会社が何のために存在するのかを明確にしたものが企業理念であり、企業理念を軸に会社を運営していくことを理念経営と呼びます。今回は、企業理念の正しい形とその使い方について論じた後、理念経営を目指すべきか否かを考察していきたいと思います。
目次
企業理念とは
まず、企業理念がどのようなものか詳しくご説明します。
企業は多くの支持者によって支えられています。顧客、社員、株主、こういった人たちの支持がなければ企業は何もできません。企業理念は、企業が何のために活動しているのかをこの支持者たちに伝えるものです。企業理念は企業の存在理由という重いものだからこそ、その内容と使い方を間違えてしまうと企業の成長を阻害するものになってしまう危険性があります。
では、間違った企業理念とは何でしょうか。それは、支持者が限定されてしまう内容になっているものです。
代表的な例は「従業員を幸せにする」のようなものです。顧客は、その会社で働いている従業員を幸せにするためにその会社と取引をしているわけではありません。法人顧客であれば自ら潤い、消費者であれば自身の生活がより豊かなものになっていくからこそ、その企業と取引をしているのです。
ですから、正しい企業理念は、そういった取引先や消費者、ひいては日本や世界をも豊かにしていくような社会性を帯びた内容である必要があるのです。
理念経営とは
企業理念がいかに社会性を帯びた内容であっても、ただそれを掲げているだけでは誰も賛同してくれません。組織がその理念の実現に向け動いているからこそ、市場はその姿を評価してくれるのです。
本記事のテーマである理念経営とは、企業がこの理念を深く理解し、その通りに行動させることで経営基盤を作り、強化していこうとすることによって実現します。従業員のはしばしに至るまで企業理念の意味が浸透し、その実現に向けてひた走ることができれば、それは企業にとって非常に大きな力になります。
従業員の誰もが社長と同じ考えを持って、普段の一挙手一投足から企業理念を実現すべく動いていくことは業績面において必ずよい影響を及ぼします。従業員たちが、サービス業であれば顧客を心からもてなし、製造業であればそれを使用する人たちの顔を常に思い浮かべながら仕事に励む会社になっていくからです。そのような会社に支持が集まらないはずがありません。
したがって、理念経営を重視する企業は当然多くなります。多くはなりますが、効果が絶大だからこそ、当然そのレベルに到達するのは非常に困難です。
理念経営の難しさ
会社にはさまざまな考えを持った人が集まります。なかには社員の立場でありながら、経営者と同じように一生懸命企業理念を実現しようと動く人もいますが、多くの人はそこまでの意識を持っていません。最近では転職も当たり前になってきていますので、そもそも転職する時期をあらかじめ決めている人もいます。そのような人々の集まりである会社において、全員の思いを統一するのは簡単ではありません。
そこで、まず必要になるのは企業理念を共有するための時間です。起業時の思いや、ここまでの苦労、今後の理想など、なぜこの企業理念があり、必要なのかを何度も伝え、社員たちの考え方を塗り替えていかなければなりません。
この作業は本当に大変です。これまでの長い人生の間に形成されてきた社員の考え方を変えるわけですから、相当な時間と熱量が必要になります。しかも、誰にでもできることではありません。企業理念をつくった経営者だけがその役割を果たすことができる存在なのです。
大変なのはそれだけではありません。企業理念を浸透させていくことで組織を動かそうとすることは、逆に企業理念を理解しようとしない人や、理解できない人の存在は許さないということでもあります。また、全ての人が自分の今行っている仕事が企業理念とどうつながっているのかを考えるようになることで、些末な仕事や単純作業を担わせるにも納得感を持たせるための説明が必要になり、そこに少しでも不満が生まれると、それを説得させるのにさらに時間がかかります。
理念経営を目指すべきかは今後のビジョン次第
理念経営は実現できればとてつもないエネルギーを生み出しますが、だからこそ実現するまでには非常に多くの時間と労力を要します。社長の時間に大きな制約がなく、規模も今以上に拡大する予定のない会社ではうまくいくかもしれませんが、会社を早期に大きく成長させていこうという企業には不向きと言えます。ですから、今後会社をどう運営していきたいかによって、理念経営を取り入れるかを考えなければなりません。
会社を早期に成長させていきたいのであれば、「企業理念は企業がなぜ存在するかを明記したものなので、従業員はその存在は知っていなければならないが、どこまで行ってもその本当の意味を全社員に理解させるのは難しい」という割り切りをしてください。企業理念を社内に浸透させていくのではなく、組織全体の動きが自然と企業理念の達成に向かっていくように各部署、個人には何を行ってほしいのかを具体的に指示しましょう。
「それでは味気がなさ過ぎて、誰も付いてこなくなる」という声が上がってきそうですが、心配いりません。組織の一体感は組織全体に理念の意味や意義が浸透しなくても、組織が掲げている目的に近づいている実感を持たせることで醸成されます。「勝ち進むごとにチームが強くなった」のような話を聞いたことがあるでしょうか。まさにそれが目的に近づいている実感を持ったことで一体感が生まれた状態です。
もし今、理念経営を志してうまくいっていないのであれば、組織に理念を浸透させようと説明をしている時間、組織は止まって動いていませんので、まずは上記の要領で動かしてみてください。