会計業務は、主に「財務会計」と「管理会計」の2つに分けられます。
財務会計は会社法で定期的な作成が必要なため、緊急度の高い業務です。
一方で、管理会計は作成の義務がないため、場合によっては後回しになってしまいます。
しかし、管理会計は経営やマネジメントに役立つ数字を算出してくれるものであり、その場でお金の流れをモニタリングできるのは大きな強みです。
そこで本記事では、管理会計について解説していきます。ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
管理会計とは?
管理会計は、経営者やマネージャーが自社業務に活用するためにまとめる会計のことです。
株主や金融機関に提出する報告書的な「財務会計」ではなく、あくまでも社内での活用が目的のため、「現時点でどのような財務状態になっているのか」を中心にまとめられます。
財務会計とは異なり、管理会計にはルールがないため、経営者や用途によって作成方法や記載項目が異なるのも特徴です。
近年では自動で財務レポートを作成できる会計ソフトが登場していますが、これも管理会計のニーズを汲んだものです。
管理会計の目的
管理会計は、経営者の判断材料として用いられることが多いです。
管理会計で作成される書類やレポートは、現在までの財務状態を把握するだけでなく、未来の財務予測にも役立ちます。
経営者は数年先の未来を予測し、そこで利益を出すために、適切な場所に人材とお金を投資しなければなりません。
例えば、製品開発をする際に、どれだけの投資額が発生し、どれほどのリターンが見込めるかがわかれば、適切な意思決定ができます。
管理会計で「研究開発費の詳細」を算出することで、未来予測に役立てることができるのです。
また、管理会計では過去のお金の流れも可視化されるので、どこで無駄遣いしているかがわかりやすくなります。
そのため、管理会計は自社の経営体質の改善にも有効と言えるでしょう。
このように、管理会計は経営者の意思決定のために作成されます。
管理会計を導入するメリットとは?
管理会計を導入するメリットは以下の4つです。
- 経営状況が可視化される
- 部門ごとに財務状況を可視化できる
- コスト管理しやすくなる
- 資金繰りを改善できる
それぞれ詳しく解説していきます。
メリット①:経営状況が可視化される
管理会計を導入するメリットとして、まず挙げられるのが経営状況の可視化です。
事業規模が拡大するにつれて、経営者は実務ではなく、リソースをどのように配分するかのマネジメントに力を入れていく必要があります。
しかし財務会計だけでは、大まかなお金の流れしか可視化されません。
そこで管理会計を導入することで、社内のお金の流れが明確になり、的確な経営判断ができるようになります。
また、財務会計では「1年に1回」や「3ヶ月に1回」など、頻度が決められていますが、管理会計は自由です。
毎月管理会計を作成し、その都度でお金の流れを確かめることもできます。
メリット②:部門ごとに財務状況を可視化できる
管理会計を導入するメリットとして、部門ごとに財務状況を可視化できることが挙げられます。
財務会計では1つの企業のお金の流れを大まかに報告します。
一方で管理会計は、特にルールが決まっているわけではないので、部門別に詳細な財務レポートを作成することが可能です。
部門別でお金の流れがわかれば、どの部門で課題が生じているのかが鮮明にわかるようになるので、経営者の判断に役立ちます。
また、部門ごとの財務レポートがあれば、それを元にマネージャーなどの責任者が、客観的な情報で現場を指揮できるのもメリットとして挙げられます。
メリット③:コスト管理しやすくなる
管理会計でお金の流れがわかれば、コスト管理もやりやすくなります。
部門や製品ごとでお金の流れを可視化することで、どの部門で赤字が出ているのかがわかります。
例えば、赤字部門をカットしたり、主力事業の予算を増やしたりなど、適切なマネジメントが可能になります。
コストを明確に算出できれば、ROI(投資対効果)も算出可能です。
投資額と利益によって算出されるROIは、100%が目安となっているため、これを基準に事業を継続するか中止するかを、客観的に決められます。
このように、管理会計でコストを管理できるようになれば、経営者が客観的な指標で経営判断できるようになります。
メリット④:資金繰りを改善できる
管理会計のメリットとして、資金繰りの改善が挙げられます。
資金繰りとは、会社の資金の流れのことで、資金を可視化することは事業活動において極めて重要です。
どれだけ将来的に大きな利益が見込めても、その時点での資金がショートしてしまうと、そのまま倒産する恐れがあるためです。
現時点でどれくらいの資金を保有しているかがわからなければ、リスクをコントロールできません。
資金繰り表をベースに管理会計を実施することで、キャッシュフローが可視化され、黒字倒産を防いだり、金融機関での資金調達に役立てたりすることが可能になります。
管理会計の主な業務について
管理会計の主な業務は以下の4つです。
- 経営分析
- 予実管理
- 資金繰り管理
- 原価管理
それぞれ詳しく解説していきます。
1.経営分析
管理会計の主な業務として、まず挙げられるのが経営分析です。
経営分析は、財務諸表、調査報告などの情報を元に、自社の経営状況を分析する業務です。
企業によって求められる分析項目は異なりますが、一般的には以下の7つの分析項目があります。
- 収益性の分析(売上高総利益率、売上高営業利益率)
- 安全性の分析(流動比率、自己資本比率)
- 生産性の分析(労働生産性、資本生産性)
- 活動性の分析(資本回転率、固定資産回転率)
- 成長性の分析(売上高増加率、経常利益増加率)
- 損益分岐点の分析
- 債務償還能力の分析
これらの項目は全て「一般的な目安」があるため、これを元に自社の状況がどうなのか、客観的な判断を下すことが可能です。
いずれの数字も、お金の流れさえわかれば自動的に算出できます。経営分析は最優先で実施した方がいいでしょう。
2.予実管理
管理会計の業務として、予実管理も挙げられます。
予実管理は、経営目標で設定された予算と、実際の期末の実績を分析することです。
予実管理の目的は主に2つあります。
1つめは、次の予算作成の精度を高めることです。予算と実績が大きく異なる場合には、実績にあわせて次の予算を作成していきます。
もう1つは、進捗管理です。あらかじめ設定された予算に対して、どれほどの成果が出ているのかを管理することで、目標達成のための軌道修正が可能になります。
このように、予算と実績を分析するのも管理会計の主な業務です。
予実管理で予算の適正金額を把握できれば、効果的にリソースを配分できるようになります。
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3.資金繰り管理
管理会計の業務として、資金繰り管理も挙げられます。
取引によって発生した売上は、そのタイミングで口座に振り込まれるわけではありません。
特に金額の大きい取引は、売掛金などの勘定科目が適用され、数ヶ月後に振り込まれる場合もあります。
このように、損益計算書では利益が出ていても、実際に手元にお金が入ってこない状況は十分に考えられます。
利益があっても、手元にお金がなければ従業員に給料を支払うことができません。場合によっては、黒字倒産の危機に陥ります。
資金繰り管理では、倒産を避けるために日々の資金繰りをモニタリングして、運転資金を管理します。
特に創業間もない企業やスタートアップは、運転資金の確保が命なので、資金繰り管理が極めて重要です。
4.原価管理
管理会計の業務として、原価管理も挙げられます。
原価管理は、原材料、製造費、人件費、設備費など、製品製造で発生するコストを管理することです。
商品やサービスを提供する上で、原価を正しく理解することは極めて重要です。
正確な原価がわからなければ、適切な価格設定ができずに、売上や利益が出なくなってしまいます。
一般的に原価管理では、標準原価を概算で計算したあとに、製品完成時に実際に発生した原価を比較・分析します。
標準原価と実際原価を比較することで、どの工程を効率化すべきかが鮮明になり、将来の製造コストの変動リスクにも対応しやすくなります。
原価を削減することは、そのまま利益拡大に繋がります。原価管理も優先して取り組んだ方がいい業務だと言えるでしょう。
管理会計と財務会計の違い
管理会計と財務会計の違いは以下の通りです。
管理会計 | 財務会計 | |
利用者 | 企業内部(経営者、マネージャーなど) | 企業外部(株主、取引金融機関、税務署など) |
目的 | 経営・マネジメントのため | ステークホルダーへの報告のため |
内容 | 部門別・製品別など企業が決められる | 会計基準に準拠 |
書式 | 自由 | 財務諸表 |
報告期間 | 必要に応じて | 1年に1度(上場企業の場合は四半期に1度) |
管理会計と財務会計の最大の違いは、目的です。
管理会計は自社の経営管理に役立てるために作成されるものなのに対し、財務会計はステークホルダーへの報告のために作成されます。
そのため、財務会計は会社法や会計基準などのルールによって、作成方法や項目が定められています。
また、基本的に財務会計は、過去の財務情報を報告するためのものです。
それに対して管理会計は、これから先、どのように運営していくか、計画通りに運営できるかどうかを管理・判断するためのものと言えます。
財務会計とは?
財務会計は、ステークホルダー向けに、企業の経営成績を算出・発表することです。そのためには大まかに以下の3つの書類が必要になります。
- 貸借対照表
- キャッシュフロー計算書
- 損益計算書
それぞれ詳しく解説していきます。
1.貸借対照表
貸借対照表は、財政状態を「資産」「負債」「純資産」に分類したものです。
左側に資産、右側に負債と純資産が示されており、どのように資金を調達し、それをどのように運用しているかが大まかにわかるようになっています。
貸借対照表を見るだけで、企業の経営状況が安泰なのか、それとも危機に陥っているのかが判断できます。
2.キャッシュフロー計算書
キャッシュフロー計算書は「営業活動」「投資活動」「財務活動」の3つの分類でお金の流れを分析する財務諸表です。
営業活動は事業によって生じたお金の流れ、投資活動は投資資金の流れ、財務活動は資金調達と返済の流れを示しています。
キャッシュフロー計算書を見ることで、企業の資金繰りの状態や、どのように経営しようとしているのかがわかります。
3.損益計算書
損益計算書は、企業がどれほど稼いで、その際にどれほどの費用が発生しているかがわかる財務諸表です。
売上と費用がわかるため、どれほどの利益率になっているのかがひと目でわかります。
また、企業が事業活動でどれほど儲けているかがわかるので、企業のビジネスモデルの分析にも役立ちます。
管理会計導入による課題を解消する方法
管理会計を導入する際にネックになるのが、経理担当者や営業担当者の負担増大です。
管理会計を導入する際は、実際に管理会計を作成する人と、データを細かに出力する人が必要になります。
そのため、管理会計を導入する際は現場の負担を減らす取り組みも必要です。
そこで有効なのがITシステムの導入です。オンライン決済などでデータの出力を自動化することができれば、あとはその数字に合わせてレポートを作成するだけです。
管理会計を導入する際はITシステムの導入も検討しましょう。
管理会計導入を成功に導くコツとは?
管理会計の導入を成功に導くコツとしては、適切なタイミングで導入することが挙げられます。
まず、財務会計による繁忙期は避けた方がいいでしょう。財務会計関連の業務が少ないときに、管理会計の導入を進めるのが無難です。
また、管理会計を導入する際は、会計事務所の手を借りたり、ITシステムに強い人材を採用したりするのがいいでしょう。
管理会計は、自動化が充分に可能な業務です。
会計に強い人材と一緒に出力すべきレポートを検討して、それにあわせて自動化を進めれば、可能な限り負担を抑えて管理会計を導入できます。
まとめ
それでは本記事をまとめていきます。
- 管理会計は経営者の意思決定のために作成される財務レポートのこと
- 管理会計の主な業務として「経営分析」「予実管理」「資金繰り管理」「原価管理」が挙げられる
- 財務会計はステークホルダーのために作成される財務レポート
管理会計は、経営やマネジメントを正確に行うために必要な財務レポートです。
会社の財務状態をモニタリングできれば、そのデータを元に、適切なリソース配分が可能になります。
企業内のお金の流れを参考に意思決定したいのであれば、管理会計を導入してみるのがいいかもしれません。