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「レイオフ」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。レイオフは米国や欧州のビジネスシーンで用いられることの多い用語で、一時解雇を意味します。日本で実施されるケースはほとんどないものの、近年注目を浴びつつあります。
グローバル化や変化する法規制など、著しく進化していくビジネス社会に対応するには、まだ一般化していない制度についての知識も必要です。
そこで本記事では、レイオフの意味やメリット、押さえたいポイントなどを解説します。
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レイオフとは
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レイオフとは解雇の一種で、労働者の一時的な解雇のことです。
英語では「layoff=一時的な解雇」を意味しており、英語本来の意味がビジネス用語としても転用されています。
レイオフの特徴として、再雇用前提という点が挙げられるでしょう。レイオフは業績悪化などにより人員整理せざるを得ない状況において、業績が回復したら再雇用することを前提に実施されます。
完全な解雇と違って再雇用が前提となっているため、労働者が蓄積した経験やスキルの他社への流出を防げます。
このような理由から、製造業などノウハウ獲得に経験年数が必要な業種ほど、レイオフが実施されやすいです。
レイオフと似た労務関連用語
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レイオフと似た労務関連用語として以下2つが挙げられます。
- リストラ
- 一時帰休
用語の意味を正しく理解するには、似た用語との明確な区別が必要です。
それぞれの意味について解説します。
リストラとの違い
リストラとは人員整理を目的に実施される解雇です。レイオフとの違いは、再雇用を前提としていない点が挙げられます。
日本では、解雇をすべてリストラと表現するケースがありますが、厳密にはリストラは「整理解雇」に当てはまります。解雇は大きく分けて以下の3種類に分かれます。
- 普通解雇:能力不足や業務外の病気、ケガなどにより、業務が困難となった労働者の解雇
- 懲戒解雇:違反行為などを行った労働者に対して罰として実施する解雇。ただし就業規則に明記がないと実施できない。
- 整理解雇:人員整理のために実施する解雇。条件を満たす必要がある
レイオフとリストラは、上記のうちの「整理解雇」に当てはまります。
一時帰休との違い
一時帰休とは、労働者を在籍させたまま一時的に休業させる方法です。一定期間就労しない点はレイオフと同様ですが、レイオフは一時的とはいえ解雇するので企業との関係が完全に断ち切れるのに対し、一時帰休は企業に属した状態を示します。
また、一時帰休の場合、平均賃金の60%以上の休業手当支給が必要です。
日本では一時帰休をレイオフと呼ぶケースもありますが、このように両者は異なる意味を持ちます。
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詳しくは後述しますが、日本は法律的な理由によりレイオフの実施が難しい国と言われています。
では、実施が難しいことを承知の上でありながら、なぜレイオフという言葉が広まったのでしょうか。考えられる理由は以下の2つです。
- 米国・欧州では以前から珍しくなかった
- 新型コロナウイルスの流行による業績悪化
それぞれ詳しく解説します。
米国・欧州では以前から珍しくなかった
日本では近年になって広まったという印象がありますが、前提として、以前からレイオフの実施は米国・欧州では特段珍しいものではありませんでした。
レイオフが多く実施される業界としてはIT業界や自動車などの製造業が挙げられます。
実施の流れは非常に淡々としたもので、突如レイオフの通達を受け、仕事がなくなるといった事態も珍しくありませんでした。
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新型コロナウイルスの流行による業績悪化
これまで注目度の低かったレイオフという用語が、なぜ近年になって日本で見聞きする機会が増えたのでしょうか。その理由として、新型コロナウイルスの流行による業績悪化に見舞われる会社が世界的に増え、海外では大規模なレイオフを実施する大手企業も複数出たことが挙げられます。
日本国外の出来事とはいえ、世界的に有名な企業による動きは日本にも少なからず影響を与えます。そういったことから、日本でもレイオフが注目されるようになったのです。
参考:レイオフとは? 新型コロナによる新たな展開を振り返る | 日経ビジネス
レイオフのメリット
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レイオフには雇用側・労働者側それぞれに以下のようなメリットがあります。
- 雇用側のメリット:人件費を削減できる
- 雇用側のメリット:優秀な人材の流出を防止できる
- 労働者側のメリット:転職などの選択肢が広がる
- 労働者側のメリット:退職金を受け取れる
それぞれ具体的に解説します。
雇用側のメリット:人件費を削減できる
雇用側の大きなメリットは、人件費を削減できる点です。
人件費は売上に関係なく一定額発生する固定費です。業績が悪化している時期は企業にとって負担が重くなるため、人員整理の実施を検討する企業もあるでしょう。
しかし経験やノウハウを積んだ労働者を完全に解雇してしまうと、戦力を失ってしまうというリスクがあります。
このような際、レイオフを実施することで、一時的に人件費を抑え、業績回復後に改めて雇用して戦力を取り戻すことができます。
雇用側のメリット:優秀な人材の流出を防止できる
前述の通り、レイオフは完全な解雇と違い、業績が回復したら再雇用する前提となります。
したがって一時的には解雇するものの、優秀な人材の流出を防止できます。
人材育成にかかる費用は非常に膨大です。大きなコストをかけて育てた優秀な人材を、業績悪化を理由に解雇してしまうのはその後の会社にとって損失となります。
解雇によって人件費を削減しても、人材育成にコストがかかるようでは恩恵が小さくなってしまいます。
レイオフは再雇用が前提のため、解雇した状態であっても優秀な人材との関係を維持できます。
経営者
労働者側のメリット:転職などの選択肢が広がる
労働者側のメリットとして、転職などの選択肢が広がる点が挙げられます。
レイオフは一時的とはいえ、解雇に変わりありません。すなわち労働者はどの企業にも属さない、自由な時間が得られます。
もしこれまで属していた企業に不満があった、もしくは自身に合った企業を選びたいなどの希望があった場合、転職といった選択肢を取れます。
働きながらの転職活動は難しい上、そもそも転職の決断を下すことも容易ではありません。
専門家
労働者側のメリット:退職金を受け取れる
レイオフで解雇した労働者に対して、特別退職金を支給する企業もあります。
レイオフは企業の都合で実施される解雇であり、労働者は急な変化を求められます。
このような理由により、ボーナスのような形で退職金が支給されるケースがあるのです。
レイオフ後は収入が途絶えてしまいますが、退職金を受け取れれば経済面での心配は小さくなります。
ただし退職金の支給については企業や勤続年数によって異なるため、大きな額が支給されると決めつけず、事前に確認しておく必要があります。
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専門家
レイオフの現状として以下のような事実が挙げられます。
- 解雇実施の要件からレイオフは困難
- 一時帰休をレイオフと呼ぶケースも
- 将来的にはレイオフが広まる可能性が有る
それぞれの内容について解説します。
解雇実施の要件からレイオフは困難
大前提として、現代日本でのレイオフ実施は非常に困難です。
というのも、日本は労働者保護の目的から解雇実施の要件がかなり厳しく設定されているため、そう簡単に解雇はできないのです。
レイオフを含む整理解雇の実施には、以下4つの条件を全て満たさなければなりません。
- 人員削減の必要性:経営上の理由により人員整理が必要とされる状態
- 解雇回避の努力:人員整理を避けるための努力を十分に行った状態
- 人選の合理性:対象者の選定基準が合理的な状態
- 解雇手続きの妥当性:解雇に関するあらゆる説明を十分に実施した状態
このように非常に厳しい要件が設定されているため、レイオフを含む解雇手続きは実施が困難となっています。
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参考:労働契約の終了に関するルール|厚生労働省
一時帰休をレイオフと呼ぶケースも
すでに少し触れた内容ですが、日本では一時帰休をレイオフと表現するケースも散見されます。一時帰休と本来の意味のレイオフには、以下のような共通点があります。
- 労働者が一時的に職務から離れる
- 人件費の削減につながる
- 人材流出を防げる
人件費削減が必要だが解雇が難しいという場合、一時帰休が実施されます。
一時帰休とレイオフは共通する部分が大きいため「レイオフ」と一括りで表されることがあるのです。
ただし雇用関係の維持や休業手当支給の有無などの違いがあり、本来のレイオフとは意味が異なります。
両者の違いを押さえた上で、企業が示すレイオフがどちらの意味であるか確認する必要があります。
将来的にはレイオフが広まる可能性が有る
先ほど説明した通り、日本は解雇要件が厳しいためレイオフの実施が困難です。
しかし近年は、解雇要件の緩和を議論する場面が増えており、将来的にはレイオフが広まる可能性も考えられます。
安倍内閣におけるアベノミクス戦略のひとつに、雇用制度改革がありました。その論点には解雇ルールの見直し、すなわち解雇要件の緩和も含まれていたのです。
当時は結局実施されませんでしたが、厚生労働省による解雇規制緩和の検討は続いています。したがって日本でも、レイオフが実施される可能性は十分に考えられるのです。
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参考:「経済活性化につながる雇用制度改革 | 日本総研
海外におけるレイオフの事例
経営者
日本では馴染みのないレイオフですが、海外では人員整理の方法として一般的です。
中でも大規模に実施された事例として以下の3社が挙げられます。
- ドイツ:ルフトハンザ航空
- アメリカ:Evernote
- スウェーデン:エリクソン
それぞれの企業で実施されたレイオフについて紹介します。
ドイツ:ルフトハンザ航空
ルフトハンザ航空は、ドイツ最大の航空会社です。
ルフトハンザ航空は2020年8月に、ドイツ国内の従業員にレイオフを通告したと発表しました。
航空会社は新型コロナの流行により全体的に業績が悪化しており、ルフトハンザ航空の2020年4月~6月の乗客は前年のわずか4%にまで落ち込んだのです。
業績悪化に対抗するには人員整理を避けられないという結論に至り、レイオフによってフルタイムの労働者を計22,000人削減すると発表しています。
アメリカ:Evernote
Evernote社はクラウド型のドキュメント管理システムを提供する会社です。
Evernote社は設立から2021年現在までに2度、大規模のレイオフを実施しています。
2015年9月には47人のレイオフとオフィス3箇所の閉鎖を発表、2018年には54人のレイオフを発表しました。
レイオフの実施後、業績回復に浮いた資金を充てる計画を検討していたためです。
単純な人数としては小さいですが、労働者の15%が削減となりました。
参考:Evernote lays off 47 people and closes 3 offices in effort to build a more focused team | VentureBest
スウェーデン:エリクソン
エリクソンはスウェーデンの通信インフラ企業です。
エリクソンは2009年1月に従業員5000人のレイオフを発表しました。
レイオフ実施の理由は、2008年10-12月期の純利益減少を挙げており、前年同時期と比較して、31%減少したからです。
決算報告書の中で、レイオフ対象者としてコンサルタントや臨時社員などを挙げています。
エリクソンはコスト削減のため、レイオフ実施だけでなくプラットフォームの削減なども行っていました。
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日本では実施が難しいレイオフですが、将来的に広まる可能性は十分に考えられます。
したがってレイオフについて今のうちから知る必要があります。
レイオフで必ず押さえるべきポイントは以下2点です。
- 法令や規制に沿って実施する
- 従業員や関係者へ丁寧かつ詳細な説明をする
それぞれ具体的に解説します。
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法令や規制に沿って実施する
当然ではありますが、レイオフ実施においては法令や規制の遵守が大前提です。
前述した整理解雇の要件を始め、解雇に関連するルールに沿う必要があります。
レイオフのように、企業側が一方的に実施する解雇は労働契約法第16条に違反する内容です。要件を満たさない解雇は撤回が求められる、もしくは処罰の対象になるケースがあります。
将来的には解雇規制の緩和も考えられますが、どのような状況であっても、法令や規制は必ず守らなければなりません。
したがって、法規制の知識や正しい理解が必要不可欠です。
参考:労働契約法について | 厚生労働省
従業員や関係者へ丁寧かつ詳細な説明をする
アメリカなどの諸外国では、労働者に対して突然レイオフを言い渡すケースも珍しくありません。しかし日本においては労働者保護の観点から、レイオフ対象の従業員や関係者へ、丁寧かつ詳細な説明が必要です。
レイオフに関する説明の際に押さえたいポイントは以下の通りです。
- 数値やデータを活用し、業績悪化の現状を正しく伝える
- レイオフ・人員整理の必要性について理解してもらう
- 説明を実施した証拠として議事録などの記録を残す
いくら法規制を守った上でのレイオフだとしても、労働者の理解が得られなければトラブルに発展する恐れがあります。
したがってレイオフにあたっては丁寧な説明が求められます。
まとめ:これからの変化に備えてレイオフについて理解しておこう
日本におけるレイオフの実施は、法規制などの理由から困難というのが現状です。
しかし解雇規制の緩和が進めば将来的に増える可能性が十分に有り得ます。
レイオフは雇用者・労働者ともにメリットのある方法です。
とはいえ適切な実施のためには、レイオフについて正しい知識と理解が求められます。
今のうちからレイオフについて押さえておくと、今後社会情勢や法令が変化した際に上手く対応できるでしょう。
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