マイクロファイナンスとは、貧困者向けの金融サービスの総称です。
現在、THE WORLD BANKの定義する貧困は1日1.9ドル未満の収入となっており、1990年の調査では36%程度だった貧困者の割合は、2015年には全世界人口で10%未満まで漸減しています。
しかし、3.2ドル、5.5ドルと金額を引き上げて見てみると、5.5ドル未満での生活を強いられている人は世界人口の半分近く。貧困からの脱却には今後も努力が必要です。
この貧困層の問題解決の糸口になるのが、マイクロファイナンスです。
本記事では、マイクロファイナンスの意味と取り組みをわかりやすく解説します。
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目次
マイクロファイナンスとは?
マイクロファイナンスとは、貧困層に向けた小口の融資、貯蓄、保険などを兼ね揃えた金融サービスのことです。
かつてより、小規模金融には高利貸し、質屋など地域に根ざした金融業者が存在していましたが、そのサービスの利用すらもできなかった人がいました。この問題にメスを入れたのが、マイクロファイナンスです。
貧困の原因として挙げられるのは、不安定な収入です。貧困層、低所得層の多くが所得が少ない零細の賃金労働者でした。常に貯金が貯まらないため、今日の生活を生きるのが精一杯という人が多かったのです。
上記のような生活を強いられているため、貧困層は有事の際の対応力が弱いという問題があります。例えば、大災害が発生した際、家が倒れてしまえばその日暮らしの生活すらままなりません。
こうした背景を踏まえ、いつでも貯金を預けることができ、融資を無担保で引き出すことのできるマイクロファイナンスは注目を集めてきたのです。
マイクロファイナンスの前身:マイクロクレジットとは
マイクロファイナンスが総合的な金融サービスのことを示すのに対し、マイクロクレジットは「融資」のみのサービスを指します。貧しい人々であっても元手があればビジネスを成功させることができるようにと、グラミン銀行がマイクロクレジットをはじめました。
当初貧しい人々は返済能力は高くないと考えられていたため「デフォルト」が懸念されていましたが、グラミン方式と呼ばれる制度を導入したため、高い返済率を維持することができたと言われています。
グラミン方式とは、ある一定のグループに対して連帯保証を課すもので、ひとりの債務者が返済できなかった場合には他のメンバーが返済をするという形をとっています。
1976年から始まったグループ貸付制度は、現在では個人のみの借入も可能な「グラミン総合的システム」へ移行しましたが、グラミン方式が高い返済率を誇ったという結果と、現在のグラミン総合的システムが高い返済率を誇っているという事実は、その後マイクロファイナンスへ参入する企業を増加させた契機でもありました。
マイクロファイナンスと従来の支援との違い
マイクロファイナンスが始まる以前にも金銭的な支援がありましたが、両者の違いは継続的なビジネスかどうかです。マイクロファイナンスは他の慈善事業や支援とは異なり、債務者に返済義務が生じます。
さらに返済の利率は市場金利と連動しているため「貧困層だから利率を下げる」といった施策はとっていません。
債務者は必ず返済をする必要があるため、「ただ乗り」で融資を受け取り、返済をしないといった行動を取りづらくなります。
また、従来の寄付型の支援とは異なり、マイクロファイナンスというビジネスモデルが成り立つ限り、継続的に支援が行われるということも、従来の支援との大きな違いです。
マイクロファイナンスの4つの実施形態
マイクロファイナンスには3つの実施形態があります。
- 銀行、信用組合
- 村銀行、農協・漁協の金融部門
- NGO や政府による融資プログラム
それぞれについてわかりやすく解説をします。
銀行、信用組合
銀行、信用組合が実施するマイクロファイナンスは金融システム・アプローチと呼ばれています。金融システム・アプローチでは、支援を貸付、貯金のみに限っています。
ある特定の低所得者層に対して厚く支援を行うということはなく、誰でも利用できるのが魅力ですが、農村などに住んでおり、普段銀行や信用組合に訪れることができない人にとっては利用が難しいマイクロファイナンスです。
村銀行、農協・漁協の金融部門
上記のように、銀行や信用組合の実施するマイクロファイナンスは、地域社会から出られない超貧困層にまでリーチすることはできません。
そこで、地域社会に根ざしたマイクロファイナンスを実施するために、村銀行、農協、漁協が地域社会を組織化し、現在では地元に根差したマイクロファイナンスを実施しています。
NGOや政府による融資プログラム
NGOや政府による融資プログラムは、特定のターゲットを決めて所得の引き上げを図るものです。貧困貸付アプローチとも呼ばれます。
NGOや政府によるプログラムは融資ではあるものの、マイクロファイナンスで利益を出すというよりも、外部から調達した資金でターゲットに対し適切に資金を提供することに重きを置いています。
しかし、現在では貧困層に対しては貸付というアプローチを行うだけでなく、貧困層のニーズの多様化にどう対応するかが重視されています。
外部資金を頼りにしているため継続的な支援が難しいことから、貧困貸付アプローチを実施する機会は少なくなりました。
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マイクロファイナンスの課題
マイクロファイナンスは貧困層に対し資金を提供することで、貧困層がビジネスチャンスを掴むのを支援する制度ですが、以下2つの課題があります。
- 法的整備
- 商才がない人物も借りる
まず、中央銀行の規制や銀行設置基準が高く、既存のNGO、協同組合がマイクロファイナンスを実施することができない点が課題です。
この他にも、貧困層が多い国の場合は、土地の登記制度が未発達であり、質権の設定ができない点が問題になることがあります。
次に、資金を借入れることができたからといって、ビジネスを成功させられるとは限らないことも課題です。
マイクロファイナンスはあくまでも貸付であるため、債権者が自身のビジネスで成功をしなければ、利子分の支払いが重くなるリスクもあります。
このため、これからマイクロファイナンスを成功させる上では、各国が法整備を進めること、そして顧客に対して貸付のサービスを行うだけではなく、商才を高めさせる複合的なサービスを提供することも大切です。
まとめ
マイクロファイナンスは貧困層を抜け出すために金融機関、NGOなどができるひとつの支援の手段です。
SDGsの1項目目「地球上のあらゆる形の貧困をなくそう」にも記載がある通り、今後マイクロファイナンスに力を入れる企業が増加する可能性は十分にあります。
世界規模のファンドからの投資を束ねるベンチャー企業も現れている今、マイクロファイナンスは今後も注目を集めることでしょう。
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