円滑に企業経営を進めるうえで、リスクマネジメントについて考えておくことは非常に重要です。近年ではITの急速な普及に伴い、これまでになかったリスクも生じています。あらかじめ多種多様な問題を想定し、甚大な損害を未然に防ぐための対策は急務です。
そこで本記事では、リスクマネジメントにおける基本情報やその事例などについて解説します。この記事を読むことで、以下のような悩みの解決につながります。
・リスクマネジメントとはいったい何なのか?
・社内のリスクマネジメントを徹底したい
・事例を知って自社に活かしたい
リスクマネジメントへの理解を深めたい方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
リスクマネジメントの基本情報
リスクマネジメントとは、企業を経営するうえで生じるリスクに対し、未然に回避もしくは軽減するためのプロセスを指します。2009年にはリスクマネジメントの国際規格が発行されており、今や国内外でその必要性が高まっています。
これまでは企業が意思決定を行う際、ある程度のリスクマネジメントがなされていました。しかし現在では、アウトソーシングの登場や業務の複雑化などに伴い、インターネット関連の従業員によるインターネット関連の法令違反など新たなリスクも出現しています。こうした背景から、企業側がより意識的、積極的にリスクを管理していく必要があるのです。
クライシスマネジメントとの違い
リスクマネジメントと似たような言葉に「クライシスマネジメント」があります。クライシスマネジメントは「危機は必ず発生する」という前提の中で、危機に陥った際の初期対応や二次被害の回避などを行うものです。
一方でリスクマネジメントは、あらゆるリスクを発生させないための対策や予防策を講じることです。つまり、リスクマネジメントは危機が起こる前の対策で、クライシスマネジメントは危機が起きた後の対策といえます。
飲食店を例にした場合、食中毒を防ぐためにキッチンを清潔に維持したり、食材にしっかりと火を通したりすることがリスクマネジメントです。一方、火事が発生した際の消火栓対応やお客さんの避難口などがクライシスマネジメントです。
リスクアセスメントとの違い
この他にも似たような言葉として、リスクアセスメントがあります。リスクマネジメントとリスクアセスメントの違いは、プロセスの内容です。リスクマネジメントはリスクの特定から対処までリスクに対する全般のプロセスが含まれています。しかし、リスクアセスメントは特定、分析、評価までしか含まれていません。
しかしリスクアセスメントを行うことにより、組織やシステムに内在しているリスクについて把握することが可能です。そのリスクの大きさや影響度も、リスクアセスメントで把握することができます。
リスクの種類は大きく2つ
リスクには種類があり、それぞれ内容が異なります。リスクは大きく分けると「純粋リスク」と「投機的リスク」の2種類があります。
純粋リスクは企業に対して、損害や損失のみをもたらすリスクです。自然災害や自動車事故、テロなどが例として挙げられます。一方の投機的リスクはビジネスリスクとも呼ばれ、企業に対して損失と利益のどちらかをもたらす可能性のあるリスクです。主なものとしては、投資や金利変動などがあります。
リスクマネジメントをしておきたいリスクの例
リスクマネジメントには上記2つの種類があるとご紹介しました。そこからさらにもう少し詳しく見ていくために、主なリスク事例を5つピックアップしてご紹介します。どのようなリスクに対してどんな対処が必要なのか、把握しておきましょう。
自然災害リスク
日本は自然災害大国であり、台風や津波、地震などさまざまな自然災害の危険にさらされています。立地的な背景からも、企業として日頃から自然災害リスクを踏まえた対策をしておく必要があります。事実、東日本大震災の際には地震、津波の被害に遭い、あらゆる業界の企業が廃業に追い込まれました。
自然災害リスクにおいては、ハード面とソフト面の双方で取り組むことがおすすめです。ハード面では自然災害に関する保険の加入などが挙げられ、ソフト面では外部サーバーへの定期的なバックアップなどが想定されます。ただし、データを外部サーバーやクラウド上で保存する際には、次にご紹介する情報漏洩リスクについても把握しておく必要があります。
情報漏洩リスク
情報漏洩リスクは、顧客を持つすべての企業が対策すべきリスクです。情報が社外へ漏洩してしまう原因はさまざまあり、例としては外部からのサイバー攻撃や社員のメール誤送信などが挙げられます。ここでわかるのは、情報漏洩リスクは外部からの影響だけではなく、内部の影響で危機にさらされてしまう可能性もあり得ることです。
事実、情報漏洩については企業の規模を問わず過去にもさまざまなケースが発生していました。最悪の場合、漏れてしまった情報が犯罪に使われてしまう恐れもあります。どのような業界、規模の企業であっても、情報漏洩に対するリスクマネジメントが欠かせません。
システム障害リスク
近年の急速なIT化に伴って生まれたリスクとして、システム障害リスクが挙げられます。具体的にはシステム障害で顧客対応が困難になってしまったり、顧客に提供しているサービスが使用不可能になってしまったりといったケースです。
このリスクへの対策としては、障害が生じた際に迅速な行動ができるよう、事前に対策マニュアルを用意しておくという方法が考えられます。またシステムの定期的なメンテナンスも必要です。徹底したメンテナンスで日頃から状況を把握しておくことにより、システム障害が起こった際もトラブルを軽減しやすくなります。
リコールリスク
リスクの中にはその業界特有のリスクもあります。例えば製造業といったモノづくりに関する企業の場合、リコールリスクが挙げられるでしょう。リコールリスクはリコール規模や対応によって企業の評価に影響を及ぼすものです。事実、株式会社タカタのようにリコールによって膨大な負債を抱えて経営破綻してしまったケースもあります。
このようなことを引き起こさないためには、徹底的な品質管理はもちろんのこと、生じてしまった場合の対応策も用意しておくべきでしょう。あらかじめ対応策があれば、リコールが発生しても早期的にトラブルを収束しやすくなります。
政治・地政学リスク
政治・地政学リスクは企業のグローバル化によって顕著化してきたものです。ウクライナとロシアの戦争や北朝鮮による核・ミサイル開発など、あらゆる国際的な政治・地政学リスクによって、企業の活動に大きな影響を与えてしまうケースも数多くあります。
実際のところ、これまで政治・地政学リスクはリスクマネジメントの対象外とされてきました。しかし現在ではリスク対象として扱うようになり、実際にリスクマネジメントを実施してリスクから回避できた企業もあります。特に海外との取引がある企業や国外に工場を保有する企業の場合、政治・地政学リスクについても実施すべきといえます。
リスク対策の種類とは
リスクマネジメントを講じるうえで、適切な対策をとる必要があります。ここでは主なリスク対策として4種類を挙げ、解説していきます。
リスク回避
リスク回避とは、危機が発生する前に回避するため、その要因となるものを排除することです。この対策方法に関しては、ハイリスクローリターンで危機の大きさよりも企業の利益が少ない場合や、危機の発生頻度が高いと想定される場合に用いられます。
例えば新しい工場の建設予定地が台風の被害を受けやすい場所であれば、何度も危機が生じる恐れがあります。この場合、台風の被害が受けにくい土地を検討します。これがリスク回避であり、「台風の被害」というリスクを「建設場所の変更」によって回避しています。
リスク低減
リスク低減とは、危機の発生を防止したいときや生じる危機の影響を最小限にとどめるための対策です。具体例としては、地震対策のためのオフィスビル補強や、事業継続のための拠点分散などが挙げられます。
また、リスク低減は有害なものから身を守る際にも用いられます。例えば、自動洗浄機を導入して食中毒対策を講じたり、食品を扱う際に保護手袋を使用したりなどが挙げられます。
リスク移転
リスク移転は、生じる恐れのある危機を別の第三者に移転する対策です。リスク移転に関しては、危機に見舞われる頻度が少ないものの、生じた際の損害や損失が大きい場合に用いられます。
リスク移転の例としては、重要なデータをクラウドサービスで保存したり、自然災害に見舞われた際に備えて保険に加入したりする対策が挙げられます。特に日本は地震や津波といった自然災害が起きやすいため、各企業もすでに保険加入など対策をしているケースが多いでしょう。
リスク保有
リスク保有は、発生する可能性のある危機に対し、具体的な対策を講じないことを指します。リスク保有を選択するケースとしては、生じる危機よりも利益が大きい場合や危機の大きさがさほど問題ない場合などが挙げられます。どのような企業であったとしても、すべての危機に対して対応できるわけではないため、影響の小さいリスクに対しては対処しないという選択肢もあり得るでしょう。
ただしリスク保有を選択する際には、本当に対処せずとも良いのか熟考する必要があります。もし企業に重大な影響を及ぼすリスクを過小評価していれば、何も対策しないまま甚大な損害や損失を発生させてしまうでしょう。そのため、リスク保有を選択する際は、あらゆる側面から慎重に考えることが必要です。
リスクマネジメントの事例
リスクマネジメントの事例として4つのケースをご紹介します。自社のジャンルに合わせ、参考にしてみてください。
食品関係の場合
食品関係のリスク対策の場合は、複数のリスク防止策を設けているのが特徴です。具体的にはコンプライアンスや品質保証といった部門でそれぞれ委員会を設置したり、定期的に会議を開き活動状況をチェックしたりすることが挙げられます。
また、すべてのリスクを管轄する総合リスク対策会議を開いている場合もあります。この会議は代表取締役社長をはじめ各関係者によって構成され、社長や第三者の監視委員など、多面的な視点でリスクマネジメントを実施しています。
建築関係の場合
建築関係では、協力会社と連携して労働安全衛生マネジメントを実施しています。建築関係は怪我や事故が生じやすい労働環境でもあり、リスク対策として指差し確認や現場パトロールなどを実施しています。
また、怪我や事故がない安全な労働環境を目指すための研修実施も欠かせません。社員それぞれにも安全教育を行い、万が一を引き起こさないようなリスクマネジメントをしています。
医療・介護関係の場合
医療や介護業界では、ほんのささいなミスで患者が亡くなってしまう恐れがあるほど細心の注意が必要です。そのため、過去の事例を踏まえたリスクマネジメントを実施しています。例えば過去のヒヤリハットを参考にした研修や、クレームへの具体的な対応などが挙げられます。
化粧品関係の場合
化粧品関係の場合、事業が停止するリスクのあることに関して事業継続計画(BCP)を行っています。主な例が新型インフルエンザ対策BCPや地震対策BCPなどです。それぞれBCPを用意しておくことで危機発生時にも迅速に対応できるうえ、事業への損害や損失を最小限に抑えられます。
自動車製造関係の場合
自動車関係の企業では、災害に対するリスクマネジメントに力を入れています。自動車製造業界においては、製造工場がストップしないよう備えておく必要があります。地震や台風をはじめあらゆる災害へのリスクマネジメントを講じておくことで、被災時の適切なリスク対応につながります。
まとめ
リスクマネジメントは、企業経営におけるあらゆるリスクに対し、適切な対応をする上で必要な対策です。トラブルに対して事前に備えておくことで、企業の損失をカバーできるケースも多くあるのです。
その一方で事前の対策がなければ企業の存続にかかわる甚大な問題へと発展し、経営破綻を起こす恐れもあります。今回ご紹介した事例を参考にしつつ、各企業に適したリスクマネジメントを実行していきましょう。