介護系や飲食系の経営者様のサポートをする際に、多くの企業が「多店舗展開」の必要性を認識されています。
言うまでもありませんが、一つの店舗での売上や利益の上限がそこまで高くない業種において欠かせない事業戦略となります。
一方で、「多店舗展開」を成功させるには乗り越えるべき障壁の数も少なくありません。今回は「多店舗ビジネスの留意点」について考えていきましょう。
良い組織とは?
売上利益を確保させるための重要戦略であるとしましたが、そもそも多店舗展開にはもう一つ重要な側面を持っています。
それは店舗数に比例して人数規模も大きくなり、その大きさそのものが良い組織の条件の一つを満たしていることです。
そもそも「良い組織」とはどのような組織を指すのでしょうか?『組織の盛衰』(堺屋太一著)の書籍には以下のような記載があります。
『一般に、「良い組織」といわれるのは、大きな組織、固い組織、強い組織の三種類がある。つまり組織の良否を測るのには、「大きさ」「固さ」「強さ」という三つの尺度があるわけだ。
- 大きさ
従業員数、純資産額、総資産、売上高、利益額などが多い組織。
- 固さ
結束力、団結力のある組織。帰属意識と情報共通性(同じ情報を皆がいかに信じられるか)から成っている。
- 強さ
目的達成能力の高い組織。意思決定が速やかでその命令の徹底と実行の確実性がある組織。』
このような記載があり、多店舗展開をスムーズに実現できる組織は「大きさ」の尺度を満たす=「良い組織」の条件を満たすことに繋がるということです。
大きな組織に立ちはだかる障壁とは
このように多店舗展開を目指す企業は必然的に多くなる傾向にあります。では、ただひたすらに店舗数を増やしていけば自ずと組織は大きくなるのでしょうか?
答えは否です。店舗数を増やすだけなら簡単ですが、「大きさ」に比例して問題発生数も増加していき、結果としてどこかでいわゆる「人数の壁」にぶつかってしまう企業が高確率で発生します。
上述の『組織の盛衰』でも以下の通りテーマとして取り上げられており普遍的な組織課題であることがうかがい知れます。
『組織にとっての最大の問題は、組織の「良さ」の三条件が相互に矛盾することだ。
組織が「大きさ」を達成すれば、当然その構成員の数は増え、存在する場所も広がる。
その結果、組織全体の情報環境を同一にすることが難しくなり、「固さ」は緩む。それでも敢えて、「固さ」を保つためには、構成員の帰属意識を高め、組織外情報を遮断し、内部の情報を統一する情報環境を作らなければならない。
これには、構成員全体の公平感と受益感を強めることが必要だろう。だが、これは目的達成力を低下させ「強さ」を失わせることになる。』
また、「大きさ」を達成すればするほどトップの目の届かない範囲が大きくなり、自身でメンバーを管理成長させ、感覚的だが精緻な評価によって人事面を運用することが困難となります。
この役割を中間管理職に委ねようとしますが、トップのように上手く役割をこなすことが出来ずに組織成長がストップするという問題も発生します。
これらの障壁を根拠のある組織作りを通じて解決しないことには多店舗展開の成功はつかみ取れないと言えます。
多店舗ビジネス成功のポイントとは?
では、このような障壁を乗り越えるための組織作りのポイントはどのようなものがあるのでしょうか?ずばり「帰属意識の確保」と「管理職の再現性のある育て方」の2点に集約されます。
①帰属意識の確保
多店舗展開で大きさが出てきた際に帰属意識を再現性高く醸成するために必要なことは「同一ルール下=同一コミュニティ」という原理原則を意識することです。言い換えると、人はどのような時に相手が同じコミュニティにいると感じるか?についての答えがそれとなります。
つまり、帰属意識を醸成するためにはメンバー全員を「同一ルール下」におくことが必要であり、そのためには専用ルールを作成し、そのルールを徹底することが必要最低限の環境となります。
さらに、ルール徹底には必須の条件が2点あります。
1.そのルールを誰が見ても解釈がズレないこと
2.そのルールは本人がやると決めたらやれる内容となっていること
この2点です。
1.は、「机をきちんと整理整頓しましょう」といった類いのルールがありますが、「整理整頓」の定義が人それぞれになるため、結果的に主観に委ねることとなり形骸化していってしまいます。
2.は、「予算目標の100%達成」といったルールとした場合に「守れていない」理由として外部要因やその人の能力不足が絡んできてしまうので、「徹底する」という趣旨との矛盾が生じてしまいます。
②管理職の再現性のある育て方
中間管理職のポジションにつく人は、経営者に比べて様々な経験や知識が劣っています。また、与えられている責任範囲も経営者に比べれば狭い状態です。
このような中間管理職の方々に「コミュニケーション能力の高さ」「リーダーシップと決断力」「育成力」などの全てを求めることは現実的ではありません。
つまり、そのタイミングでこれら全てを兼ね備えたリーダーを育成しようにも再現性のあるノウハウは存在しておりません。そうなると、どんな人が中間管理職になっても必ず実施できる再現性の高いマネジメントスタイルの必要性がご理解いただけると思います。
端的に表現すると「部下と距離感を保ち、事実で管理をするマネジメント」となります。
ルールを淡々と守らせ、部下との馴れ合いの飲み会には参加せずに部下との距離感を保ち、アドバイスや同行営業ではなく、部下の責任範囲の領域は部下に任せ、不足が出たときにその不足を埋めるために考えさせる環境を作ることこそが再現性の高い正しいマネジメントスタイルとなります。
最後に
上記の①②を実現させるうえでの最大のボトルネックが経営者自身であるケースが多く見受けられます。
経営者は、先見の明や徹底力、人望、人を見る目もありと色々と兼ね備えた人物です。それ故、今までのマネジメントにおいても深く悩まされずに部下を成長させているケースがあります。
このような経営者は、同一ルール下にメンバーを置くことを軽視し、部下である管理職にも自身と同様のマネジメントを求め、管理職研修などを通じて理解させようとするのですが、そこに再現性がなく、成り立ての若手管理職を中心に迷いだらけのマネジメントを実施させてしまいます。
多店舗展開を目指す経営者の皆さまは「管理職研修」や「自身の過去のマネジメントの成功談」を学ぶだけで、管理職が育っていくという大きな誤解に気付き、上記のような再現性のあるマネジメントこそを管理職の役割として求め、その環境を徹底することに振り切ってください。