ファッションブランド「ユニクロ」を生んだ柳井正氏の著書『一勝九敗』には、経営者がビジネスを手がけていくうえで必要な要素が多々盛り込まれています。本書を読めば、なぜユニクロが世界屈指のアパレルブランドに成長できたか、その理由の一端を垣間見ることができます。
目次
そもそも「会社」とは
『一勝九敗』は、最初に「会社とは?」という問いから始まります。その答えとして、柳井氏は、会社とは「つねに実体がなく、非常に流動的で、永続しない可能性の強いもの」と述べています。そのうえで、「会社には賞味期限がある」と説きます。
最近では、会社や社会に対して自己の安定を求める人が増えています。しかし、柳井氏によれば、安定を求めたところで会社には賞味期限がありますから、会社が新しいことにチャレンジしなければ生き残れません。
会社の考える戦略、商品、全てに賞味期限があります。会社が存続していくには変化を続ける必要があり、安定はあり得ないのだと柳井氏は述べています。
勝負しているから負けがある
本書のタイトル、一勝九敗とは、十回戦って、一回勝利できても残りは負けてしまうという意味です。つまり、ほとんど負けですね。
とはいえ、勝負しているから負けがあるわけです。勝負に挑まなければ、勝利はもちろん、負けることすらありません。
日常生活を送るなかで、勝負に負けることがどのくらいありますか。あるいは、普段仕事に取り組んでいるなかで、「負けた」と感じるときはどんなときでしょうか。
世の中、「負けない」という人は多いのではないでしょうか。なかには、本当は負けているのに気づいていない人もいるかもしれません。
そんな人は、期限を設けた上で目標を設定してみてください。期限までに目標が達成できたら勝ちであり、できなければ負けを意味します。
ただ、柳井氏は、負けることで次につながるのだと言います。
「失敗には次につながる成功の芽が潜んでいるのだ。したがって、実行しながら考え、修正していけばよい」
失敗することから逃げてはいけない、目標を達成するまでやり切ることが大切だと強調します。このように考えるからこそ、九敗しても一つの勝利をもぎ取ることができるのでしょう。
決算書は経営者の成績表
柳井氏は、決算書には創業からの歴史、つまり会社の経験や積み重ねてきた技術や知識が表れると言います。経営者の成績表だというのです。
一方、市場から評価を受けるために、社員も会社から評価を受けなければなりません。では、会社は社員をどう評価すべきでしょうか。
肝心なことは、評価の基準を明確にすることです。そして、それは目標を達成できたかどうかで見ます。社員の頑張りを評価する必要はありません。
仮に、社員の評価基準が決まっていなければ、失敗したかどうかも分かりません。つまり、修正して先へ進むことができないわけです。
識学では、自走できる社員をつくるために、トップが自分自身を変え、環境を変えていくことが大切だと伝えています。社員が目標設定を行い、達成か未達成か把握できる、つまりは勝敗を認識できる環境を整えることが経営者の役割と言えるでしょう。
理念経営によるスピードダウン
柳井氏は、
「自分で本当に考え、判断できる人、働かされる人ではなく経営できる人が必要である」
とも述べています。
ただし、組織にはそれぞれ役割があるため、全員が経営者になって全てを自己判断し始めると危険でもあります。
柳井氏は、社員数が少ないときには意思決定できたり、実行できたりしていたことが、会社が成長して大所帯になるにつれできなくなっていったと振り返ります。どの会社にも生じ得る課題の一つでしょう。
人が増えることで、考えが違う人が多く集まります。個々で仕事をやるのであれば問題はなくとも、全体でまとまって一つの仕事をしようとすると、やり方がバラバラでは非効率的になってしまいます。
これを解消するため、柳井氏は二十三カ条の経営理念を作成しました。本書では、さらに柳井氏が組織図や役割、目標設定に関して見解を述べていきます。
まさに試行錯誤しながら柳井氏がユニクロをつくっていったことが分かります。私たち識学講師が組織づくりをお手伝いする際も、柳井氏がやってきた道筋で生産性を上げ、一人ひとりが考えて行動する体制をつくり上げていきます。