企業にとって「人材育成」は、もはや選択肢ではなく必須の取り組みです。
少子高齢化による労働力不足、テクノロジーの進化による競争激化など、取り巻く環境は厳しさを増しています。
本記事では、人材育成の基本的な考え方から、企業が抱える課題、代表的な育成手法、さらに実際の成功事例までをわかりやすく解説します。
自社に合った人材育成のヒントを見つけたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
人材育成とは
人材育成とは、企業や組織が従業員の能力やスキルを高め、組織の目標達成に貢献できる人材へと成長させる取り組みのことです。
単なる研修や教育にとどまらず、実践を通じたスキル向上やキャリア形成までが人材育成に含まれます。
近年では、個人の成長が企業の成長に直結するという考えから、戦略的な人材育成が重視されるようになっています。
企業にとって人材育成が重要な理由
企業にとって人材育成が重要な理由は以下の3つです。
- 少子高齢化で人材が不足しているから
- テクノロジーの進化で差別化が難しいから
- 優秀な人材が組織目標達成に大きく貢献するから
それぞれ詳しく解説していきます。
少子高齢化で人材が不足しているから
日本では少子高齢化が急速に進んでおり、労働人口の減少が深刻な課題です。
そこで、新たな人材を確保するだけでなく、既存の従業員を育成する重要性が高まっています。
企業内で従業員を育成できるようになれば、採用に頼らずとも、企業を中長期的に成長させることが可能です。
少子高齢化が進み、即戦力人材を採用するのが難しくなっている現代社会では、人材育成に力を入れるのも一つの手といえるでしょう。
テクノロジーの進化で差別化が難しいから
近年はテクノロジーの進化により、多くの製品やサービスが模倣されるようになっています。
技術や価格だけで差別化を図ることが難しくなった現代社会では、「人」が生み出すアイデアが必要不可欠です。
また、最近は生成AIが台頭しており、「ホワイトカラーが要らなくなるのでは?」という言説も散見されるようになりました。
このような状況の中で生き抜くには、優れたアイデアを持ち、テクノロジーを活用できる人材を育成する必要があります。
優秀な人材が組織目標達成に大きく貢献するから
企業のビジョンや目標を達成するうえで、優秀な人材の存在は欠かせません。
専門的なスキルだけでなく、問題解決能力やリーダーシップを持った人材は、組織全体に好影響をもたらします。
逆に育成を怠ってしまうと、社内の生産性が伸びないだけでなく、新たな成長機会を求めて優秀な人材が流出するリスクが高まります。
組織として持続的に成果を上げるためには、長期的な視点でリーダー人材を育成し、優秀な人材を逃さないための育成環境の構築が必要です。
企業が抱える人材育成の課題3選
企業が抱える人材育成の課題は、以下の3つが挙げられます。
- 人材育成を行う時間がない
- 人材育成ができる人材が不足している
- 人材を育成しても辞めてしまう
それぞれ詳しく見ていきましょう。
人材育成を行う時間がない
日々の業務に追われる中で、人材育成に十分な時間を確保できない企業は少なくありません。
現場では即戦力が求められるため、育成よりも目の前の業務を優先しがちです。
その結果、人材育成が後回しになり、スキルや知識の底上げが進まないという悪循環に陥ることがあります。
人材育成は、中長期的な視点が欠かせません。短期的な利益ではなく、中長期的な成長を重視する意識改革が必要です。
人材育成を担える人材が不足している
人材育成を担当するマネージャーや上司自身が、人材育成に必要なスキルや経験を十分に持っていない場合も大きな課題です。
指導経験が乏しいと、適切なフィードバックや成長支援ができず、従業員のモチベーション低下を招く可能性があります。
人材育成ができる人材が不足している場合、外部のサービスやコンサルタントを活用して、人材育成の知見を高めるのも一つの手です。
識学では、部下の指導に役立つマネジメントコンサルサービスを手掛けています。人材育成のメソッドを社内に普及したい方は、ぜひ気軽にご相談ください。
人材を育成しても辞めてしまう
せっかく苦労して育成した人材が、成長後に転職してしまうケースも企業にとって深刻な問題です。
実のところ、スキルアップを支援するだけでは、従業員の定着には繋がりません。
人材育成だけでなく、キャリアパスの提示や働きがいのある環境作りが必要なのです。
特に近年は、労働市場が流動化し、転職を前提としたキャリアプランを設計する若者が増えています。
このような人材を社内に留めるためには、成長の機会を提供し続けることが重要です。
人材育成の代表的な3つの手法
人材育成の代表的な手法は以下の3つです。
- 仕事しながら育成するOJT
- 職場外で受けるOff-JT
- 自発的に実施する自己啓発
それぞれ詳しく解説していきます。
仕事しながら育成するOJT
OJT(On the Job Training)は、日常業務を通じて実践的なスキルや知識を身につける育成手法です。
実際の仕事の中で経験を積ませることで、即戦力としての成長を促します。
OJTであれば、リアルな業務に即した指導ができるため、現場で活躍できる人材をスピーディーに育成できます。
一方で、現場従業員の負担が増加するのがデメリットです。
また、知識がない状態で実務を指導しても効果が薄くなる可能性もあります。
このあと紹介するOff-JTと組み合わせるのがOJT活用のコツです。
職場外で受けるOff-JT
Off-JT(Off the Job Training)は、セミナーや研修などの職場外で行われる教育訓練のことです。
業務から一時的に離れることで、体系的な知識やスキルを集中的に学ぶことができるのが特徴です。
マネジメント研修や営業スキル向上セミナーなど、幅広いテーマに対応できます。組織のニーズに合わせた育成が可能です。
ただし、実務との連携が弱くなる場合もあるため、Off-JTのあとに職場で実践する場を設けるなど、実務指導との連携が重要となります。
自発的に実施する自己啓発
自己啓発は、従業員が自らの意思でスキルアップや知識習得に取り組む育成手法です。
資格取得やオンライン講座の受講、読書、ボランティア活動など、自己啓発の方法は多岐にわたります。
自己啓発の最大の特徴は、主体性を育める点にあります。
自ら成長する姿勢を持った従業員は、変化の激しいビジネス環境でも柔軟に対応できるため、企業の中長期的な成長に貢献するでしょう。
企業としては、資格取得の際の金銭的支援や学びを奨励する制度を整えることが重要です。
自己啓発を促進し、組織全体のレベルアップに繋げるようにするといいでしょう。
人材育成を成功させる3つのコツ
人材育成を成功させるコツは以下の3つです。
- 従業員の自主性を養うことを重視する
- 目標から逆算して計画を作成する
- 失敗を恐れない文化を作る
それぞれ詳しく解説していきます。
従業員の自主性を養うことを重視する
人材育成において最も重要なのは、従業員自身が「成長したい」と思える環境を作ることです。
与えられた指示をこなすだけでなく、自ら課題を見つけ、行動できる力を養うことが、変化の激しいビジネス環境では不可欠です。
上司は部下に答えを教えるのではなく、考えさせる質問を投げかけたり、挑戦の機会を与えたりすることが求められます。
従業員の自主性を尊重し、失敗を許容する文化を整えることで、従業員が勝手に成長してくれるようになるのです。
目標から逆算して計画を作成する
効果的な人材育成を行うには、漠然と育てるだけでは成果に結びつきません。
まずは組織や部署が目指すゴールを明確にし、そのゴール達成に必要なスキルや経験を逆算して育成計画を立てることが重要です。
例えば、3年後にマネージャーを育成したい場合、1年目は基礎スキル、2年目はリーダー経験と段階的に育成内容を設計します。
目標から逆算することで、育成計画に一貫性が生まれ、従業員自身も成長するイメージを持ちやすくなります。
失敗を恐れない文化を作る
人材育成において、失敗を恐れずにチャレンジできる文化の醸成が欠かせません。
新しいことに挑戦すれば、必ず失敗やミスは発生します。
そこで重要なのは、その失敗を責めるのではなく、学びの機会としてポジティブに捉えることです。
上司や経営陣が率先して「失敗から学ぶ姿勢」を示すことで、従業員も安心して挑戦できるようになります。
また、失敗を許容すれば、部下はトライアンドエラーを繰り返すために「量」を増やします。
これが結果として、業績向上やKPI達成に繋がるのです。
失敗を糧に成長できる環境を整えることが、真に自律した人材を育てる土台になります。
人材育成の成功事例3選
ここでは以下の3社の人材育成の成功事例を見ていきましょう。
- スターバックスコーヒージャパン株式会社
- 伊藤忠商事株式会社
- 東洋企業株式会社
スターバックスコーヒージャパン株式会社
スターバックスでは、従業員を「パートナー」と呼び、働く意欲を引き出す人材育成に力を入れています。
特徴的なのは、マニュアルに頼らず、現場の判断力や自主性を重視している点です。
スターバックスは、ただ業務をこなすのではなく、顧客に対するホスピタリティを重視しています。
そのため、あえてマニュアルを設けずに、従業員自らが考えて接客することを重視しているのです。
また、スターバックスの新入社員は、まず各店舗のストアマネージャーに就任し、現場での実務経験を積みます。
このようにスターバックスでは、顧客に良質なサービスを提供するために、現場での自主的な取り組みを推奨する環境を構築しているのです。
伊藤忠商事株式会社
伊藤忠商事は、グループ企業理念「三方よし」実現のために、人的資本の強化を重要施策の1つとして掲げています。
そのために多くの施策に取り組んでいますが、その中でも画期的なのは「朝活セミナー」です。
伊藤忠商事は2016年から朝型勤務を推進しており、その一環として、早朝時間を活用し、従業員の知見を高める「朝活セミナー」を実施しています。
テーマは「ビジネスの進化」や「健康」を中心とし、2023年度は計3回開催され、計1,298名が参加しました。
受講者の中には「始業前に刺激的な話を聞くことができ、ポジティブな気持ちになった」という声もあるようです。
実際に朝型勤務は残業時間減少の効果もあり、2010年度に比べて労働生産性が約5倍になった実績もあります。
東洋企業株式会社
貴金属やブランド品などの買取専門店『おたからや』を展開する東洋企業株式会社は、複数店舗を運営する際にマネジメントの壁に直面します。
そこで、識学式マネジメントを取り入れ、行動量を増やすマネジメントを軸にすることで、利益率が倍増しました。
現在、同社は新入社員が入社する段階から全員に識学のeラーニングを受講してもらい、組織運営の考え方を理解してもらうようにしています。
また、4ヶ月ごとに賞与を支給するタイミングで識学のテストを受けさせ、店長は60点以下、エリアマネージャーは80点以下だと不合格として再テストを受けさせるなど、徹底を図っています。
社内に識学の考え方を徹底させて、利益率が大幅に改善された事例です。
まとめ
人材育成は、単なる社員教育ではなく、企業の持続的成長に直結する重要な経営戦略です。
少子高齢化やテクノロジー進化による競争激化に対応するためにも、計画的かつ実践的な育成施策が求められています。
OJTやOff-JT、自己啓発を適切に組み合わせ、従業員の自主性を引き出す仕組みを整えることが成功のカギです。
本記事で紹介した成功事例も参考にしながら、自社に合った人材育成プランを構築し、未来に向けた組織づくりを進めましょう。