「スキーム」とはビジネスシーンで頻繁に使われる言葉ですが、「具体的に何を指すのか?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
本記事では、スキームの基本的な意味から、事業・営業・資金調達などでの具体例、スキーム図の作り方、設計時の注意点までを網羅的に解説します。
実務で役立つ「スキーム構築力」を身につけたいマネージャーやプレゼン担当者の方に必見の内容です。
目次
スキームとは?
「スキーム」は、目的達成のために設計された「仕組み」や「構想」を指す言葉です。
単なる手順ではなく、複数の要素や関係性を整理し、仕組みとして体系化したものを意味します。
ビジネスの現場では、事業モデルや資金調達、営業プロセスなど、複雑な活動を構造的に整理する際に用いられます。
成果の再現性や効率性を高めるために不可欠な考え方なので、ビジネスパーソンであれば押さえておきたい用語です。
フローとの違い
「フロー」は業務や作業の手順・流れを時系列で表したものです。
一方でスキームはそれに加えて、関係する要素(人・組織・金・仕組み)や構造を含む全体設計を指します。
たとえば営業プロセスのフローは訪問→提案→契約という流れですが、営業スキームはその流れに必要な体制や役割、支援ツール、評価制度などを含めた全体像を表現します。
つまりスキームは、フローを内包する上位概念なのです。
ロジックとの違い
「ロジック」は論理構成や考え方の筋道のことで、主に思考の枠組みに焦点を当てます。
一方でスキームは、ロジックを含みながら、実行のための構造や仕組みまでを設計したものです。
たとえば「なぜこの営業手法が有効か」という説明はロジックですが、それをどう展開し、誰が、何を、どう連携して動くかまでを含めた設計がスキームです。
ロジックは思考の骨格、スキームは現場で機能する全体設計だと考えればいいでしょう。
プランとの違い
「プラン」は目標達成のための行動計画のことです。やるべきこと、スケジュール、マイルストーンなどがプランに当てはまります。
一方でスキームは、そのプランを実行するための仕組みや体制を含んだ構造設計です。
「今期は新規顧客を100社開拓する」というプランがあった場合、それを支える営業体制、ツール、人材、報酬制度などを含めて設計されたものが「営業スキーム」にあたります。
ビジネスシーンで用いられる「スキーム」の5つの具体例
ビジネスシーンで用いられる「スキーム」の具体例は以下の5つです。
- 事業スキーム
- 営業スキーム
- 資金調達スキーム
- M&Aスキーム
- 補助金スキーム
それぞれ詳しく解説していきます。
事業スキーム
事業スキームは、新規事業や既存事業を成り立たせるための全体設計図のことです。
提供する価値、収益を得る仕組み、ステークホルダーとの連携、コスト構造などを含むビジネスモデルの中核を担います。
たとえば「サブスクリプション型ビジネス」では、継続課金の仕組み、顧客管理体制、解約防止策などが一体となって事業スキームを構成します。
持続的な収益化や拡張性を見据えた構造化が、事業スキームの重要なポイントです。
営業スキーム
営業スキームは、見込み顧客の獲得から契約、アフターフォローに至るまでの営業活動全体を体系的に設計した仕組みです。
顧客接点の作り方、営業フロー、インサイドセールスとフィールドセールスの役割分担、使用するツールや管理方法、評価制度などが含まれます。
属人的な営業手法から脱却し、組織として成果を出すためには、明確な営業スキームの構築と運用が不可欠。
これが、再現性と効率性を高める鍵となります。
資金調達スキーム
資金調達スキームとは、必要な資金をどのような手段・組み合わせで調達し、事業に投入するかを体系的に設計する仕組みのことです。
自己資金、融資、増資、社債、補助金、クラウドファンディングなど、手法ごとの特性を踏まえ、目的やリスクに応じて最適な構成を組み立てます。
調達コストや返済条件、出資比率への影響なども含め、全体の資本構成と事業戦略に整合する形で設計するのがポイントです。
M&Aスキーム
M&Aスキームは、企業の買収・合併・事業譲渡を実行する際に用いられる全体的な設計図のことです。
株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割、第三者割当増資など、法的手法や税務・会計上の影響を考慮しながら、最も適したスキームを選定・構築します。
取引の目的やリスク、関係者の利害調整も含め、複数の要素を総合的に組み合わせて設計されるため、高度な専門性と慎重な調整が求められます。
補助金スキーム
補助金スキームは、公的機関からの補助金を効果的に活用するための計画と実行体制を体系化した仕組みのことです。
申請要件の整理、事業計画書の作成体制、申請・交付・実績報告のフロー、会計処理の管理方法などが含まれます。
要件を満たすだけでなく、審査で採択されるための設計力も欠かせない要素です。
また、補助金の対象となる経費の選定や実行スケジュールとの整合性も重要で、制度の特性を理解したスキーム構築が求められます。
スキーム図とは?
スキーム図は、複雑な仕組みや関係性を視覚的に整理・表現する図のことです。
人・組織・資金・情報などの流れや構造を一目で把握できるため、業務プロセスや事業全体を関係者と共有する際に有効です。
言葉だけでは伝わりにくい仕組みを図式化することで、理解や意思決定がスムーズになります。
スキーム図の3つの種類
スキーム図の種類としては、主に「樹形型」「相関型」「フロー型」の3つが挙げられます。
樹形型は、親子関係や階層構造を示すのに適しており、組織図や意思決定の分岐構造などに使われます。
相関型は、複数の要素の関係性や影響範囲を可視化する形式で、部署間の連携やシステム間の接続関係などを表す際に有効です。
そしてフロー型は、作業やプロセスの手順を時系列に沿って示すもので、業務プロセスや申請手続きの流れを整理するのに用いられます。
伝えたい内容や構造に応じて、スキーム図の種類を使い分けましょう。
スキーム図の作り方
スキーム図の作り方の手順は以下の通りです。
- 情報やリソースを洗い出す
- 関係性を記号で表現する
- 記号をわかりやすく配置・図式化する
それぞれの手順を詳しく解説していきます。
情報やリソースを洗い出す
まずは対象となる業務やプロジェクトに関わる情報やリソースを、もれなく洗い出します。
人材、組織、資金、設備、システム、データなど、要素となるものをできるだけ具体的に整理しましょう。
また、業務フローや意思決定のポイントも併せて抽出しておくと、あとの構造化がスムーズになります。
情報やリソースを洗い出す際は、関係者へのヒアリングや業務マニュアルの確認などを通じて、現場の実態を正確に把握することが重要です。
関係性を記号で表現する
洗い出した情報やリソースをもとに、その関係性を記号や図形で表現していきます。
たとえば、業務の流れには矢印を使い、指示系統やデータのやり取りには線や矢印の種類を変えて明示するなどです。
関係が一方向なのか双方向なのか、依存関係があるのかなど、構造の意味がひと目で伝わるように設計することがポイントとなります。
また、同じ種類の要素には同じ形状や色を用いるなど、視認性を高める工夫も重要です。
複雑な関係性をシンプルに可視化することが、スキーム図作成のポイントといえます。
記号をわかりやすく配置・図式化する
関係性を記号で表現したあとは、視覚的に伝わりやすい形で配置し、全体を図式化します。
重要なのは、見る人が直感的に構造を理解できるレイアウトにすることです。
上から下へ、左から右へといった視線の流れを意識しながら、情報が自然に読み取れるように設計しましょう。
また、関連する要素は近くに配置し、異なる種類の情報は区分けして整理すると、図全体が整理されて見やすくなります。
必要に応じて凡例やタイトルを加えることで、より明確なスキーム図に仕上がるでしょう。
スキーム構築力が求められる3つの理由
スキーム構築力が求められる理由として、以下の3つが挙げられます。
- 再現性のある成果を出せるから
- 構造的な問題解決能力が養われるから
- 図を用いることで意思疎通が円滑になるから
それぞれ詳しく解説していきます。
再現性のある成果を出せるから
スキームを構築する目的の一つとして、属人的なやり方に依存せず、誰が実行しても一定の成果が得られる状態をつくることが挙げられます。
業務手順や役割、必要なリソース、判断基準などを明文化・図式化することで、再現性の高い仕組みが整うからです。
個人の経験や感覚に頼ったやり方では、担当者が変わるたびに成果にばらつきが出ますが、スキームがあれば組織全体で安定的に成果を出すことが可能になります。
継続的な成果創出には、仕組み化が欠かせません。
構造的な問題解決力が養われるから
スキーム構築に取り組むことで、複雑な課題を要素分解し、関係性を整理する力が養われます。
問題を構造的に捉える力は、再発防止や抜本的な改善策を導く上で不可欠です。
単なる対症療法にとどまらず、背景にある原因やボトルネックを明らかにし、最適な打ち手を考える習慣が身につきます。
また、全体像を見渡しながら優先順位を判断する力も培われ、論理的かつ戦略的な問題解決が可能になるでしょう。スキーム構築力は、実務に直結する重要なスキルなのです。
図を用いることで意思疎通が円滑になるから
スキームを図として可視化することで、関係者間の認識のズレを減らし、スムーズな意思疎通が可能になります。
文章や会話だけでは伝わりにくい複雑な構造や流れも、図を用いれば一目で把握可能です。
また、業務フロー、役割分担、情報の流れなどを視覚的に共有することで、理解が深まり、合意形成も早まります。
特に部門をまたぐプロジェクトや外部パートナーとの連携において、図解はコミュニケーションの質とスピードを大きく高める手段となります。
スキーム設計の3つの落とし穴と注意点
スキーム設計の落とし穴と注意点として、以下の3つが挙げられます。
- 図だけ作って満足してしまう
- 要素の洗い出しが不十分になることがある
- 複雑なスキームは混乱を招く
それぞれ詳しく見ていきましょう。
図だけ作って満足してしまう
スキーム設計で陥りがちな落とし穴のひとつが、「図を作ったこと自体」に満足してしまうことです。
スキーム図はあくまで手段であり、目的は課題の解決や成果の創出にあります。
図を作成しても、それが実行に移されず、現場で活用されなければ意味がありません。
また、運用段階での検証や改善を怠ると、形式だけのスキームになってしまいます。
図の内容が実務に結びつき、継続的に機能しているかを常に見直す姿勢が重要です。
要素の洗い出しが不十分になることがある
先述したように、スキーム設計では関連する情報やリソースを十分に洗い出すことが前提となります。
しかし、関係者・業務プロセス・外部要因などの要素を見落としたまま設計を進めてしまうケースは少なくありません。
要素の抜けや漏れがあると、スキーム全体に歪みが生じ、実行段階で思わぬトラブルや非効率を招く原因となります。
現場ヒアリングや業務の棚卸しなどを通じて、初期段階でどれだけ丁寧に情報を集められるかが、スキームの完成度を大きく左右するのです。
複雑なスキームは混乱を招く
スキームは構造を正確に表現することが重要ですが、情報を詰め込みすぎて複雑になりすぎると、かえってわかりづらくなります。
矢印や記号が多すぎたり、関係性が入り組んでいたりすると、全体像を把握するのに時間がかかり、意思決定や共有が滞る要因となってしまうのです。
「伝えるための道具」であることを意識し、必要な情報に絞って整理・可視化することが、スキーム図でにおいては大切です。
簡潔で直感的に理解できる設計が、実務で機能するスキームの条件だと言えます。
まとめ
本記事ではスキームの定義からフローやロジックとの違い、具体例、図解方法、設計時の注意点までを解説しました。
スキームは、ビジネス活動を効率的かつ再現性の高いものにするための全体設計であり、事業・営業・資金調達・M&A・補助金など幅広い分野で活用されます。
実務においては、図を使って全体像を共有し、抜け漏れのない設計を行うことが安定的な成果につながるでしょう。
日常業務やプロジェクトにスキーム思考を取り入れることが、組織力と課題解決力を強化する鍵となるはずです。