企業が長期的に成果を出し続けるためには、常に組織構造をスマート化して、変化に対応し続ける必要があります。
企業を全体的に最適化して、スムーズに事業を進めること、すなわち『全体最適』が求められるとともに、注目を集めています。
本記事では、全体最適のメリットとデメリット、成功事例を解説していきます。
また、部分最適との違いも取り上げています。
経営者やマネージャーの方々など、最適化に取り組む必要がある方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
全体最適とは何?
全体最適とは「企業全体が最適な状態になること」です。
全体最適の状態は、各部署や従業員の連携がスムーズに取れ、お金や設備などをスムーズに活用できるようになるので、生産性が高まります。
全体最適は、英語では「Total Optimization」と表記されます。
Optimizationの日本語訳は、簡単に言えば「最適化」で、「リソースを効率的に運用するための改善」を指します。
どんな企業でも予算不足や人材過不足の問題があり、その中で事業を進めなければなりません。
そこで重要になるのが全体最適です。全体最適には「制約条件がある中で成果を最大化する」というニュアンスが込められています。
全体最適が重要視される理由
全体最適が重要視される理由としては、以下の2つが考えられます。
- 労働人口減少による人材不足
- 企業の利益の最大化
それぞれ詳しく解説していきます。
1.労働人口減少による人材不足
全体最適が重要視される理由として、労働人口減少による人材不足が挙げられます。
現在、日本は少子高齢化社会に突入しています。
世界各国の先進国や、成長著しい新興国に対して、労働人口という名の「量」で押し切るのは難しいのです。
そのため、生産性を高めるためには、全体最適で企業内のリソースを最適化するのが1つの選択になります。
労働人口が減少している今、全体最適で限られたリソースを効率的に活用する必要があるのです。
2.企業の利益の最大化
全体最適が重要視される理由として、企業の利益の最大化が挙げられます。
一般的に株式会社は営利主義であり、特に上場している企業に関しては、株主への配当のために利益を最大化する必要があります。
そのためには、企業全体を最適化して、可能な限り生産性を高める必要があるのです。
企業やチームを全体最適の状態にできるかどうかは、経営者やマネージャーの手腕にかかっているといえます。
全体最適に関する名言
経営学者のピーター・ドラッカーの「いかに優れた部分最適も全体最適には勝てない」という名言があります。
例えば、「経営コストを削減する」と意思決定したとしましょう。
その際に、まず経理部を最適化するとします。
経理部は、企業全体の経営コストを削減するために、さまざまなコスト削減策を考えます。
しかし冷静に考えてみると、経営コストというものは企業全体で発生しているものです。
社内全体でITツールを導入したり、勤務時間を朝型にしたりするなどして、ようやく社内全体でコストを削減できます。
ある特定の部署が最適化を図っても、社内全体の最適化には敵わないのです。
全体最適と部分最適の共通点・違いについて
先ほどのドラッカーの名言にもあった通り、全体最適の対になる「部分最適」という単語があります。
ここでは部分最適について解説し、それに加えて全体最適との共通点や違いについて解説していきます。
部分最適とは何?
部分最適は「全体の中の一部や個人が最適化すること」です。
例えば、社内でも営業部だけが最適化を図る場合は部分最適となります。
また、とある部署が特定のITツールを導入する場合も部分最適になると考えられます。
なお、英語では「Partial Optimization」と呼ばれ、意味は「部分的な最適化」となります。
ドラッガーの残した言葉からは「部分最適は全体最適に叶わない」となりますが、部分最適は範囲が限られているからこその「迅速さ」などのメリットがあります。
全体最適との使い分けが重要です。
全体最適と部分最適の共通点
全体最適と部分最適の共通点として、どちらも利益最大化のために最適化を目指していることが挙げられます。
全体最適の場合は経営者視点で、部分最適の場合は従業員目線で最適化が行われて、リソースを効率的に運用できるようになります。
ただし注意点として、部分最適の合計が全体最適にならないことが挙げられます。
営業部が効率化され受注数が増えても、製造部が生産数ではなく商品単価を追求する場合など、部分最適同士でバッティングすることがあるからです。
全体最適と部分最適の違いとは?
全体最適と部分最適の違いとしては、その領域の大きさが挙げられます。
全体最適は、マネージャーや経営者が企業全体の最適化を目指します。
一方で部分最適は、各部門や従業員一人ひとりが最適化を目指すアプローチです。
そのため全体最適を目指すつもりであっても、経営者の現場視点の不足で、部分的な業務効率化で終わることがあります。
逆に、従業員一人ひとりが経営者と同じ視点を持つことが難しいので、個人主導で全体最適を目指すのも難しいです。
全体最適と部分最適の使い分け例
ここまで解説して分かる通り、全体最適と部分最適にはいくつかの違いがあります。
先ほどドラッカーの名言を引用しましたが、適切な場面で使い分けることで、企業全体の効率化を進めることが可能になります。
ここでは全体最適と部分最適の使い分けの例を解説していきます。
全体最適が求められる場面例
全体最適が求められる場面としては、組織全体で解決すべき課題があるときが挙げられます。
例えばアニメ制作会社は、予算や人材不足の中で可能な限り高品質のアニメ作品を作る必要があります。
これは、ただアニメーターだけで最適化するだけでなく、経理、制作進行、プロデュース、音楽など、領域を超えて最適化を目指す必要があるでしょう。
このような全体最適は、企業を代表する経営者が主導する必要があります。
部分最適が求められる場面例
部分最適が求められる場面として、特定の領域のみで明確な課題が発生しているときが挙げられます。
例えば「決算業務でミスがよく出る」といった課題は、企業全体の課題というよりは、経理部を中心とした領域だと考えられます。
この場合、経理部の部分最適に集中した方がスピーディーに課題を解決できるでしょう。
全体最適による5つのメリット
全体最適によるメリットとしては、以下の5つが挙げられます。
- コストを削減できる
- 役割を明確にできる
- 選択と集中ができる
- ミスを減らせる
- 意思決定のスピードが速くなる
それぞれ詳しく解説していきます。
メリット1:コストを削減できる
全体最適のメリットとして、まず挙げられるのがコスト削減です。
全体最適では企業としての利益を最大化するために、無駄な業務や事業を削減していきます。
ITツールの積極的な活用も行うことで、結果的にこれまで無駄にリソースを割いていた業務を削減でき、お金や人件費がカットされるのです。
無駄なコストを削減できれば、その分だけ利益が増え、株主への配当や新規事業の投資に回せるようになります。
メリット2:役割を明確にできる
全体最適のメリットとして、役割の明確化が挙げられます。
ビジネスの基本は分業です。それぞれの企業で得意なことに専念することで、世界は経済発展してきました。
企業内でも部署や従業員によって得意なことは異なります。
それぞれ得意なことに専念できるように役割を与えておくことで、従業員は自分の役割を明確にイメージでき、集中して仕事に取り組めるようになるのです。
メリット3:選択と集中ができる
全体最適のメリットとして「選択と集中」ができることが挙げられます。
「選択と集中」は、特定の事業領域を選択し、そこにリソースを集中させる経営のことです。
「選択と集中」によって特定の事業をスピーディーに成長させ、素早く結果を出せるようになると考えられています。
そして「選択と集中」を実施するには、まずは最適化によって無駄なリソースをカットすることが必要です。
それを特定の事業に投資できるようにリソース配分の効率化を行うことこそが、全体最適化といえます。
メリット4:ミスを減らせる
全体最適のメリットとして、ミスを減らせることが挙げられます。
例えば、ITツールを導入すればヒューマンエラーを減らすことが可能です。
業務の工数や従業員が抱えている業務を整理できれば、適切なマネジメントが実施できるので、締切に遅れることが無くなります。
そのうえ、部門間のコミュニケーションがスムーズになるため、報・連・相のミスも減らせるはずです。
全体最適を実施できれば連携がスムーズになるので、結果としてミスが減ります。
メリット5:意思決定のスピードが速くなる
全体最適のメリットとして、意思決定のスピードが速くなることも挙げられます。
全体最適によって従業員の役割が明確になり、選択と集中を実施できれば、経営者が特定の領域に専念できるようになります。
それによって、意思決定の速度も上がるでしょう。
現代社会では、意思決定のスピードが極めて重要視されているため、意思決定が速くなるのは大きなメリットです。
全体最適を実施して、経営スピードを速くしていきましょう。
全体最適には3つのデメリットも
全体最適には、以下の3つのデメリットもあります。
- 最適化の速度が遅い
- 組織内対立が発生する恐れがある
- 現場の対応が大変になりがち
それぞれ詳しく解説していきます。
デメリット1:最適化の速度が遅い
全体最適のデメリットとして、最適化の速度が遅いことが挙げられます。
全体最適は企業全体で最適化を進める必要があるため、とにかく時間がかかります。お金で解決できる問題でもありません。
企業の規模が大きくなればなるほど、全体最適で時間がかかってしまいます。
また、全体最適が完了したあとの新体制に慣れるまでの時間も含めると、より多くの時間を見積もる必要があるでしょう。
全体最適を実施する際は、業務に支障が出ないようスケジュール調整が必須です。
デメリット2:組織内対立が発生する恐れがある
全体最適のデメリットとして、組織内対立が発生する恐れがあることが挙げられます。
全体最適は企業全体の利益を優先するため、部署によっては損害が発生する可能性があります。
例えば、全体最適によって新規顧客獲得の必要性が薄れてしまった場合、営業部を縮小・解体する必要がでてきます。
営業職の従業員からの反発を招く可能性も考えられるでしょう。
だからこそ、全体最適を実施する際は、企業の最高責任者(社長など)が責任を持つ必要があるのです。
デメリット3:現場の対応が大変になりがち
全体最適のデメリットとして、現場の対応が大変になることも挙げられます。
基本的に、全体最適を担当・主導するのは経営者やマネージャーです。
経営者が現場目線を考慮せずに全体最適を進めてしまうと、現場の対応がスムーズにいかないといった事態に陥ります。
全体最適を実施する際は、現場が抱える業務が忙しくないときを考慮するなどして、可能な限り、従業員や中間管理職の負担を減らすようにしましょう。
全体最適化を進める際の4つのポイント
全体最適化を進める際のポイントとして、以下の4つが挙げられます。
- ITツールを活用する
- 組織内のコミュニケーションを活発化させる
- 責任者を決める
- 従業員の理解を得る
それぞれ詳しく解説していきます。
ポイント1:ITツールを活用する
全体最適化を進める際は、ITツールを活用するようにしましょう。
ITツールの導入は、現代社会では必要不可欠だと言えます。
チャットツールや文字起こしツールなどを導入することで、業務量が大幅に削減されるだけでなく、ヒューマンエラーも減ります。
ITツールを活用する際は、外注先企業の言いなりになるのではなく、担当者が責任を持って自社に合ったITツールを選定することが大切です。
例えば同じチャットツールでも、ChatWorkとSlackでは性質がまるで異なります。
実際にテスト運用してみて、使い心地を確かめてみましょう。
ポイント2:組織内のコミュニケーションを活発化させる
全体最適化を進める際は、組織内のコミュニケーションを活発化させるようにしましょう。
全体最適化を進めるには部署間の調整が必要です。そ
れに加えて、部署を超えたアイデア出しも求められます。
チャットツールの活用や、コーヒーブレイク、ときにはお酒の場を設けることで、組織内のコミュニケーションを活発化させましょう。
ポイント3:責任者を決める
全体最適を実施する際は、責任者を決めるようにしましょう。
全体最適は、場合によっては「痛み」を伴うことがあるため、明確な責任者を設けて意思決定力を強める必要があります。
責任者を決める際のポイントは、可能な限り上層に位置する人材に担当させることです。
理想を言えば経営者が担当した方がいいですが、リソースを割けない場合は、経営者自らが責任者を指名して、トップダウンで全体最適を進めた方がいいでしょう。
ポイント4:従業員の理解を得る
全体最適を実施する前に、まずは従業員の理解を得るようにしましょう。
先ほども述べた通り、全体最適には「痛み」が伴います。
従業員の理解を得ない状態で半ば強引に全体最適を進めてしまうと、従業員が強く反発する可能性があります。
全体最適をスムーズに進めるためにも、あらかじめ社内全体に告知し、従業員の理解を得るようにしておきましょう。
具体的な詳細に関しては、各部署の担当者に共有してあらかじめ根回ししておくと、全体最適がスムーズに進むようになります。
全体最適化の成功企業事例2選
ここでは全体最適化の成功事例として、トヨタ自動車とソニーの取り組みを紹介していきます。
事例1:トヨタ自動車
全体最適化の成功事例として、まず挙げられるのがトヨタ自動車です。
一般的にガソリンエンジン車の部品数は、数え方によっては10万点以上必要だと言われており、これを管理しながら製品を製造・開発していくのは極めて困難です。
その中でトヨタ自動車は、全員参加を促すことで、各従業員に全体最適を意識させることに成功します。
ここから、トヨタ式業務効率化メソッドの「カイゼン」が誕生しました。
カイゼンは、経営者ではなく現場の従業員が主体となって取り組む業務効率化のことです。
これらの全体最適化により、トヨタ自動車は自社にマッチした業務効率化を進めることに成功しました。
事例2:ソニー
全体最適化の成功事例として、ソニーも挙げられます。
2000年代終わりごろまでエレクトロニクス事業の不振に悩んでいたソニーは、2010年代から全体最適化に取り組むようになります。
これまでは家電の印象が強いソニーでしたが、次第にPlaystationを始めとするエンタメ事業や、ミラーレス一眼カメラに集中するようになりました。
日本の家電企業の国際競争力が激しく落ちている中、ソニーは現在も世界に通用する事業をいくつも持っています。
極め付けは、ソニーのパソコン事業「VAIO」の売却です。
ソニーが全体最適化の一環として進めている事業売却からは多くのことを学べるはずです。
まとめ
本記事では全体最適について解説してきました。
2010年代からテクノロジーの進化が激しくなったことから、全体最適による企業のスリム化が求められるようになっています。
全体最適は部分最適に比べて大きな効果が見込まれる一方で、手間とお金がかかります。
そのため、あらかじめスケジュールを調整しておくのがいいでしょう。
それに加えて、ITツールの活用も検討しましょう。
可能な限り業務を自動化して、そこで浮いたリソースを主力事業に集中させられれば、利益を最大化できるのではないでしょうか。