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『韓非子』と識学 組織はいかに統治すべきか

『韓非子』は、古代中国の思想家である韓非子が記した20巻55編からなる思想書です。著者の名を冠するこの書は、いかにして組織を統治すればよいか、その方法論を説きます。識学と相通ずるものがありますので、ご紹介します。

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法やルールこそが統治の基本


『韓非子』では法やルールを統治の基本としています。この点は、同じ古代中国の思想書で、人とのつながりが組織をつくると述べている『論語』と異なっています。

『論語』では、家族の拡大が国であり、人として徳を積み上げることで組織も強化され、拡大できるとしていますが、『韓非子』は徳の高い人が人のつながりでつくり上げる組織には問題があるとしています。徳の高い人はそうはいないし、後々続かないというのです。

つまり、再現性がありませんし、徳を持った人物も変節してしまうことがあります。また、信頼関係で上下が結び付くので、責任の明確化や事実分析が後ろ倒しにされたり、先輩と後輩でつくられた人間関係を是正することができなくなったりするなど、パフォーマンスを改善するよりも人間関係が優先されるため、戦略実行が遅れてしまうことにもなります。

識学では、人のつながりに頼らず、組織を無機質な役割と仕組みで進めていくことを最適解としています。限られた時間のなかで戦略を進めるにはとにかく早く動き、戦略実行に結び付く行動を取ることが大事です。迷わずに人を動かす枠組みがルールなのです。

信頼など人間関係でつながることはもちろん多々ありますが、そこに頼ると戦略実行以外の感情や価値観が出てしまいます。組織として不安定になり、継続的に仕事を進める上では大きなリスクとなるため、結果として個人も組織もパフォーマンスが落ちてしまいます。プライベートではそのようなことも含めて楽しいかもしれませんが、組織ではリスクとして捉えねばなりません。

環境によって人は変わる


『韓非子』は、人は置かれた環境によって変わるといいます。これは、教育だけでは人は変わらないという意味でもあります。

識学では、人が本質的に変わるということを「思考変化」と呼んでいます。思考変化を起こすには知識と経験の両方が必要で、どちらか一方だけでは人は変われません。小学校や中学校など、まだ土台となる知識が乏しい状態では、知識を得る教育のボリュームは相対的に多くなりますが、社会人として生活を送り、一定の知識が定着した後は、環境変化こそが人に変化を与える大きな要素です。

環境が変わると人は大きな変化を早く起こします。環境の変化はすなわち従うルールが変わることを意味するからです。反対に、組織の戦略や方向性を改めたいときは、大胆にルールを変えることが最も効果的です。

評価の原理原則


人に大きな影響を与えるルールの一つに評価があります。『韓非子』では「規格外の賞」と「情を排した厳罰」がルールを定着させるために必要であるとしています。

識学でも『韓非子』でも、ルールで統治するという部分は共通していますが、識学はルールを定着させるためには賞罰を明確にしなくてはならないと伝えています。ルールを破っても許される組織では、ルールの定着は難しいものとなってしまうからです。

評価に関して、識学においては仕事のパフォーマンスに応じて昇格と降格は明確に、ルールに則って進めることが大事としており、特に降格や減給の仕組みも設定していなければならないと説明しています。評価は明確な基準のもと行っていきますが、ルールの順守は評価には入れません。ルールを守ることは大前提であり、ルールを破っていたら評価にすら値しません。ですから、ルール違反は罰則という考え方になるのです。

制度に頼って人に頼らず


人によって持っている能力も違えば知識や経験も違うので、発揮するパフォーマンスは個々人によって変わってくるでしょう。『韓非子』では、人に頼って組織運営をしてはいけないとしています。人のパフォーマンスを最大化するのが制度であり、制度設計こそリーダーがしなければいけない仕事であるという考えです。

識学もまったく同じ考えです。物事がうまくいかなかった際にはルール設定に問題があると判断します。そこに「部下の能力が足りなかったから」という個人に起因する要因で完結させることを否定しています。

個人批判をすると、それ以降の改善につながりません。組織拡大が採用に依存するようになりますが、採用はギャンブル性があります。欲しい人物像も変わっていくので非効率的です。社員一人ひとりに自らの能力を認識してもらい、組織は個人の能力が最適化されるようにルール設定をしていくという考え方です。

また、戦略認識や優先順位、戦略を進めていく上での前提条件などに関する各人の認識がずれている場合、求める方向へ最速で進んでいくことはできません。これらの認識ずれていたらそれはルールが不明確だったり、不足していたりするということにほかならず、即座にルールの再設定が必要です。それを繰り返すことで部下が集中し、認識のズレなく戦略を実行に移すことができるようになります。

感覚に頼らないマネジメントを


日本は高度経済成長を経て、飛躍的に豊かになりました。しかし、現在は少子高齢化が進み、労働人口が減少し続け、国全体として成長が鈍化している状態です。これを再び成長軌道に乗せるには、各企業や組織が成長戦略に集中できる組織づくりが必要でしょう。

人間関係をつくるというのは、戦略実行とは無関係な動きです。かつてのように長時間労働が許される環境ではなく、育児や介護を含め、我々は限られた時間のなかで仕事をしなければいけません。

人間関係や信頼関係といった感覚的な繋がりに依存するのではなく、未来への成長という価値基準のなかで仕事をし、限られた人的リソースをいかに効果的に使って、組織として仕事をするかに特化したマネジメントが求められるのではないでしょうか。そしてその働き方は、組織を重んじる日本人には実は適しているのではないかと感じます。

『韓非子』と識学、2000年以上時代が離れた二つの論理が、多くの面で親和性があるということは、実はいつの時代も組織の最適解は同じなのではないでしょうか。

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