「あの人ばかり楽をしているように見える」「自分だけが負担を背負っている気がする」――そんな不満が職場で生じることは少なくありません。
けれども、その多くは感情や相性の問題ではなく、実は“役割の定義”が曖昧なことによって生まれる構造的な問題です。
本記事では、識学の視点から「役割に基づく行動評価」の重要性を紐解き、組織内の不満や不公平感を解消するための道筋を解説します。
目次
1.見えているのは「不公平感」ではなく「役割の違い」
組織内では、同じ部署やプロジェクトに属しているにもかかわらず、メンバーごとに働き方や業務内容が異なることがあります。そのとき、目につくのが「他者の行動」です。
「○○さんは定時で帰っているのに、自分は残業ばかり」
「自分のほうが作業量が多い気がする」
「チームリーダーが何をしているのか分からない」
こうした感情は、やがて「不公平感」や「やる気の低下」につながります。しかし、ここで立ち止まって考えたいのは、それが本当に“ずるさ”や“怠慢”によるものなのか――という点です。
識学では、「人の行動は、役割で評価するべきであり、成果や姿勢で比較すべきではない」と定義されています。つまり、感覚的な「頑張っているかどうか」で他者を評価することは、本質を見誤る原因になりやすいのです。
2.「役割の定義」が曖昧だと、評価基準も曖昧になる
組織における不満や混乱の大半は、「ルールや役割の不明確さ」によって引き起こされます。たとえば、同じ課に所属する社員AさんとBさんがいるとして、Aさんには「顧客対応」、Bさんには「資料作成」が主な任務として割り振られていたとします。
このとき、Aさんが外出や会議で席を外している間に、Bさんが「Aさんばかり自由に動いている」と感じるケースがあります。しかし、Aさんの役割が明確であり、組織内でその行動が正当であると認識されていれば、不満は生じにくいはずです。
問題は、こうした「役割の定義」が組織内で共有されていないことにあります。誰が何を担い、どこまで責任を持つのかが明確でないと、周囲はその行動の意味を理解できず、不公平に感じてしまうのです。
3.役割定義の明文化がもたらすメリット
識学においては、「上司は部下に対して“何を、どこまで、いつまでにやるか”を明確に指示する責任がある」とされています。これを組織単位で行うのが「役割定義の明文化」です。
役割を明文化することにより、以下のような効果が期待できます。
- 自分と他者の違いを冷静に捉えられるようになる
- 目に見える行動ではなく、“果たすべき機能”で評価できる
- 余計な比較や妬みがなくなり、組織の空気が改善される
- 業務の重複や抜け漏れが減少する
特に、感情ベースでの評価やコミュニケーションが主流となりがちな日本企業においては、役割定義によって「関係性の健全化」が促されるという副次的なメリットも見逃せません。
4.不満の“温床”を可視化し、構造で解消する
「どうして○○さんはあの業務をしないのか?」という疑問が生じたとき、まず確認すべきは「○○さんの役割」です。実際、誰かがやるべき業務をやっていないように見える場合、その人が怠けているのではなく、そもそも“その業務を担う役割ではない”ことが多々あります。
逆に言えば、役割が不明確であればあるほど、全員が「あれもこれも自分がやらねば」と思い込み、過剰な負荷とストレスを抱える原因になります。そしてそのストレスが、他者への不満や“自由でずるい”という印象となって噴出するのです。
役割設計において大切なのは、「何をしないか」まで定めること。あらかじめ業務範囲の“線引き”がされていれば、不必要な誤解を防ぎ、組織の風通しが良くなります。
5.役割定義の運用で気をつけたい3つのポイント
役割定義は、一度作れば終わりではありません。実際の運用にあたっては、次の3つの点に注意することが大切です。
1.役割定義を「共有」ではなく「徹底」する
定義を作成しても、実際に運用されなければ意味がありません。上司が率先して徹底する必要があります。
2.役割の変化を定期的に見直す
市場環境や事業戦略の変化により、必要な機能は変わります。その都度、役割も見直すべきです。
3.役割に対して正しく評価する文化を育てる
「頑張っているように見える人」ではなく、「定義された役割を遂行している人」を評価する意識が必要です。
まとめ:評価の基準は「頑張っているか」ではなく「役割を果たしているか」
人は感情の生き物です。他人の行動に疑問や苛立ちを覚えるのは自然なことです。しかし、組織においては、そうした感情よりも構造で物事を判断することが重要です。
「あの人は自由でずるい」と感じたときこそ、その人の役割を見直すチャンスです。役割が明確であれば、行動も評価も納得感を持って受け入れられます。不公平感が漂う職場ほど、まずは役割定義を点検してみましょう。