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概要
2007年6月、国内最大級のネットオークション価格比較・相場検索サイト「aucfan.com(オークファン)」を運用する企業が誕生した。それが株式会社オークファンだ。
同社は「ヤフオク!」「モバオク」「楽天市場」「Amazon.co.jp」「eBay」をはじめとする国内・海外のオークション・ショッピングサイトで販売されている商品の価格情報や一括検索・分析等ができるほか、過去に取引された商品の価格や取引数などの情報の閲覧ができるサービスを展開、2013年には東証マザーズに上場を果たした。
その後「相場情報メディア」で蓄積した680億件以上のデータを強みに、年間22兆円規模といわれる企業から廃棄される商品在庫を流動化させる「在庫課題解決パートナー」として、オンリーワンの事業をさらに加速させていた。ところが、上場から数年後、その成長過程で大きな「壁」にぶつかる。
同社の代表取締役・武永修一氏は何に悩み、識学のトレーニングを受けたことで「壁」をいかにして乗り越えていったのだろうか。詳しく話を伺った。
創業以来最も苦しい時期に識学の導入を決断
まずは識学を知った経緯についてお聞かせください。
以前、知人の紹介で識学の安藤社長とお会いする機会があったんです。その会食では、安藤社長や様々な企業の経営者が識学の理論に基づいた会話をされていて、別件の都合で少しの時間しかいられなかったのですが「なんだか独特で面白いな」と感じたのが第一印象でした。
それで、また改めてお会いして詳しくお話を聞けたらと思い、後日講師の方に来ていただきました。
識学の理論について知った時の印象はいかがでしたか?
非常にシンプルで合理的な考え方だな、という印象が強いです。例えば、「上司が2人いるような組織構造は機能しませんよ」という指示系統に関する指摘に関しても、「なるほど」と感じました。僕は歴史が好きなのですが、やっぱり宗教・軍隊・官僚って、国家よりも長く続いている組織じゃないですか。ヒエラルキーというか、人間が集団で動く時の心理を、識学は企業の組織マネジメントに上手く取り入れているな、と感じました。
識学のトレーニングを受けようと思われた経緯をお聞かせください。
実は識学を知った頃、会社の数字がものすごく悪かったんです。当社のホームページに掲載しているIR情報をご覧いただければ一目瞭然なのですが、2018年の1Q目は赤字、2Q目もどうにかトントン……という状態でした。
そういう結果になってしまった理由はいくつかありますが、一番の要因は「組織づくり」です。特に、中長期の経営計画を達成するために数年前から積極的にM&Aを行なっていたのですが、将来の布石になるようなパーツを手に入れたのに、PMI(企業の合併・買収成立後の統合プロセス)が思うように上手くいっていないために数字が伸び悩んでしまう、という明確な課題感を抱き続けていました。
M&Aした会社だけでなく、もともとオークファンに所属していたメンバーに関しても、「権限はあるけれど責任がない」という微妙な位置のメンバーがいたりもしましたね。
創業から6年で東証マザーズ上場を果たすまで順調に事業拡大なさってきた中で、唯一組織づくりが上手くいっていなかったのはなぜでしょうか。
僕は学生時代に起業したので、社会人経験がなかったんです。他にも学生起業家を結構たくさん知っていますが、「発想力」は凄いんですよ。全く制約がないので、どこまでもぶっ飛んだアイディアを思いついて、形にすることができるんです。
しかし、その反面、「人の扱い」「マネジメント」に対しては非常に不得手な人がもの凄く多いです。僕も含めて。人の上にも下にもついたことがない、強いて言えばアルバイトぐらいでしか社会を知らないわけですから、基本的には暗中模索状態なんですよね。
以前は社員一人ひとりに手書きの誕生日メッセージを贈ったりもしていました(笑)。社員のモチベーションを上げるために、思いついたことを手当たり次第やっていました。
評価制度づくりは複雑怪奇な存在だと思い込んでいた
組織における課題が表面化したのはいつ頃だったのでしょうか。
実は組織づくりへの課題については、従業員数が20人前後になった頃からすでに「このままだと結構危ないな」という危機感があったのですが、東証マザーズ上場まではある程度持ちこたえられたんです。
上場というのは、会社や従業員にとっての一つの「ゴール」。ストックオプションという金銭的なリターンがあるし、組織に不満があったとしても市場価値や社会的ステータスが上がるのでどうにか持ちこたえられる。
しかし、上場というゴールを過ぎてからは、優秀な若手からどんどん抜けていってしまいました。それは、識学を学んだ今では、信賞必罰の仕組みがなく、頑張っても頑張らなくても大して評価が変わらないと従業員に思わせてしまったのが原因だったと感じています。
人事評価に関して、識学を受けるまではどんな存在だと捉えていましたか?
「めちゃくちゃ高度で複雑怪奇なもの」だと思っていましたね。360°評価とか、他にも色々なものを掛け合わせないと正当な評価ができないのでは、と変に構えてしまっていました。
それを、「人事評価ってこんなにシンプルでいいんだ」と気づかせてくれたのが識学です。
具体的に、評価制度の仕組みをどのように変えられたのでしょうか。
M&Aで子会社化した会社を含めた全社の従業員を対象に、A〜Dまでの4段階で明確な評価を示しました。D評価の人たちには「今のままでは非常に厳しいよ」ということを突きつけたんです。
評価方法は、営業だけでなく、開発部や間接部門の管理部に関しても、目標を全て数字に置き換えるようにしました。例えば開発部なら「コードを早く書く」ではなく「●●行書く」とか「障害率を●%まで減らす」、経理なら「締め日を●日短縮する」といったように、明確に示しました。
D評価の対象となった従業員はどれ位いたのでしょうか。
全従業員の25%。約50人です。驚かれるかもしれませんが、その中には子会社の元社長も含まれていました。会社全体のルールを明確にして、周知させる上で見せ方は非常に重要。
上だけ残って下ばかり削られたら意味がないんです。
ピラミッドの下を切るのではなく、斜めに切ってシェイプをしないと組織の構造がおかしくなってしまうから、上から下まで全員が対象になるわけです。
それは、「会社全体としてこういう評価をするよ」ということを伝える上で一番わかりやすい訴求になったのではないかと思います。
D評価になってしまったのはどういった方々だったのでしょうか。
「会社のルールを一切無視する人」です。
例えば、午前中に大事な社員総会や全社の発表があるのに昼間から出勤したりするような人は、もはや社員である必要はないですよね。ルールというのは、いわゆる「オークファンの社員であるかどうか」というアイデンティティに関わる大切なもの。
その大前提の中で、どれくらい力を発揮して、会社の業績への貢献と自己成長ができたか、というのが評価をする上で明確な指標となりました。
評価制度を一新した結果、どんな変化がありましたか?
結果、D評価を受けた従業員のほとんどは辞めることになりました。彼らの分の人件費はどうしたかというと、A評価の従業員に振り分けたんです。
それが、もし仮に「社長のお気に入りだから」とか「ポテンシャルを感じるから」という曖昧な理由であればハレーションが起きるかもしれませんが、「あなたは予算を150%達成したので10万円アップ」「あなたは100%達成だったので3万円アップ」という明確な評価基準があるから誰も不平不満を言わなくなります。
こういった評価に変えてからB評価、C評価の従業員はどうなったかというと、今までは「この会社ってどれだけ頑張ってもあまり評価が変わらないよね」という思考状態だったのが、「A評価もらったあいつはすごいな」「自分は絶対Dになりたくない」という危機感が生まれて、目標を達成するために自発的に行動するスピードと量が増えました。
共依存からの脱却が、強い組織を形作る
識学の理論を御社の組織マネジメントに取り入れられてから、どんな変化があったのでしょうか。
位置と評価が固まったことで、ただ単に筋肉質で軍隊的なだけではなく、柔軟性も兼ね備えた組織になりました。
今までは「こんな提案資料じゃ通用しないだろ」とか「もう俺が喋るよ」といったように、僕がどんどん現場に介入してしまっていたのですが、識学のトレーニングを受けてからは各階層に必要な責任と権限を与えて、各事業部門のトップから目標が達成できたかどうかの結果報告だけ受けています。
「ルールを逸脱しないでね」「数字はちゃんと達成してね」という2点さえ守れば、あとは好きにしていいよ、と。そうすると、勢いのあるメンバーからすると裁量の自由が増すので、今までよりも「信頼されている感」を感じるようで、とても生き生きとしています。
振り返ると、以前の僕と従業員の関係は「共依存」のようなものだったんだろうな、と感じますね。口うるさいお母さんみたいな、「あんたは私がいないとダメなのよ」なんていつも心配して世話を焼いてしまうと、子どもは愛情は感じるかもしれませんが、いつまで経っても成長できないですよね。それと同じことをしてしまっていたんだと思います。
識学のトレーニングを受け始める少し前の1Q目は赤字だったと先ほど伺いましたが、その後の業績はいかがでしょうか。
同じ年の3Q目はルールや評価の部分を整備する期間だったのですが、4Q目で驚異的に利益を上げて、結果的に過去最高益を達成することができました。
識学は、特に営業部門の変化が顕著に出やすいですね。あとは、メディア運営部門のトップが元々はパワー不足かなと思っていたのですが、識学が上手くハマったようで、今では当社の稼ぎ頭として活躍してくれています。
御社はこれまでに複数の企業とM&Aを行っていますが、PMI(統合プロセス)を最適化する上でも識学の理論は役立ったでしょうか?
今まではM&Aした子会社に対してものすごく気を使っていました。元々の会社の組織風土を変にいじってしまうと、その会社の良さがなくなってしまうと思っていたんです。だから「自由にやって数字を出してね」、という恐る恐る接するような管理しかできていなかったので、当然結果も出ないわけです。
それが、会社のルールや指示系統、評価などを全社統一して明文化したことで、今のところは順調にPMIが進んでいると思います。子会社の部長・マネージャーが識学の理論を血肉化して、隅々のメンバーにまで浸透できるようにすることが次のフェーズですね。