皆さんの会社にはスペシャリストと呼べる社員がいますか。スペシャリストは、特定の分野で豊富な知識と経験を持ち、その能力を発揮して成果が出せる人です。ただし、スペシャリストが活躍するためにも条件があります。今回は、さまざまな企業を見てきた組織コンサルタントの立場から、スペシャリストが活躍する場の築き方をご紹介します。
目次
スペシャリストが常に実力を発揮できるとは限らない
組織は、一人の人間の努力では実現できない目的や目標を達成するために複数の人間が集まってできるものです。共通の目的や目標の達成に向け分業し、分業後に各人から出力されたものを調整し、目標や目的に近づいていきます。分業と調整の機能が、組織の基本です。
スペシャリストとは、分業で実力を発揮する人です。例えば、会社の経理業務を経理のスペシャリストに委ねたら、他の誰よりも素早く適正に処理してくれるでしょう。
しかし、スペシャリストがいつも実力を発揮できるとは限りません。
有名企業で営業部長を務めた営業のスペシャリストを採用したが、うちの会社では活躍出来なかった
大手製造会社で工場長を務めた製造のスペシャリストを雇ったが、頭でっかちで、自社の風土に合わず、辞めていった
このような中小企業の社長の声を聞くことがよくあります。仕事のやり方が違うため、大手の人材は中小企業では役に立たないと考える中小企業の社長もいます。
一方、豊富な経験と知識を新たな職場で生かし、規模が異なる会社に転職したとしても活躍できるスペシャリストはいます。この違いは何でしょうか。
それは、経営者が会社における分業のあり方を理解した上で、スペシャリストを配置できるかどうかです。
二つの分業
会社のなかでの分業は、水平分業と垂直分業に大別されます。
水平分業は、組織内の業務を横で切り分ける分業のあり方であり、例えば営業と製造を切り分けるような機能別分業や、営業エリアを分けて2名体制で行うといった並行分業に分類されます。垂直分業は、監督と選手のように、考える人と実行する人が異なる分業のあり方です。
一人で会社を立ち上げた社長は、自分だけでは業務の手が回らなくなると、自分と同じ仕事ができる従業員を雇う並行分業か、自分が営業などの主力業務に力を注ぐため経理や事務をやってくれる従業員を雇う機能別分業のいずれかを選択するでしょう。
次第に社員が増えてくると、複数の人を調整するために計画を立てて管理する機能や、イレギュラーな事態に対応するための機能が必要になってきます。そこで社長が現場をある程度部下に任せ、自らは調整する人として管理者となる垂直分業が進みます。会社はこのように、水平分業と垂直分業を繰り返しながら成長していきます。
規模が大きい会社は、小規模な会社と比べて水平分業と垂直分業がともに進展しています。なぜなら、大勢の社員で一つの目標に向かう際、業務領域を限定した水平分業を推し進めた方がメンバー個々の生産性を高めやすく、垂直分業を採用すると人材の質がばらついても一定の成果を出せる組織になるからです。知識と経験が豊富な少数のメンバーが考えたり調整したりする役となり、それ以外の多数のメンバーが実行部隊となるのです。
とはいえ、スペシャリストがいくら妙案を思い付いても、実行する人がいなければ機能しません。スペシャリストが会社でうまく活躍しないのは、スペシャリスト側に原因があるのではなく、分業のあり方に即したスペシャリストを採用できていない会社側に問題があるのです。
スペシャリストが活躍する会社にするために
スペシャリストが活躍できる会社にするためには、分業のあり方を明確にする必要があります。そのために社長が決めるべきものは組織図です。
組織図を描くことで、分業のあり方を見える化するのです、その上で、各役職に求める成果をはっきりさせましょう。これが、スペシャリストを採用する前に必要な段階です。
スペシャリストを採用する際には、組織図上のどの役職を担ってもらうか、その役職に求める成果は何か提示した上で、その成果を約束してくれるスペシャリストを採用すべきです。社長がこうした前提でスペシャリストを活用できれば、会社のなかでスペシャリストは持てる力を存分に発揮することでしょう。
私が考える、組織の規模に関わらず活躍しやすいスペシャリストは下記の通りです。参考にしてください。
- 財務・経理・会計・労務・法務業務のスペシャリスト
- 技術職(建築、測量、設計、品質管理等のエンジニア職)のスペシャリスト
- マーケティングのスペシャリスト
- デザイナー、イラストレーター等、クリエイティブ系のスペシャリスト
上記は、いずれも各領域における標準的な知識が体系的に整備され、企業ごとに分業のあり方に違いが少ない分野のスペシャリストです。
これらに対し、営業や製造など、事業のベースとなる領域については、各企業で分業のあり方がさまざまであり、分業のあり方がスペシャリストの特性に合致しないと活躍しにくい職種と言えます。
必要なスペシャリストの特性を明確に
スペシャリストを採用すれば会社が成長するわけではありません。社長は採用しようとしているスペシャリストが優秀かどうかを判断するよりも、どのようなスペシャリストであれば自社で活躍できるか、必要としているスペシャリストの特性を明確にすることが大切です。それが会社の成長につながるからです。
これまでの職場で素晴らしい経歴をお持ちの方であっても、企業ごとの分業のあり方の違いによって、実力を発揮できない人は多いです。スペシャリストが入社後活躍できないとすれば、その責任は活躍できるフィールドを適切に提供できなかった経営者側にあると考えるべきでしょう。
この記事を参考にして、経営者の皆さんが素晴らしいスペシャリストを採用することができれば何よりです。