社長は創業から3年11カ月で上場を達成したとのことですから、一体どういうことなんだと。素直にすごいと思いました。話を聞きたかったので、資料請求したのです。それが2019年6月です。
ただ、そのときは組織をうまく運営できているという認識でいましたから、識学の導入を決断するには至りませんでした。
組織改善に乗り出そうとしたからです。というのも、2019年10月頃、それまで人を大勢採用し過ぎたために経営状態が芳しくありませんでした。要するに売上が足りず、大幅な赤字になりそうだったのです。そこで、業績を立て直すべく「自社メディア広告を販売強化するように」と営業部長を通じて社員に号令をかけました。
ところが、12月に入っても誰も何もしていなかったんです。どうやら営業部長がそれを通達した際にメンバーから反発があったらしいのです。「売れません」とか「そもそも売るべきではない」などとよく分からない議論をしていました。そこで、もう任せていられないと私が売ったんですよ。
結果、黒字化を果たし、業績は回復したものの、組織が機能していないと思わざるを得ませんでした。トップが「販売強化せよ」と指示を出したのに、まったく動いていないわけですから。
当時、私は現場に頻繁に顔を出していて、社員から「社長と営業部長とで言っていることが違うから困っている」と言われることが多々ありましたね。私は既存顧客へのアップセル及びクロスセル提案を重視していましたが、営業部長は新規顧客の獲得に重点を置いていました。売上を伸ばすという目的は一致していましたが、アプローチの仕方が異なっていました。私と営業部長のコミュニケーションが十分ではなかったんです。
結果的に上司が二人いる状態になって、部下たちに迷いが生じていました。自社メディア広告の販売強化の指示に対しても、恐らく「本当に実行すべきなのか」とか「どうせすぐ方針が変わるのではないか」と思っていたでしょう。部下にしてみれば、上層部の考えがばらばらだから誰に従って動けばよいか分からず、とりあえず動かないでおこうと考えてしまうのです。
それ以外にも課題はありました。2019年からさかのぼっての数年間、売上が対前年比130%増でしたが、私にはもっと伸びていいはずだという感覚がありました。創業初年度、売上高は3000万円程度で、2年目は3倍の9000万円。その翌年は2倍超の2億円だったからです。地方でネット広告やウェブマーケティングを行う会社は競合が東京ほどいないので、市場は恵まれていました。
そして、何より離職者が多かったことが非常に気になっていました。私は、徹頭徹尾マニュアル化した縦社会のNTTドコモに在籍していた反動から、真逆の組織、つまりフラットで皆仲がよいベンチャーへの憧れがありました。ベンチャーらしく、社員を幸せにしたいと思って週休三日制やフルフレックス制を導入し、可能な限りルールを設けていませんでした。それが理想的だと考えていたのです。
それなのに、社員はどんどん辞めていきます。社員の会社に対する不平や不満も聞こえてきました。社員のことを大切にし、自由で働きやすい場を提供しているはずなのに、なぜなのか分かりませんでした。
それでも、仕事は途切れず、売上は伸び続けていましたから、「社員が忙し過ぎて辞めるんだろうな」程度にしか、当初は考えられなかったのです。
やはり、ルールが明確でなかったことです。それが、社員が働きづらかった最大の原因だと思います。
私自身、あるときは「なぜ私に確認を取らないのか」と部下に問いただすくせに、またあるときは「どうしてもっと進めないのか」と叱ることがありました。社員にはものすごいストレスだったと思います。
創業当初などはいわゆるマイクロマネジメントをしていまして、資料1枚に何度も駄目出しをするような経営者であり、全然人に任せることができていませんでした。それがつらくなって辞めた社員も多数います。組織が成長してからは、上層部の意見がばらばらで疲れてしまったために去った社員が少なくありませんでした。
そんな状態なのに、仕事が増えればミスも多発します。幸い地方のお客様は優しいので、それほどお客様に叱られた記憶はありませんが。
つまるところ、組織づくりを後回しにしてしまっていたんです。業績が伸びているものだから、事態を深刻に考えることができませんでした。
いえ、検討していません。識学は、私の理想と真逆のマネジメント手法だったので、取り組んでみようと思ったんです。
それまで私は、社員同士の仲がよいこと、社長と社員の距離が近いこと、社長は社員のためにさまざまな制度をつくってあげること、とにかく社員のわがままを聞くことが理想だと思っていました。それをやってうまくいかなかったので、私が全く間違っていたのではないかと考えたのです。
今までのやり方を180度変えたかったからこそ識学以外の選択肢には関心がありませんでしたね。
半年後です。過去最高売上を更新しました。コロナ禍はウェブ業界にとっては追い風とはいえ、識学のおかげであることは間違いありません。
そして、私自身の負担がすごく減りました。もともと私は、なるべく社員一人ひとりと話をし、会社が実現したいことを理解してもらおうと努めていました。しかし、私は元来人見知りで、口数が少ない人間です。無理して社員全員とコミュニケーションを図っており、それがストレスだったのです。
今は、識学の教えの通り、階層の一つ飛ばしをしません。直属の部下とだけ喋るので、日々のストレスから解放されました。
ルールに対する考え方も大きく変わりました。実は、自分自身が守れるかどうか自信がなかったので、私は最初、ルールを設定することにすごく抵抗がありました。自分も守らないといけないと思うと、曖昧にしておきたくなるのです。
しかし、識学講師の方が、「社長はルールを守る必要はありません。つくる方です。ただ、社長が守らないことによって部下に悪い影響が出るのであれば守ってください」と言ってくれたので、肩の力が抜けましたね。一気にルールづくりを進めようと振り切れました。
実際私もルールを守っています。ルールがある方が社長も、そして社員も楽なんですよね。変に気を遣うことがありませんから。交通ルールと同じで、ない方が面倒なのだと気付きました。
今では、当たり前のことでもあえて定量的に明文化するようになりましたね。当社では、挨拶も「60dB以上でする」というルールになっているくらい、識学を徹底しています。
それ以外にも社内の変化はたくさんあります。例えば、各社員の役割をはっきりと決めたことです。お客様に対する責任は誰にあるのか、責任者は誰かといったことです。
私自身のことでいうと、社員に何か尋ねられても、私が決断しようとしなくなりました。代表者は、「これどっちがいいと思います」などと聞かれると、自分で決めてしまいたがるものなんですよね。しかし、今は、「それはあなたが自由に決める権利があります。だから、しっかり責任を持って決断し、取り組んでください」と伝えるようになりました。今までであれば、恥ずかしながら「私が決めるけれども責任はあなたがとってください」ということすらありました。
正直、話を聞いた時点でうまくいかなさそうだなと思うこともあります。しかし、よほどのことがなければ何も言いません。うまくいったら大儲けだし、失敗してもそれが経験や糧になるだろうと。そう考えれば安いものだと思えるようになりました。
いずれにせよ、識学を導入し、権限移譲したことによって私は自分の時間が増えました。その時間を使い、私は社内外への情報発信に力を入れています。
特にありません。もしうまくいかなければ、そのときに別の方法を試せばよいと考えていました。
しいて言えば、社員と頻繁に飲みにいっていたので、そうしない方がよいのかということに戸惑った程度です。それも、飲みにいくこと自体が問題なわけではなく、位置が崩れてしまうからまずいわけですけどね。とはいえ、今は一切社員と飲みにいきません。
もともと、組織を運営する上で、社員と酒を飲みながら本音で語り合うことが必要だと思っていたんですよ。しかし、週次報告のなかで話せば何も問題ありません。
それに、社員が増えてくると、一人ひとり均等に飲みにいくのは難しいです。何より識学を導入したのがコロナ禍でしたからね。飲みにいかなくなることは自然の流れでした。
いえ、ないですね。ただ、社内に識学理論を浸透させていく上で失敗したことは二つあります。
一つ目は、上司と部下間のコミュニケーションが極端に減ってしまった部署があったことです。「部下は上司に気やすくはなしかけてはならないのだ」と勘違いした社員たちがいたわけです。
識学の教えでは、上司のえこひいきや部下による不必要な経過アピールの発生を防ぐため、上司と部下の間に一定の「距離」を確保することが必要だと説きます。ただ、それは一人ひとりと向き合うことを否定するものではありません。それなのに、当社では、上司と全ての部下の距離を等しくしようとして、全員に同じ目標設定をしてしまったことがあったのです。本来各社員に応じた結果点を定めねばいけませんでした。一人ひとりと向き合うことが、若干おろそかになっていたんですね。
二つ目は、上司一人に対して部下が13人いるチームをつくって、一人ひとりの面倒を見切れないことがありました。メンターを用意したところ、部下は業務に関する相談を上司にすべきかメンターにすべきか分からなくなるんですよ。
識学によれば、チームの人数に設けるべき上限はないとのことですが、一人ひとりの成長を期すなら、大き過ぎるチームにするのは慎重になる必要がありました。これには、失敗するまで分かりませんでしたね。今は「1チームは7人以内にする」というルールを設けています。
失敗はこの二つくらいです。といっても、いずれも識学理論そのものが悪いとは思っていません。識学に基づいて再発防止ができていますしね。
私のような創業経営者です。創業経営者にとって、権限を移譲するという行為は非常に勇気がいる行為です。経営基盤がしっかりしていない中で、会社の業績を左右する意思決定を、部下に任せるわけですから。
創業経営者には、個人保証のある借入をしている場合も多いですし、なかなか自分以外に権限を移譲することができません。しかし、その状態を続けてしまうと、組織の成長は止まってしまいます。識学を導入することで、スムーズに権限移譲を進めることができるでしょう。
創業経営者が二代目に事業継承する際も、識学を導入するとスムーズだと思います。
当社ももっと早く始めるべきでした。創業2年目に識学を入れておけばさらに成長できていたのにと思います。
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※コンサルティングを担当した識学講師:岩澤 雅裕(Masahiro Iwasawa)