ビジネスにおける可視化とは、目に見えない知識、情報、経験則を必要なときに必要な人が確認できるように標準化して共有することを指します。
個々の頭の中にある目に見えない知識や情報、経験則を「暗黙知」と言いますが、暗黙知をそのままにしておくと、業務が標準化されず非効率な組織になってしまいます。
業務を可視化することで、生産性の向上や業務効率化が図れるため、ビジネスパーソンにとって可視化は重要なキーワードです。
この記事では、業務の可視化の意味や見える化との違い、可視化のメリットとデメリットについて解説します。
またあわせて、可視化による業務改善に成功した企業事例についても紹介しているので参考にしてみてください。
目次
業務の可視化とは?
可視化とは、直接目に見えないものを形にして見える状態に整えることです。
英語では、可視化はビジュアライゼーション(visualization)と呼ばれることもあります。
ビジネスにおいては、業務の可視化と言う表現で使われることが多い傾向です。
具体的には、数字やグラフを用いて売上、顧客のニーズ、顧客満足度、従業員エンゲージメントなどを可視化します。
その他にも、組織図やマニュアルを作成したり、作業進捗をパーセンテージで表したり、会議の議事録を作成したりすることも可視化と捉えられます。
可視化と見える化の違い
可視化と混同されやすい言葉に「見える化」があります。
同義で使われる場合もありますが、次のような違いがあります。
- 可視化:見られる情報をいつ見るかは任意の状態
- 見える化:自らの意思とは関係なく情報が目に入る状態
この違いを知ったうえで、業務に活かしていきましょう。
業務を可視化する意味
業務を可視化すると、売上などの数値比較や効果測定が容易になります。
企業の現状を客観的に把握しやすくなるので、業務のどこに課題があるのかを見つけやすく、業務改善に役立つでしょう。
業務フローを整備するときやリスクマネジメントの実施を目的に、業務の可視化を行うこともあります
可視化の4つのメリット
業務を可視化することで、下記のようなメリットが生まれます。
- 全体の解像度が上がり課題の把握がしやすい
- 属人化の解消ができる
- 新しい分析が可能になる
- 意思決定のスピードが向上する
可視化の4つのメリットについて詳しく解説します。
全体の解像度が上がり課題の把握がしやすい
業務を可視化すれば、自分の担当している業務だけでなく、今まで見えていなかった企業全体の業務が把握できるようになります。
すると部署や課を越えて企業全体としての課題が発見でき、問題点を早急に解決しやすくなるでしょう。
また業務の全体像が見えていると、自身の業務効率や目的を意識できるようになり、組織全体のモチベーションの向上にもつながります。
属人化の解消ができる
業務のなかには、特定の担当者でないとできない属人化している業務があります。
属人化している業務は作業効率が低かったり、セキュリティリスクが高まったりするため、できる限り解消することが望ましいでしょう。
業務を可視化して属人化している作業を洗い出し、マニュアルや業務フローを整備して標準化すれば、誰もがその業務を行えるようになるため、属人化の解消につながります。
新しい分析が可能になる
業務の可視化によって、新しい分析が可能になる点もメリットです。
これまで行っていない分析を新たに加えることで、新たな仮説の構築ができ業績アップのきっかけになるかもしれません。
得られたデータをAIで分析すると、より精度の高い結果を得られるでしょう。
意思決定のスピードが向上する
業務を可視化して従業員が等しく社内の全体像を把握して共通認識を持てるようになると、課題に対する対応の検討がいち早く行えるようになります。
すると、意思決定のスピード感がアップして、スムーズに業務が進行できるようになるでしょう。
可視化の2つのデメリット
可視化にはたくさんのメリットがある反面、下記のようなデメリットも考えられます。
- 一時的に従業員の負荷が増える
- 結果が出るまで時間がかかる
可視化の2つのデメリットについて紹介します。
一時的に従業員の負荷が増える
業務の可視化を行うと、これまで見えていなかった課題を発見できます。
想像以上に課題が見つかることもあり、それらを解決するために一時的に従業員の負荷が増えることがあります。
また、業務のすべてを可視化しようとすればそれに伴い作業が増えて、全体の作業効率が悪化することも考えられます。
場合によっては、従業員のモチベーションが下がってしまうことも。
可視化を進めるなら、目的を明確にして優先順位をつけて取り組むことをおすすめします。
結果が出るまで時間がかかる
業務の可視化は、効果を感じるまでに時間がかかります。
特に業務担当者に大きな裁量を持たせて仕事を進めてきた企業は、考え方を根本的に見直すところからやらなくてはなりません。
変革に反発する従業員が出てくる可能性もあります。
まずは、可視化を当たり前にする仕組み作りが大切です。
しっかりと土台を築いたうえで業務の可視化に取り組むことになるので、すぐに結果をもとめるのではなく、成果を得られるには一定の時間がかかることを心得ておきましょう。
【実例】可視化による業務改善に成功した企業
「可視化のメリットは分かったけど、具体的なイメージが湧かない」という方も多いかと思います。
実際に、どの業務をどう可視化すれば良いかは各社各様です。
ですが、業務を可視化する有効性は業界・業種を問いません。
そこで、これまで可視化の取り組みにおいて成功している企業の事例を紹介します。
ぜひ自社の業態や実情に合ったものを見つけてください。
1.株式会社良品計画
「無印良品」の商品を製造・販売する良品計画は、2000年代初頭に約38億円の赤字を計上したものの、その後は見事にV字回復を果たします。
「小売業は、いちど崩れると戻せない」と言われていた当時の定説を覆し復活の礎となったのは、徹底した業務の可視化でした。
作成された2,000ページに及ぶ店舗マニュアルと、6,000ページにもなる本部のマニュアルには、あらゆる業務内容が事細かに記載されています。
たとえば、商品の陳列方法や接客のやり方など、それまで個人の経験や感覚に頼っていた作業を全て、図や写真を用い可視化したのです。
それまで各従業員の中にあった「暗黙知」を、全従業員が共有できるようにしたことで、業務は標準化され継承もしやすくなりました。
2.トヨタ自動車株式会社
トヨタの製造現場では1960年代から、あらゆるムダを排除するため「かんばん方式」と呼ばれる可視化がおこなわれています。
かんばん方式とは、必要な物を、必要な時に、必要な量だけ供給する生産管理の方法です。
ひとつひとつの部品には「かんばん」と言われる詳細情報を記した管理カードがついています。
後工程で部品を使用すると、前工程にカードを送って生産指示をし、作り過ぎを防ぐ仕組みです。
単純な方法ですが、工程間の在庫を最小にできる利点は大きく、今日まで多くの企業で参考にされてきました。
現在では電子化された「かんばん」のデータを、協力会社と瞬時に共有する手法がとられています。
3.株式会社日立製作所
日立製作所の経営陣は「プロジェクトを失敗させる原因は、コミュニケーションの不備にあるのではないか」と考えました。
そこで一定数の社員にICカードをつけさせ、コミュニケーションを可視化。多くの問題点をあぶり出すことに成功しました。
例を挙げると「誰とも会話しない社員」や「会話のし過ぎで仕事が遅い社員」などの存在が浮き彫りになったのです。
また日立では、従業員のPC操作ログを分析し、各業務にかかった時間を可視化しています。
「誰がいつ何の作業にどのくらい時間を要したか」をグラフで表せるようにしたのです。
これにより社内でおこなった施策の効果を、実施前後の比較によって定量化できるようになりました。
可視化による業務改善を成功させる4つのポイント
可視化による業務改善をスムーズに進めるには、まずプロジェクトの意味と工程を関係者全員に説明し、納得してもらうステップを設けましょう。
業務改善には多くの部署や従業員が関係するため、それぞれの思惑が交錯します。
場合によっては、仕事を奪われると警戒したり、作業を押し付けられると感じたりする従業員がいるかもしれません。
「業務の標準化と効率化で、労働環境が良くなり業績も上がる」というメッセージを繰り返し伝えていきましょう。
情報共有の徹底はもちろんですが、従業員の気持ちに配慮する姿勢も大切です。
以下に、4つのポイントを詳しく説明します。
1.全体像を明らかにし、業務の流れを鮮明にする
業務上の作業を細かく分解し、始まりから終わりまでをチャートで表します。
各作業に要する時間や関係する部署まで、細かく記載することが重要です。
細部まで正確に可視化しておくと、次のステップである課題の抽出がしやすくなります。
2.課題や問題を明確にし、改善点として認識する
業務の全体像を明らかにした後に、どこにどんな課題や問題があるのか調べます。
改善点については、現場の従業員がいちばん分かっています。
ヒアリングを実施し、「ムリ、ムダ、ムラ」が発生してないか現場レベルでの実情を把握しましょう。
改善点が明らかになったらリストで可視化します。
なおヒヤリング役には、従業員と直接的な関わりのない担当者を選びましょう。
直属の上司などには、なかなか本音で実情を話しづらいものです。
この工程は、業務改善のベースとなる大事な部分のため、時間をかけ慎重におこないます。
3.課題や問題の原因を分析し、改善計画を立てる
改善の優先順位と具体的な工程を決め、内容を「業務改善マニュアル」に落とし込みます。
マニュアルに起こしておくと、目的や全体像をいつでも見直すことができ、ロードマップを共有できるのが利点です。
山積みした改善点は一気に解決しようとせず、項目ごとに期限と目標値を定めます。
すでにボトルネックが明らかな場合でも、焦って局所的な改善をしてはいけません。
いったん対象範囲を広げて、業務フローを見たうえで、大局的な改善策を練りましょう。
全体の流れを無視したピンポイントな対策は、他部署に思わぬ悪影響を及ぼす可能性があるからです。
4.結果を定量的に評価し、今後の施策に反映する
業務改善は、実行して終わりではありません。効果を評価して、次の施策に活かします。
タスクの進捗状況を可視化するには、KPI(重要業績評価指標)を用いるのが効果的です。
KPI(重要業績評価指標)とは、「Key Performance Indicator」の略語で、プロジェクトの途中経過における達成度合いを表す指標です。
中間目標を数値化したものであり、多くの企業で導入されています。
経営環境の変化により「何が最善か」は変わり続けます。各タスクの完了後も、定期的に経過観察をしPDCAをまわしましょう。
ここまでのプロセスで、可視化による業務改善のノウハウは蓄積され、人材や企業風土も十分に育っているはずです。
業務を可視化するための方法
では、実際に業務を可視化するにはどのような手法を使えばいいのでしょうか。
次の3つのアイテムを組み合わせて利用すると、効率よくおこなえます。
スキルマップ
スキルマップとは、従業員ごとのスキルを可視化した表です。
行に各従業員の名前、列にはスキル項目を記載します。
縦軸と横軸の交わる枠に、該当するスキルの評価を記入すれば個々の能力を可視化できます。
スキルマップの活用で、人材登用や人員配置を適正化できるほか、従業員自身が不足しているスキルを自覚するのにも有効です。
プロセスマップ
プロセスマップは、業務の全体像と流れをチャートで可視化したものです。
各業務の内容を調査して、必要な時間、費用、人数などを細かく記入します。
どの工程でどのような業務がおこなわれるのか一目で分かるほか、各業務のつながりや関係性も直観的に理解できるのが特徴です。
業務手順を整理し改善点を見つけるのに効果的です。
業務可視化ソフト
業務可視化ソフトをインストールすると、PCの操作ログを解析して「誰がいつ何の業務にどれだけ時間を使ったか」がグラフで表示されます。
集計された結果を分析し、改善点を見つけ出すのに便利です。
リモートワークにおいても勤務実態を把握しやすいため、業務可視化ソフトは今後ますます需要が増えると考えられています。
まとめ
業務の可視化は、標準化と効率化による業務改善に効果を発揮します。
着手してすぐに結果が出るものではありませんが、それでも現場の声に耳を傾け、従業員の暗黙知を可視化することで改善は確実に進んでいきます。
今回の記事を参考に、御社がさらなる発展を遂げられることを願っています。