「さっきと言ってることが違うじゃないか!」と思ったことがある人は、かなりいらっしゃるのではないでしょうか。
筆者も高校生の時に先生に対して「この前と言ってることが違くない?」と思ったことがあります。
このような状態のことを、心理学ではダブルバインドというようです。
そしてこの「ダブルバインド」という言葉は、しばしばビジネスシーンでも使われています。
本記事では、ビジネスシーンやマネジメントにおけるダブルバインドについて解説していきます。ぜひ読んでみてください。
目次
ダブルバインドとは?
ダブルバインドはアメリカの人類学者のグレゴリー・ベイトソンが1956年に発表した言葉で「矛盾したように見える2つのメッセージを出すこと」を指します。
当初、グレゴリーは「家族内のコミュニケーションがダブルバインド状態に陥ると統合失調症を引き起こす恐れがある」と発表しました。
そして、これに近い現象がビジネスの場でも起こり得るということで、近年、注目を集めるようになったのです。
ダブルバインドの3つの具体例
ここでは「職場」「親子間」「恋愛」のダブルバインドの具体例を紹介していきます。
具体例①:職場でのダブルバインド
職場でのダブルバインドの具体例としては以下が挙げられます。
- 「なんでも質問して」と言われたのに「質問しないで自分で考えろ」と言われた
- 「細かく報告して」と言われたのに「君の意見は聞いていない」と言われた
- 仕事で失敗した時に「理由を教えて」と言われたのに「言い訳するな」と言われた
職場でのダブルバインドは、ほとんどの場合、上司と部下の間で発生します。
上司が「矛盾するように感じられるメッセージ」を伝えてしまうことで、部下が混乱してしまい、どうすればいいかわからなくなるのです。
具体例②:親子間でのダブルバインド
親子間でのダブルバインドの具体例は以下の通りです。
- 「怒らないから正直に話してごらん」と言ったのに正直に話したら怒り出した
- 「無理に学校に行かなくていい」と言っていたのに「できれば学校に行ってほしい」と言ってきた
- 「好きなおもちゃを買っていい」と言っていたのに「そのおもちゃはダメ」と言われた
親子間でのダブルバインドは、子どもがどれだけの思考力を有しているか、親が把握しきれてないことが問題です。
親が単純なメッセージを伝えてみたら、子どもが想像以上の受け答えをしてしまったために、親が矛盾したメッセージを伝えてしまうのです。
具体例③:恋愛でのダブルバインド
恋愛でのダブルバインドの具体例は以下の通りです。
- 「怒ってる?」と聞いたら「怒ってない」と答えるのに明らかに不機嫌
- 普段は優しいのに突如自分に厳しくなることがある
- 「直してほしいことがあったら言って」と言ってきたので、正直に意見してみたところ「だったら別れる」と言われる
恋愛は極めて感情的な要素なので、ダブルバインドが発生しやすいです。
ダブルバインドの典型例がDVで、愛情と暴力の関連性が混乱した挙句に「愛=暴力」に置き換えられることがよくあります。
お互いを正しく信用するためにも、可能な限り、ダブルバインド状態を避けた方がいいでしょう。
ダブルバインドによる5つの悪影響
ダブルバインドによる悪影響は以下の5つです。
- 従業員が混乱する
- 心理的安全性が低下する
- 部下の主体性が無くなる
- パフォーマンスが低下する
- パワハラ問題になる
それぞれ解説していきます。
悪影響①:従業員が混乱する
ダブルバインドに陥ると、従業員が混乱してしまいます。
「何でも質問して」と言ったから質問したのに、それで怒られてしまっては訳がわからなくなります。
筆者もアルバイトの時に体験したことがありますが、本当に訳がわかりませんでした。
こういったダブルバインドが起こると、結果的に上司に質問することができず、技術の習得が遅れてしまうことがあります。
上司に比べて部下の方がキャリアも短いので、上司が当たり前だと思っていることも、部下にとってはそうでない可能性があります。
上司は、部下がどのような心境なのかを常に考える必要があるでしょう。
悪影響②:心理的安全性が低下する
ダブルバインドに陥ることで、心理的安全性が低下する恐れがあります。
心理的安全性は「自分の気持ちを安心して表明できる状態」を指します。
Googleが「チームの効果性に最も影響を与えるのは心理的安全性」と発表してから、心理的安全性が注目されるようになりました。
一方で、ダブルバインドに陥ってしまうと、従業員が上司に気を遣いながら発言することになるため、心理的安全性が失われてしまいます。
つまりダブルバインドは、チームのパフォーマンスに最も重要な要素にダメージを与えかねないということなのです。
心理的安全性を確保するためにも、ダブルバインドは可能な限り避けたいところです。
悪影響③:部下の主体性が無くなる
ダブルバインドに陥ると、部下の主体性が無くなる恐れがあります。
ダブルバインドに陥ってしまうと、部下が上司に叱られることを恐れ、自主的に考えて行動しにくくなり、主体性を発揮できなくなってしまいます。
主体性が無くなると上司に依存するようになるので、結果的に上司の負担が増えてしまうのです。
上司は自らの工数を削減するためにも、ダブルバインド状態を回避して、部下の主体性を認める必要があります。
悪影響④:パフォーマンスが低下する
ダブルバインドに陥ると、組織全体のパフォーマンスが低下する恐れがあります。
先ほど紹介した「従業員が混乱する」「心理的安全性が低下する」「部下の主体性が無くなる」の3つのデメリットにより、部下のパフォーマンスが低下してしまうためです。
多くの場合、ダブルバインドは上司の無自覚な発言で引き起こされます。
多少煩わしいかもしれませんが、上司は自分の発言に常に注意して、ダブルバインドを避ける必要があるでしょう。
悪影響⑤:パワハラ問題になる
ダブルバインド状態がパワハラ問題に繋がる可能性があります。
元々ダブルバインドは、グレゴリー・ベイトソンが「ダブルバインドが統合失調症の原因になる」と発表したものです。
これは、そのまま職場にも当てはまるでしょう。つまり、ダブルバインドが原因で精神疾患を患ってしまう可能性があるということです。
この場合、部下の精神疾患の直接的原因とも言えるダブルバインドが、パワハラ問題に発展する可能性があります。
パワハラ問題に良いことは何一つありません。上司は、パワハラの原因になりかねないダブルバインドを未然に防ぐようにしましょう。
ダブルバインドを避ける方法5選
ダブルバインドを避ける方法として、以下の5つが挙げられます。
- 文章でやり取りする
- 常に自分の発言に責任を持つ
- 論理的な会話を心がける
- ダブルバインドへの理解を深める
- 組織の風通しをよくする
それぞれ詳しく解説していきます。
方法①:文章でやり取りする
ダブルバインドを避けたいのであれば、常に文章でやり取りするのがいいでしょう。
会話とは異なり、文章ベースでのチャット会話であればちゃんと記録に残るため、ダブルバインドの明確な証拠を提示できます。
そうすれば「先ほどこのように言っていたと思いますよ?」と釘を刺すことができるので、ダブルバインドを未然に防げます。
方法②:常に自分の発言に責任を持つ
ダブルバインドを避けるために、上司は常に自分の発言に責任を持つようにしましょう。
これは送り手と受け手の解釈が大きく異なる場合があるためです。
「からかいのつもりだった」ことがいじめとして人を傷つける構図と同様と言えるでしょう。
同じメッセージに対して、上司が考えていることと部下が考えていることが異なる場合はよくあります。
上司は部下に指示を出す際は、自分の発言に責任を持ち、誤解のないように配慮する必要があります。
方法③:論理的な会話を心がける
ダブルバインドを避けるために、常日頃から論理的な会話を心がけるようにしましょう。
何かしらの指示を出す際に、その指示を出す理由と、具体的な数字を示すのです。
例えば「この資料を作ってほしい」と指示するのであれば「来週の会議のために資料が絶対に必要になるから、今週までに作ってほしい」と明確にします。
これだけで、送り手と受け手の解釈の違いは、かなり緩和されるでしょう。
そして一般的に、音声ベースよりも文章ベースの方が、論理的な会話がやりやすいと言われています。
やはり可能な限り、メールやチャットツールなど、テキストベースで指示を出すのがいいかもしれません。
方法④:ダブルバインドへの理解を深める
上司がダブルバインドへの理解を深めることも重要です。
そもそもダブルバインドがどのような状態で、どのような悪影響を及ぼすのかを理解していないと、ちゃんとした対策が出来るはずがありません。
ダブルバインドを避けるために、まずはダブルバインドについて軽く勉強するといいでしょう。
方法⑤:組織の風通しをよくする
ダブルバインドを避けたいのであれば、組織の風通しを改善する必要があります。
なぜなら、ダブルバインドを引き起こしている人は、自分でなかなかダブルバインド状態に気付けないからです。
そしてダブルバインドの被害者も、上司に対して萎縮していることが多いので、なかなか指摘できません。
そこで、組織の風通しを良くすることで、第三者にダブルバインドを指摘してもらう環境を構築します。
お互いに何でも言い合える雰囲気を作り出すことが大切です。
ダブルバインドを活用する3つの方法
アメリカの催眠療法師であるハミルトン・H・エリクソンは、ダブルバインドをポジティブな意味で活用する「エリクソニアン・ダブルバインド」と呼ばれる概念を生み出しました。
また、これを「肯定的ダブルバインド」と呼ぶケースもあるそうです。
これらは総じて、2項を選択肢として提示することで上手く誘導するような仕組みを持ちます。
ここではダブルバインドを積極的に活用する方法を紹介していきます。
方法①:営業で活用する
肯定的ダブルバインドでは、あえて2つ以上の選択肢を提示することで「Yes」と「No」の問いかけをこっそり避けるように仕向けます。
営業であれば「この商品がおすすめです」というのではなく「この商品とこの商品がおすすめです」と提示します。
そうすることで「Yes or No」ではなく「Witch(どっち)」の問いかけから商談を始められるのです。
もっと言えば「明らかに優れている商品とそうでない商品」を同時に提示することで、誘導することもできてしまいます。
ただし営業でダブルバインドを使いすぎると、心理学に理解がある人に見抜かれることがあるので注意が必要です。
方法②:部下への指示で活用する
肯定的ダブルバインドは部下への指示でも活用できます。
例えば「この仕事は明日までにできる? それとも来週になりそう?」と部下に指示を出します。
この指示のやり方であれば、既に仕事を割り振ることが前提になっているため、確実に仕事を部下に振り分けることが可能です。
ただし営業と同様に、部下への指示で肯定的ダブルバインドを使いすぎると、部下にストレスをかけてしまう可能性があります。
方法③:デートの誘いで活用する
肯定的ダブルバインドにおける最も身近な例は、デートの誘いです。
かなり有名なので、ご存知の方もいるかもしれません。
「今度デートに行かない?」ではなく「明日の昼か明後日の夜にデートに行かない?」と誘うのです。
このように誘えば「Yes or No」ではなく「明日か明後日」の選択肢に誘導することができます。
ただし、この誘い方はネット上でかなり有名なので、あからさますぎると引かれる可能性があります。
むしろ肯定的ダブルバインドを使わずに直球で誘った方がいいかもしれません。
まとめ
それでは本記事をまとめていきます。
- ダブルバインドは矛盾したように見える2つのメッセージを提示されて混乱している状態のこと
- ダブルバインドの状態は職場に様々な悪影響を及ぼす
- ダブルバインドは使い方次第でビジネスや恋愛に応用できる
基本的にダブルバインドは、マネジメントにおいてはあまり良くない状態です。
ただし、ダブルバインドを上手に活用すれば、マネジメントや営業活動をスムーズにできる可能性があります。
どちらにせよ、まずは最低限、マネージャーはダブルバインドの概念を理解し、部下を混乱させないようなコミュニケーションを意識することが重要です。
その上で、肯定的ダブルバインドを活用するのがいいでしょう。