業務委託は、相手と雇用契約を交わさず自社の業務の一部を委託する手段です。企業によっては、業務委託のパートナーに個人事業主を選ぶケースもあります。
人件費の削減や、必要なスキルを持った人材をピンポイントに活用できるといったメリットがある一方で、個人事業主ならではのリスクに注意が必要です。
本記事では、個人事業主と業務委託契約を結ぶメリットやデメリット、契約締結の流れや注意点を解説します。
目次
業務委託とは?
そもそも業務委託とは、業務の一部を社外のパートナーに委託することを意味します。業務を委託するパートナーは企業や法人の場合もありますが、個人で事業を営む個人事業主の場合もあります。
業務委託の場合、相手と雇用契約を締結する必要はありません。その代わり、業務を委託する際に契約書を作成し、委託者(業務を委託する人)と受託者(業務を委託される人)の双方にとって不利益にならないよう、権利や義務を定める必要があります。
なお、業務委託における報酬は働いた時間ではなく、業務の成果物に応じて計算することが一般的です。
業務委託には、請負契約と委任契約の2種類の契約形態があり、それぞれの違いを理解しておく必要があります。
請負契約
請負契約は、依頼した仕事を完成させることを条件として、業務の一部を委託する契約です。請負契約の受託者は、委託者に対して結果責任を負うため、期日までに仕事を完成させられなかった場合、債務不履行に問われます。
ただし、請負契約の受託者には報酬請求権があります。決められたとおりに仕事を完成させた場合は、委託者に対して報酬請求権を行使し、報酬を得ることが可能です。また請負契約では、仕事を完成させる方法や手段までは問われません。
例えば、契約で禁止されている場合を除いて、注文を受けた仕事を他の事業者に再委託することも認められます。
委任契約
一方、委任契約は民法第643条(※)に基づく契約で、社外のパートナーに法律行為(法律上の権利や義務を行使する行為)を委託する場合に締結するものです。法律行為は、契約、単独行為、合同行為の3種類があり、具体例はそれぞれ以下のとおりです。
種類 | 具体例 |
契約 | 贈与、売買、賃貸借 |
単独行為 | 遺言、債務免除、契約解除 |
合同行為 | 社団法人設立 |
ビジネスシーンでは、弁護士や税理士に仕事を依頼したり、不動産業者に土地や建物の売却を依頼したりするときに委任契約を締結します。
請負契約と違って、委任契約の受託者には報酬請求権がありません。したがって、民法上は無償で仕事をすることになりますが、実務上は委託者から受託者に報酬を支払うのが一般的です。
また、委任契約の受託者は、仕事を依頼した委託者に対して善管注意義務(善良な管理者の注意義務)を負います。例えば、受託者が弁護士や税理士の場合、その社会的地位にふさわしい程度の注意を持って職務に励む必要があります。
※参考:e-Gov法令検索. 「民法」
個人事業主と業務委託で契約するメリット
個人事業主と業務委託契約を締結するメリットは4つあります。
● 自社が苦手な業務を委託できる
● 人件費を削減できる
● 正社員がコア業務に注力できる
● 専門分野のスキルを持つ人材に業務を依頼できる
自社が苦手な業務を委託できる
個人事業主への業務委託は、自社の苦手分野を補う手段の一つです。自社がノウハウを持たない業務を委託すれば、従業員の負担を減らし、適材適所で働いてもらうことができます。
人件費を削減できる
個人事業主に業務を委託すれば、人件費の削減も可能です。自社の従業員と違って、業務委託では雇用契約を締結する必要がありません。
そのため、業務の一部を個人事業主に外注することで、賞与やボーナス、福利厚生にかかる費用、社会保険料などの支払いを削減できます。
また業務委託の場合、発注する業務量に応じて人件費が変動するのも特徴です。正社員を雇用する場合は、毎月固定の人件費がかかるため、業務量が少ない閑散期はムダな人件費が発生する可能性があります。
一定の人数の正社員を雇用しつつ、業務量が多いシーズンは社外のパートナーを活用することで、業務量と人件費のバランスを適正化できます。
正社員がコア業務に注力できる
従業員が担当する業務は、企業の利益に直接つながるコア業務と、コア業務を間接的にサポートするノンコア業務の2種類に分類されます。
ノンコア業務は企業の利益に直結しないだけでなく、定型的な作業が多いため、外部のパートナーに委託するのがおすすめです。個人事業主にノンコア業務を外注すれば、正社員がコア業務に注力でき、自社の人的リソースを有効活用できます。
専門分野のスキルを持つ人材に業務を依頼できる
個人事業主(特にフリーランス)の中には、専門的な知識やノウハウを持つハイスキル人材も存在します。ハイスキル人材の育成には手間がかかるため、専門分野のスキルを持つ人材と業務委託契約を締結することで、人材育成の労力やコストを削減できます。
個人事業主と業務委託で契約するデメリット
一方、個人事業主に業務を委託する場合、以下の3つのリスクに注意が必要です。
● 金額・労働条件の交渉に時間がかかる場合がある
● 継続的な契約が難しい場合がある
● 個人事業主側の収入が不安定になる可能性がある
業務委託のメリットとデメリットを比較し、個人事業主と契約を交わすべきかどうか検討しましょう。
金額・労働条件の交渉に時間がかかる場合がある
個人事業主と業務委託契約を結ぶ場合、金額や労働条件についての交渉を一人ずつ行う必要があります。業務委託契約にかかわらず、契約は双方の合意がなければ成立しません。
個人事業主との交渉がうまくいかない場合、契約業務に多くの労力をとられ、逆に従業員の負担が増えてしまう可能性があります。
継続的な契約が難しい場合がある
いつまで案件を依頼できるかは業務委託契約の内容によって異なります。例えば1カ月ごとに個人事業主と契約を結んでいる場合、翌月から仕事を受けられないと継続を断られてしまう可能性もあるので、注意が必要です。
同じパートナーとの継続的な契約が難しくなることも見越して、新しい外注先を探しておくなどの対策をしておきましょう。
個人事業主側の収入が不安定になる可能性がある
個人事業主は、正社員のような固定給ではなく、その月の成果に応じた事業収入で生計を立てています。個人事業主に依頼する業務量が少ないと、収入が不安定になり、業務委託契約を解除されてしまうリスクがあります。
このように個人事業主との業務委託契約はメリットだけではないため、リスクを踏まえて仕事を依頼しましょう。
個人事業主と業務委託の契約を結ぶ際の流れ
個人事業主と業務委託契約を結ぶ場合、以下の4つのステップで手続きを進めます。
1. 契約内容を話し合う
2. 契約書を作成する
3. 再度、契約内容を確認する
4. 契約書を製本する
1. 契約内容を話し合う
まずは、業務委託の受託者と契約内容について話し合いましょう。委託する業務内容や報酬についての双方の合意がない限り、業務委託契約は成立しません。
個人事業主との契約トラブルを防止するためにも、契約前の段階で双方の認識をすり合わせておくことが大切です。
2. 契約書を作成する
契約内容について合意できたら、業務委託契約書を作成します。業務委託契約書には、以下の項目を記載することが一般的です。
● 委託する業務の内容
● 業務委託に伴う報酬の金額
● 報酬の支払い日
● 報酬の支払い方法(成功報酬制か、定期的な支払いか)
● 業務委託契約を結ぶ期間
● 完成した成果物の権利の帰属先
● 委託した業務の再委託の可否
● 委託した業務に関する秘密保持義務
● 契約解除の条件
● 業務委託により損害が発生した場合の賠償責任
● 成果物に問題が見つかった場合の契約不適合責任(瑕疵担保責任)
● その他の禁止事項など
3. 再度、契約内容を確認する
業務委託契約書を作成したら、双方が記載内容について再度確認します。最近は電子契約サービスを活用し、オンラインで業務委託契約を取り交わすケースも増えてきました。
パソコンの画面上で確認すると、契約書の記載内容を見落とす場合があるため、しっかりと契約内容をチェックしましょう。
4. 契約書を製本する
契約書の内容に問題がなければ、契約書の原本を製本します。紙の契約書を作成する場合は、契約書を2部作成し、受託者に1部を手渡すことが一般的です。契約書の改ざんを防ぐため、製本した契約書に割印を押しましょう。
書面契約の場合は、契約書2部のどちらか一方に収入印紙を貼付する必要があります。例えば、工事請負契約書や広告契約書などの請負に関する契約書の場合、収入印紙代は以下のとおりです。(※)
契約金額 | 収入印紙 |
1万円未満 | 非課税 |
100万円以下 | 200円 |
100万円を超え200万円以下 | 400円 |
200万円を超え300万円以下 | 1,000円 |
300万円を超え500万円以下 | 2,000円 |
500万円を超え1,000万円以下 | 1万円 |
1,000万円を超え5,000万円以下 | 2万円 |
5,000万円を超え1億円以下 | 6万円 |
1億円を超え5億円以下 | 10万円 |
5億円を超え10億円以下 | 20万円 |
10億円を超え50億円以下 | 40万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 |
契約金額の記載のないもの | 200円 |
電子契約を締結する場合は、原本とコピーの区別がありませんが、電子署名やタイムスタンプを付与することで契約書の改ざんを防止できます。なお、電子契約の場合は収入印紙を貼る必要がありません。
※参考:国税庁. 「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」
偽装請負には要注意
個人事業主と業務委託契約を結ぶ場合、偽装請負に当たらないかを確認しましょう。偽装請負とは、表面上は請負契約を装いつつ、実際には派遣契約(労働者派遣)に近い形で働かせることです。
偽装請負を行った場合、労働者派遣法に基づいてペナルティが科される可能性があります。
例えば、業務委託契約を締結した個人事業主に対して、使用者として指示命令を下す場合、偽装請負に該当します。
個人事業主と業務委託契約を結ぶメリット・デメリットを確認しよう
個人事業主と業務委託契約を締結すれば、人件費の削減やハイスキル人材の獲得など、さまざまなメリットを得られます。
ただし、金額や労働条件の交渉に時間がかかったり、継続的な契約が難しい場合があったりと、業務委託契約を結ぶリスクをあらかじめ知っておくことが大切です。また、個人事業主との契約トラブルを防ぐため、契約内容についてしっかりと話し合いましょう。