モチベーションとは、人が行動を起こす時の動機付けを意味する言葉です。
この記事では、モチベーションの意味や重視される理由を紹介するとともに、モチベーションが低下する原因やモチベーションを上げる方法、理論についてわかりやすく解説します。
目次
1. モチベーションの意味
モチベーション(motivation)は、直訳すると「動機」を意味します。
モチベーションという言葉は、昨今の日本では日常的に使われていますが、「動機」というよりは、人が何かをする時の「動機付け」や「何かをするための意識」を指すことがほとんどです。
本項では、ビジネスシーンにおいての「モチベーション」の考え方や、組織がモチベーション管理をするうえで、知っておくべきモチベーションの仕組みを紹介します。
ワークモチベーションとは
ワークモチベーションとは、従業員が組織の目標やビジョンに対して、精力的に行動する状態そのもののことです。
一般的に日本のビジネスシーンにおいて、モチベーションは意欲ややる気そのものを指すことが多いですが、モチベーションとワークモチベーションはニュアンスが異なります。
ワークモチベーションを深堀りするために、ワークモチベーションを構成する3つの要素「方向性・強度・持続性」について、それぞれ理解しましょう。
- 「方向性」とは:目標を成し遂げる理由、どのように成し遂げるかを明確にすること
- 「強度」とは:目標を実現するための努力や意識を高く持つこと
- 「持続性」とは:目標を実現するために費やされる時間の長さや継続性のこと
ワークモチベーション管理には、3つの要素それぞれに合わせたアプローチが必要です。
外発的モチベーションと内発的モチベーションの違い
モチベーションは「外発的なもの・内発的なもの」の2種類に分けられます。
それぞれの特徴を見てみましょう。
外発的モチベーション
外発的モチベーションは、モチベーションを抱く人自身の心以外による、動機づけを指します。
報酬アップや昇格によるインセンティブといった、外的要因によって生まれます。
外発的モチベーションは一時的に高い効果をもたらしますが、長期的にモチベーションを維持できないケースが多いです。
また、報酬や地位、他人からの評価などはいずれも限りがあるため、外発的モチベーションには限界があります。
内発的モチベーション
「好き・楽しい」といった、自分の意欲や動機から生まれるモチベーションを指します。
内発的モチベーションは、モチベーションを抱く人自身の心に起因する動機づけのことです。
やりがいを感じて楽しみながら仕事に取り組むことが、内発的モチベーションといえます。
内発的モチベーションをベースに仕事をすると、仕事に対する損得を考えずに、集中して業務に取り組めます。
同時に生産性が上がり、高い業績につながることも見込めるでしょう。
仕事そのものに意欲を感じ、モチベーションを維持できるため、長期的な効果が見込めます。
2. モチベーションが重要とされる理由
モチベーションが重要とされている理由は、個人の成果に影響するだけでなく、ほかの従業員や企業全体にプラスの影響を与えると考えられているからです。
モチベーションの高い人材は、自発的にかつ集中して業務に粘り強く取り組めるため、商品やサービスのクオリティが高まります。
また、新しい取り組みに対しても積極的でチャレンジ精神が旺盛なので、新規ビジネスの発展に寄与することも期待できるでしょう。
イノベーションの創出にもつながるかもしれません。
高いモチベーションを持つ従業員が職場にいると、職場が活性化されて従業員の満足度が高まり、離職率の低下にもつながります。
周囲の従業員にもプラスの影響を与えるので、同調してモチベーションが高い従業員が増える可能性が高まるでしょう。
3. モチベーション理論とは
モチベーション理論とは、人の心理的側面からアプローチすることで、モチベーションをコントロールする方法論のことです。
ここからは、代表的な5つのモチベーション理論について紹介します。
マズローの欲求5段階説
「マズローの欲求5段階説」は、アメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱したモチベーション理論です。
人間の欲求は5段階に分けられ、低次の欲求が満たされると高次の欲求を満たすための行動を取るようになるとされています。
欲求の5段階は以下のとおりです。
第5段階:自己実現欲求 | 自分にしかできないことを成し遂げたいという欲求。 | 高次の欲求
低次の欲求 |
第4段階:承認欲求 | 他者から評価を得て、自尊心を満たそうとする欲求。 | |
第3段階:社会的欲求 | 周囲の人から受け入れられたい欲求。
集団への帰属・愛情を求める欲求。 |
|
第2段階:安全欲求 | 身の危険を感じずに健康で安定した生活を送りたいという欲求。 | |
第1段階:生理的欲求 | 人が生きるための、基本的な欲求。
食欲・睡眠・性欲など。 |
従業員のモチベーションを上げるには、まず生理的欲求や安全欲求を満たすために安心して働ける環境が不可欠です。
その次に社会的欲求・承認欲求・自己実現欲求を満たすために、明確な役割を与え、適切に評価を行うなどしていくことが大切です。
マクレガーのX理論・Y理論
マクレガーのX理論・Y理論は、アメリカの心理学者・経営学者ダグラス・マクレガーが提唱したモチベーション理論です。
マクレガーは、働く人の動機付けには2つの対立するX理論とY理論があるとしています。
2つの理論は以下のとおりです。
X理論 | 人間は本来怠け者であり、仕事を好まない。
仕事をさせるためには、命令や強制による管理が必要である。 性悪説に近い。 |
Y理論 | 人間は本来仕事が好きである。
自己実現のために設定した目標に対して、積極的に行動して問題解決をおこなう。 性善説に近い。 |
この理論では、自社の従業員をどちらの理論に当てはめて考えるかによって経営層が取るべき対処法が変わります。
例えば、X理論で自社の従業員を定義づけるなら、管理を徹底し、目標を達成できたら報酬を、できなければ懲罰を与える人材育成の方法を取るべきです。
反対にY理論で定義づけるなら、このタイプの従業員にとって最も良い報酬は自己実現欲求の満足です。
自己実現欲求を満たせるような理念やビジョンを掲げて従業員を導く人材育成方法が向いているでしょう。
ハーズバーグの二要因理論
ハーズバーグの二要因理論は、アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグが提唱した理論です。
ハーズバーグの理論では仕事に対する満足と不満足を引き起こす要因はそれぞれ別であり、満足度に関わる「動機付け要因」と不満足に関わる「衛生要因」との2つで成り立っていると定義しています。
動機付け要因と衛生要因は相反するものではなく、それぞれ独立して存在しています。
2つの要因については、以下のとおりです。
動機付け要因 | あればあるほど仕事に対するモチベーションが上がる要素。
例)成果、評価、承認、責任、昇進、仕事への興味 など |
衛生要因 | 整備されていないと社員が不満を感じる要素。
例) 給与、福利厚生、経営理念や経営方針、同僚との関係、上司との関係、労働条件、安全、ステータス など |
ここで注意したいのは、不満を司る「衛生要因」を整備したからといって必ずしもモチベーション向上に直結するわけではない点です。
あくまでも不満を取り除く手段であることを押さえておきましょう。
期待理論
期待理論とは、心理学分析の第一人者であるビクター・ブルームが提唱したモチベーション理論のひとつです。
モチベーションは、達成への期待値と達成したことによって得られる報酬の魅力度によって決まるとしています。
期待理論はその後、レイマン・ポーターとエドワード・ローラー三世によってさらに掘り下げられて以下の形になりました。
モチベーション=達成の期待値×報酬の魅力度
また、報酬を得られる可能性と報酬の魅力度によって、どれくらい努力を行うかが決まるとしています。
報酬が魅力的であればあるほど努力の量が増えるとするのが一般的です。
報酬が大きければその分努力の量も増えるので業績があがり、より大きな報酬が得られることになります。
言い換えれば、魅力的で大きな報酬をもらえるという確証があれば努力量が増え、それによって報酬を受け取って満足すると、それがまたさらなる努力を生むことにつながります。
目標達成へのプロセスを明確にして達成の期待値を上げ、賞与やインセンティブ、評価などの魅力的な報酬を与えることで相乗効果が生まれ、モチベーションアップが期待できるでしょう。
目標設定理論
目標設定理論とは、アメリカの心理学者エドウィン・ロックが提唱したモチベーション理論です。
目標の設定がモチベーションに影響を及ぼすことを定義づけています。
エドウィン・ロックによると、目標は明確で適切であるほどモチベーションを高められ、成果を最大限に高めることが可能です。
例えば、曖昧で不明確な目標ではモチベーションを高められませんが、具体的で測定可能な目標はモチベーションの向上に貢献します。
また、自発的で難易度の高い目標のほうが、簡単に達成できる目標よりもモチベーションが高まるとしています。
ただし、実現不可能なほど難易度の高い目標は逆にモチベーションの低下を招く恐れがあるため、注意が必要です。
ある程度の努力は求められるが、努力をすれば達成可能な範囲の目標を設定しましょう。
加えて、適宜上司によるフィードバックを行うことでモチベーションの維持を図ります。
定期的に目標の達成度や進捗を確認し、達成に向けたフィードバックを行ってください。
フィードバックを行うことで上司と共に目標に向かっていることを意識でき、モチベーションの維持につながります。
4. モチベーション低下の原因とは
従業員のモチベーションの低下は、個人や所属するチームの生産性が低下するだけでなく、社内全体にも良くない影響を及ぼす可能性があります。
従業員のモチベーション低下の原因を探り、解消したうえでモチベーションの向上を図りましょう。
仕事にやりがいがない
仕事にやりがいを感じられなければ、モチベーションは低下してしまいます。
仕事に意義が感じられない、毎日同じことの繰り返しで刺激が感じられないといった場合、やりたい仕事とやっている仕事のギャップが生まれ、モチベーション低下につながるでしょう。
仕事にやりがいや楽しみを見出し、仕事をこなしたいと感じられなければ、モチベーションを上げることは困難です。
高すぎる目標を設定している
設定した目標が高すぎて到底達成できないと感じられる場合にも、モチベーションの低下が起こります。
努力しても達成できない目標であれば、努力する意味を感じられなくなるからです。
また、目標達成できないことで低い評価をつけられるのではないかという疑念も、モチベーションの低下の原因となります。
とはいえ、すぐに達成できる簡単すぎる目標では仕事にやりがいを感じられなくなるため、目標設定は慎重に行うべきでしょう。
長時間労働が続き過度に多忙である
やりがいを感じられる仕事であっても、過度な長時間労働は心身にストレスを蓄積させます。
毎日の仕事に追われてプライベートの時間がなくなり、気持ちの切り替えができなくなることは、モチベーションを下げる原因です。
また、早く仕事を終わらせることにばかり注力してしまい、向上心やスキルアップに対する気持ちが薄れます。
さらに、長時間労働や過度な多忙によって、将来的な不安を感じる人もいるでしょう。
するとますますモチベーションは低下して、パフォーマンスの低下や離職につながります。
将来性が感じられない
仕事に将来性を感じられないと、モチベーションは低下します。
例えば自分が将来どのような経歴を積み重ねてどのようになっていきたいかを計画するキャリアプランがなければ、自分の成長を感じられず、仕事へのモチベーションが下がってしまうのです。
企業によってはキャリアパスを提示しないところもあります。
キャリア支援も行われていなければ、従業員は目標が定まらずにモチベーションを失ってしまうでしょう。
人間関係が良好でない
パワハラやセクハラがあったり、上司や部下・同僚など職場環境の人間関係が悪かったりすると、仕事への意欲がなくなり、モチベーションの低下を招きます。
事実、人間関係の悪さは離職の大きな原因にもなっています。
人間関係が良好でないと職場の雰囲気も悪いので落ち着かず、仕事への集中力もなくなってしまうでしょう。
反対に良好な人間関係が築けている職場では、難しい仕事でも前向きな気持ちで取り組めます。
人事評価に不満がある
従業員が会社から正当に評価されていないと感じることは、モチベーションの低下につながります。
自分は頑張っているのに評価が低いという場合や、怠けている人が自分より評価をされている場合に不満を抱くのは当然です。
企業は、従業員が不満を持たない適正で公平な評価の仕組みを構築することが求められます。評価制度や人事ルールの見直しを行いましょう。
待遇や給与が十分でない
給与や福利厚生などの待遇は、仕事を行う動機付けとなるものです。
そのため、自分の働きに対して給与が低い場合や福利厚生が不十分でないといった場合はモチベーションが低下するでしょう。
プライベートの時間を犠牲にして残業をしても報酬が支払われないなどの場合にも、モチベーションは低下します。
優秀な人材ほどそのように感じることが多く、離職の原因にもなります。
優秀な人材が待遇や給与の不満によって離職すれば、会社の業績にも影響してしまいます。
業績が悪化している
会社の業績が悪化していると、従業員は将来に不安を覚えて仕事へのモチベーションを失ってしまいます。
業績の悪化によって人材が離職すると、残った従業員の業務量が増加して負担が増えます。
これもモチベーションを低下させる原因です。
業績が低下して経費削減をしようと大幅な組織改革をおこなうと、さらにモチベーションの低下を増幅させてしまうことも考えられます。
業績が悪化しているときは、従業員にいつも以上にモチベーションを上げるような声掛けを行うことが大切です。
5. モチベーションアップの方法
従業員のモチベーションを高めることは、企業の生産性を高め、業績アップにつながります。
モチベーションを上げるために、効果的な7つの方法を見ていきましょう。
- 明確で適切な目標設定
- 適正な人事評価
- 企業理念やミッション・ビジョン・バリューの浸透
- 適切な人材配置
- ワークライフバランス施策の実施
- 職場環境の整備
- 社内コミュニケーションの円滑化
明確で適切な目標設定
明確で適切な目標を設定することで、従業員のモチベーションを引き出しましょう。
目指す方向がわからず目標が曖昧な状況では、モチベーションは上がりません。
適切な目標は、簡単すぎず不可能ではない難易度であることが重要です。
抽象的な目標を立てると結果を予想することができず、挑戦する気持ちが萎えてしまいます。
対して、数値や期限といった分かりやすい指標を目標とすることで、目指すところが明確になり、よりモチベーションを引き出せる可能性が高まります。
適正な人事評価
モチベーション管理において、適切な人事評価は欠かせません。
内発的モチベーションを持たない従業員には、報酬や成果などの目に見える形での外発的モチベーションを提供することで、モチベーションを引き出しやすくします。
頑張れば評価されることが分かっていれば、従業員も前向きに業務に取り組めます。
成果や貢献度を数値化することで公正に評価し、同時に仕事への取り組み方などのプロセスにも目を向けるような、人事評価のシステムを構築しましょう。
企業理念やミッション、ビジョン、バリューの浸透
企業理念をすべての従業員に浸透させることで、従業員自身の行動基準が明確になります。
業務が遂行しやすくなるだけでなく、いっそう意欲的な取り組みが期待できます。
また、企業の置かれている状況や経営目的など、企業の方向性を全従業員と共有することも有効です。
そうすることで、従業員自身から「同じ方向に進んでいきたい」という内発的なモチベーションが生まれます。
適切な人材配置
人材配置においては、従業員のモチベーションも視野に入れ、適材適所となる配属を検討しましょう。
持っている能力・スキルを十分に業務に活かすことができないと感じた場合、モチベーションが下がり、転職を考える状況に陥りやすくなります。
従業員自身が思い描いているキャリアの方向性と異なる部署に配属された場合にも、挫折感に襲われ、やる気をなくすこともあります。
また、仕事に魅力を感じられないことがモチベーション低下の原因となっている場合、挑戦できる環境を整備することで、モチベーションアップが期待できるでしょう。
例えば、新規事業のアイデアを社内公募する、海外研修制度を導入するといった施策が考えられます。
ワークライフバランス施策の実施
モチベーション向上のためにワークライフバランスを整えることも重要視されており、内閣府も従業員のワークライフバランスを整えることを推奨しています。
具体的なワークライフバランス施策として、育児休暇や短時間勤務制の導入、ノー残業デーを作るなど、仕事と家庭の両立を実現する仕組みを整えるといった方法が多く見られます。
そのほかにも、多様化する働き方に対応するためのテレワーク、フレックスタイム制の導入、副業・兼業の許可なども効果的です。
職場環境の整備
従業員が働きやすい環境を整備することも大切です。職場環境を整えることで、従業員の不満を軽減する効果が期待できます。
例えば、オフィスの温度や照明、臭気、音などを整えたり、安全な作業環境を確保したりすることもその一環です。
疲労やストレスを癒せる休憩所や食事をする場所を設ける、清潔なトイレを準備するなど物理的な環境整備のほか、社内での人間関係を旅行にすることも含まれます。
ストレスなく働ける職場環境を整備して、従業員のモチベーションを上げましょう。
社内コミュニケーションの円滑化
社内で活発なコミュニケーションを取ることができ、人間関係が良好な状態になると、従業員のモチベーションが上がります。
社内コミュニケーションを取りやすいよう、社内イベントを開催したり、社員食堂やカフェ・バーの設置を行ったりすると効果的です。
また、社内SNSもコミュニケーションの場となります。
上司と部下のコミュニケーションを活発にするなら、1on1ミーティングもおすすめです。
定期的な1on1ミーティングを行うことで、業務の困りごとや進捗を把握したり、キャリアビジョンについて相互理解を深めたりできるため、さまざまな面からモチベーションの向上を図れます。
6.まとめ
従業員のモチベーションアップはどの企業にも共通する重要テーマです。
モチベーションが向上すれば生産性の向上や離職率の低下につながるため、従業員のモチベーション管理は企業において不可欠です。
モチベーション低下の原因を押さえるとともに、より従業員のモチベーションが上がるような施策を考えましょう。
多様な働き方や労働人口の減少が話題に上がる昨今において、今後ますます従業員の動機づけの重要性は増します。
優秀な人材を育て、流出を防ぐためにも、できるところからアプローチをしてください。